――足元の市場環境をどう見ているか。
「自動車向けは新型コロナウイルス感染再拡大に伴う東南アジア各国のロックダウンに伴う部品供給難、半導体不足による減産が長引いており、とくに北米のMSSCが影響を受けている。一方、当社のメインである建設機械向けは需要が堅調だ」
――4―9月期連結決算では大幅な業績改善を果たした。
「コロナ感染状況が落ち着いたことで、建設機械業界を中心に需要が回復し、生産数量が増え、増収となった。営業損益ベースでは前期で実施した希望退職などによる固定費削減に加えて、生産数量アップに伴うコスト改善効果もあり、黒字に転換した。また特殊鋼鋼材の値上げが業界全体の基調でもあり、期待値に近い着地となった」
――通期業績見通しについてはどうか。
「4―9月期の結果を踏まえて、前回予想から上方修正したが、下期の営業利益でみれば30億円から16億円に下押ししている。期初では想定していなかったマイナス要因として半導体不足の影響が下期も続くとともに原材料価格が高止まりし、為替が円安に振れていることで、損益にインパクトを与えている。市場環境を考慮すれば、前回公表した通期業績は悪くないと思うが、特殊鋼鋼材の値上げ浸透が早ければより高い数値に到達できただろう」
――原材料をはじめ各種コストが上昇している。
「特殊鋼鋼材の需給がタイト化して需要家は安定供給を求める中、販売価格改定などを協議できるムードは整っている。鉄鉱石や原料炭の価格上昇分は販価への反映をお願いしてきたが、その一方で原材料以外の各種コストに係る負担が増大し、高品質製品を安定供給するためにも、下期で追加値上げを行わざるを得ない状況にある。原料サーチャージ制の対象ではない合金鉄価格も上がっており、販価に反映させる」
――インドネシアで特殊鋼鋼材を生産するジャティム社はどうか。
「ジャティム(21年12月期)は7―8月、コロナ感染拡大に伴う酸素不足を受け、現地政府方針に基づいて工業用酸素を医療用に回した。これで稼働率が低下し、需要家には一部を他社材料で代替してもらった影響などで、営業利益は期初予想の8億円から6億円に減る見通しだ。酸素不足の影響は8月下旬からほぼ解消され、9月には生産が回復。需要は好調に推移し、フル稼働状態が続いている。スクラップサーチャージ制で販価を引き上げているが、収益に反映するまでのタイムラグで、これが来期の収益に効いてくる。また需要が生産能力を超えていることから、12月に電気炉の炉殻を拡大して生産能力を10%程度引き上げ、増産対応を講じる。来期は前期比で生産数量が1割増、営業利益は4億円増の10億円を計上できるとみている。ジャティムは『再建』というフェーズは終わっており、当社グループ『2020中期経営計画』を完遂できれば電気炉の本格増強に照準を合わせる。板ばね用材料である平鋼はインドネシア国内のシェアは大きく、今後は輸出を狙う。丸鋼は日系メーカーのニーズが強く、探傷装置導入などで品質をさらに高め、販売増を目指す」
―中国の需要動向をどう予想しているか。
「高炉の稼働を減らし、電気炉シフトを進める。CO2排出量を削減するために電力使用制限している動きは冬季北京オリンピック開催期間までだと考えている。五輪後、一時的にブレーキがかかったとしても、地球環境保全への流れは変わらない。中国側の鉄鋼生産・供給問題に加えて、インドネシアでは輸入障壁を設けるなど、地産地消の地元産業を優先する政策が強く、ジャティムに逆風が吹くことは想定しにくい」
――北米・MSSC社の状況を。
「MSSC(22年3月期)は米国からカナダへの拠点統合・生産移管が順調に進んでおり、年度内に完了する見通し。今期は半導体不足影響や、グリーンシルの破たんで英国鉄鋼メーカーの資金繰りが厳しくなり、現地の材料調達が難しく、当初は室蘭から材料を空輸、以降はコンテナ船での輸送に切り替えたものの、フレートの高騰もあり、空輸と海上輸送を合わせた一過性コストは7億5000万円程度増えた形になる。ただ、供給責任を果たしたことに対する現地大手自動車メーカーの評価は高く、ばね製品の値上げが浸透し、通常の輸送コスト負担分は概ね確保することができている。今回の教訓を踏まえて、需要家の理解を得ながら米国国内でばね素材の調達ルートを拡げる。その一方で、新規受注も増えており、足元は平日のみの稼働でフル状態。今後は土曜日の稼働や、稼働時間を20時間から24時間に延ばすことも検討するほど受注が着実に増えている。来期は拠点統合によって、今期比約10億円改善し、黒字化が見えている」
