2022年5月27日
跡継ぎ情報交換サイト「家業エイド」(上)/中小企業承継の相談場/「家業持ち」なら誰でも/母体は法人向け保険会社
登録者は若年層が多いが、ベテランの経営者が「跡継ぎ候補者たちの率直な声を知りたい」と参加するケースもある
中小オーナー企業の経営上の課題の一つに事業承継がある。後継者がいたとしても、企業の経営状態、業界全体の展望、候補者の意向、そして家族関係などが複雑に絡み合い、事業承継を断念することもある。事実、「年間で約7万社の中小企業が閉業している」(関係者)という。
親が「継がせるべきか、否か」を考える一方で、子は「継ぐべきか、否か」を考えている。こうした継ぐ/継がないの立場を超え、自分らしい家業との関わりの模索しようと提案するのがオンラインコミュニティーの「家業エイド」だ。6000人を超える参加者らは、気軽に情報交換をしたり個人的な悩みを相談し合ったりして交流を深めている。中小企業の経営者や個人事業主を親族に持つ人、すなわち「家業持ち」であれば無料で参加登録可能。最も多いのは親族が卸売業や小売業を営んでいる人で、1100人(全体の17%)。次いで製造業950人(15%)、建設業920人(14%)と続く。鉄鋼関係の家業を持つ参加者も多い。
日本の企業には約360万社の企業があるが、そのうち中小企業が99・7%だ。家業エイドの創設メンバーの梅田裕介氏によれば、親子だけでなく兄弟、祖父母、パートナー関係などを含めると1000万人が家業持ちといえる計算になる。しかし親族内で事業承継した人は100万人にとどまる。残りの900万人は「家業を継がずに家業に関わる人も特有の悩みを持っているのに、それを打ち明ける仲間も場もない」(梅田氏)現状がある。国や金融機関や業界団体などからの支援も受けにくい。家業持ち全員が家業特有の悩みを打ち明け、交流できる場を作りたいとの思いから家業エイドの活動をスタートした。これまでも各業界団体や商工会議所が青年部を組織するなど、若手の交流の場はあったが、「家業エイド」は承継意志の有無にかかわらず参加できる点で他と一線を画す。
梅田氏は「業種や地区が違っても、家業持ち同士というアイデンティティーを共有しているだけで一気に親密になれることが多い」と話し、その理由を「家族や仕事に関係する悩みはそれだけ多くの家業持ちに共通するものなのだろう」と考えている。
「家業エイド」はそうした人たちの悩みの声が響きやすい場として機能する。1000万人の家業持ちたちが豊かな人生を送ることと、全国の中小企業が成長していくことは、日本にとってどちらも欠かせない両輪であるはずだ。
(松井 健人)
母体は法人向け保険会社
家業エイドの母体は法人向け保険会社のエヌエヌ生命保険(本社=東京都渋谷区、マリウス・ポペスク社長)の新規事業立ち上げチーム「スパークラボ」。2018年に前身であるコミュニティー「グラフトブレナー」を立ち上げ、のちに「家業エイド」に改名した。主に中小企業・個人事業主など「つなぐたすきがある事業」を家業と定義し、同じ立場の人が集まって互いに協力(aid)しあう場を提供したいという思いから家業エイドと名付けた。エヌエヌ生命保険が提供する「次世代への支援」の活動の一つとして、新しい企業経営に挑み、日本の中小企業の未来を支え、後継者や若手経営者の支援を実施する方針だ。
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