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2024.10.30
2021年12月17日
JX金属のLiBクローズドループサプライチェーン/適正リサイクル推進へ/安全安心な資源循環追求
JX金属はリチウムイオン電池(LiB)のクローズドループサプライチェーンの実現に向けて、国内外で事業を加速している。国内では10月にJX金属サーキュラーソリューションズが操業開始。欧州ではJX・メタルズ・サーキュラー・ソリューションズ・ヨーロッパ(JXCSE)を立ち上げ、LiBの正極材の開発からリサイクル技術の開発まで幅広く行っている。世界中で開発競争が加速するLiBクローズドループチェーンのJX金属の最前線を取材した。
JX金属のクローズドループチェーンを確立する上で鍵となるLiBリサイクル事業は、1970年代に開発したニッケルコバルト製錬技術を基礎に、2005年から本格的に事業を開始した。溶媒抽出と電解採取による湿式法をベースに、現在ではコバルトとニッケルだけでなく、リチウムやマンガンの回収もできる。
今後、急拡大が予測されている車載用LiBのリサイクルについても同社はすでに技術的な課題はクリアし、現在は実証プラントで試験操業を始めている。LiBのクローズドループを先行的に構築し、競争力の源泉にする考えを示す。
LiBの正極材開発とリサイクルを実現するため、同社では21年に社内組織を改変し、「電池材料・リサイクル推進室」と「技術開発センター電池材料グループ」を設置した。正極材の技術開発チームとクローズドループチェーンの技術開発チームが一緒になることで、開発力の強化を期待するもの。次世代電池として期待を集めている全固体電池でも連携効果が期待でき、同社のLiBクローズドループチェーンに掛ける本気度が伝わってくる。
現在、同社では全国5カ所の拠点でLiBリサイクルに取り組む。銅製錬を行う佐賀関製錬所(大分県)と車載LiBの焼却を行うJX金属苫小牧ケミカル(北海道)に加え、技術開発の中核である技術開発センター(茨城県)と10月に発足したLiBリサイクルに特化した新会社JX金属サーキュラーソリューションズ(福井県)がある。
同社は欧州でもLiBのクローズドループチェーンを展開する。欧州に設立したJXCSEでは日本と同様に電池材料とリサイクルの技術の開発を同時に取り組む。現段階では設備や回収量は未定だが、来年中に日本と同様の電池スケール設備を設置し、欧州企業との連携を深めていく。
欧州では20年12月に電池規則案が発表され、EV車の普及と合わせて、バッテリーリサイクルの議論が進んでいる。特に電池規則で電池の正極活に使用されるリサイクル原料の比率が決められ、リサイクル材を活用する動きが加速している。これらの欧州での動きは同社が進めるクローズドループチェーン構築に「非常に親和性が高い」(同社担当者)との考えから「事業を機動的に行うタイミングとして」(同)今回の設置に至った。
同社のLiBリサイクル事業で大きな転換点となったのが、リサイクル原料を生産工程から発生するスクラップの正極活物質から民生用LiBへ切り替えた時だった。工程発生スクラップは不純物が少なくリサイクルしやすいが、民生用は不純物が多く、ニッケルやコバルトの濃度を高めることが難しい。だが、同社ではリサイクルの技術とノウハウを確立したことで大きな問題を起こすことなく、民生用LiBのリサイクルの実現に漕ぎつけることができた。
10月に操業開始したJX金属サーキュラーソリューションズは、旧敦賀リサイクルからLiBに関連する一部設備を引き継いだ。当面は既存の定置炉を活用し、この先は車載用LiBリサイクルに向けて、新たな炉の導入なども検討する方針を掲げている。
また、湿式リサイクルの工程では、これまでのインゴットから正極材メーカーが使い易い金属粉で回収が行えるように設備改造を進めている。硫酸ニッケルについてはすでに改造を終え、月数トンレベルでの回収を予定している。来年には硫酸コバルトも金属粉で回収する予定。今後、多様な原料を用いて検証を進め、対応力を強化する。炭酸リチウムはバージン材と同等のレベルまで作りこんでいると、担当者は自信を見せる。
一方、炭酸マンガンの回収についてはマンガンの価格が採算性を取りにくい水準にあるため、現在はリサイクルの対象にしていない。ニッケル、コバルトについても車載用LiBに含まれる含有量から見て売却益だけで採算性を確保することは難しいと同社は見ている。LiBの技術が進化するほど価格が高いニッケル、コバルトの含有量は減少すると見られ、採算性は一段と厳しくなる可能性がある。
