――コロナ禍にあるが、事業部別の受注状況はどうか。
「産業機械事業は好調に推移している。中でも射出成形機は新型コロナウイルス感染症影響で巣籠もり関連ニーズが増え、海外向けを主体に業界全体の受注は至近ピークの18年度水準まで到達している。樹脂製造・加工機械も堅調。素形材・エンジニアリング事業については鋳鍛鋼製品とTES(トータルエンジニアリングサービス)の落ち込みは小さい。クラッド鋼板・鋼管はエネルギー需要低迷に伴う新規案件の減少で前期受注が過去最低となり、今期もプロジェクト案件の期ずれが続くなど、厳しい事業環境にある」
――前中期経営計画『JGP2020』の最終である2021年3月期連結決算は前期比で減収減益となった。前中計の総括を。
「16年の計画策定時は日本経済が右肩上がりで、高い目標を設定した。その後、19年後半から米中貿易摩擦の影響を受け、コロナで追い打ちがかかり、『JGP2020』の数値目標は未達で、合格点に届いたとは言い難い。ただ、前中計では素形材・エンジニアリング事業を分社して日本製鋼所M&Eを設立するとともに、プラスチック加工機械分野を拡大。また月島機械との協業を開始し、JX金属と共同出資で室蘭銅合金を設けるなど、中・長期を見据えた新たな成長基盤の整備に取り組み、成果を上げた。21年3月期については前期比で利益は半減したものの、コロナ禍で健闘したと思う」
――5カ年の新中期経営計画『JGP2025』が始動した。
「過去を振り返ると、当社の連結売上高は2100億円プラスマイナス100億円程度で推移しており、近年は鋳鍛鋼製品が減り、産業機械が増える傾向にある。これまでも中・長期ビジョンとして3000億円に照準を合わせてきたが、これを実現するための一里塚として『JGP2025』を策定した。産業機械はベースロードとしてプラスチック加工機械を一段と強化する。素形材・エンジニアリング事業では日本製鋼所M&Eのポートフォリオを組み替え、安定黒字を継続できる体制を構築する。加えて、新たな中核事業を創出する。26年3月期は連結ベースで売上高2700億円、営業利益270億円を目指す。27年3月期以降では売上高3000億円をターゲットに、いかなる環境下においても200億円程度の営業利益を確保できる事業体を視野に入れていきたい」
――主力である産業機械事業の展望を。
「『世界に類を見ないプラスチック総合加工機械メーカーへ』をスローガンに売上高2100億円、営業利益270億円を最終目標に設定した。目標達成に向けた施策の1つとして、ストックビジネスを加速させる。約10億円を投じて産業機械事業の製造拠点である広島製作所に工場を新設し、4月から稼働を開始した。新工場は1階でフィルム・シート巻取機を組み立て、2階に立体倉庫を導入し、樹脂製造・加工機械の主要部品を在庫する。これによって、お客様の定期的なオーバーホールや大規模改造を短納期で実現することが可能になり、アフターサービスの受注を現行比1・5倍に引き上げると同時に、サービス拡充を前面に産業機械自体の受注に繋げる」
――20年4月に室蘭製作所を分社して設立した日本製鋼所M&Eに対する評価を。
「日本製鋼所M&Eは順調に立ち上がっている。機能分担子会社を統合したことでベクトルが合い、一体感が醸成されている。前期決算は売上高が385億円、営業利益は19億円となり、コロナ禍で黒字を確保。新中計では売上高500億円、営業利益40億円に照準を合わせている。主要事業3ユニットについて、鋳鍛鋼ユニットは電力と原子力向けの受注が5割を占め、脱炭素社会に向けた動きの中、先行きの市場見通しは不透明感が漂う。当面はベースロードになるため、現行の受注規模を維持する。クラッド材を扱う鋼板鋼管ユニットも受注環境が悪化。鋳鍛鋼製品、クラッド鋼板・鋼管ともに競争が激しく、利幅を大きく広げることは難しい。一定収益を確保するためにはポートフォリオを組み替えることが重要。鋳鍛鋼ユニットの少人化を進めて生産性を高め、24年3月期までに付加価値労働生産性を1・3倍以上に引き上げる。鋳鍛鋼ユニットスタッフの3割程度を人手がかかるTESユニットに振り分けて、TES事業を伸ばす方針だ」
