――自動車の減産影響など下期の鉄鋼需要をどうみるか。
「薄板の需給はタイトであり、鋼材全体としても供給力を上回る需要があることから、自動車の減産による鉄鋼生産への影響はほぼないと見ている。自動車メーカーは減産分を下期に取り返す見通しだが、部品メーカーや経済全体への波及影響を見極めていく。自動車について中長期的にはEVの潮流とそれを踏まえた自動車メーカーの対応が今後を占う意味で大事となる」
「土木は国土強靭化対策に支えられ底堅い。建築は五輪後を見据えていた大型案件がもう一段動き出し、物流倉庫も堅調。建機・産機も需要の回復が続く見通しだ。一方、鉄鉱石の価格が足元下落している。中国の鉄鋼減産の影響とみている。4、5月の粗鋼は過去最高を記録するなど鋼材需要が堅調な中、生産と鉄鉱石の価格の動向には今後も注視が必要だ。原料炭価格は上昇し、トン200ドルを大きく超えている。主原料コスト上昇分は確実かつ速やかに鋼材販売価格に反映し、スプレッドを確保していく」
――中国はどうか。
「新型コロナの影響による経済情勢の変化が気になるが、鋼材輸出抑制の政策方針や、脱炭素を見据えた粗鋼生産抑制の動きが見られ、中国国内の需要が引き続き堅調であれば、現在の中国の動向はポジティブなこととして受け止められる。中国が鋼材輸出を減らし、インド、ロシア材の輸出先についてもEUなどの地域をメインと想定している。今の鋼材市況は経済活動の回復と世界的な需給タイトに裏付けられているものと認識している」
――通期見通しについて収益が大幅に改善し、連結事業利益3500億円と前回予想の2000億円から上方修正した。
「第1四半期は対前年同期比では、数量の回復とコスト削減効果により大幅に改善した。昨年の減産によるコストアップの解消も影響した。販価・原料でみると主原料コストの上昇分が上回りマイナスになったが、棚卸資産評価差がプラスとなった。グループは国内外ともに戻り、原材料関連のグループ会社は改善している。電炉は鉄スクラップ高が影響し、厳しい状況だ。海外は米国のCSIとインドのJSWスチールが好業績を上げている。JSWはコロナ禍で稼働率を落としたものの販価上昇の影響などにより、4―6月期に最高利益を上げた」
――粗鋼は上期1300万トンをやや下回る水準で足元フル操業。下期は倉敷地区の高炉を12月に再稼働させ、1350万トン強に増やす予想だ。
「倉敷の高炉はパーツの制作など制約があり改修期間の短縮はできないが、DXを活用して改修後の高炉の早期立ち上げを図る。昨年に福山地区の高炉をバンキングからDXを活用し速やかに稼働させた。DX推進を強化しており、今後も着実に成果を上げていきたい」
――ひも付き価格是正の進ちょくは。
「主原料コスト上昇分を速やかに価格に反映させることが大事であり、ひも付きに限らず、販売価格の是正に鋭意取り組んでおり、お客様のご理解も相当進んでいる。市況との連動性が高い分野については、国際的な市況高騰を踏まえた価格反映についても実行している。足元の需要に対して生産量が追い付いていないのは事実。2023年度に京浜地区の高炉を休止するため、これから先、生産品種や分野を絞っていかなければならない。その中で、採算のよいものをやめ、採算の低いものを残すことにはならない。持続可能な価格水準への是正を推進し、その水準に届かない部分については、取引そのものを見直していく必要もあると考えており、この状況をお客様に丁寧にご説明し、ご理解を得ていく」
――21年度に好業績を上げる見込み。21―24年度の中期計画の目標の達成度は。
「中期の初年度で業績がよくなっているが、世界的な鋼材市況の上昇などの外部要因による部分もある。中期計画の数値目標は構造改革後の24年度末を対象としている。トン当たり利益1万円や労働生産性20%向上などの中計目標は現時点で達成度は計れないが、高付加価値品比率の向上はについては、高炉休止後の数量を前提にに注力分野の数量や戦略商品を計画的に積み上げ、また、中期計画のコスト削減1200億円については、今年度は見込んでいる300億円を着実に実行していくなど、確実に計画を達成していくことが重要だ」
――収益が大きく改善する。カーボンニュートラルに向けた研究開発や海外に投じる資金を増やす考えは。
「昨年、一昨年と収益が厳しい中でもキャッシュフローの改善に取り組み着実に設備投資を実行してきた。今回収益改善を見込むものの、それを理由に投資計画を見直すことは考えていない。カーボンニュートラルに向けては、カーボンリサイクル高炉の研究開発を進めていく。また、BHPと共同で豪州の鉄鉱石を使用しDRI(直接還元鉄)を製造する研究にも取り組む。中期計画の途中の段階と思うが、2030年の目標や2050年にあるべき姿に向けてビジョンではなく、実行計画として取り組む必要があると考えている。中期計画の達成とともに、カーボンニュートラルに向けたあり方を中期計画の中で考えていく」
――倉敷地区で大単重の厚板を生産し、洋上風力発電向けに販売を増やす。JFEエンジニアリングも洋上風力向けのモノパイルの工場建設地を決めた。
「岡山県笠岡のJFEスチールの土地にJFEエンジがモノパイルの製造工場を建設する。主に倉敷地区から大単重の厚板を船で運ぶ。津製作所ではトランジションピースの組立を行う。JFEエンジは中期計画の中でカーボンニュートラルを主な事業分野の一つと位置付けており、モノパイルの発注に工場建設を間に合わせ、確実な受注に向け準備を進めていく」
――海外展開をどう進めるのか。
「インドはJSWとの成長戦略を推進し、方向性電磁鋼板の合弁製造販売会社の設立を検討している。ベトナムのフォルモサハティンスチールとも成長市場の捕捉に向けた関係強化を図っていく。それ以外の地域に関しても成長地域や分野を検討していくが、その前提として2050年のカーボンニュートラルに向けて鉄鋼業やサプライチェーンがどのように変化していくかを見極めていく必要がある。中国も国内で高炉を建設し、鋼材を輸出する構図からの脱却を政府方針として示している。一方で高炉のない東南アジアやアフリカなどの国々がこれから高炉を建設する構図になり得るかどうか。カーボンリサイクル高炉が実用化されればそれも選択肢となるが、世界の高炉がすべてカーボンリサイクル高炉や水素還元になるということではなく、電炉などさまざまなプロセスが入り混じると想定している」
――電炉の活用をどう考えているか。
「まずは電力コストの課題がある。また、今後は電炉の原料とされるスクラップについて、高炉メーカーが購入を増やし、中国や韓国も大量に使用し始めているため、その原料コストも大きな課題となる。高級鋼の製造など技術的な課題をクリアし、電力コストの問題も解消できた場合でも電炉を展開していくかどうか、これらの課題に対する見極めが必要になってくる」
「一方で、豪州やブラジルなど原料立地で製鉄所を建設してはいないが、例えば水素を利用した直接還元製鉄となれば、豪州は水素も安価であるため、原料立地で製造する方が効率的となる。加工した原料を電炉で使用し、鉄を製造することが成り立つ可能性もある。DRIや電炉の技術を蓄え、製鉄所の建設がどこでも可能な力を持てば日本の鉄鋼業のプレゼンスを示すことができる。このように将来的なあらゆる可能性も見極めながら、カーボンリサイクル高炉や電炉など、カーボンニュートラルの実現に向けた革新的な技術開発に取り組んでいく」(植木美知也)