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2024.10.30
2021年5月25日
JFEホールディングス 新中期経営計画を聞く 柿木厚司社長 脱炭素へ取り組み加速 グループ挙げ洋上風力に注力 「質」へ転換 収益力追求
JFEホールディングスは2021年度開始の第7次中期経営計画で創立以来最大の変革期と捉え、50年のカーボンニュートラルの実現や「量から質への転換」による収益力強化に向けた新たな取り組みに挑む。「JFEグループ環境経営ビジョン2050」を掲げ、脱炭素技術の開発や洋上風力ビジネスを推進。技能・データを活用したソリューションビジネスの拡大やデジタルによる製造基盤の強化にも力を注ぎ、事業のあり方を革新する。中期計画の狙いと意気込みを柿木厚司社長に聞いた。
――脱炭素が鉄鋼業に変革をもたらそうとしている。
「カーボンニュートラルは世界的な競争であり、これまでの品質やコストとは異次元の競争となる。成し遂げた鉄鋼メーカーが生き残っていく。JFEグループとして昨年にCO2排出を30年に20%以上削減する目標を示したが、大局的に将来を見据え、積み上げの実行値を出すのが中期計画の骨子の一つだ。30年の目標値は中計期間中に開発の進展度合いをみながら示していく。まず24年度末に13年度比で18%削減(鉄鋼事業)する。京浜地区の高炉休止を織り込むが、それ以外にも資金を投じて対策を講じる。技術を開発する中でみえてくるものがあり、トランジション(移行期)の技術が中心になると思うが削減率について上積みを考える。30年は鉄スクラップの利用拡大や電炉の活用、使用するエネルギーの検討などいろいろなアイデアがある」
――50年にカーボンニュートラルの実現を目指す。
「30年と連続しないところがあり、革新的技術が必要となる。今回当社が打ち出した(高炉で発生するCO2を再利用する)カーボンリサイクル高炉や電炉の活用、水素還元製鉄などの方策がある。徐々にCO2排出を減らし50年までにはゼロとする必要があり、いろいろな技術を試していくことになる。カーボンニュートラルが水素還元製鉄だけで成り立つのか、他の技術との組み合わせとなるのか、今は確たるものはなく、何年かかけて有用な技術に絞っていく。JFEエンジニアリングが行っている再生可能エネルギーなど発電関連事業の貢献度についても世にしっかりと示していきたい」
――カーボンリサイクル高炉の開発のめどは。
「高炉の排ガスからCO2を分離してメタン化し、還元材として再度高炉に吹き込む。メタネーション(メタン化)はそれほど難しい技術ではないが、高炉に吹き込んだ際にどうなるか。純酸素も吹き込む計画だが、大型高炉で可能かどうか実証実験を進める必要がある。最初はトランジション技術としての開発となり、CCU(CO2回収・利用)で出てきた高炉ガスを全て再利用できればカーボンゼロの技術になりうるがこれからの話だ。カーボンリサイクル高炉は大規模な設備更新の必要がなく、コストは低く済む。ただ、COURSE50の研究も進めているし、多様な技術を試しながらCO2削減に取り組む。政府には水素の安価大量の供給インフラの整備をお願いしたい」
――電炉の活用について。グループ電炉の連携や新電炉の導入などを考えるのか。
「電炉は2つの壁がある。高級鋼ができるかどうか。もう一つは高い電力料金だ。スチールプランテックのエコアーク電炉の技術をさらに高め、電力消費やコストを下げることができないか。今あるレベルの電炉では電力コストと製品の特性を確保できないうちは建設にすぐには踏み切れない。研究を進めて成果が出た後となる」
――洋上風力発電ビジネスへの進出を鮮明にした。
「グループ挙げて取り組む。政府が30年に1000万キロワット、40年に3000万-4500万キロワットに増やす方針を示し、需要は拡大するが、モノパイルという着床式基礎構造物は日本で製造していない。秋田港・能代港という物件では、ドイツ企業が造った素材を使用してオランダの企業が製造した基礎構造物を輸入している。エンジは90年代から陸上の風力発電を130基ほど製造しており、長年培った日本近海における大型海洋構造物の経験もあり、モノパイルは製造可能だ。モノパイルの需要は24年度に年間10万トン前後でスタートし、20年後半には年16万トンに拡大。30年代以降は年20万トンを超す可能性もあるとみている。我々はその半分のシェアを獲得できる工場の建設を考えている。