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2024.12.20
2022年4月1日
三井物産スチール新社長に聞く 手塚敏之氏 直系の強み生かし自立自走 グループで連結経営強化
――新社長としての抱負から。
「私のミッションは次の世代に何を残すか、この一点であり、そのためには自身も率先垂範で頑張るが、人材育成が最大のテーマとなる。社員は宝。その社員が自らの仕事にプロとしてのプライドとオーナーシップを持ち、夢と志のある大きな仕事に挑戦する企業風土と場を創りたい。結果、個としてお客様から常に頼られる存在となり、会社も適正な利益を確保して持続的成長を実現したい」
――三井物産スチール(MBS)の存在価値について。
「前身時代も含め、仕入先、販売先を含めた顧客第一主義を貫き、日本鉄鋼業、国内外のお客様とともに歩んできた。鉄鋼トレーディングを生業としているので、お客様に付加価値の高い商品とサービスを安定供給すること、物産会社の看板を掲げているので、常に新しい価値とビジネスを創造していくことの2点が当社の存在価値。三井物産100%の直系事業会社という強みを活かし、総合力を発揮していく」
――自立自走経営を目指している。
「直系会社の強みを活かしつつ自立自走経営を目指すというのは、親会社からの完全独立を意味するものではない。純血だからこそ活用できることは多く、例えば人材については、三井物産の本社、国内外の営業拠点や事業会社への出向機会を通じた育成が可能。三井物産が保有する事業、顧客ネットワーク、情報、資金調達力の活用も同様。一方、裾野が広い鉄鋼市場の最前線に位置するアンテナ機能を発揮し、総合商社系列ならではの新しい価値創造に挑戦し、定量定性両面で貢献する。ここに一切の甘えはない。こうした親子間の循環型ベストプラクティスを追求し続けるが、オペレーションは経営も含めMBS正社員中心の会社に変えていく」
――日鉄物産、エムエム建材との機能分担は。
「資本関係は様々だが、日鉄物産、エムエム建材ともにファミリー。親も子も兄弟もお互い切磋琢磨して、一家それぞれグループを繁栄させていく」
――2021年4-12月期の純利益は前年同期比2倍弱の62億円だった。
「2008年の創立以来、三井物産鉄鋼製品本部のビジネスを段階的に移管し、20年10月にすべてのトレーディング事業を集約した。その一方で、建材事業をエムエム建材に移管し、三井物産の日鉄物産への出資比率引き上げに伴って一部国内事業を譲渡するなど機能分担とスリム化を行ってきた。最新の通期予想は公表していないが、前期の39億円から大幅増益となり、ほぼ倍増の過去最高益となる見通しだ。追い風もあったとはいえ大変喜ばしいことで、社員の頑張りに心から感謝している」
――今期の重点施策を。
「前期の好業績の余韻は横に置きゼロスタートとなる。先行きの不透明さは増しているが、変革のスピードは緩めない。機能とサービスがお客様、つまり仕入先、販売先、提携先に貢献しているか、社会・産業ニーズに貢献しているか、仕事に対し適正な利益を頂戴しているかの3点を意識しながら、新たな成長軌道を開拓していく」
――経営環境は大きく、複雑に変化している。
「コロナ禍からの回復、半導体や部品の供給不足で混乱するサプライチェーンの正常化など環境好転を期待していたが、ロシア・ウクライナ問題で一変した。世界の鋼材貿易量は約4億トンとされるが、両国からの輸出量は半製品を中心に10%を占める規模で、世界のオイル・ガスの日産量は9000万バレルで、ロシアは1100万バレルを占める。この直接・間接的な影響は不可避。鉄鋼業と鉄鋼流通の構造転換、脱炭素社会への対応などファンダメンタルズは変わらないが、社会が地政学リスクや不確実性を再認識したことから、これらのプロセスとタイムラインは変わる可能性が大きい。混乱はしばらく続くだろうが、変化を見極めつつ解決策を提案し、新たなサプライチェーンの構築に貢献していきたい」
――国内戦略を。
「国内トレーディングの多くを日鉄物産やエムエム建材に移管し、国内と貿易の比率は4対6から3対7となっているが、国内も重要な市場と位置付けている。グループ会社のセイケイ、エムエム建材、新三興鋼管、MSSステンレスセンターとの連結経営を強化。三井物産の北海道・東北・中国・九州に配置されているスチールコーディネーターとも連携しながら、三井物産グループにおける鉄鋼商社としての機能を発揮し続ける。東京の『鉄流懇』、北海道・東北・関西・中国・九州の『三鉄会』、名古屋の『鋼三会』を通じたご縁も大事にしたい」
――グループ会社の動向は。
