2022年4月5日

新社長に聞く 住友商事グローバルメタルズ 村上宏氏 地域戦略基本に脱炭素対応

――新社長としての抱負から。

「住友商事グローバルメタルズ(SCGM)の社員一人ひとりが生き生きと働き、鉄鋼業と需要業界の発展に貢献する会社であり続けることを目指す。いずれも当たり前のことではあるが、社員の活力が良い会社の原点と考えている」

――経営環境は大きく変化している。

「世界情勢、鉄鋼業を取り巻く環境は目まぐるしく変化している。この変化に対応して、われわれが半歩、一歩先んじて変化していかなければ、取引先に貢献することは難しい。鉄鋼業が直面する最大の構造変化は脱炭素社会への対応であり、総合商社の一翼を担う当社だからこそできることは多い。自動車の電動化、少子高齢化などの構造変化にも対応していく必要がある。ロシアのウクライナへの軍事侵攻は、資源高騰、鉄鋼製品・半製品の供給不足を招いており、この大きな波のうねりに対応して、サプライチェーンを維持・更新し、取引先にとってのネガティブ要素を極力軽減させる方向で貢献していきたい」

――経営方針を。

「米中の覇権争いにロシアやインドが絡み、市場が分断されて地域ごとにニーズが変わってくるだろう。地域戦略を基本コンセプト、脱炭素社会への対応をキーワードにして、事業とトレードを拡充し、ポートフォリオを組み変え、持続的成長を図っていく。ターゲットは国内、北米、中国、インドを含むアジアで、欧州にも注力したい」

――中期経営計画(2021-23年度)は2年目に入った。前期は連結純利益予想を期初の43億円から70億円、さらに96億円(前期実績37億円)へ上方修正した。

「通期予想は達成する見込みだが、SCGMは住友商事金属事業部門の鋼材事業全般を担っており、住友商事グループの管理上の業績が別途あって、前期は200億円台半ばとなる」

――グループ内管理用業績の収益構造について。

「SCGMは、18年4月に住友商事から業務を移管されてプロフィットセンター化した。事業会社53社の運営・管理を引き受けている。SCGMが直接出資するのは、サミットスチール、マツダスチール、紅忠サミットコイルセンター、大利根倉庫、伊藤忠丸紅住商テクノスチール、SUMISHO METAL (THAILAND)、CS METAL、 NIPPON STEEL THAI SUMILOX、中山野村鋼材製品の9社で、サミットスチールの子会社、北海道シャーリングを加えると10社となる」

――ロシアのウクライナ軍事侵攻によるビジネスへのインパクトは。

「不確定要素が大きく増えており、今期計画には影響を織り込めていない。停戦にたどり着いたとしても、米欧の経済制裁は続き、世界の分断も長期化する。世界経済はグローバル化の進展によって拡大を続けてきたが、冷戦に再び突入し、時計の針が逆回転する。資源や鋼材などの価格は、供給制約によって一時的に上昇するだろうが、経済縮小によって需要が減少する可能性もあり見通しが難しい。供給制約と需要減少が見合って、混乱は落ち着き、価格が安定する可能性もある」

――国内外で鋼材価格が再び上昇している。

「在庫売却益や売買差益など一過性の要因はある。国内については安定した条件での取引が定着しており、海外でも日系企業とは同様の取り組みを進めている。海外の非日系企業を対象とするビジネスや製造業に近い事業は市況高騰の追い風を享受している」

――中計における23年度のグループ内管理用業績目標を。

「一過性要因を除いた実力ベースで200億円プラスアルファを目指したい。成長投資や事業構造改革の成果が想定以上に出始めている部分もあるので、ここでプラスアルファ分を確保していく」

――国内戦略について。

「最重要地域である国内については、得意分野について有力な事業会社を確立しているので、サミットスチール、住商メタルワン鋼管、NSステンレス、伊藤忠丸紅住商テクノスチールを4本柱に商社機能をさらに磨いて、存在感を高めていく。自動車分野ではマツダスチール、紅忠サミットコイルセンター、大利根倉庫もそれぞれ機能を拡充していく」

――北米戦略は。

「薄板、輸送機材が強化分野。薄板サービスセンターは、スチールサミット・ホールディングスが19年にマジックスチールを買収。従来のテネシー州、オハイオ州の2拠点にミシガン州、アラバマ州を加えた4拠点体制、年間取扱数量は80万トン規模となった。取扱数量とエリアの拡大、仕入ソースの多様化、鋼製家具需要の獲得によるポートフォリオの拡充など、統合効果を発揮。鋼材価格上昇の追い風も吹いて、収益は大幅に拡大している。またアラバマ州では昨年、豊田通商との合弁で、トヨタ・マツダ新工場向けのブランキング工場を立上げた。引き続き成長戦略投資のチャンスを窺っていく。メキシコではセルビラミナ・メヒカーナが3工場を展開。モンテレイ工場は日本製鉄の方向性電磁鋼板を加工してGEの変圧器工場に供給し、ケレタロ工場は電機・建材・自動車のポートフォリオ戦略が奏功、サラマンカ工場はマツダの門前工場として機能を高めている」

