2022年6月27日

新社長に聞く 三菱製鋼 山口淳氏 市場見極め持続的成長

三菱製鋼は6月24日付で、山口淳・取締役常務執行役員が社長に昇格した。「持続的成長を図るには、中・長期的な需要家ニーズや市場環境をどのように見極めるかが重要になる」という山口新社長に抱負などを聞いた。

――就任の抱負から。

「前任の佐藤基行会長とは11歳の年の差があり、社長就任を打診された時は青天の霹靂。長く従事した素形材の営業から、ばね営業に異動した時のばね事業部長が佐藤で以来、マンツーマンで鍛えてもらい、その恩返しのつもりで社長を引き受けた。現在、株価が低迷しており、市場から企業価値が評価されていない。2019年度は海外子会社の減損損失を計上し、20年度は大幅な赤字。21年度でV字回復したものの、これから持続的成長を遂げることが私の使命と考える。22年度は連結営業利益予想を45億円で開示しているが、まずは現行中期経営計画で掲げる70億円を諦めることなく、達成を目指す。また次期中計を策定・実行することで持続的成長を確かなものにし、企業価値を高めていきたい」

――新型コロナウイルス、ロシア・ウクライナ問題など取り巻く環境が大きく変化している。経営課題をどのように認識しているか。

「現中計では、海外事業会社の収益性改善が主要テーマ。インドネシア・ジャティム社と北米のMSSC社の赤字解消について、ジャティム社は黒字化し、持続的成長に向けた一歩を踏み出すことができた。MSSC社は材料メーカーの経営破綻で一過性の輸送コストが発生するとともに、材料高騰で採算が悪化。また部品不足に伴う自動車メーカーの減産影響や生産スケジュールの変更で現場が混乱するなどマイナス要因が大きく、赤字を余儀なくされている。この混乱をいかにミニマイズするかが課題であり、一度は閉鎖した米国工場を一時的に再稼動して製品在庫を増やすなど、自社で可能な対応は行うものの、需要家には限られた変動分しか対応できないことを理解してもらえるよう、交渉を始めている」

「主原料価格が高騰し、合金鉄やエネルギー、副原料や資材費など各種コストが高止まりしている。カーボンニュートラルに向けた対応を含め、高品質な製品の安定供給のための設備投資を進めるべく、特殊鋼棒鋼製品の販売価格をタイムリーに引き上げ、コスト上昇分を吸収するとともに、マージン改善に取り組んでいく。値上げに対する需要家の理解を求めていきたい」

――中・長期的な課題を。

「特殊鋼は自動車分野で電動化に向けた流れが加速しており、電気自動車の普及で内燃機関に使われる特殊鋼を主体に需要全体が縮減していくのは間違いない。この市場縮小影響をミニマイズ化し、メイン分野である建設機械への依存度を軽減するための種まきが必要になる。洋上風力発電向けをはじめ、高いニーズが継続する軸受鋼でさらなる高品質化に力を注ぎ、販売を強化する。また、大ロットで太丸を得意とするMSR(三菱製鋼室蘭特殊鋼)と、小ロットで中・細丸を担うジャティム社で生産ロットやサイズを補完しながら相互供給を推進することで、当社とジャティム社それぞれの需要家に両社材料を採用してもらえるようアピールする。北米は材料メーカーの方針が急に変更する傾向があり、ばね材料を安定調達することが課題だ。MSRの半製品を供給して現地メーカーで圧延したり、インドネシアで培った技術・ノウハウを活かして、ものづくりを行うことも選択肢の1つだと思っている」

――ジャティム社をどう発展させるか。

「18トン電気炉の炉殻拡大工事を終えたことで、20トン炉2基体制を整えて生産能力を引き上げたが、すでにフル稼働に入っている。MSRから技術スタッフを派遣し、技術やノウハウの伝承など指導を徹底した結果、ローカルスタッフが育ち、生産トラブルなどが減り、安定生産を続けている。今はばね素材供給メーカーとしての役割が大きいものの、丸鋼販売でも伸びる余地があるとみており、そのような観点では設備増強など選択肢が多く、ジャティム社の持続的成長をどのように図るかは次期中計で検討する」