「セイケイは主力のプレスコラムの需要が旺盛。お客様との情報交換を重ね、設備投資も続けながら、安定した納期を維持することで評価が一段と高まり、業績も好調に推移している。新三興鋼管は、黒管と農ビ管が主力で、材料価格の上昇と販売価格のタイムラグで厳しい局面もあったが業績は安定してきている。MSSステンレスセンターは、需要産業の一時操業停止などの向かい風に直面しているが、地場企業と結成した『MSSC加工共伸会』を通じた2・3次加工による高付加価値化の成果が表れ始めている。エムエム建材は、需要回復と市況上昇で収益は改善しており、移管した貿易事業も順調に立ち上がっている」
――脱炭素社会への対応はビジネスチャンスにつながる。
「CCUS(二酸化炭素回収・貯留)、水素、アンモニアなどに関わる新しい資機材の需要が拡大していく。一方、ロシア・ウクライナ問題によって、化石燃料から再生エネルギーへの転換プロセスとタイムラインに影響が出る。コンベンショナルな化石燃料などの需要への安定供給も果たし続けなければならない。いずれも日本の鉄鋼メーカーが得意とする高級鋼材の需要につながるもので、三井物産本体とも連携しながら、安定供給に貢献していきたい」
――海外戦略は。
「自動車やエネルギー、インフラなどの分野、電磁鋼板や特殊鋼、ステンレスなどの高級品種をターゲットに新たなトレードを開拓していく。建設鋼材はエムエム建材と連携を図る。日鉄物産との協業も進めていく」
――企業ロゴ「鉄商人」の意味合いについて。
「社内公募を経て、MBSと社員を表現する言葉として17年4月に導入した。鉄商人は、多様なプロが一つのゴールに向かい、いかなる環境においてもベストを尽くし商機を逃さず無限の可能性を追求する。そうした意気込みのもとで挑戦と創造を続け、お客様との密接なコミュニケーションを通じて、人々の健やかな暮らしやより豊かな社会、経済の実現に貢献していく企業体を目指すという思いを込めている」(谷藤 真澄)
【プロフィル】
▽手塚敏之(てづか・としゆき)氏=1988年一橋大経済卒、三井物産入社。ノルウェー、アメリカの約8年間の海外駐在を挟み、主に鋼管畑を歩んできた。18年三井物産スチール取締役常務執行役員、21年4月副社長、本年4月より現職。高校、大学を通して心身を鍛え、約5年前に本格再開した剣道は錬士六段。座右の銘は「克己」。家族は妻と一男。57歳、東京都出身。
「私のミッションは次の世代に何を残すか、この一点であり、そのためには自身も率先垂範で頑張るが、人材育成が最大のテーマとなる。社員は宝。その社員が自らの仕事にプロとしてのプライドとオーナーシップを持ち、夢と志のある大きな仕事に挑戦する企業風土と場を創りたい。結果、個としてお客様から常に頼られる存在となり、会社も適正な利益を確保して持続的成長を実現したい」
――三井物産スチール(MBS)の存在価値について。
「前身時代も含め、仕入先、販売先を含めた顧客第一主義を貫き、日本鉄鋼業、国内外のお客様とともに歩んできた。鉄鋼トレーディングを生業としているので、お客様に付加価値の高い商品とサービスを安定供給すること、物産会社の看板を掲げているので、常に新しい価値とビジネスを創造していくことの2点が当社の存在価値。三井物産100%の直系事業会社という強みを活かし、総合力を発揮していく」
――自立自走経営を目指している。
「直系会社の強みを活かしつつ自立自走経営を目指すというのは、親会社からの完全独立を意味するものではない。純血だからこそ活用できることは多く、例えば人材については、三井物産の本社、国内外の営業拠点や事業会社への出向機会を通じた育成が可能。三井物産が保有する事業、顧客ネットワーク、情報、資金調達力の活用も同様。一方、裾野が広い鉄鋼市場の最前線に位置するアンテナ機能を発揮し、総合商社系列ならではの新しい価値創造に挑戦し、定量定性両面で貢献する。ここに一切の甘えはない。こうした親子間の循環型ベストプラクティスを追求し続けるが、オペレーションは経営も含めMBS正社員中心の会社に変えていく」
――日鉄物産、エムエム建材との機能分担は。
「資本関係は様々だが、日鉄物産、エムエム建材ともにファミリー。親も子も兄弟もお互い切磋琢磨して、一家それぞれグループを繁栄させていく」
――2021年4-12月期の純利益は前年同期比2倍弱の62億円だった。
「2008年の創立以来、三井物産鉄鋼製品本部のビジネスを段階的に移管し、20年10月にすべてのトレーディング事業を集約した。その一方で、建材事業をエムエム建材に移管し、三井物産の日鉄物産への出資比率引き上げに伴って一部国内事業を譲渡するなど機能分担とスリム化を行ってきた。最新の通期予想は公表していないが、前期の39億円から大幅増益となり、ほぼ倍増の過去最高益となる見通しだ。追い風もあったとはいえ大変喜ばしいことで、社員の頑張りに心から感謝している」