――月島機械、JX金属との協業をどのように深化させていくか。
「JX金属との協業は順調。室蘭銅合金は、銅合金の溶解・鋳造設備の日本製鋼所M&E構内への導入を計画どおり完了。7月までに試運転を、9月末までに商用生産をそれぞれ開始したい。月島機械室蘭工場は19年4月に立ち上がり、2年が経過。大型プラントのダクト配管を月島機械のベンディングロールで巻き、当社で溶接して出荷するなどの協業効果が出ており、今後、連携をどのように深化させるかが課題だ。新中計にJX金属との協業による収益効果を織り込んでいる」
――新中計の目玉として、新たな中核事業の創出を掲げている。
「新事業は『フォトニクス』、『複合材料』、『金属材料』の3分野に絞り込み、早期に収益事業化を目指す。『フォトニクス』は、人口水晶を製造するファインクリスタル(本社=北海道室蘭市)が高温・高圧に耐える容器を製造していた技術を生かしてカメラのローパスフィルターなどを手掛けている。5Gに関連する表面弾性波フィルター向け素材はニーズが増えている。また三菱ケミカルと共同で、4インチの窒化ガリウム単結晶基板の量産に向けた実証設備を日本製鋼所M&E構内に導入した。今後、6インチ基板の開発にも取り組む。『複合材料』は新明和工業と提携し、防衛省の救難飛行艇部材など航空機分野への材料供給を行っている。コロナ禍で海外大手航空会社の収益が悪化し、航空機需要も右肩下がりの厳しい状況にあるが、長い時間軸で事業を展望し、状況に応じて対策を講じる。『金属材料』は詳細をお話しできないものの、JX金属以外の企業と共同開発に着手している」
――設備投資額は合計450億円とした。
「450億円のうち、老朽更新などを年間60億円とし、5年間合計で300億円を予定する。残りの150億円は新事業と産業機械事業に投じる。新事業への割合が大きく、150億円のうち、新事業が6―7割、産業機械事業は3―4割を想定している。日本製鋼所M&Eは設備の老朽更新が中心になる」
――研究開発投資、M&A投資はそれぞれ300億円を計画する。
「研究開発投資はAIやIoT分野にも注力する。AI技術は射出成形機に一部導入しており、産業機械事業を中心に開発を進め、適用範囲を広げる。M&A投資は産業機械事業がメーン。例えばプラスチック加工機械分野において、当社がすでに手掛ける製品を伸ばすための買収、製品バリエーションを増やすための買収、プラスチック加工機械分野とは異なる新分野での買収と、選択肢は大きく3つあると考える」
――ESG経営(Environment=環境、Social=社会、Governance=企業統治)も推進する。
「これまで環境、社会、企業統治への対応をそれぞれ別の組織で行ってきたが、4月にESG推進委員会を新設した。ここを司令塔とし、ESG活動を効果的に推進していく」
――26年4月以降の長期ビジョンについて。理想とする企業像をどう実現していくか。
「『従業員がワクワクして働ける会社』を目指していく。当社には優等生的で、おとなしいというイメージが付いている。従業員がスタートアップ企業のような思いを持ち、また業務に対してモチベーションを高めるような仕組みを取り入れる。例えば、有能な若手社員を早期にリーダー格に引き上げる人事制度に変える。新事業を主体にキャリア採用も増やし、戦力を強化するスピードを上げる」
「連結売上高に占める産業機械事業の割合は約8割で、『製鋼所』を全面に出した社名に違和感を覚えるとの声が聞かれる。新卒者採用をより円滑に進め、株主などステークホルダーの要請に応えるためにも、社名変更を検討しなければならない。当社を持株会社とし、先行実施している日本製鋼所M&Eに加えて、産業機械事業なども機能分社化するイメージもあり、検討していきたい」(濱坂浩司)