関西地区のコイルセンター、JFE商事甲南スチールセンター(本社=神戸市東灘区、石﨑順社長)では、田中涼さんと上田早弥子さんの2人がひも付きの営業を担当している。もともと鉄に興味があったわけではなく、ともに学生時代、就職氷河期の中で紆余曲折を経て鉄鋼業界と出会ったという。入社のきっかけや業務内容などを聞いた。
――入社の経緯を。
田中「短期大学在学時は就職氷河期の真っ只中で、正直、就職に関して選択権がないと言っても過言ではないほどの厳しさでした。大学に推薦が来ていたため採用試験を受け、一般職で入社しました。当時は女性の総合職はありませんでした。鉄などについては全く分からず、特にピンと来ていませんでしたね。推薦で鉄鋼業界に出会い、なんとなくスケールの大きい世界なのかなと思っていました」
上田「大学時代は文学部で学んでいました。田中さん同様に就職が非常に厳しい時期で、文学部となるとさらに難しく…。就職浪人するわけにはいかず、鉄とは何かを考える余裕もないまま、就職課に来ている求人を見て派遣で内定をいただきました。最初は続けられると思っておらず、すぐに辞めると思っていましたね。2003年に入社し、2年後に一般職の正社員となりました」
――入社時の業務内容を。
田中「入社してから一貫して営業部に所属しています。最初は事務処理からスタートし、本社勤務ですぐ隣に工場があることから、現場に行くことも頻繁にありました。2―3年目くらいからシャーリング屋さんなど少しずつお客さまを担当するようになり、分からないことがあれば制服にヘルメット姿で現場に直接聞きに行っていました」
上田「私も最初から営業部で、当時は大阪・梅田にあったオフィスで働いていました。事務処理からスタートしましたが、梅田には工場がないため、天井クレーンなど実際の現場をよく知らない状態でしたね」
――当初は鉄鋼業界への驚きが多かった。
田中「思っていた以上に迫力があることにびっくりしました。あんなに大きなコイルが切断加工されるなんて思ってもみなかったです」
上田「工場見学をした時、機械の警告音があることに驚いたり、鉄の匂いを初めて感じたりしました。鉄が集まっている場所を見たことがないのでとにかく新鮮でしたね。その後、ラックを作っているお客さまのもとへ行き、『これも鉄でできているのか。今までだったら気付かなかっただろうな』と意識するようになりました。入社をきっかけに、身近に鉄があると知ることができましたね。現場に関しては、お客さまのもとへ訪問することで学んでいったように思います」
――業界ならではの空気も感じた。
田中「商慣習にも驚きがありましたね。入社時、鉄鋼業界独特の雰囲気のようなものを感じたのを覚えています。私の下の名前が『涼』で男女どちらにも使われるものなのですが、当時は今以上に女性社員が珍しく、お客さまとメールでやりとりをしていて実際に会った際、女性だったのでびっくりされるということもありましたね(笑)。その分、覚えてもらいやすいのでラッキーだと思います」
――大変なことを。
田中「入社当初にお客さまへ対応していた時、回答を急ぐお客さまから直接上司に連絡をされることが何回もありました。自分自身の知識不足が主な要因でしたので、そう言われないように細かなことまで徹底的に上司に質問して教えてもらいました。たまたま現場出身の上司がいたので心強かったです」
上田「専門用語の難しさが印象に残っています。最初は『ミルシートを探してきて』『しはち(4×8)』と言われてもすぐに理解ができず混乱しました。定尺って何? どんなサイズ?ミルシートとは?というところから勉強しました。大変ではありましたが、当時は父親と同い年の上司がおり、とても話しやすい方で仕事をしやすかったのを覚えています」
田中「改めて上司に恵まれていたと感じますね」
(芦田 彩)