加工した鋼板の梱包作業に日々全力で取り組む女性がいる。JFE商事ブリキセンター(所在地=大阪府大東市、谷口充浩社長)製造部レベラー工場担当の伊藤喜久美さんだ。同社の工場で働く女性は伊藤さん1人という。笑顔が印象的な伊藤さんに、鉄鋼業界に飛び込んだきっかけや仕事の魅力について聞いた。
――入社のきっかけは。
「検査業務の募集広告を見かけて、2014年に入社しました。本当は身体を動かすことが好きなのですが、苦手なじっとしている仕事に挑戦して自分を鍛えようと思っていました」
――工場勤務は初めてと伺いました。
「ブリキが何か知らず、検査するということしか分からないまま入りました。工場は汚い、臭い、しんどいというイメージがあったのですが、検査なら大丈夫かな、座ってるだけかなって思ったんです」
――最初は検査業務担当だったのですね。
「ライン上を流れる鋼板に不具合品がないか、ずっと見続ける作業を1年ほどしていました。別の作業も希望し、できる仕事を少しずつ増やしていく中で、現在、梱包作業の担当になりました」
――梱包作業の内容は。
「毎朝、梱包を補強するためのアングルを準備します。製品サイズに合わせてさまざまな長さがあり、何センチのものがいくつ必要かを確認して、梱包エリアに持っていきます。場合によってはアングルカッターで切断も行います。効率よく梱包できるよう、梱包用紙を丸めて筒状にする作業などもありますね。ライン稼働後は、先ほどの梱包用紙とガムテープ、アングルなどを使って梱包し、最後にバンドでしっかり締めて固定します。19年からこの担当を始めました。バンドで締める作業はすごく力がいるのですが、昨年以降、ラインの状況を見て1人ですることもあります」
――梱包作業の魅力は。
「作業標準に準じて向け先・規格・寸法などをチェックし、きれいに梱包が仕上がった後、ラベルのシールを最後にピシャっと貼る瞬間が気持ちいいですね」
――同社工場で働く女性は1人と伺いました。
「周りが男性だと、気が付いたことや思ったことをはっきりと言えますし、男性陣も表情や発言がストレートで接しやすく働きやすいです。ただ男性独特の習慣なのか、工場内で使ったものをそのまま放置したり、汚れてもすぐに掃除しなかったりすることがあるんですよね。現在勤務する本社工場第一事業所は19年に完成した新しい建屋なので、美しさを維持するためにも、働きながら整理整頓や清潔を心掛けています。年間目標を設定し、全員できれいな工場にしようと努力中です」
――苦労も多いようですね。
「私の思っている“きれい"と男性陣の考える“きれい"に温度差があるようです。朝礼で気付いたことを発言する時間があり、よく指摘しているのですが、なかなかうまくいきません。例えば、使ったものを出しっぱなしにすると、次に使う人が探すことに時間を取られ、非効率な業務になりますよね。そのような無駄をなくすためにも、押し付けにならない程度に根気強く言い続けています。悩みながら取り組んでいますが、工場見学に来られたお客さまに『きれいな工場ですね』と言われると、うれしいよりも良かった、とほっとした気持ちになります。自分のモチベーションにもなるし、同時に維持するためのプレッシャーにもなっています」
――工場で女性が働くことに関してどう思いますか。
「工場は本当に危険が多い場所です。歩くだけでも指差し呼称の連続で、天井にはクレーンもあり危険が伴います。そういった実態を把握した上で自分から『やりたい』と思って来る女性ならいいと思います」
――同社で働き始めて変わったことは。
「仕事に限らず、公私ともにいろんなことに挑戦しようという気持ちが強くなりました。18年には大阪マラソンに当選し、同じく当選したJFE商事のメンバー3人と一緒に走りました。また、前社長や前々社長など約20人で富士山の登頂にも挑戦。8合目まで登ることができました。こういった活動を機に、社内外での人とのつながりも増えましたね」
――今後の目標は。
「社員のみんなが好きなので、梱包に限らず、とにかくここで働き続けたいです。この数年で身体が衰えてきた気がするので、正直不安もあります。梱包作業の都合で中腰になるため、休日はマッサージや入浴などでしっかりとケアを行っています。これからも体調管理を怠らず、今の会社で働き続けて、仕事終わりにみんなで笑いあう日々を大切にしていきたいです」
(芦田 彩)
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