輸入鋼材を主に扱う鉄鋼商社、大成興業(本社=大阪市中央区、北野登社長)で取締役兼本社営業部統括部長を務める滝村美恵子さん。薄板営業の第一線で働く中、1児を出産。子育てと仕事を両立しながら営業に取り組み、寡占品種の日本市場開拓や海外法人の設立を行った。鉄鋼業界で女性が働くことについて感じることや、今後の思いを聞いた。
――お子さんがいらっしゃるそうですね。
「1996年2月に男児を出産しました」
――産休・育休は。
「95年に妊娠が判明してからは、無料法律相談を利用するなどして、産休・育休についていろいろ勉強しました。92年に育児休業法(注・95年に育児・介護休業法に改正)が施行されたのですが、95年の時点で大企業は必須、中小零細企業は努力目標となっていて、どの会社にも必ずある状態ではなかったんです。会社に働きかけて理解をもらい、育児休業を就業規則に取り入れていただき、取得することとなりました」
――育児休暇を経て復帰へ。
「育休明けは新規開拓担当をするよう言われました。『また1からか、何をやろうか』と逆に燃えてきたのを覚えていますね(笑)。子供がさみしい思いをしている分、仕事の時間をより充実させないとという思いで、1日最低3件は新規を回り、おかげで大阪の取引先候補はほぼ頭に入りました。後輩に聞かれた時に、『あぁ、その会社はね』とパッと言えるレベルに」
――寡占品種の日本市場開拓も行った。
「新規営業を行う中で、まとまった量が動く国内高炉メーカーの寡占品種に着目し、台湾CSC材を導入したいと考え、市場開拓に取り組みました。努力が実を結び、98年から輸入開始。現在は韓国と中国からも輸入されていますが、今では大成興業の主力製品の一つになっています」
――08年に設立した中国の現地法人「寧波太成商貿有限公司」の立ち上げも担当したとか。
「あるお客さまから『中国工場に国内と同じ材料を提供してほしい。そのために、中国に法人を作ってくれないか』と相談があったんです。『やりましょう!』と即答し、設立に向け動き始めました」
――現地法人の立ち上げを1から行うとは、大変そうです。
「中国の弁護士を通じて設立書類を作成・提出し、半年後に中国政府から設立許可が下りました。その後、日本の銀行で会社設立の手順を教えていただいた上で、現地へ出発しました。手続きが複雑で、たらい回しにされ足踏みしていたところ、携帯に流ちょうな日本語で『お手伝いしますよ』と突然電話が掛かってきて、怪しいとも思いながら、わらをもすがる思いで翌朝、電話の相手のもとを訪問しました。実は企業誘致局の日本担当者で、会社設立手続きをしている日本人がいると誰かから聞いたようだったんです。おかげでスムーズに手続きができ、同年8月に設立することができました」
――営業などを経て、取締役に就任した。
「12年に本社営業部統括部長、14年に取締役に就任しました。人をまとめていかないといけない立場になり、みんなの話をよく聞くよう心掛け、そのために機会・時間を設けようと考えました。これまでやりたい仕事を沢山経験させていただき、上司にも部下にも恵まれましたが、営業が中心でファイナンスのことが分からないことに焦りも感じていました。そこで、ちょうど息子も大学生になり自由になった土日を利用して社会人大学院に入学。経営学修士(MBA)を取得したことも、今の大きな原動力になっています」
――近年、総合職や工場の現場で働く女性が増えています。
「若い女性は優秀な方が多いです。採用も担当しているのですが、自分のビジョンを明確に持っているのは大抵女性です。仕事の精度、物の考えなど、一般的ではありますが女性の方が力があるように感じます。『ロールモデルがいないから』『お手本になる人がいないから』と言わず、ちゅうちょしないで自身のやりたいことを前に進めてほしいですね」
――鉄鋼業界で女性が活躍することについてどう感じているか。
「鉄鋼業界だからといって、男性なら鉄を運べるというわけではありません。工場などの現場は多少あるのかもしれませんが、商社や営業の仕事に関しては業務内容に性差はないと思います。なので、どんどん自由に活躍してもらえたらと思いますね」
――今後の願いは。
「大成興業では今年2人が産休を取得する予定です。時代が私に追いついたように感じてうれしいですね。もうすぐ設立70年を迎え、あっという間に100年になります。そうなるまでに、今の強み、歴史、伝統を生かしながら、新たな魅力を作ることに尽力したいと考えています。私は100周年の時には現役ではありませんが、新しい事業や分野など、今よりも強みが増した会社になっていてほしいです」
(芦田 彩)
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