西日本製鉄所倉敷地区に導入した新連続鋳造設備を用いて大単重の厚板を製造する。厚板のサイズが大きくなり、溶接工数が減るのでモノパイルの生産性が上がる。エンジは24年春頃から製造できるよう工場の候補地を検討し、建設にエンジ単独で400億円程度の設備投資を想定している。水深の浅いところはコストが低いモノパイルが有利とみているが、水深が深いところではジャケット方式も考えられ、ジャケット式も鉄の構造物なのでエンジで製造できる。政府は国内調達比率を60%に引き上げる方針であり、日本全体のカーボンニュートラルに貢献することになる。将来は浮体式も想定されるが、JFEグループのジャパンマリンユナイテッドが浮体式を製作したことがある。当面の間はモノパイルの需要が続くとみられるが、将来的に東南アジアなどで需要が出てきた時にも事業展開が見込める。また基礎構造物にはメンテナンスが必要であり、エンジやスチール関係会社にはそのための知見が蓄積されていることから事業の継続性も期待できる」
――21年度に連結事業利益2000億円、中計最終の24年度に3200億円の予想を示した。前提となる鉄鋼市場をどうみるか。
「鋼材価格が米国で大幅に上がり、東南アジアでも上がっているが、市場のカギを握るのはやはり中国だ。今年7月に共産党結党100周年を迎えることもあり、鉄鋼の内需を高め、CO2排出削減の対策とも言われるが鉄鋼の輸出時増値税還付を撤廃して輸出を抑えようとしている。ただ、あれだけの内需が長期間続くのかどうか。粗鋼生産が10億トンを超える生産設備を将来に廃棄していくのか、再び鋼材輸出を増やすのか、中国の動向によって国際市場は大きく変わる。かつてのように採算割れで輸出することはないと思うが、中国の動きが変われば中計の見方も変わってくる。21年度は足元の状況が続く可能性はあるが、22年度はどうか。今の市場の状態が続けば事業利益の見通しは上に振れることになるが、慎重にみておく必要がある」
――「量から質への転換」を打ち出し、世界トップレベルの収益力を目指す。
「前中計は粗鋼生産3000万トン体制でJFEブランドとして国際鋼材供給5000万トンと量を追うことによって固定費を下げる戦略だったが、内需の動向や輸出の採算性をみて戦略の変更の必要性があると考えた。収益力を上げている世界の鉄鋼メーカーのトン当たり収益は1万円ほどであり、そのレベルを目指す必要がある。不採算品種をやめ、付加価値の高い製品の比率を50%に引き上げ、収益力を高める。製品の価値を正当に認めてもらい、販売価格を是正しなければならない。質を求め、量を追わず、鋼材トン当たり利益を追求する」
――中計で設備投資・事業投融資含め全社で1兆4500億円、うち鉄鋼事業で1兆800億円の投資を計画している。戦略投資や脱炭素関連投資をどの程度想定しているか。
「鉄鋼事業の投資のうち戦略投資4割、機能維持3割、安全含めたその他3割となる。GX投資は全社で3400億円、鉄鋼事業で1600億円を計画しているが、鉄鋼事業のGX投資の大半が戦略投資となる。1600億円のうち倉敷地区の電磁鋼板の能力増強490億円を含む。洋上風力向けに力を発揮する倉敷地区の新連鋳機の加熱炉など周辺設備の増強にも投資する。事業投融資はJSWスチールと方向性電磁鋼板の製造販売会社の合弁設立の検討を含む。設立が決まれば、下工程の工場を建設することになり、技術だけでなく資金も投じる」
「インドは電力網向けに方向性電磁鋼板の需要が強い。日本からの輸出で海外の市場を握るのは難しく、市場に立脚する必要がある。工場を建設することになれば、高級鋼における大きな成長戦略となる。車載用の無方向性電磁鋼板は、現時点では電気自動車の販売が少なく、市場は小さい。将来に電動車化が進む可能性があり、自動車市場も拡大するはずで無方向性もいずれ課題となる。脱炭素の技術でもJSWと協力することを期待している。インドでも脱炭素が進むとみられ、ビジネスとして展開することは十分あり得る」
――中計ではソリューションビジネスの拡大も大きなテーマに据えている。
「事業としての金額はまだ大きなボリュームではない。中計最終に収益を20年度比3倍に高める計画としており、非常に高い可能性を秘めたビジネスと考えている。鉄鋼は地産地消の意味合いが強く、DXなどいろいろな技術を組み合わせてプラットフォームでパッケージ化できれば、JSWやフォルモサなど友好なパートナーに技術を供与し、ビジネスとすることができる。どう対価を得るかが重要になる。将来的にカーボンニュートラルに関する技術はソリューションビジネスになり得る。高炉の操業や転炉への鉄スクラップ装入のノウハウはビジネスになり得る。事業を進め、得た収益を脱炭素の開発に回すことができる」
