――2022年3月期の連結業績が大きく改善した。
「売上収益は4兆3651億円でJFE発足以降の最高、事業利益は4164億円でリーマンショック以降の最高、当期利益は2880億円と歴代3位だった。この水準はリーマン前の経常利益5000億円台と比べても遜色のない水準と言える。数量増影響もあるが、主原料価格が上がっていく中で上期から販売価格の改善を進めた結果、下期も上期と同水準の収益を維持することができた。セグメント利益は鉄鋼事業が3237億円と黒字化し、エンジニアリングは20億円増の260億円、商事は米国市場が好調で559億円と最高益となった。棚卸資産評価差等を除く実力の連結事業利益は約2200億円と中期計画目標の3200億円にはまだとどかないので、22年度も中期計画の施策にしっかり取り組んでいく」
――前年度からの改善点は。
「鉄鋼事業においてはコスト削減300億円が予定通り進んだ。数量・構成は数量増の効果が大きく600億円、販価・原料は主原料価格が大きく上がる中で販売価格への反映に取り組み、1030億円とそれぞれ改善し、棚卸資産評価差等で2280億円のプラスとなった。その他が320億円のマイナスとなったが、グループの利益が大きく改善した一方で金属類・鉄スクラップ等の物価が大幅に上昇した。国内グループで利益貢献が大きいのは水島合金鉄やJFEケミカルなど。鋼材加工系のグループ会社も販売価格改善に伴い増益となった」
――鉄鋼事業の実力損益が1297億円と黒字化し、前回予想からも上方に振れた。
「実力の事業利益は上期の685億円から第3四半期に一時赤字となったが、第4四半期に販売価格が一段上がり、647億円と改善した。第4四半期は海外の市況が軟化したものの、国内の価格是正が大きく進んだ。足元鉄鉱石価格は少し落ち着いているが、原料炭価格はロシアのウクライナ侵攻前にトン450ドルと過去最高となり、3月に600ドルを超え、足元500ドルと水準はかなり高い。スプレッド改善のために一段の値上げの必要に迫られている。4月から主原料コスト上昇分で2万円、副原料等の諸物価上昇分などで1万円以上、合計3万円以上の製品値上げを公表済である。足元の状況も踏まえ、コスト上昇分の販売価格への早期反映をさらに加速させていく必要がある」
――需要の不透明感が強まっている。
「国内の需要自体は底堅い。自動車は足元半導体や部品供給不足で十分に造れない状態が続いているが、建設機械や産業機械の生産水準は高く、造船も手持ち工事を多く確保している。ウクライナ情勢と中国のロックダウンが鉄鋼市場にどう影響するかは不透明。これまでロシア・ウクライナは世界の鉄鋼半製品の約3割を供給しており、主な供給先となる欧州や米国の需給がタイト化し、鋼材価格が上がっている。一方中国の生産は12月に増え1月に減ったものの、4月は増えている。ロックダウンの影響で需要が冷える中、中国国内の市況が停滞しており、東南アジアへの輸出増が見られる。こうした状況に東南アジアも引きずられ、欧米とアジアで市況が二極化していると見ている。実操業におけるロックダウン影響としては、中国では当社の関連会社でトラックの手配や物流の問題が生じている。また中国の自動車販売が4月に半減する報道があるなど、現地事業会社への影響を注視している」
――22年度の経営テーマは。
「一つは販売価格の改善だ。主原料価格の上昇に加え、諸物価の値上がりが続いているのでしっかりと進めなければならない。原料価格の早期反映とエキストラ価格の改定を加速していきたい。粗鋼生産は前年並みの2600万トン程度を計画している。千葉地区の第6高炉改修に備えた先づくりもあり、稼働は高い水準を保つと見込んでいる。また今年度にアクションベースで200億円を超えるコスト削減を行うが、千葉の高炉改修に伴う一過性のコスト増があり、最終的には100億円程度のコスト削減となりそうだ。中期計画の利益目標の達成には棚卸資産評価差等を除く1000億円の利益の積み上げが必要であり、22―24年度に900億円のコスト削減とともに主原料だけでなく諸物価の上昇分の販売価格への反映を進める。構造改革(生産体制の見直し)も本格化していく。22年9月までに千葉地区の缶用鋼板ラインを福山地区へ集約し、9月からは千葉の高炉改修も実施する。23年度上期末に実施する京浜地区の上工程休止に対応し、オーダーの先づくりや生産地区の移管の他、一部には生産中止とするものもあるため、お客様との会話を始めている」
――エンジと商事の見通しは。
「エンジは、今年度の受注は若干落ち込むとみているが、一方コロナ影響で今年度にずれ込んでいる海外案件も出てくる。廃棄物発電や再生エネルギー関連の風力発電、地熱発電は堅調であり、橋梁は出件も底堅いと見ている。商事は国内外のグループ会社の地力が高まり、22年度も数量が堅調であれば、去年ほどではないにしても手堅い収益を確保すると予想している。22年度の業績見通しは鉄鋼事業の21年度第4四半期の実力事業利益647億円をベースに考えることもできるが、市況の不確実性が増し、算定が困難なため、連結としても未定とした」
――為替の影響は。
「当社は主原料価格の高騰もあり、現時点では買いの方が増え円安の影響を受けるが、ポーションはそれほど大きくない。1円円安になるとドル収支で30億円の損失と業績に与える影響は軽微だ。それ以上に日本経済全体に与える影響の方が気がかりであり、行き過ぎた円安を是正するための国内の金利上昇など、金利の動向にも注意を払う必要がある」
――JFEコンテイナーの完全子会社化を決めた。
「水素ステーションや在宅医療、水素燃料電池ドローンなど需要の拡大が期待される高圧ガス容器事業を伸ばすためのシナジーが最大の狙いだ。コンテイナー単独で取り組むより、グループ全体のリソースを使うのが最良。中長期的な視点での事業運営や意思決定の迅速化が図られ、グループの成長につながることを期待している」(植木 美知也)