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2024.12.20
2022年1月14日
脱炭素化の潮流で 鉄スクラップの価値高く/利用が拡大、需給構造大変革期に/安定的供給へ 下級品種の活用焦点
世界的に脱炭素化の流れが加速する中、電炉主原料となる鉄スクラップの価値が一段と増している。2050年までに脱炭素社会の実現を目指す「2050年カーボンニュートラル(炭素中立=二酸化炭素の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすること)」に向けて、国内外で鉄鋼大手が革新的な製鉄技術の開発を目指す一方、電炉シフトや鉄スクラップの利用拡大などに向けて動きだしたためだ。中国を中心としたアジアの旺盛な鉄鋼需要に加え、世界的な潮流となりつつあるカーボンニュートラルの影響を受けて、鉄スクラップ需給の構造が大きな変革期を迎えている。
注目される電炉・鉄スクラップ
20年10月26日、臨時国会の所信表明演説で当時の菅義偉首相が国内の温暖化ガスの排出を50年までに「実質ゼロ」とする方針を表明した。日本の鉄鋼業は「カーボンニュートラル」が注目される以前から環境対策に注力しており、日本の鉄鋼業は世界で最も効率が高いと評価されている。ただ、鉄鋼業の二酸化炭素(CO2)排出量は日本全体の約13%を占めるなどインパクトが大きく、CO2排出の多く占める産業界の中でも鉄鋼業が矢面に立たされた。
鉄鋼業のCO2排出削減に向け、注目を集めたのが電炉だ。電炉製鋼は一般的に生産におけるCO2排出量が高炉の4分の1にとどまるが、日本の粗鋼生産における電炉比率は20―30%程度。対して米国が約70%、欧州が約40%と日本は先進国の中でも電炉生産比率が低い。脱炭素社会の実現に向けて「電炉は大きなポテンシャルを備えている」(電炉メーカートップ)と鉄鋼業の電炉シフトへの期待が高まっている。
さらに「高炉生産を電炉に置き換えたり、高炉プロセスで鉄スクラップの使用原単位を増やすことが鉄鋼業のCO2排出削減につながる手段の一つ」(業界関係者)になるとして、再生資源で原料となる鉄スクラップも大きく注目されている。
グリーンフレーション
昨年10月、国内鉄スクラップ相場は指標品の「H2」がトン当たり5万6000円前後(産業新聞調べ、東京・名古屋・大阪の3地区平均)と13年ぶりの高値を付けた。20年4月末から約3倍と大幅に高い。新型コロナウイルス禍からの経済回復が進んで鋼材需要が増える中、「脱炭素」に向けた取り組みが加速していることも影響した。
特に国内では脱炭素に向けた効果的な取り組みとして、高炉プロセスの一つの転炉鋼で鉄スクラップ配合が増えだした。転炉鋼での鉄スクラップ原単位は過去10年で1トン当たり100―130キロ台で推移し、20年は125・1キロだったが、21年は1―4月が130キロ台、5月から公表されている10月まで6カ月連続で140キロ台まで上昇している。
自動車・家電などの製造工程で発生する、薄鋼板の端材などでは不純物が少ない「新断」スクラップについては「一部で7万円前後の取引もあった」(ヤード筋)など、「H2」よりも大幅に流通価格が上昇。脱炭素化や環境配慮などを表す「グリーン=Green」と、継続的な物価上昇を意味する「インフレーション=Inflation」を重ね合わせた「グリーンフレーション=Greenflation」という造語も目にする機会が増えた。
鉄スクラップ相場は昨年11月から下落局面が続く。米国で歴史的な高値を記録したホットコイル市況が昨年11月末から軟化し始めたことも鉄スクラップ市場に影響を与えそうだ。さらにその米国では22年以降、供給不足に対応する形で鋼板類の生産能力の増加が見込まれている。
ただ、世界中で動きだした電炉シフトや鉄スクラップ利用拡大の流れは変わらない。22年以降、国内外で電炉設備の新設計画が立ち上がる。「コロナ禍で先行き不透明ながら、短期的な変動はあるにせよ22年以降も鉄スクラップ需給はタイト感を保つだろう」(電炉メーカー)と警戒する。
鉄スクラップ争奪戦
自動車メーカーをはじめ、日本では高品質の鋼材が求められる。「少なくとも短期的には技術面やコスト面でも高炉法が鉄を造る本流であるのは変わらない」(商社)との声が聞かれる一方、脱炭素の切り札となりそうな水素を活用した革新的製鉄技術の実用化にはしばらく時間がかかるため、国内では高炉の電炉・鉄スクラップの活用、さらに電炉プロセスで高級鋼を生産する技術開発が本格化しそうだ。
