――通期の連結事業利益予想を前回予想比100億円増の3600億円に上方修正した。商社事業の増益が主な理由だが。
「商社事業は海外が好調で上期の利益予想を上方に修正した。北米を中心とした海外グループ会社が健闘し、下期も増益基調が継続する見込みだ」
「鉄鋼事業は2800億円で前回予想並みとした。鉄鉱石、原料炭といった主原料価格は上昇を見込むが鋼材価格へ早期に反映させていく。一方で合金鉄や副原料など諸物価が急激かつ大幅に上昇している。合金鉄は中国で製造しているものが多く、電力供給制限などの影響を受けている。状況をお客様へ説明し、鋼材価格に反映するべく、随時交渉を進めていく」
――上期の粗鋼生産が前回予想より若干減ったが下期に取り戻し通期予想は2650万トンと前回予想並みに。
「上期の粗鋼は7―9月の豪雨の影響などで前回見通しより若干減少した。下期の各分野における需要増に対応するため、(改修で休止している)西日本製鉄所倉敷地区第4高炉は12月末の立ち上げ開始予定だったが12月半ばと2週間程度前倒しをする。福山地区の高炉をバンキング(一時休止)から立ち上げた実績を踏まえて倉敷も速やかに立ち上げていく」
――7―9月期の販価がトン10万1000円と前の期から1万3000円強上がった。下期の販価是正の考え方は。
「上期は主原料コストの上昇分を鋼材価格に早期に反映する活動に取り組み、原料コストに連動して販売価格を決める取引においてはルールを見直し主原料コストと価格反映のリードタイム短縮を進めており、個別交渉によって価格を決める取引においても原料コスト確定後1か月程度での価格反映を進め、おおむね定着してきた。下期は合金鉄や副原料など諸物価が大幅かつ急激に上昇していることを踏まえ、状況をお客様へ説明し、鋼材価格への反映をスピーディーに進めていく。このような取り組みにより、下期の販価は上期より上昇するとみている。エキストラの見直しについては特殊なサイズや形状に対して追加でかかるコストをエキストラ化するなど、上期にすでに一部で改定を実現している。お客様との議論、見直しを加速させていく」
――下期の事業利益予想は上期を下回る。
「下期に販価の改善が進み、粗鋼生産量は上期より増え、コスト削減効果も上期から下期にかけて150億円のプラスの見通しだが、一方で合金鉄など諸物価上昇によるコスト増や設備の償却費増などの影響もあり、下期損益は上期に比べ悪化する見込みだ。米国のCSIが減速するなど上期好調だった海外グループ会社の下期減少も織り込んでいる」
――高収益を持続するための重要点とは。
「中期経営計画で掲げた施策を進めることだ。中期計画最終年の2024年度の事業利益目標3200億円に対し、21年度に3600億円の予想と計画を上回るが、前提が異なる。中期計画の想定(2600万トン)より粗鋼は50万トン多く、原料価格上昇などに伴う棚卸資産評価差の影響も大きい。今年度の棚卸資産評価差を除く実質事業利益予想は1990億円。中期計画の3200億円に対しては、あと1200億円程度積み上げる必要がある。まずはコスト削減について今年度300億円を見込んでいるが、中期目標で掲げた1200億円に対して残り900億円を構造改革や設備投資の効果として確実に達成していく。一方で粗鋼生産は50万トンで100億円、メタルスプレッドは輸出市況の影響もあり200億円ほどプラスになっている」
「鉄鋼事業では中期の目標達成のためにはこれ以外に、あと500億円程度の収益改善が必要であり、特に21年度に顕在化した諸物価の上昇分について販価などでカバーする必要がある。販価は輸出のスプレッドが中期計画の想定より大幅に拡大し超過達成しているが、国内の販価改善が大きなテーマとなる。高付加価値品比率を向上させ、商品の選択と集中によるプロダクトミックスの高度化も推進する。また、エンジニアリング事業の利益は中期計画の目標に達していない。売上収益の拡大など事業会社が中期計画で掲げた取り組みを着実に実行していくことが重要だ」