――ばね、素形材、機器装置の各事業の戦略を。

「ばね市場は軽量化ニーズが高く、現中計で自動車向け巻きばね、スタビライザーの高強度化・軽量化を実現。近年は日本や北米、中国などで新規受注に成功する確率が上がっており、さらに強化する。インドネシアの板ばね一貫生産拠点はコスト競争力で優位性があり、軽量化を進めることでコスト競争力と軽量化を武器にすることができ、素材を供給するジャティム社とのシナジーも高まる。素形材は磁石事業から撤退し、10月には建設機械用耐磨耗鋳鋼品の生産を終了するなど、選択と集中を行ってきた。今後は金属粉末に経営資源を集中し、マザー工場の千葉アドバンスドマテリアルズセンターを活用しながら、軟磁性粉末や積層造形用粉末をはじめ新製品の開発を急ぐことで、EV化などマーケットニーズの変化を捉える。機器装置事業は三菱長崎機工で洋上風力設置作業船の関連機器やターニングロールなど洋上風力関連機器を手掛けており、今後の展開を期待している。次期中計においては素形材事業や機器装置事業を特殊鋼鋼材事業、ばね事業に次ぐ第3の収益柱に育てていきたい」

――カーボンニュートラルに向けた動きが加速している。

「13年度比で30年度までに、ばねや素形材など特殊鋼鋼材以外の事業は総排出量の50%削減が目標。特殊鋼鋼材事業(MSR)は原単位での10%削減に取り組んでいる。例えばジャティム社で電炉特性を活かし、ゼロカーボン鋼の生産を実現すればASEAN初となり、これを素材とするゼロカーボン板ばねは需要家への大きなアピールになる。特殊鋼鋼材、ばね両方の製品力向上に繋がるため、次期中計に織り込む可能性が高い」

――22年度は将来に向けてのコスト増として設備投資や試験研究、人材育成やDXなどで21年度比プラス11億円を予定する。

「DXは21年11月にDX推進室を発足させており、RPAの全社教育はほぼ完了し、業務効率化が進展している。IoTを活用した製造、品質のデータ化への取り組みも始めている。生産年齢人口が減る中で社員の生産性を高めるにはDXが必要であり、取り組みを加速していきたい」

――働き方施策、ダイバーシティ経営は。

「6月24日付で女性の社外取締役、社外監査役をそれぞれ1人就いて、女性役員比率は20%となった。25年度までに女性管理職比率を10%以上、女性従業員比率を15%以上に引き上げたい。現業系を含めて女性の採用を促進しなければ目標の達成が難しく、女性が働きやすい職場環境を整備していく」

――次期中計の考え方を。

「期間は3年間とし、22年4―9月期決算発表時に方向性を示す。持続的成長を図るには、中・長期的な需要家ニーズや市場環境をどのように見極めるかが重要になる。需要家ニーズをしっかり掌握した上で、次期中計の方向性を定めることがステークホルダーから評価され、持続的成長に繋がる」(濱坂浩司)

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▽山口淳(やまぐち・じゅん)氏=89年明治学院大経済卒、三菱製鋼入社。19年6月取締役(事業企画部・資材部担当)、20年3月取締役(ばね事業・事業企画部・資材部担当)、21年6月取締役常務執行役員(企画統括部・資材部・システム部担当)、6月24日付で現職に就任した。

27年のキャリアを持つ根っからの営業マンで、素形材やばねの営業に長年従事。「人と人との繋がりを大切に」し、需要家と本音でぶつかり合った経験も懐かしい。

「難しいこともあるが、それも経験。自分も楽しむ」が信条。趣味はゴルフとサッカー観戦。FC東京のファンで、ホームゲームはほぼ毎試合応援に駆け付ける。65年6月16日生まれ、千葉県出身。

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