――今期の重点施策を。
「前期の好業績の余韻は横に置きゼロスタートとなる。先行きの不透明さは増しているが、変革のスピードは緩めない。機能とサービスがお客様、つまり仕入先、販売先、提携先に貢献しているか、社会・産業ニーズに貢献しているか、仕事に対し適正な利益を頂戴しているかの3点を意識しながら、新たな成長軌道を開拓していく」
――経営環境は大きく、複雑に変化している。
「コロナ禍からの回復、半導体や部品の供給不足で混乱するサプライチェーンの正常化など環境好転を期待していたが、ロシア・ウクライナ問題で一変した。世界の鋼材貿易量は約4億トンとされるが、両国からの輸出量は半製品を中心に10%を占める規模で、世界のオイル・ガスの日産量は9000万バレルで、ロシアは1100万バレルを占める。この直接・間接的な影響は不可避。鉄鋼業と鉄鋼流通の構造転換、脱炭素社会への対応などファンダメンタルズは変わらないが、社会が地政学リスクや不確実性を再認識したことから、これらのプロセスとタイムラインは変わる可能性が大きい。混乱はしばらく続くだろうが、変化を見極めつつ解決策を提案し、新たなサプライチェーンの構築に貢献していきたい」
――国内戦略を。
「国内トレーディングの多くを日鉄物産やエムエム建材に移管し、国内と貿易の比率は4対6から3対7となっているが、国内も重要な市場と位置付けている。グループ会社のセイケイ、エムエム建材、新三興鋼管、MSSステンレスセンターとの連結経営を強化。三井物産の北海道・東北・中国・九州に配置されているスチールコーディネーターとも連携しながら、三井物産グループにおける鉄鋼商社としての機能を発揮し続ける。東京の『鉄流懇』、北海道・東北・関西・中国・九州の『三鉄会』、名古屋の『鋼三会』を通じたご縁も大事にしたい」
――グループ会社の動向は。
「セイケイは主力のプレスコラムの需要が旺盛。お客様との情報交換を重ね、設備投資も続けながら、安定した納期を維持することで評価が一段と高まり、業績も好調に推移している。新三興鋼管は、黒管と農ビ管が主力で、材料価格の上昇と販売価格のタイムラグで厳しい局面もあったが業績は安定してきている。MSSステンレスセンターは、需要産業の一時操業停止などの向かい風に直面しているが、地場企業と結成した『MSSC加工共伸会』を通じた2・3次加工による高付加価値化の成果が表れ始めている。エムエム建材は、需要回復と市況上昇で収益は改善しており、移管した貿易事業も順調に立ち上がっている」
――脱炭素社会への対応はビジネスチャンスにつながる。
「CCUS(二酸化炭素回収・貯留)、水素、アンモニアなどに関わる新しい資機材の需要が拡大していく。一方、ロシア・ウクライナ問題によって、化石燃料から再生エネルギーへの転換プロセスとタイムラインに影響が出る。コンベンショナルな化石燃料などの需要への安定供給も果たし続けなければならない。いずれも日本の鉄鋼メーカーが得意とする高級鋼材の需要につながるもので、三井物産本体とも連携しながら、安定供給に貢献していきたい」
――海外戦略は。
「自動車やエネルギー、インフラなどの分野、電磁鋼板や特殊鋼、ステンレスなどの高級品種をターゲットに新たなトレードを開拓していく。建設鋼材はエムエム建材と連携を図る。日鉄物産との協業も進めていく」
――企業ロゴ「鉄商人」の意味合いについて。
「社内公募を経て、MBSと社員を表現する言葉として17年4月に導入した。鉄商人は、多様なプロが一つのゴールに向かい、いかなる環境においてもベストを尽くし商機を逃さず無限の可能性を追求する。そうした意気込みのもとで挑戦と創造を続け、お客様との密接なコミュニケーションを通じて、人々の健やかな暮らしやより豊かな社会、経済の実現に貢献していく企業体を目指すという思いを込めている」(谷藤 真澄)
【プロフィル】
▽手塚敏之(てづか・としゆき)氏=1988年一橋大経済卒、三井物産入社。ノルウェー、アメリカの約8年間の海外駐在を挟み、主に鋼管畑を歩んできた。18年三井物産スチール取締役常務執行役員、21年4月副社長、本年4月より現職。高校、大学を通して心身を鍛え、約5年前に本格再開した剣道は錬士六段。座右の銘は「克己」。家族は妻と一男。57歳、東京都出身。
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