だが、リサイクルの意義は採算性だけではないと同社は考えている。LiBは劣化などで火災が発生する恐れがあり、廃棄物として放置されることは非常に危険だ。また、バージン材の生産には鉱石採掘や環境保全に伴うコストが掛かってくる。同社ではLiBの適正リサイクルを進めるため、社会的なシステムからインセンティブが支払われる仕組みも重要との認識を示す。サプライチェーンの中で適切な回収システムの構築を進め、安全安心なLiBの資源循環が求められているためだ。同社のLiBリサイクル技術は電動車普及の推進力となる力を秘めており、今後の動向が注視される。
(服部 友裕)
JX金属のクローズドループチェーンを確立する上で鍵となるLiBリサイクル事業は、1970年代に開発したニッケルコバルト製錬技術を基礎に、2005年から本格的に事業を開始した。溶媒抽出と電解採取による湿式法をベースに、現在ではコバルトとニッケルだけでなく、リチウムやマンガンの回収もできる。
今後、急拡大が予測されている車載用LiBのリサイクルについても同社はすでに技術的な課題はクリアし、現在は実証プラントで試験操業を始めている。LiBのクローズドループを先行的に構築し、競争力の源泉にする考えを示す。
LiBの正極材開発とリサイクルを実現するため、同社では21年に社内組織を改変し、「電池材料・リサイクル推進室」と「技術開発センター電池材料グループ」を設置した。正極材の技術開発チームとクローズドループチェーンの技術開発チームが一緒になることで、開発力の強化を期待するもの。次世代電池として期待を集めている全固体電池でも連携効果が期待でき、同社のLiBクローズドループチェーンに掛ける本気度が伝わってくる。
現在、同社では全国5カ所の拠点でLiBリサイクルに取り組む。銅製錬を行う佐賀関製錬所(大分県)と車載LiBの焼却を行うJX金属苫小牧ケミカル(北海道)に加え、技術開発の中核である技術開発センター(茨城県)と10月に発足したLiBリサイクルに特化した新会社JX金属サーキュラーソリューションズ(福井県)がある。
同社は欧州でもLiBのクローズドループチェーンを展開する。欧州に設立したJXCSEでは日本と同様に電池材料とリサイクルの技術の開発を同時に取り組む。現段階では設備や回収量は未定だが、来年中に日本と同様の電池スケール設備を設置し、欧州企業との連携を深めていく。
欧州では20年12月に電池規則案が発表され、EV車の普及と合わせて、バッテリーリサイクルの議論が進んでいる。特に電池規則で電池の正極活に使用されるリサイクル原料の比率が決められ、リサイクル材を活用する動きが加速している。これらの欧州での動きは同社が進めるクローズドループチェーン構築に「非常に親和性が高い」(同社担当者)との考えから「事業を機動的に行うタイミングとして」(同)今回の設置に至った。
同社のLiBリサイクル事業で大きな転換点となったのが、リサイクル原料を生産工程から発生するスクラップの正極活物質から民生用LiBへ切り替えた時だった。工程発生スクラップは不純物が少なくリサイクルしやすいが、民生用は不純物が多く、ニッケルやコバルトの濃度を高めることが難しい。だが、同社ではリサイクルの技術とノウハウを確立したことで大きな問題を起こすことなく、民生用LiBのリサイクルの実現に漕ぎつけることができた。
10月に操業開始したJX金属サーキュラーソリューションズは、旧敦賀リサイクルからLiBに関連する一部設備を引き継いだ。当面は既存の定置炉を活用し、この先は車載用LiBリサイクルに向けて、新たな炉の導入なども検討する方針を掲げている。
また、湿式リサイクルの工程では、これまでのインゴットから正極材メーカーが使い易い金属粉で回収が行えるように設備改造を進めている。硫酸ニッケルについてはすでに改造を終え、月数トンレベルでの回収を予定している。来年には硫酸コバルトも金属粉で回収する予定。今後、多様な原料を用いて検証を進め、対応力を強化する。炭酸リチウムはバージン材と同等のレベルまで作りこんでいると、担当者は自信を見せる。
一方、炭酸マンガンの回収についてはマンガンの価格が採算性を取りにくい水準にあるため、現在はリサイクルの対象にしていない。ニッケル、コバルトについても車載用LiBに含まれる含有量から見て売却益だけで採算性を確保することは難しいと同社は見ている。LiBの技術が進化するほど価格が高いニッケル、コバルトの含有量は減少すると見られ、採算性は一段と厳しくなる可能性がある。
だが、リサイクルの意義は採算性だけではないと同社は考えている。LiBは劣化などで火災が発生する恐れがあり、廃棄物として放置されることは非常に危険だ。また、バージン材の生産には鉱石採掘や環境保全に伴うコストが掛かってくる。同社ではLiBの適正リサイクルを進めるため、社会的なシステムからインセンティブが支払われる仕組みも重要との認識を示す。サプライチェーンの中で適切な回収システムの構築を進め、安全安心なLiBの資源循環が求められているためだ。同社のLiBリサイクル技術は電動車普及の推進力となる力を秘めており、今後の動向が注視される。
(服部 友裕)
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