――2021年4-9月期の連結純利益は前年同期の1億円から192億円に急回復した。
「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気減速で前年同期は苦戦したが、今上期は国内の建築、産業機械、自動車など総じて鋼材需要が回復した。米国、欧州、中国など主要国の景気も回復する中、世界最大の鉄鋼生産国である中国の生産調整によって国際需給が引き締まり、鋼材価格も上昇。この結果、収益が前年同期比1・5倍の9447億円に回復し、売上総利益は1・7倍の583億円に増加した」
――一過性要因を除いた実力の純利益をどう見る。
「鋼材価格急騰による在庫売却益などの追い風を受けての結果であり、これが実力値そのものとは考えていない。」
――好調だった事業分野、エリアは。
「国内ではステンレス、自動車対応のコイルセンター、店売り系コイルセンター、厚板溶断事業は回復した。建材関連は下期の挽回を期待している。海外ではホットコイルがメトリックトン当たり2300ドルに急騰するなど鋼材価格の上昇が続いた北米は好調だった。中国も1年前からの好調を維持している。国内も利益は大幅に回復した。国内外の比率は収益が5対5、売上総利益は4対6だった」
――セグメントごとの構成比率は。
「収益は自動車・電機鋼材、薄板、鋼板国際の薄板系3事業部が約5割、線材・特殊鋼、ステンレス・チタンの2事業部が約2割、エネルギープロジェクト、鉄鋼貿易の2事業部が約2割、厚板、建設鋼材、鋼管の3事業が約1割。取扱数量がそれぞれ5割、2割、2割、1割、売上総利益は4割、2割、2割、2割の比率だった」
――取扱量は通期ベースで19年度が2138万トン、20年度は1759万トンだった。
「上期の取扱量は888万トンで前下期比では60万トン減だった」
――連結対象会社数は。
「上期末は前期末比2社減の123社で、3社減、1社増。増加は全株式を取得した協和製作所、減少はサステックとステンレスワンの事業統合、海外子会社2社。内訳は国内59社、海外64社。直接連結は96社で、国内40社、海外56社。黒字が88社、赤字は8社で、前年同期と比べると黒字会社が25社増えた。ピーク時の08年度は連結対象が176社あった」
――目指す利益水準を。
「ROIC(投下資本利益率)を意識しており、投下資本の額に応じたリターンを安定的に稼ぐ必要がある。経営環境が大きく変化し、鉄鋼業の構造改革が加速する中、われわれも業態変革を急がなければならない」
――業態変革の進捗状況は。
「主体性のないビジネス、収益性が思わしくない取引は撤退・縮小し、ピークを過ぎ、機能が限定的になるなど成長性が見込めない事業からも撤退を進めている。主体性・収益性・成長性の3つを軸に取引や事業の見直しを行い、経営資源を強化すべき事業分野に投入している。上期末の連結総資産が前期末比1187億円増の1兆271億円、有利子負債は930億円増の2973億円。いずれも鋼材価格上昇に伴う取引債権、棚卸資産の増加などが要因」
――主体性の判断基準はメジャー出資。
「100%出資が望ましく、最低でも50%超。事業会社の子会社比率を引き上げていきたい。エムエム建材、住商メタルワン鋼管は重要な関連会社と位置付けている」
――5割出資のエムエム建材、住商メタルワン鋼管を加えた事業規模は19年度が取扱量3000万トン、収益3兆円、20年度は2800万トン、2兆5000億円、総利益が1200億円弱だった。
「規模は意識していないが、参考までに申し上げると、両社を加えた上期の取扱量は1400万トン、収益は1兆4000億円弱、売上総利益は800億円弱となる」
――経営資源を投入する強化分野とは。
「約2000件の特許を保有する高い創造的発明力をもつNejiLaw社と3月にNejiMo社を設立した。緩まないネジを開発した道脇裕社長とのコラボレーションで、新しいスタイルの知財ビジネスモデルを創出していく。協和製作所は鋼板加工機器メーカーとして、安全対策、ハイテン鋼板対応、自動化・省人化の分野で豊富なノウハウと実績を保有する。メタルワンは国内外で多数のコイルセンターを展開し、鋼板の加工・物流のノウハウと実績を積み重ねてきた。安全対策や人手不足に苦悩する鉄鋼流通産業の無理・無駄・しがらみを解消することで革新を実現し、鉄鋼業の国際競争力強化に貢献していきたい」
――デジタルトランスフォーメーション(DX)と物流革新について。
「加工・物流に関わる鉄鋼業界のコストは1兆2000-1兆3000億円と試算されている。アナログからデジタルへの転換による業務改革をデジタイゼーション、さらに進んでデジタル化したプロセスを活用した企業やグループの業態変革をデジタライゼーションと定義している。デジタライゼーションを実現することで、産業構造転換に導くデジタルトランスフォーメーションが可能となる。メタルワンとしては、業態変革を通じて鉄鋼業の競争力強化、つまり日本の製造業の発展、国益に結びつけていきたいと考えている」
――過去最高益は399億円だった。
「上期に比べると回復の勢いは鈍化し、国際市況上昇による強い追い風もなくなるだろう。米国は史上最高値まで急騰していた鋼材市況がピークアウトしたが、中国はいったん下がったのち、上昇に転じている。半導体や部品供給不足で停滞していた自動車を中心とした製造業の活動水準が徐々に戻り、市場環境は総じて堅調に推移すると見ている。ただし欧米でコロナウイルス感染者が再拡大しており、新たな変異株による懸念も高まっている。数量や規模を追い求めることはない」
――投融資は。
「コイルセンターなど既存事業の設備維持・更新投資が中心で、協和製作所の完全子会社等の新規を除く既存事業では上期の投資は約27億円だった」
――今中計を仕上げるタイミングを迎えた。
「事業撤退や資産売却を含めた事業ポートフォリオの見直し、成長市場におけるポジション強化に向けた経営資源のシフト・人材開発の加速の二つの経営課題に取り組んできた。全体最適の観点から業務改革を推進する『デジタル変革推進部』を10月1日付で新設し、業態変革を進めている。経営資源のシフトと人材開発は取り組みを継続する」
――次期中計の課題と展望を。
「22年度から3年間の中計を策定・実行することになるだろう。事業ポートフォリオの見直しによって創出した経営資源を強化すべき分野に投入し、新たなコア事業を創出していくことで、新たな商社機能を確立していく。2021年4月に立ち上げたタスクフォース『QOLABO(クオリティオブライフ&ビジネス・オプティマイゼーション)』では、個人のライフとビジネスを同時に最適化することを目指し、議論を重ねている。例えば、メタルワングループの機能を単に鋼材を販売するだけではなく、サービスや付加価値の提供に変えていくといったビジネスモデルの転換を図り、社会に貢献し、社員の働き甲斐も満たしていく。そのためにも世の中の潮流や変化を敏感に捉え、主体的に構想し、新たな価値を創出するプロフェッショナル人材をメタルワンの新たな人材像として定義し、経営人材、デジタル人材とともに育成していく」(谷藤 真澄)