2021年10月7日

日本製鉄 事業部長に聞く 美濃部慎次常務執行役員 鋼管 炭素中立の新需要捕捉

――21年4月に鋼管事業部長に就任した。事業部としての方針から伺いたい。

「まずは全社の方針である『国内製鉄事業の再構築』、『ゼロカーボン・スチールへの挑戦』、『グローバル戦略の推進』を着実に進める。ゼロカーボン社会を控えて一段と厳しい環境が予想される当事業部は、環境変化に柔軟に対応し、より迅速かつ果断な事業運営が必要と考える。これは4月の就任時に全部員にメッセージとして伝えた」

――国内製鉄事業の再構築について、鋼管事業部の取り組みは。

「先行して進めてきた東京製造所の小径シームレスの休止、鹿島UOミルの休止に加え、今回の中期計画では更に一歩踏み込み、和歌山海南地区の小径シームレスの集約および君津UOミルを休止する。和歌山は小径2ミルのうち、西ミルを休止し、東ミルの製造可能範囲拡大を行うことで競争力を高め、これまで通りの受注に対応する。海外需要に依存するUOは、パイプライン用鋼管の地産地消が進んでいることから日本からパイプを供給することはコスト競争力が確保できないと判断し、鹿島に加えて、君津に関しても休止を決定し、大径溶接管事業からの撤退する」

――カーボンニュートラルは世界的潮流にある。油井管の動向は。

「原油価格(WTI)は70米ドル 超まで回復し中東・アフリカの一部の国々において掘削投資再開の動きが現出しているものの、IOC(国際石油会社)や米国石油会社などの投資抑制スタンスは継続しており、油井管の需要は品種毎にばらつきが見られる。21年度中は炭素鋼需要が引き続き低位で推移する一方、13Cr以上のハイエンド油井管(シームレス)については特定国向けの大型スポット案件を受注しており、21 年度下期以降はフル能力に近い販売を見込む」

――油井管マーケットは底を脱したと。

「22年度より需要が回復すると見込むが、カーボンニュートラル影響はこれまでなかった要因のため過去同様カーブでの回復となるか、特にメジャーオイル需要動向を注視している」

「エネルギーの新規開発は欧米メジャーをはじめ慎重な姿勢を継続しているが、当面、再生可能エネルギーが主力になるまでの期間は、天然ガスや石炭火力は縮小傾向にあるものの、ある程度は維持されると思われ、当社が得意とする高合金油井管やボイラーチューブの需要は当面は底堅いと見ている」

――他の需要分野をどのように見ているか。

「建産機の21年度上期は、北米・アジアでマイニング回復期待感が牽引し、対前年度下期比で大手建産機メーカーが生産増。さらに21年度下期は、更なる増産が計画されており、建機メーカー・サプライチェーンともに能力上限レベルの操業となる見通し。中国・インドでは足元販売減少傾向あるも、その他の地域は引き続き高位の需要継続が見込まれる」

「自動車は国内、海外ともに半導体・部品供給ネックによる減産影響あるも、21年度下期以降は上期減産分の挽回を含む大幅な増産計画を完成車メーカーが公表している。国内完成車生産台数は、コロナ禍前の19年度の活動水準を上回る見込みだ。当社は構造対策を進める中で相当の需給ひっ迫を見込んでおり、自動車関連ミルはフル生産を計画する」

「造船は日本の造船所の受注残が、新造船受注増加により、今年に入り右肩上がりの増加に転じている」

「建設は下期以降、首都圏大型案件の着手が想定されている。また、半導体工場・データセンター向け空調配管の出件を見込むなど需要は下期以降さらに上向くと見ている」

――水素・アンモニア輸送・CCUS(CO2の回収・貯留・有効利用)など新分野の進展具合・見通しは。

「カーボンニュートラルに対応して新規需要の創出が期待できる。CCUSや水素供給のサプライチェーン構築などこれらの市場開拓や商品開発に経営資源を集中させ、前出のハイエンド商品群に加え、耐水素脆性に優れた独自商品の『HRX19』に代表される差別化商品のグローバル拡販を進めるとともに、ゼロカーボン社会のニーズへの貢献も図っていきたい」

「水素・アンモニア輸送は、当社開発鋼中心にユーザーと適合する素材を検討中だ。CCUSは、事業部内にワーキンググループを設置し新規需要開拓を実施している。直近ではノルウェーのエクイノール社CCSプロジェクト(Northern Lights)向けに当社高合金油井管を受注しており、引き続きカーボンニュートラル分野における受注拡大を目指す」

――溶接管を中心とした国内事業はどのように。

「他事業部と同様、収益安定化に向けて、ひも付き価格の是正は課題だ。主原料、合金などの市況上昇に伴うコストの上昇転嫁に加え、内外市況価格差についてお客様に認識してもらいながら丁寧に値上げを進めている。市中では品薄感が出ており、タイトな状況が続く見通し」

――グループ会社との連携策、他社とのアライアンスは。

「マーケット分野を共有化している日鉄鋼管や日鉄ステンレス鋼管に関しては、主原料、合金などの市況上昇に伴うコスト上昇の転嫁や鋼材全般に共通する内外市況格差の是正・適正化などの方針を共有化、連携して価格是正を進めている。また当社のサプライチェーンを担うグループ会社である日鉄精密加工や日鉄防蝕に関してはカーボンニュートラルを踏まえ、マーケットに適合した最適な生産体制を継続検討中。他社とのアライアンスは新たに検討しているものはないが、今後必要に応じて可能性は検討していきたい」

――ところで、資本参加する仏バローレック(V社)との今後の関係は。

「V社との関係には大きな変化は無い。これまで通り特殊継手VAMの共同研究開発を継続し、高付加価値の継手と当社ハイエンド材を組み合わせて顧客の開発に貢献していく。北米油井管ねじ切り加工会社VAM-USAは撤退したが必要に応じて同社の継手加工能力・R&D 試験能力を活用する」

――商品開発について。新開発した油井管用特殊継手NSMAX-GR-PS とはどのような継手か。

「独自開発した電縫油井管用の継手で、特殊な継手デザインにより、スムーズかつ高い締結安定性を実現する。お客様がご使用する際、降管効率の向上に寄与する」

――カーボンニュートラルを意識して開発したと。

「通常の石油/ガス井やCCS、地熱など幅広い用途にご使用頂ける」

――拡販見通しを。

「九州製鉄所/大分地区(光鋼管)で製造している電縫油井管の付加価値を高める商品として、積極的に販売する方針だ」

(菅原 誠)



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