――上期は大幅な収益改善を果たした。
「上期は経済活動が回復したことから、中長期経営計画で想定していた年間120万トンに相当するレベルで受注数量が戻ってきている。2020年度から取り組んでいる最適生産設備体制の構築を中心とする事業構造改革も順調に進捗し、衣浦製造所の熱間圧延設備と精密品専用製造設備の休止効果が21年度初めからフルに出るなど、固定費削減に効いている。原材料価格上昇で在庫評価益を計上したことも収益改善に繋がり、180億円の経常利益を計上することができた。下期は半導体不足による自動車減産影響などが懸念されるものの、上期を上回る受注を想定している。足元のLMEの在庫状況を踏まえると、原材料価格は高止まりするものとみられ、通期の単独経常利益については300億円台半ばになるとみている」
――ニッケルやクロムなど原材料価格が大幅に上昇し、販売価格を段階的に引き上げた。
「ステンレス鋼の主原料であるニッケルやクロム、モリブデンは強基調で推移している。鉄鉱石および石炭、鉄スクラップも高値圏にあり、原料コスト全般、さらにはエネルギーほかの諸コストが上昇していることから、ひも付きのお客様向けも含めた販売価格への反映に努めてきた。一方、親会社が現在進めている、自動車分野などひも付き取引に関して、あらかじめ数量・価格などの販売条件を協議・合意する『前決め方式』への移行は、当社にとっても重要な課題であり、親会社の取り組みと平仄を合わせて、現在お客様に丁寧にお願いしているところだ」
――従来の韓国製品に加え、台湾製品、中国製品の輸入量が急激かつ大幅に増えている。
「台湾製品と中国製品のステンレス冷延鋼板の輸入量が増えている。依然として輸入鋼材の主体は韓国製品であるものの、台湾製品や中国製品が輸入製品に占める割合が急上昇している。これは韓国政府が中国製、台湾製、インドネシア製のステンレス鋼板類輸入に対するAD調査でクロの最終決定を行ったことで、韓国国内市場の需給バランスが変化し、韓国メーカーが国内供給を優先したため、日本への入着が減少していることなども影響している可能性がある。韓国製品の代替として台湾製品、中国製品を輸入する動きが一部であるようだが、品質に差があるため、日本の需要産業の製品の品位に影響を及ぼす可能性は否定できない。ステンレス協会は両国製の冷延鋼板についてモニタリング体制を強化することを決めており、状況をよく見極めながら、損害が確認されれば必要な措置を検討しなければならない」
――ミル休止など構造対策の進捗はどうか。
「21年度における最大の眼目は、構造対策をやり遂げること。構造対策は3つの柱から成り、1つ目は衣浦の薄板ライン全面休止を中心とする薄板の最適生産体制構築。2つ目は23年度の瀬戸内製鉄所呉地区閉鎖への対応を含めた、鉄源、熱延、冷延各工程のミル移管。3つ目は業務システムの統合。3つのテーマを完遂することで、100万トンの鋼材出荷数量でも黒字を確保できる事業基盤を構築する」
「最適生産体制構築とミル移管は全品種でスケジューリングとマッピングが出来ており、お客様にもご理解をいただき、概ね順調に進んでいる。22年3月末をめどに衣浦薄板工場の全設備を休止するものの、その後もミル移管作業は続く。周南、光、八幡の3製造所への移管が多く、鹿島の規模はほぼ変わらず、引き続き周南と光が薄板製造の主力。自動車を中心とするお客様のサンプル評価は時間を要し、22年度一杯、鋼種によっては23年度半ばまで続く可能性がある」
――業務システム統合についての進捗を。
「旧・新日鉄住金ステンレスと旧・日新製鋼の受注・請求、製品仕様管理、原価・会計、原料・購買・設備保全などのシステムをはじめとする業務基盤の統合は4月に完了した。営業系システム統合は、22年1月をめどに実行する予定。システムの一元化で生産性アップや、お客様へのサービス向上などを実現する」
――市場変化が激しい。
「地球温暖化対策として、カーボンニュートラル実現に向けた対応が大きな課題になる。生産プロセスからCO2排出を抑制する『エコプロセス』、環境に優しい商品を提供することでお客様のCO2排出抑制に繋げる『エコプロダクツ』、省エネ・環境負荷低減の技術を社会に広める『エコソリューション』を考えていかなければならない。『エコプロセス』ではCO2排出量を30年に13年度比30%削減、50年でカーボンニュートラルを目指している。『エコプロダクツ』については、4月に新エネルギー分野・高合金営業開発班を立ち上げており、水素材料や次世代自動車、電池など脱炭素社会への取り組み要請が急速に高まる中、従来とは異なる新しいマーケットに光を当てるべく、国内外での市場・需要動向の把握や、環境調和型材料の開発などに取り組んでいる。将来的には人員増強やAI活用なども検討する」
「一時期、『CASE』や『MaaS』の進展による自動車のコモディティ化が言われたが、今後は製造業全体で『モノのコモディティ化』が進むことも考えられる。価値観が大きく変化し、モノに価値を認め、対価を支払ってきた時代が変わろうとしているとした場合、最上流の素材産業にいる我々は何をすべきなのかを考える必要がある。将来、高機能や高品質など素材の持つ価値が評価される分野と、コストだけが求められる分野で二極化するとみられ、両分野にそれぞれ対応する新材料の開発が求められてくる。ステンレスは若い鋼だ。今後も研究開発によって、SUS304に対する当社のFWシリーズのように汎用鋼をより安価で生産・販売する方向や、当社が注力している独自二相鋼のように、コスト上昇を抑制しつつ、より高い機能を付与する方向など、多面的な取り組みにより市場を広げることができる。国内は人口減少、少子高齢化が進んでおり、手をこまねいていれば鉄鋼製品の内需はいずれ縮小するが、このような取り組みによって他素材からステンレス鋼への置き換えを進めるなど、新規分野を開拓することで内需を拡げていくことも可能だ。製品の長寿命化やメンテナンス負荷低減への要求が今後さらに高まるものとみられる中で、ライフサイクルコストに加えてCO2排出抑制にも優位であるというステンレス鋼の特長を訴求することができれば、活躍の場を広げるチャンスがあるはずだ」
――アセリノックスの全株式を売却した。
「世界各国で鉄鋼製品の自国産化が進み、将来、汎用鋼を主体に需給バランスが大きく変わる。この流れの中で高級鋼ではなく、汎用鋼がメインのアセリノックスは当社のパートナーとしてふさわしくないと判断し、全株式を売却した。他の海外事業会社についても同様に、当社の事業戦略上の保有意義の観点から要否を判断する。構造対策のめどが付けば是非を含めて、新たな海外展開を考えていきたい」
――現行の中長期経営計画で掲げている「120万トンの鋼材出荷量で単独経常利益
200億円以上」を、21年度で達成しそうだ。
「中長期経営計画で描いた各方面の取り組みは、マイルストーンに対してオンスケジュールで来ている。最適生産体制の構築も進み、固定費構造は整いつつある。その上でさらに製造実力の向上などにより変動費を引き下げていくとともに、販売条件の最適化などを通じてマージンの改善に努め、その内実をさらに強固なものにしていかなければならない。当然のことながら、『単独経常利益200億円以上』は上振るだけ上振れるよう、取り組みを強化していきたい」(濱坂浩司)