――輸送機材も強化している。

「鉄道関係のビジネスを幅広く手掛けている。日本製鉄との合弁による鍛造車輪のスタンダードスチール、大和工業との合弁でタイプレートを製造するアーカンソースチールがあり、日本製鉄の北米向け軌条輸出を一手に引き受けている。トランプ政権時に発動された通商拡大法232条の緩和が認められたことから、軌条輸出の本格的な再開を目指していく。バイデン政権のインフラ投資法案が可決され、カーボンニュートラルの流れもあってトラック輸送から鉄道輸送へのシフトが加速しており、鉄道関連ビジネスはチャンスが広がる」

――南米については。

「ブラジルのゲルダウ・サミットは鋳鍛造品メーカーで、風力発電用リングなど新エネルギー関連需要の伸びを期待している」

――アジア戦略について。

「タイ、マレーシア、ベトナムの3カ国を重点地域、インドを戦略地域と位置付けている。東南アジアは現在もコロナ禍からの回復途上にあり、操業が困難な状況にある。インドは特殊鋼最大手のムカンドグループとの合弁事業で、最新鋭の棒鋼圧延ミル、線材圧延ミルを導入した新工場が稼働を開始した。インドはコロナ前から足踏みが続いていたが、中長期的に伸びる現地の二輪・四輪向け需要を捕捉していく」

――亜鉛鉄板ビジネスを現地ミルと展開する。

「ベトナムスチールとの合弁事業で、亜鉛・アルミめっき鋼板を製造するSSSCは、ハノイ、ホーチミンの薄板サービスセンターとの連係を強化し、ビジネスを拡大している。パキスタンのISLは、冷延・亜鉛鉄板のトップメーカーとして成長を続けている」

――中国は自動車関連需要が拡大している。

「天津、中山、南京、長春、大連、上海の6拠点で薄板サービスセンター事業を展開している。20年前に年間300万台規模だった自動車生産が2700万台と約10倍に拡大し、EV化が急速に進展している。サービスセンターの加工機能を拡充し、EV用も含めた自動車関連需要を捕捉していく」

――工具鋼流通ビジネスについては。

「大同特殊鋼との合弁の無錫の流通拠点は、ハイエンド鋼種から汎用品まで幅広く手掛けることで現地市場に浸透。独資の佛山の拠点も伸びる現地の工具鋼需要の取り込みに成功している」

――欧州は強化する方針。

「チェコの薄板サービスセンターは、パートナーが豊田通商から、スペインのバメサグループに代わった。バメサは欧州域内でサービスセンター事業を幅広く展開しており、拠点や設備の新設も視野にビジネスを拡大していきたい」

――世界各地で特色あるビジネスを幅広く展開しており、脱炭素社会の実現に向けて、新たな事業の創出チャンスが広がる。

「住友商事は中計の重点施策として『エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII)』を昨年4月に新設。社内の専門的な知財・人材など経営資源をEIIに集結させ、脱炭素・循環型エネルギーシステムの構築による次世代事業の創出に注力している。水素やアンモニアなどカーボンフリーエネルギーの事業展開、大型蓄電池・リユース蓄電池事業を含めた新たな電力・エネルギーサービス事業の拡大、森林・CCSなどによるCO2の吸収・分離固定事業の創出などを目指している。EIIは、従来の枠組みを超えた新たな営業組織で、独立機能として意思決定権限を持ち、上野副社長をリーダーにアプローチを本格化している。金属事業部門からも多くの人材を投入しており、情報共有などSCGMへのフィードバックも大きい。総合商社の直系事業会社としてのメリットを最大限に活用し、鉄鋼業の脱炭素化にも貢献していく。住友商事は製鉄プラントビジネスを継続しており、EII、インフラ、電力などの部門、海外拠点とも連係して、アイデアを提供し、投資も行っていく。脱炭素社会の実現には高品質の電磁鋼板が必要であり、国内外でビジネスを拡大していきたいと考えている」(谷藤 真澄)

【プロフィール】

▽村上宏(むらかみ・ひろし)氏=86年早大政経卒、住友商事入社。アーカンソー州ニューポート、ニューヨーク、シカゴなど米国8年間、上海4年間の海外駐在を挟み、国内外の営業、企画畑などを歩んできた。米国ではオーバンスチール、オースチールの売却、アーカンソースチールの事業強化など電炉ビジネスも幅広く経験。99年からの鉄鋼企画時代は、モノタロウの前身である「住商グレンジャー」創設に瀬戸欣哉氏とともに奔走した。

10年経営企画部副部長(本社)、12年厚板・建材事業部長、16年中国住友商事金属部門長兼上海住友商事董事・総経理、20年金属業務部長、22年4月から現職。

「大きな目標を思い描きながら、小さな一歩でも良いので踏み出さなければ始まらない」とし、『千里の道も一歩から』を心がけている。中学・高校時代に熱中したサッカーは、高校OBチームで50歳前後まで継続。週末は幼馴染や中高の友人とのゴルフ、美術館巡りなどで気分転換。家族は妻と一女。63年7月5日生まれ、東京都出身。



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