――金属事業部門長としての抱負から。
「鋼管本部、鋼材本部の抜本的な事業構造改革を2019年度から20年度にかけて進めてきた。世界経済、鉄鋼市場が急速に変化する中で持続的成長を図るための事業の選択と集中を進め、稼ぐ力を鍛え直してきた。20年度は新型コロナウイルス影響で鋼材需要が停滞する中、鋼管事業などで460億円の減損損失を計上し、金属事業部門としては398億円の純損失となった。21年度は鋼材需要が回復し、北米の鋼管事業環境も好転。事業構造改革の成果を引き出して552億円の純利益を計上することができた。一過性要因を除いた利益は70億円から560億円となり、約500億円の増益となった。構造改革を断行する途上で『住商は鉄鋼ビジネスを縮小するのか』といった指摘も伝わってきたが、事業競争力強化策の成果が収益に表れてきた。われわれの判断が正しかったことを確認し、グループの士気も高まっている。アルミ地金関連ビジネスを資源・化学品事業部門に移管した。鋼管・鋼材ビジネスに経営資源を傾注し、社内外における存在感をさらに高め、日本鉄鋼業の発展に貢献していきたい」
――実質純利益は過去最高水準。
「グローバル利益ベースでの最高記録は14年度だった。鋼材も貢献したが赤字事業もあって、鋼管が圧倒的だった。21年度は鋼管と鋼材がほぼ半々だった。住友商事グローバルメタルズは公表数値が31億円から105億円への増益だったが、実態としてはすべての鋼材事業を担っている」
――事業構造改革によってポートフォリオが変化している。
「鋼管本部はすべて海外で、鋼材本部もメインは海外ながら同業他社との個別戦略を組むことで機能向上を図ることによって、国内も大きな基盤となってきている。住商メタルワン鋼管、伊藤忠丸紅住商テクノスチールは存在感を確立。自動車用鋼板は伊藤忠丸紅鉄鋼と東西拠点の機能強化を図っている。サミットスチールは日鉄物産と株式を持ち合い、双方向で加工機能を有効活用するソフトアライアンスを構築している。内需全体は縮小するが、伸びる地域・分野もある。鋼材流通企業との信頼関係も維持・強化し、需要と取引先の拡大に努めていく」
――本年度の純利益予想は410億円。
「収益計画を策定した時点でロシアの侵攻は想定できなかった。鋼材・鋼管ともに需要は堅調に推移するが、市況の調整局面が訪れると想定して予算を策定した。ロシア・ウクライナ情勢、米中露の覇権争い、印中の摩擦、中東の混乱など地政学的リスクがさらに高まっている。米欧の金融引き締め、中国のコロナ対策としてのロックダウンの長期化などによる景気後退懸念もあって、先行きの見極めは非常に難しくなってきている」
――今後の事業戦略を。
「海外5極に鉄鋼担当の駐在員を置いて、地域別の事業戦略を基本としているが、事業会社を含めて横串を強化することで住友商事グループとしての総合力をさらに引き出していく。まずは米国市場で事業基盤を拡充していきたい」
――米国市場の現状と見通しは。
「米国では需要の強さを背景に鋼材、鋼管市況が3月をボトムに再び上昇基調に入った。自動車の販売は堅調で、サプライチェーンの問題もあって完成車在庫は低水準にある。住宅は金利上昇によってローン購入物件は減少しているが、現金で支払いできる高所得者層が購入する物件はさほど影響を受けていないようだ。ロシアのウクライナ侵攻への制裁措置で西欧諸国におけるオイル、ガスの供給不安が高まり、米国の産油・輸出量が増加。鋼管需要は伸びており、ガソリン高でEV関連需要も増加している。中間選挙を控えて追加のインフレ抑制策、景気対策も打ち出されるだろう。その間にコロナ禍が収束し、ソフトランディングに向かうと期待している」
――米国では鉄鋼メーカーの積極投資が続いている。
「ニューコア、スチールダイナミクス、ビッグリバースチールなど電炉大手の生産能力増強投資が続いている。日本製鉄もアラバマ州カルバートで大型電炉を建設中。高炉の粗鋼生産は縮小するだろうが、鋼材需給はしっかりウォッチしていく。新規の電炉が立ち上がってくると鉄スクラップ、銑鉄、直接還元鉄など冷鉄源の需給バランスが変化する。米国は鉄スクラップの一大輸出国で、国際需給に変化が生じる。ロシアの鉄鋼輸出がどう推移するのか、ウクライナの輸出がストップしていることもあり、冷鉄源、半製品の国際需給をより注視していく必要がある」
