JFEスチールのスチール研究所でステンレス鋼・鉄粉研究部部長を務める杉原玲子さん。2016年には、同社の女性社員として2人目の技術系管理職に就任。部下の研究員を数多く見守ってきた。高校生の頃から自分の生き方に信念を持ち、これまでさまざまな研究に従事。現在の業務内容、鉄鋼業界で女性が働くことについて感じることなどを聞いた。
――03年、JFEスチールに統合。04年薄板研究部主任研究員、06年スチール研究所自動車鋼板研究部主任研究員となる。
「自動車鋼板の場合、加工性を担保しつつ強度が高い鋼板を作ることができれば、今までよりも自動車を軽くし、燃費を向上させて二酸化炭素(CO2)の排出削減が可能になります。EVなどの発達もめざましいですが、どんな動かし方をしても、軽い方が省エネルギーにつながります。ただ、単に鋼板を薄くするだけだと安全性能が保てないので、いかに強度を高くするかが重要で、研究に取り組んできました」
――その後製鉄所に配属された。
「09年、東日本製鉄所商品技術部薄板室に配属されました。生産ラインではありませんが、新しく開発した製品を実際のラインでどう生産できるか、ラボレベルからスケールアップして仕上げる仕事です。量産している製品の品質管理や改善にも関わりましたね。配属期間中はトラブルもありましたが、そうした時には他地区とも連携・協力し、数カ月かけて解決したことも。『みんなでやれば何とかなるんだ』と、チームで仕事をする魅力などを実感しましたね」
――16年、ステンレス鋼研究部長として管理職に就かれました。
「技術系総合職の女性で部長に就任したのは社内で2人目です。製鉄所での仕事に大きなやりがいを感じていたこともあり、出世したいという気持ちを特別持っていたわけではありません。ただ、実際に管理職として働く中で大切だと感じたのは社員の安全と健康。これらを担保した上で、部下の皆さんが自分の業務に対して『これはいい仕事だ』と思ってもらえる環境になるようマネージメントを進めたいです。それぞれの社員に仕事を通じて成長を実感してもらうのが理想ですね。活躍の場をさらに広げられるよう、人材育成に注力できればと思います」
――女性が管理職に就くことについてどう感じるか。
「マネージメントというものに魅力を感じることができるのであれば、学ぶことは多いと思います。でも、女性が管理職に就くには、まず本人に『なりたい』と思ってもらうことが大事ではないかと思います。これまで積み上げた仕事の経験とは異なり、経営とマネージメントそのものに興味を持って勉強を継続しないといけません。例えば子育て中の方の場合、管理職の仕事と子育て、双方にかなりのエネルギーを使います。タイミングなどは本人がよく考え、希望を会社側と相談して、キャリアプランを練っていくのがいいかもしれません。私の少し下の世代はバブル後で採用数が大幅に減ったこともあり、女性社員が少なかったんです。そのため、今周りにいる女性社員は30代くらいの方が多く、子育てと仕事の両立に奮闘していますね。子供が熱を出して保育園に預けられず、在宅勤務に切り替えるなど、みんな大変そうですがすごく頑張っています。そうした年齢構成なので、今後のロールモデルをどう作っていくかが課題です。個の多様性を追求し、マネージメントにも興味を持ってくれる女性社員が増えてくれたらと思います」
――近年、家庭と仕事を両立する女性が増えています。
「私自身は高校生の時から、結婚や子育てをしたいという思いがありませんでした。親や自身の老後を看ることができるのは私だけ。そうした考えだったので、自分にとって仕事は経済的に自立するためのものだと考えていて、その思いは今も変わっていません。でも就職当時は、結婚や出産が女性にとって当たり前の幸せだと考える人も多かった。大学院への進学を決めた時には、友人から『学歴が高いと見合いの相手が見つからないのでは』と心配されたりもしました」
――周囲の女性社員は。
「周りの女性社員はほとんどが結婚と出産を経て、子育てと仕事としっかり両立しています。『どちらも大切、両方やりたい』という強い意欲が必要なので、私にはとてもまねできないことだな、と感じています。子育てなどに関する制度が充実していることもあり、育休や時短勤務の期間も人によってさまざま。年を重ね、育児が一段落した女性社員が改めて目指すものを見つけられる会社になっていけばいいなと思いますね」
――今後の思いを。
「新型コロナウイルスもあって時代の変化がとても激しく、流れも速いです。古き良き時代は戻ってきません。変化に対応していくには、自らも変化することが必要でしょう。入社当時に比べれば、女性だけでなく外国人社員も増え、人材の多様化とともに、価値観の多様化も進んでいます。周囲の社員の皆さんが互いに尊重し合い、いきいきと仕事に取り組める、そんな環境を作っていけたらと思います」
(芦田 彩)