日本製鉄は瀬戸内製鉄所広畑地区(兵庫県姫路市)で最新鋭電炉を22年度をめどに稼働させ、電磁鋼板を製造する。その後30年までに国内最大級の電炉を新設する計画だ。日鉄は欧州アルセロール・ミッタルとの合弁事業の米国・AM/NSカルバートでも電炉建設を進める。
JFEスチールも電炉での高級鋼生産を検討するほか、高炉の製鋼原料として鉄スクラップを市中から継続的に調達し始めた。同社最大の課題の一つとしているCO2排出量削減に向け、現行の製鋼プロセスの中で鉄スクラップ使用拡大を目指している。神戸製鋼所は電炉を持たないが、直接還元鉄のミドレックス法と併せて電炉の活用を視野に入れる。
日本の脱炭素化に向け、立ちはだかるのが中国だ。中国政府は昨年1月に鉄スクラップの輸入を解禁。鉄スクラップの新国家規格「再生鋼鉄原料」を制定して輸入を促進し、鉄スクラップの流通量増加と品質向上、鉄鉱石の使用削減を狙う。世界粗鋼3位の中国の河鋼集団は30年に高炉からの切り替えで電炉鋼生産を年1000万トン程度に増やし、粗鋼世界首位の宝武鋼鉄集団も電炉鋼を増やす方針。急激な脱炭素化の流れの中で原料となる鉄スクラップの争奪戦が続くとみられ、今後は国内に眠る「都市鉱山」から発生する鉄スクラップの利用拡大が鍵となりそうだ。
スクラップの品質確保
電炉シフトの課題となるのは、品質が確保された鉄スクラップ調達になる。「すでに高炉メーカー各社は新断など上級品種スクラップの囲い込みに動きだしている」(流通筋)との声も聞かれる一方で、「流通量が限られる上級品種スクラップだけでは急激な電炉シフトには対応できないだろう」(同)という。中長期的に見てもビルやマンションの解体から発生するような、いわゆる市中老廃スクラップの利用拡大が求められている。
コスト面からも老廃スクラップの活用は重要になりそうだ。不純物の少ない新断などのスクラップは、自動車や家電工場など鋼板の大口ユーザーからまとまった数量が出てくる。発生量が予測しにくい老廃スクラップに比べてサプライチェーンも整っているものの、流通量は限られている上に価格が相対的に高い。
ただ、老廃スクラップは銅などの不純物も含まれているため、電炉での活用技術そのものが高度化する必要がある。電炉プロセスの拡大と鉄スクラップの利用促進に向けては市中鉄スクラップの回収から母材の選別、加工、出荷までを担う金属リサイクル業も含めたバリューチェーン全体を通じた取り組みも不可欠。電炉メーカーと鋼材需要家、金属リサイクル企業などによるクローズドループのスキーム構築なども視野に入れる必要がありそうだ。
鉄リサイクル業界においてもシュレッダープラントによる加工処理のほか、徹底した母材の事前選別などの前処理することなどにより、「ヘビースクラップの品位を今以上に高め、より付加価値の高い鋼材の原料を鉄鋼メーカーに安定供給できる鉄リサイクル企業が将来を勝ち残ることができるだろう」(ヤード経営者)。(早間 大吾)
注目される電炉・鉄スクラップ
20年10月26日、臨時国会の所信表明演説で当時の菅義偉首相が国内の温暖化ガスの排出を50年までに「実質ゼロ」とする方針を表明した。日本の鉄鋼業は「カーボンニュートラル」が注目される以前から環境対策に注力しており、日本の鉄鋼業は世界で最も効率が高いと評価されている。ただ、鉄鋼業の二酸化炭素(CO2)排出量は日本全体の約13%を占めるなどインパクトが大きく、CO2排出の多く占める産業界の中でも鉄鋼業が矢面に立たされた。
鉄鋼業のCO2排出削減に向け、注目を集めたのが電炉だ。電炉製鋼は一般的に生産におけるCO2排出量が高炉の4分の1にとどまるが、日本の粗鋼生産における電炉比率は20―30%程度。対して米国が約70%、欧州が約40%と日本は先進国の中でも電炉生産比率が低い。脱炭素社会の実現に向けて「電炉は大きなポテンシャルを備えている」(電炉メーカートップ)と鉄鋼業の電炉シフトへの期待が高まっている。
さらに「高炉生産を電炉に置き換えたり、高炉プロセスで鉄スクラップの使用原単位を増やすことが鉄鋼業のCO2排出削減につながる手段の一つ」(業界関係者)になるとして、再生資源で原料となる鉄スクラップも大きく注目されている。
グリーンフレーション
昨年10月、国内鉄スクラップ相場は指標品の「H2」がトン当たり5万6000円前後(産業新聞調べ、東京・名古屋・大阪の3地区平均)と13年ぶりの高値を付けた。20年4月末から約3倍と大幅に高い。新型コロナウイルス禍からの経済回復が進んで鋼材需要が増える中、「脱炭素」に向けた取り組みが加速していることも影響した。
特に国内では脱炭素に向けた効果的な取り組みとして、高炉プロセスの一つの転炉鋼で鉄スクラップ配合が増えだした。転炉鋼での鉄スクラップ原単位は過去10年で1トン当たり100―130キロ台で推移し、20年は125・1キロだったが、21年は1―4月が130キロ台、5月から公表されている10月まで6カ月連続で140キロ台まで上昇している。