――エンジは売上収益を1兆円規模に拡大する計画だ。
「エンジは設備を提供するだけでなく、運営型ビジネスとして運転にも関わる事業を展開している。環境・リサイクルや再生可能エネルギーなど国内だけでなく、東南アジアでも実施しようとしている。設備だけでなく、運営のノウハウを含めてパッケージにして販売していく。合弁などさまざまな形式のビジネスが期待できる」
――JFE商事の海外加工SCMを拡充する。
「JFE商事は方向性電磁鋼板の加工能力が世界トップ、無方向性も世界トップクラスだ。方向性、無方向性ともに加工技術が重要で戦略は一致しており、JFEスチールとのシナジーを発揮していく」
――海外ではベトナムのフォルモサ・ハティン・スチールを活用した事業展開が課題に。
「ベトナム市場が好調でフォルモサは黒字を確保している。今は汎用品を製造しているが、これからの事業展開について台湾のパートナーとも相談していきたい」
――中国で最大手の宝武集団と合弁事業を複数運営している。連携をさらに深めていく考えか。
「自動車用鋼板や特殊鋼棒鋼、鉄粉など合弁事業を立ち上げ、軌道に乗せている。これからも案件があれば考えるが、宝武集団は徐々に技術力、資金力をつけてきている。海外に進出する考えも持っているようだが、海外で連携することは考えにくい。重要な点は中国鉄鋼業がどうなっていくかだ。統合再編が進み、設備の能力調整を進めるのか。中国企業は東南アジアで製鉄所を多く建設しようとしており、中国鉄鋼業の動きは今後のキーになる」
――カーボンニュートラルが達成した50年の日本の鉄鋼業はどのような姿に。
「カーボンニュートラルは世界的な競争だと思う。これまでの品質やコストとは異次元の競争となる。成し遂げた鉄鋼メーカーが生き残っていく。日本の50年の姿を考えると大きな内需があるとは思えず、カーボンニュートラルを達成したとして鉄鋼を大量に製造することは考えにくい。やはりカーボンニュートラルを軸としたソリューションビジネスに移っていくことになるだろう。技術を供与し、他国に広げ、対価を得ていく。開発に莫大な費用を要しているはずであり、見合った対価が必要となる。鉄鋼は必要な素材であり、認められていくはず。技術を前提にして生きていくことになる。そのためにもソリューションビジネスを育て、そのレールの上にカーボンニュートラルの技術が乗れば理想的だ」(植木美知也)
――脱炭素が鉄鋼業に変革をもたらそうとしている。
「カーボンニュートラルは世界的な競争であり、これまでの品質やコストとは異次元の競争となる。成し遂げた鉄鋼メーカーが生き残っていく。JFEグループとして昨年にCO2排出を30年に20%以上削減する目標を示したが、大局的に将来を見据え、積み上げの実行値を出すのが中期計画の骨子の一つだ。30年の目標値は中計期間中に開発の進展度合いをみながら示していく。まず24年度末に13年度比で18%削減(鉄鋼事業)する。京浜地区の高炉休止を織り込むが、それ以外にも資金を投じて対策を講じる。技術を開発する中でみえてくるものがあり、トランジション(移行期)の技術が中心になると思うが削減率について上積みを考える。30年は鉄スクラップの利用拡大や電炉の活用、使用するエネルギーの検討などいろいろなアイデアがある」
――50年にカーボンニュートラルの実現を目指す。
「30年と連続しないところがあり、革新的技術が必要となる。今回当社が打ち出した(高炉で発生するCO2を再利用する)カーボンリサイクル高炉や電炉の活用、水素還元製鉄などの方策がある。徐々にCO2排出を減らし50年までにはゼロとする必要があり、いろいろな技術を試していくことになる。カーボンニュートラルが水素還元製鉄だけで成り立つのか、他の技術との組み合わせとなるのか、今は確たるものはなく、何年かかけて有用な技術に絞っていく。JFEエンジニアリングが行っている再生可能エネルギーなど発電関連事業の貢献度についても世にしっかりと示していきたい」
――カーボンリサイクル高炉の開発のめどは。