――ドイツのグループ会社であるMSSCアーレの火災影響は。
「6月に巻きばね製造ラインの焼入れ工程で火災が発生した。需要家への供給を継続するべく、代替品を納入し、代替生産先を探すなどの対応を講じてきた。今後は早期復旧に取り組む。復旧コストは35億円程度になる見通しで、基本的に保険でカバーされることから、1―2年のスパンでみれば損益への影響はない。一方、供給が停止したことで、アーレの巻きばねに対する評価が見直されており、受注・生産量が増える可能性がある」
――特殊鋼鋼材事業の状況を。
「MSR(三菱製鋼室蘭特殊)はフル生産が続いている。特殊鋼鋼材の内販を含めた販売数量について、月間ベースで上期が3万7000トンを、下期は4万トンを計画している」
――DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応は。
「私自身がCDO(最高デジタル責任者)に就き、DX推進室を発足した。希望退職実施を契機として、企業体質を改善する機運が高まっている。DXを活用して改革を進めるため、専門講師からレクチャーを受けているところだ。私が先頭に立つことで、会社の本気度を理解してもらえると思う。一方、各職場でRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の利用が進展し、成果などが50件以上に増えており、発表会やコンテストなどを開いていきたい」
――ダイバーシティ推進では、22年までに10%以上の女性役員比率を目指している。
「来期の改選期に検討している。女性管理職比率、女性従業員比率は職場環境をみながら、徐々に引き上げる。この一環として、工場現場の女性比率を高めるため、職場全体の10%相当をダイバーシティエリアに設定し、必要な設備投資は実施し、働き方改革に取り組む」
――国内自社工場を対象とする、カーボンニュートラルに向けた削減目標を掲げている。
「13年度比で30年度までに、ばねや素形材など特殊鋼鋼材以外の事業は総排出量の50%削減を目標に掲げ、特殊鋼鋼材事業は原単位での10%削減に取り組む。『熱電材料による未利用熱の有効活用』や、MSRでは『鋼材切断用ガスの水素代替活用によるCO2削減』などに力を注ぐ。需要家への材料提案で自動車軽量化ニーズに貢献するとともに、熱処理時間が短縮する鋼材を提供するなど需要家のエネルギー使用削減、LCAに寄与する。古い設備で焼き入れ温度など、品質上、安全を見た生産をしているが、今の技術やノウハウを活用すれば生産効率化や省エネルギーを実現できる。まずは省エネルギー技術・工法を確立した後に、代替エネルギーを考えていかなければならない」
――ジャティムの対応はどうか。
「カーボンニュートラル実現に向けた動きが加速する環境下、MSRの存在感を高めつつ、ジャティムを戦略的に活用する。太丸中心のMSRでフォローできない細丸などはジャティムからの供給を検討する。インドネシア以外の国でジャティム製品のアプルーバル(品質認証)取得を進めている。日系メーカーへの製品納入が多く、すでに日本需要家の一部で認証を取得し、申請中の案件も多い。タイに拠点を置く日系メーカーにはすでに丸鋼の供給を開始している。三菱製鋼製品と認知してもらっており、展開しやすい。インドネシア以外の東南アジア諸国でも中国材や韓国材の流入が減り、アジア市場の需給が引き締まっている。電炉鋼材のニーズが高まり、需要家は日本のメーカーによる高品質製品の安定供給を求めているため、ジャティムは増強・成長という戦略を立てる上で、絶好のタイミングと言える」(濱坂浩司)