――鋼管本部は、オイルメジャーが認める高い機能を持つ。
「オイルメジャーとはグローバルサプライチェーンを共同で開発してきており、総合エネルギー企業への転換に向けても共同作業を進める信頼関係を構築できている。原油価格がバレル100ドル台で推移しており、米国はリグカウントが回復基調にある。欧州の油井管の長期契約のオーダーリリースも堅調。オイル、ガスの需要回復は続く見通しで、グローバルサプライチェーンの再構築に取り組む。水素やアンモニア、CCUS(二酸化炭素の分離・貯蔵)などのビジネスチャンスも捕捉していく」
――鋼材本部の戦略は。
「鉄鋼市場は地産地消が加速している。日本製鉄の米国カルバート、タイの電炉メーカー買収、インドの一貫製鉄事業など鉄鋼メーカーのグローバル戦略も加速しており、当社も流通としての加工・物流・販売網のグローバル戦略を高度化していく」
――スチール・サービスセンターの機能強化策を。
「米国、中国、ASEANでサービスセンター網を構築しており、欧州はチェコの事業会社のパートナーとなった欧州系企業が展開する域内のネットワークを活用できる。自動車のEV化に伴うサプライチェーンの変化に対応し、DXも活用しながら在庫・物流の効率化を図り、鋼材戦略の拠点としても活用していく」
――北米の展開を。
「テネシー州、オハイオ州、ミシガン州、アラバマ州の4拠点体制で、年間取扱量は80万トン規模。アラバマ州では、トヨタ・マツダ新工場向けのブランキング工場を豊田通商と合弁で立ち上げた。メキシコはモンテレイ、ケレタロ、サラマンカの3拠点体制。需要が伸びる米南部を中心に投資のチャンスを探っていきたい」
――ASEAN戦略は。
「日本製鉄がタイで電炉-熱延鋼板メーカー2社を子会社化した。ASEANにおいて住商は、日系電機メーカーに先駆けて、1978年からサービスセンターを新設し、地場マーケットを開拓してきた。マレーシア、タイ、ベトナムなどに薄板在庫・加工拠点を持ち、ベトナム、パキスタンでは亜鉛鉄板事業も展開している。鉄鋼の国産化が進み、地産地消が加速するマーケットで商社機能が認められるための高付加価値戦略を練り、基盤拡充のための投資も積極的に行っていく」
――中国戦略を。
「サービスセンターは2社を整理し、天津、中山、南京、長春、大連、上海の6拠点に集約した。世界最大の自動車生産国で、EV化も急速に進展している。11月の共産党大会を控えて政府のインフラ投資も続いている。コロナのロックダウンが解除されて、成長軌道に戻ると期待している。政府は脱炭素化に向けて高炉の生産数量制限をしており、鉄源需給はタイト化する見通しだが、ロシアが中国との距離感を縮めており、ロシアからのスラブ・ビレットなどの半製品輸入が続くと、中国国内の需給が緩み、アジア市場への影響も懸念される。ロシア産由来の鋼材は西側諸国で受け入れられない可能性がある。中国は世界最大の鉄鋼生産国で消費国。スケールが大きいだけに動向を注視して、より慎重に対応していく」
――輸送機材は圧倒的な強みを持つ。
「日本製鉄の鉄道車輪、レールの国内外での販売を担い、米国では日本製鉄との鉄道車輪合弁事業のスタンダードスチール、大和工業とのタイプレート製造事業などを展開している。レールの日本からの輸出は、通商拡大法232条による輸出制限が一部解除され、クォータの枠内で再開している。一方、スタンダードスチールは鍛造車輪の需要を開拓し、堅調に推移している。輸送機材については、日本製鉄と一緒に市場に根を張った戦略を描いていきたい。日本製鉄とのスタンダードスチール、大和工業とのアーカンソー・スチールともに電炉メーカーでもあるので、令和型の新機軸を海外で打ち出せないかと考えている」(谷藤 真澄)
【プロフィル】
▽犬伏勝也(いぬぶしかつや)氏=86年慶大法卒、住友商事入社。タイのCSメタル、シンガポールのパンダイスチール、ベトナムのハノイスチールセンター勤務を挟んで国内外の薄板畑を歩んできた。15年からの3年間はシカゴ店長兼米州鋼材・非鉄金属グループ長を務めた。18年からの2年間は中部支社長として視野と人脈を大きく広げてきた。19年4月執行役員、20年同、鋼材本部長。21年常務執行役員、金属事業部門副部門長、22年4月から現職。1963年10月28日生まれ、東京都出身。