――世界的に脱炭素のビジネスが加速している。電磁鋼板など商品戦略に変化は。
「電磁鋼板については足元の倉敷地区での能力増強をきっちり行う。電動車の普及状況を見極めながら必要に応じて能力増強を検討していく。洋上風力発電向けのモノパイルをJFEエンジニアリングが製造することを決定しており、これに対しては倉敷地区の新連続鋳造機で製造する大単重鋼板を活かし、安定的に量産できる体制を整えていく」
――米国の事業の利益は下期にやや減速する見通しだが他の海外事業はどうか。
「インドのJSWスチールは下期も改善の見通しだ。ベトナムのFHSは高炉2基ともに順調に稼働中。各CGLは、タイのJSGTが21年に自動車生産が前年より2割程度増える見通しで黒字を見込んでいる。インドネシアのJSGIも21年に自動車の生産台数が110万台に回復する見通しから操業度は上がっていくと見込んでいる。中国のGJSSはフル操業が続いている。メキシコのNJSMは20年12月に稼働を再開し、今は承認を取得している段階だ」
――カーボンニュートラルに向けた研究開発の進展は。
「カーボンニュートラルの推進体制として10月にJFEスチールの中でカーボンニュートラル推進会議を設置した。同じく10月に設置したカーボンリサイクル開発部と新溶解プロセス開発部、7月に設置したグリーン原料室も含め、取り組みを加速する。JFEエンジも洋上風力PJチームを作るなど具体的テーマを掲げ、組織での取り組みを強化していく」
「電炉に関しては、スチールプランテックが省エネ型電炉であるエコアークを持っており、技術開発を進めていく。一つの技術が解決策になるのではなく、カーボンリサイクル高炉を進めながら電炉やDRIを地域に合わせて活用していくことになる。国内需要に合わせて粗鋼能力を縮小する分、海外で新たな成長の芽を探していくが、従来の高炉法だけでなく、複数の製法を持つ必要がある。カーボンリサイクル高炉を含め複線的に取り組みを推進していく。これらの技術を確立し、国内の高炉だけでなくJSWやFHSに展開することで、CO2削減への貢献とともに海外企業との提携の意義を高めることにつなげていく」
――下期の国内需要をどうみるか。
「公共土木は堅調、建築関係については、首都圏再開発などの大型案件や物流倉庫が堅調、中小物件にも回復の兆しがみえる。自動車の国内生産台数の年度予測を前回予想時点より100万台減を見込んでいるが、自動車の販売自体は堅調とみており、自動車生産は12月以降での挽回を含め、年度で820万台程度を想定している。造船も回復基調。厚板に関しては、日系造船社が得意とする中小型のバルク船の発注も回復し、日本の造船メーカーはおおむね2年分の受注をそろえている。建設機械や産業機械は引き続き堅調であり、厚板の引き合いは強い」
――海外市場はどうか。
「中国は減産政策が鮮明になっている。脱炭素を見据えた粗鋼生産抑制方針は、冬季北京五輪が控えていることもあり継続され、中国材が東南アジアに多く輸出されることは想定しにくい。東南アジアにインド材やロシア材が出てきているが、インド材は雨期が終わり需要期に入ることで、国内で吸収される。ロシア材は半導体不足による欧州やトルコの自動車減産の影響もあり、各地に流れているが、自動車生産が戻れば輸出は収まるだろう。東南アジアの市場については弱含みであるものの市場は崩れることなく、盛り返すとみている。米国は輸入など政策次第でどうなるか注視している」
――高騰した原料価格の見通しを。
「鉄鉱石は足元トン80ドル程度にまで下がっているが、それほど大きく下がるという状況にはないとみている。原料炭は9月ごろから急騰し、足元トン400ドル程度と市況が過熱し過ぎていると見ているが、収束には一定程度時間を要する。下期は南半球が雨季に入るので原料炭価格は高い水準で推移するとみている」(植木 美知也)