神鋼商事の鉄鋼本部、名古屋鉄鋼部には、マルチリンガルで優れた国際感覚を持ち、線材・銑鉄グループで活躍するグローバル人材がいる。2020年6月にグループ長となった郭喆承(カク・チョルスン)さんだ。朗らかな人柄で皆に愛されながら、グループを率いる郭さんに、これまでの歩みや、外国籍ならではの視点で見た鉄鋼業界やその仕事について聞いた。
――現在の仕事の内容を教えてください。
「鉄鋼本部の名古屋鉄鋼部で自動車向け冷間圧造用(CH)鋼線を中心とする線材と、鋳物用・製鋼用に分かれる銑鉄を扱っています。線材・銑鉄グループは6人で、ボルトやファスナー、さまざまな自動車部品になるCH鋼線と、電気炉メーカーなどに向ける銑鉄と、需要家も全く異なる商材を扱っているのが特徴です」
――鉄鋼業界でキャリアを積まれています。
「大学卒業までを韓国で送り、その後日本に留学。韓国高炉メーカーに入社し、名古屋事務所で自動車用薄板鋼板を約8年、日系自動車メーカー担当として務めました。メーカーから商社を見るうちに、その多様な業務に関心を持ちました。特に鉄鋼以外にも幅広い事業を手掛ける神戸製鋼グループへの興味が強く、当社の採用募集に飛び込みました。鉄鋼企業は日本、韓国でも堅いイメージがありますが、中に入ると風通しが良く、当社を含め外国人も非常に多く、自由な雰囲気が魅力です」
――印象に残っている仕事を教えて下さい。
「大阪配属時代、中国への線材輸出を担当していた頃ですが、現地拠点の線材販売先だった中国部品企業から直接会って相談したいことがあると言われ伺いました。そこでのヒアリングを基に、日本の仕入れ先に改善を提案し、品質懸念を解消しながら大幅なコストの削減も達成しました。取引も拡大し、より踏み込んだ会話もできるようになったのが思い出です。あの時すぐに動かなければこの話はなかった。現地現物で進行したからこそ相互が理解を得て成果となりました。そこで感じたことをきっかけに、事務職社員を海外取引先などに連れ、実地に見学する機会を増やす取り組みの提案も行いました。これは採用され、事務職の理解向上や、社内の職掌を超えたコミュニケーションの促進に役立っていると思います」
――韓国籍ならではの苦労はありますか。
「正直そんなに感じていません。車で営業する折、看板の難読地名や雑談で日本の古い著名人物や作品が分からなかったりすることぐらいです(笑)」
――目標などあれば教えて下さい。
「これまで線材畑を中心に東名阪を経験してきましたが、今後は逆に海外の仕事をもっと増やせればと思っています。インドネシアやベトナム、インドなど今後大きなモータリゼーションの波が見込まれるアジア諸国との仕事で会社に貢献したいです。韓国、中国企業のそうした国々への進出にも、商社としてなら日本の強力な商材を武器に絡むことができます。例えば私なら、韓国企業とのタイアップなどもやはりやりやすいでしょう」
――郭さんのような外国籍の方々が、より活躍するために鉄鋼業界に期待するものはありますか。
「個人的な考えですが、海外から日本に来る外国人留学生は相当います。私のように日本企業に就職する人もいれば、自国に戻り日本語を生かし仕事をしたい人もいる。そうした人を一度日本で採用し、その後海外現地法人で働ける制度があれば、現地採用よりも企業の理念や方針を深く理解し、一層活躍できるようになると思います。親の高齢化などで仕事を辞めざるを得ないケースなども、いったん現地法人で受け入れるなど、人口減に対し人材を手放さないための拠点活用も良いと思います。また、日本国内で働く社員に対しても同様に、国内拠点を活用した柔軟な働き方ができればより一層働きやすい環境になると思います」
――余暇はどのように過ごしていますか。
「新型コロナウイルス禍以前はよく旅行に行っていましたが、最近は1人でも練習できるゴルフを始めました。コロナが収束したら、取引先とゴルフで交流したいです。また昔やっていたテコンドーを、息子が習い始めたので一緒に楽しんでいます」(阿部 拓也)