自動車・家電などの製造工程で発生する、薄鋼板の端材などでは不純物が少ない「新断」スクラップについては「一部で7万円前後の取引もあった」(ヤード筋)など、「H2」よりも大幅に流通価格が上昇。脱炭素化や環境配慮などを表す「グリーン=Green」と、継続的な物価上昇を意味する「インフレーション=Inflation」を重ね合わせた「グリーンフレーション=Greenflation」という造語も目にする機会が増えた。
鉄スクラップ相場は昨年11月から下落局面が続く。米国で歴史的な高値を記録したホットコイル市況が昨年11月末から軟化し始めたことも鉄スクラップ市場に影響を与えそうだ。さらにその米国では22年以降、供給不足に対応する形で鋼板類の生産能力の増加が見込まれている。
ただ、世界中で動きだした電炉シフトや鉄スクラップ利用拡大の流れは変わらない。22年以降、国内外で電炉設備の新設計画が立ち上がる。「コロナ禍で先行き不透明ながら、短期的な変動はあるにせよ22年以降も鉄スクラップ需給はタイト感を保つだろう」(電炉メーカー)と警戒する。
鉄スクラップ争奪戦
自動車メーカーをはじめ、日本では高品質の鋼材が求められる。「少なくとも短期的には技術面やコスト面でも高炉法が鉄を造る本流であるのは変わらない」(商社)との声が聞かれる一方、脱炭素の切り札となりそうな水素を活用した革新的製鉄技術の実用化にはしばらく時間がかかるため、国内では高炉の電炉・鉄スクラップの活用、さらに電炉プロセスで高級鋼を生産する技術開発が本格化しそうだ。
日本製鉄は瀬戸内製鉄所広畑地区(兵庫県姫路市)で最新鋭電炉を22年度をめどに稼働させ、電磁鋼板を製造する。その後30年までに国内最大級の電炉を新設する計画だ。日鉄は欧州アルセロール・ミッタルとの合弁事業の米国・AM/NSカルバートでも電炉建設を進める。
JFEスチールも電炉での高級鋼生産を検討するほか、高炉の製鋼原料として鉄スクラップを市中から継続的に調達し始めた。同社最大の課題の一つとしているCO2排出量削減に向け、現行の製鋼プロセスの中で鉄スクラップ使用拡大を目指している。神戸製鋼所は電炉を持たないが、直接還元鉄のミドレックス法と併せて電炉の活用を視野に入れる。
日本の脱炭素化に向け、立ちはだかるのが中国だ。中国政府は昨年1月に鉄スクラップの輸入を解禁。鉄スクラップの新国家規格「再生鋼鉄原料」を制定して輸入を促進し、鉄スクラップの流通量増加と品質向上、鉄鉱石の使用削減を狙う。世界粗鋼3位の中国の河鋼集団は30年に高炉からの切り替えで電炉鋼生産を年1000万トン程度に増やし、粗鋼世界首位の宝武鋼鉄集団も電炉鋼を増やす方針。急激な脱炭素化の流れの中で原料となる鉄スクラップの争奪戦が続くとみられ、今後は国内に眠る「都市鉱山」から発生する鉄スクラップの利用拡大が鍵となりそうだ。
スクラップの品質確保
電炉シフトの課題となるのは、品質が確保された鉄スクラップ調達になる。「すでに高炉メーカー各社は新断など上級品種スクラップの囲い込みに動きだしている」(流通筋)との声も聞かれる一方で、「流通量が限られる上級品種スクラップだけでは急激な電炉シフトには対応できないだろう」(同)という。中長期的に見てもビルやマンションの解体から発生するような、いわゆる市中老廃スクラップの利用拡大が求められている。
コスト面からも老廃スクラップの活用は重要になりそうだ。不純物の少ない新断などのスクラップは、自動車や家電工場など鋼板の大口ユーザーからまとまった数量が出てくる。発生量が予測しにくい老廃スクラップに比べてサプライチェーンも整っているものの、流通量は限られている上に価格が相対的に高い。
ただ、老廃スクラップは銅などの不純物も含まれているため、電炉での活用技術そのものが高度化する必要がある。電炉プロセスの拡大と鉄スクラップの利用促進に向けては市中鉄スクラップの回収から母材の選別、加工、出荷までを担う金属リサイクル業も含めたバリューチェーン全体を通じた取り組みも不可欠。電炉メーカーと鋼材需要家、金属リサイクル企業などによるクローズドループのスキーム構築なども視野に入れる必要がありそうだ。
鉄リサイクル業界においてもシュレッダープラントによる加工処理のほか、徹底した母材の事前選別などの前処理することなどにより、「ヘビースクラップの品位を今以上に高め、より付加価値の高い鋼材の原料を鉄鋼メーカーに安定供給できる鉄リサイクル企業が将来を勝ち残ることができるだろう」(ヤード経営者)。(早間 大吾)
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