――第7次中期経営計画(2021―23年度)における人材戦略から。
「第7次中計の重点施策『備える』『高める』『鍛える』のうち、『鍛える』で『人的資源の底上げ』を掲げており、個々のスキルの向上と多様なプロ集団の形成を目指している。社員一人一人のひたむきな頑張りが働き甲斐と成長実感につながる好循環を目指している」
――個々のスキル向上に向けて。
「個人の成果が組織、会社の成果につながり、それが評価やステップアップにつながる連鎖を紡いでいく。公正でメリハリのある人事評価制度とするため平均点管理を分布管理に変更し、役割行動評価は経過も観察する仕組みを導入した。統合以降に採用した社員が7割を超え、着実に育ってきている。30歳代の主管者、役職者への登用も加速する。また、事業会社の役割も大きくなっており、経営人材の育成が課題。幹部層のビジネススクールへの派遣、グループ内での実践的研修などを拡大していく」
――多様なプロ集団の形成については。
「ダイナミックな市場構造転換に対応できる多様なプロ集団を育成していく。年齢・性別・国籍を問わず、幅広いニーズに応えられる人材の配置を推進しながらダイバーシティを加速する。総合職の女性採用比率を現在の3割から4割に引き上げ、さらに世界各地のコア・ナショナルスタッフの育成に本社が積極的に関与していく。ナショナルスタッフを主管者に登用し、また国をまたいだローテーションの対象にもしている。ASEANでは各国の優秀な営業スタッフをシンガポールに集めてチームを編成しており、鋼管事業では世界4極間での人材交流もある。ナショナルスタッフの登用については、すでに10数社の海外事業会社の社長にナショナルスタッフが就任し、米国では現法・鋼管統括会社を除くすべての事業会社でナショナルスタッフがトップに就いている」
――両株主との連携強化も多様なプロフェッショナル育成に効果的。
「世界がカーボンニュートラルに向かう中、新たなニーズとチャンスが増えている。総合商社の系列を引く鉄鋼商社として、両株主の総合力をフルに生かしていきたい。人材交流は拡充しており、両株主から10人前後、こちらから両株主へも計10人前後が出向しており、情報交換、機能強化を図っている」
――単体人員956人、連結1万103人(4月1日現在)の体制だが、採用の考え方を。
「単体人員を増やす考えはない。業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しながら、リーンなオペレーションを目指し、経営の効率化を図る。新卒の一律採用は抑え、専門職を中心とした機動的なキャリア採用を強化。海外の大学生に合わせた夏採用も導入し、ダイバーシティを一段と加速する」
――定着率の低下が社会的な問題となっている。
「入社2―3年目での転職への対策は、商社をはじめ、さまざまな業種で課題となっている。当社は比較的少ない方とはいえ数年で辞める人が増えている。早期の海外派遣、ローテーションなどの手を打っている」
――連結経営にはグループ会社の人材育成も不可欠。
「研修はグループ社員も参加できる仕組みとなっており、研修メニューも拡充している。コロナ禍で延期が続いているが、グループ企業の中堅社員を対象とする宿泊研修は信頼関係を構築する貴重な場となる。現在はコロナ禍が長期化していることから、ウェブツールを活用した交流を検討している」
――テレワーク、在宅勤務が浸透している。
「働き方改革の一環として在宅勤務の活用を検討していたが、コロナ禍で意図せず広く浸透している。コロナ収束後も週1回の在宅勤務を継続導入することで組合と合意しており、効果的な運用を目指していく」
――IT戦略の重要性が高まっている。
「DXを活用し、鉄鋼流通ビジネスモデルを変えていく。DX自体を目的とするのではなく、ビジネス課題を起点として、現場と向き合って解決策を提示し、商社機能を引き上げて、収益性を改善していく。対外的には油井管ラインパイプのサプライチェーン『チューブストリーム』の利用拡大に加えて、国内物流のプラットフォーム化サービス、ビッグデータの活用による需要予測などを推進している。RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)は2018年度の導入以来、1万3000時間の業務削減を実施。今中計では対策の横展開、市販ツールの有効活用も含めて6万時間達成を目指している。」
――「チューブストリーム」の利用状況は。
「ウェブ上で客先とのサプライチェーンに関する情報を共有するツールで、鋼管本部下の豪州拠点で開発し、展開する準備を進めている」
――物流プラットフォーム化サービスとは。
「ITツールをフルに活用した物流プラットフォームの構築を目指している。荷主間で連携して積載率や配送ルートの効率化を目指すもので、事業会社でトライアルを重ねている。日本国内のドライバー不足問題は深刻で、脱炭素社会への対応も待ったなし。特約店、コイルセンター、シャーリングなど業態を問わず、積載率や車両稼働率を含めた輸送効率の改善は当社のみならず業界全体の共通課題と認識しており、業界横断型の取り組みにつなげられないかと考えている」
――海外の物流構造も変化していく。
「遠隔地への輸送取引率は高く、海上輸送の効率化によるコスト競争力の維持は極めて重要。海外パートナーとタイアップしながら、遠国向けなどで競争力ある配船を行い、鉄鋼メーカーの出荷効率改善にも貢献していきたい」
――産業構造転換に応える技術戦略も重要。
「自動車、電力などの産業構造が大きく変わり、鉄鋼業は市場構造転換、製造プロセス転換への対応を迫られている。需要産業、鉄鋼メーカーにとっても未知の領域が多い。技術部を始め組織横断で次世代に通用する新たなビジネスの開発に取り組み、ITや先進技術のスタートアップ企業との連携のチャンスを探っている」
――技術部の体制は。
「鉄鋼メーカー、自動車メーカーの出身者を中心に構成されている。加工・製造系の会社が61社あり、事業会社、技術力の向上が品質とコストの競争力に直結する。安全を最優先事項とし、製造現場における不良率の削減、トン当たり・時間当たり生産性の向上、設備保全水準の向上にグループ横断で取り組んでいる。リモートワーク体制、遠隔操作の整備も進めており、本社からリモートで現場の改善を支援する体制も整ってきた。コイルセンターの共通システム開発業務も移管しており、現在はIT関連の要員を加えた30人規模の組織となっている」
――コイルセンターの共通システムの進捗状況を。
「中国で基幹システムの共通化を先行しており、これまで3社で導入し、情報を本社に吸い上げ、リモート管理体制の構築に取り組んでいる」
――最後に10年後を見据えた展望を。
「国内は鋼材消費、粗鋼生産ともに伸びは期待できない。流通もさらなる再編が進む。加工・物流・ファイナンスの基本機能にデジタル技術を上乗せした非価格競争力を強化していく。独自の機能を数多く保有していれば、全体のパイが伸びない中でもプレゼンスを高めることができる。世界規模では鉄鋼需要、生産ともに拡大を続ける。米国やインドで駐在経験を積み重ねてきたが、成長市場において商社が果たす役割は大きいと実感している。新たに制定した企業理念をしっかり共有し、実践していけば展望は開ける」(谷藤 真澄)