「高炉の排ガスからCO2を分離してメタン化し、還元材として再度高炉に吹き込む。メタネーション(メタン化)はそれほど難しい技術ではないが、高炉に吹き込んだ際にどうなるか。純酸素も吹き込む計画だが、大型高炉で可能かどうか実証実験を進める必要がある。最初はトランジション技術としての開発となり、CCU(CO2回収・利用)で出てきた高炉ガスを全て再利用できればカーボンゼロの技術になりうるがこれからの話だ。カーボンリサイクル高炉は大規模な設備更新の必要がなく、コストは低く済む。ただ、COURSE50の研究も進めているし、多様な技術を試しながらCO2削減に取り組む。政府には水素の安価大量の供給インフラの整備をお願いしたい」
――電炉の活用について。グループ電炉の連携や新電炉の導入などを考えるのか。
「電炉は2つの壁がある。高級鋼ができるかどうか。もう一つは高い電力料金だ。スチールプランテックのエコアーク電炉の技術をさらに高め、電力消費やコストを下げることができないか。今あるレベルの電炉では電力コストと製品の特性を確保できないうちは建設にすぐには踏み切れない。研究を進めて成果が出た後となる」
――洋上風力発電ビジネスへの進出を鮮明にした。
「グループ挙げて取り組む。政府が30年に1000万キロワット、40年に3000万-4500万キロワットに増やす方針を示し、需要は拡大するが、モノパイルという着床式基礎構造物は日本で製造していない。秋田港・能代港という物件では、ドイツ企業が造った素材を使用してオランダの企業が製造した基礎構造物を輸入している。エンジは90年代から陸上の風力発電を130基ほど製造しており、長年培った日本近海における大型海洋構造物の経験もあり、モノパイルは製造可能だ。モノパイルの需要は24年度に年間10万トン前後でスタートし、20年後半には年16万トンに拡大。30年代以降は年20万トンを超す可能性もあるとみている。我々はその半分のシェアを獲得できる工場の建設を考えている。西日本製鉄所倉敷地区に導入した新連続鋳造設備を用いて大単重の厚板を製造する。厚板のサイズが大きくなり、溶接工数が減るのでモノパイルの生産性が上がる。エンジは24年春頃から製造できるよう工場の候補地を検討し、建設にエンジ単独で400億円程度の設備投資を想定している。水深の浅いところはコストが低いモノパイルが有利とみているが、水深が深いところではジャケット方式も考えられ、ジャケット式も鉄の構造物なのでエンジで製造できる。政府は国内調達比率を60%に引き上げる方針であり、日本全体のカーボンニュートラルに貢献することになる。将来は浮体式も想定されるが、JFEグループのジャパンマリンユナイテッドが浮体式を製作したことがある。当面の間はモノパイルの需要が続くとみられるが、将来的に東南アジアなどで需要が出てきた時にも事業展開が見込める。また基礎構造物にはメンテナンスが必要であり、エンジやスチール関係会社にはそのための知見が蓄積されていることから事業の継続性も期待できる」
――21年度に連結事業利益2000億円、中計最終の24年度に3200億円の予想を示した。前提となる鉄鋼市場をどうみるか。
「鋼材価格が米国で大幅に上がり、東南アジアでも上がっているが、市場のカギを握るのはやはり中国だ。今年7月に共産党結党100周年を迎えることもあり、鉄鋼の内需を高め、CO2排出削減の対策とも言われるが鉄鋼の輸出時増値税還付を撤廃して輸出を抑えようとしている。ただ、あれだけの内需が長期間続くのかどうか。粗鋼生産が10億トンを超える生産設備を将来に廃棄していくのか、再び鋼材輸出を増やすのか、中国の動向によって国際市場は大きく変わる。かつてのように採算割れで輸出することはないと思うが、中国の動きが変われば中計の見方も変わってくる。21年度は足元の状況が続く可能性はあるが、22年度はどうか。今の市場の状態が続けば事業利益の見通しは上に振れることになるが、慎重にみておく必要がある」
――「量から質への転換」を打ち出し、世界トップレベルの収益力を目指す。
「前中計は粗鋼生産3000万トン体制でJFEブランドとして国際鋼材供給5000万トンと量を追うことによって固定費を下げる戦略だったが、内需の動向や輸出の採算性をみて戦略の変更の必要性があると考えた。収益力を上げている世界の鉄鋼メーカーのトン当たり収益は1万円ほどであり、そのレベルを目指す必要がある。不採算品種をやめ、付加価値の高い製品の比率を50%に引き上げ、収益力を高める。製品の価値を正当に認めてもらい、販売価格を是正しなければならない。質を求め、量を追わず、鋼材トン当たり利益を追求する」
――中計で設備投資・事業投融資含め全社で1兆4500億円、うち鉄鋼事業で1兆800億円の投資を計画している。戦略投資や脱炭素関連投資をどの程度想定しているか。
「鉄鋼事業の投資のうち戦略投資4割、機能維持3割、安全含めたその他3割となる。GX投資は全社で3400億円、鉄鋼事業で1600億円を計画しているが、鉄鋼事業のGX投資の大半が戦略投資となる。1600億円のうち倉敷地区の電磁鋼板の能力増強490億円を含む。洋上風力向けに力を発揮する倉敷地区の新連鋳機の加熱炉など周辺設備の増強にも投資する。事業投融資はJSWスチールと方向性電磁鋼板の製造販売会社の合弁設立の検討を含む。設立が決まれば、下工程の工場を建設することになり、技術だけでなく資金も投じる」
「インドは電力網向けに方向性電磁鋼板の需要が強い。日本からの輸出で海外の市場を握るのは難しく、市場に立脚する必要がある。工場を建設することになれば、高級鋼における大きな成長戦略となる。車載用の無方向性電磁鋼板は、現時点では電気自動車の販売が少なく、市場は小さい。将来に電動車化が進む可能性があり、自動車市場も拡大するはずで無方向性もいずれ課題となる。脱炭素の技術でもJSWと協力することを期待している。インドでも脱炭素が進むとみられ、ビジネスとして展開することは十分あり得る」
――中計ではソリューションビジネスの拡大も大きなテーマに据えている。
「事業としての金額はまだ大きなボリュームではない。中計最終に収益を20年度比3倍に高める計画としており、非常に高い可能性を秘めたビジネスと考えている。鉄鋼は地産地消の意味合いが強く、DXなどいろいろな技術を組み合わせてプラットフォームでパッケージ化できれば、JSWやフォルモサなど友好なパートナーに技術を供与し、ビジネスとすることができる。どう対価を得るかが重要になる。将来的にカーボンニュートラルに関する技術はソリューションビジネスになり得る。高炉の操業や転炉への鉄スクラップ装入のノウハウはビジネスになり得る。事業を進め、得た収益を脱炭素の開発に回すことができる」
――エンジは売上収益を1兆円規模に拡大する計画だ。
「エンジは設備を提供するだけでなく、運営型ビジネスとして運転にも関わる事業を展開している。環境・リサイクルや再生可能エネルギーなど国内だけでなく、東南アジアでも実施しようとしている。設備だけでなく、運営のノウハウを含めてパッケージにして販売していく。合弁などさまざまな形式のビジネスが期待できる」
――JFE商事の海外加工SCMを拡充する。
「JFE商事は方向性電磁鋼板の加工能力が世界トップ、無方向性も世界トップクラスだ。方向性、無方向性ともに加工技術が重要で戦略は一致しており、JFEスチールとのシナジーを発揮していく」
――海外ではベトナムのフォルモサ・ハティン・スチールを活用した事業展開が課題に。
「ベトナム市場が好調でフォルモサは黒字を確保している。今は汎用品を製造しているが、これからの事業展開について台湾のパートナーとも相談していきたい」
――中国で最大手の宝武集団と合弁事業を複数運営している。連携をさらに深めていく考えか。
「自動車用鋼板や特殊鋼棒鋼、鉄粉など合弁事業を立ち上げ、軌道に乗せている。これからも案件があれば考えるが、宝武集団は徐々に技術力、資金力をつけてきている。海外に進出する考えも持っているようだが、海外で連携することは考えにくい。重要な点は中国鉄鋼業がどうなっていくかだ。統合再編が進み、設備の能力調整を進めるのか。中国企業は東南アジアで製鉄所を多く建設しようとしており、中国鉄鋼業の動きは今後のキーになる」
――カーボンニュートラルが達成した50年の日本の鉄鋼業はどのような姿に。
「カーボンニュートラルは世界的な競争だと思う。これまでの品質やコストとは異次元の競争となる。成し遂げた鉄鋼メーカーが生き残っていく。日本の50年の姿を考えると大きな内需があるとは思えず、カーボンニュートラルを達成したとして鉄鋼を大量に製造することは考えにくい。やはりカーボンニュートラルを軸としたソリューションビジネスに移っていくことになるだろう。技術を供与し、他国に広げ、対価を得ていく。開発に莫大な費用を要しているはずであり、見合った対価が必要となる。鉄鋼は必要な素材であり、認められていくはず。技術を前提にして生きていくことになる。そのためにもソリューションビジネスを育て、そのレールの上にカーボンニュートラルの技術が乗れば理想的だ」(植木美知也)
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