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2024.10.30
2021年5月21日
財務・経営戦略を聞く JFEHD副社長 寺畑雅史氏 適正価格体系を再構築 高炉安定稼働 DX効果発揮へ
――20年度下期に事業利益1014億円と上期の1143億円の赤字から大幅に改善した。
「4―6月は厳しい状況が続き、単独粗鋼生産が479万トン、7―9月に538万トンと上期1017万トンで前年上期から約3割減少したが、上期後半以降、自動車産業を中心とした需要の回復や中国市場がいち早くコロナ禍から立ち直ったこともあり、下期に1259万トンまで戻し、年間では2276万トンとなった。20年度下期は世界的に経済と需要の回復スピードに供給が追い付かず、海外を中心に鋼材価格が上昇した。こうした数量の回復や、輸出を中心とした市況好転に伴い、業績が改善した」
――バンキング(一時休止)した西日本製鉄所福山地区の高炉を早期に立ち上げた。
「倉敷地区の高炉は計画していた改修に前倒しで入ったが、福山4高炉に関しては、データサイエンス技術を活用し、再稼働の早期化を実現した。これまで推進してきたDXへの取り組みの成果が確認できる良い機会にもなった」
――前回見通し(21年2月)から事業利益が改善したのは。
「JFEスチールでは粗鋼生産量が少し増え、マージンについても第4四半期、特に3月から輸出中心に鋼材価格が上がり改善した。グループ会社の改善影響も大きい。JFE商事も国内外の需要回復や米国のエネルギー分野をはじめとした鋼材市況の上昇を受け、セグメント利益は前回見通しから30億円増の年200億円と改善した。事業利益は第3四半期531億円、第4四半期は鉄鋼事業の棚卸資産評価差の変化等で482億円となったが、一過性要因等を除くと第3四半期よりも改善している」
――販価は下期平均7万6200円、第4四半期に7万8800円に上がったが改善は道半ば。値上げをどう進めていくか。
「国内と海外で異なるが、国内は下期から取り組んでいる主原料コストの上昇分を確実かつ速やかに反映させる取り組みをさらに加速させる。鋼材価格に反映させるのにどうしてもタイムラグがあるが、早期化を進めきっちりと転嫁していきたい。海外は熱延黒皮を中心として鋼材市況がかなり上がっている。19年はインドからの輸出増や米中貿易摩擦の影響で国際市況が下がったが、20年後半以降は内需への対応を優先する中国からの輸出が抑えられるようになったことに加え、他地域の供給もタイト化していることが要因だ。現在進めている商談で実現可能性が見込める上期分については販価上昇を織り込んでいる。下期については足元の鋼材市況の状態が続けば販価や業績は上に振れる可能性があるが、それを前提に計画は立てていない」
――中国の鉄鋼の増産によって原料価格が高騰している。
「中国は豪州との政治的関係から石炭の輸入を制限しているが鉄鉱石は輸入しており、鉄鉱石価格は5月第1週にトン200ドルを超え、高騰している。今月末に7―9月期の鉄鉱石価格が決まるが、原料価格の上昇分を確実かつ速やかに転嫁していくことが重要になる。中国は経済活動水準を高位で維持すると予想されるが、一方で心配なのはインドだ。コロナ禍が経済に影響を与え、気候面でもこれから雨季に入ってくる。米国は経済が堅調で鋼材不足から市況が高騰している。需要産業をみると、建設機械は米国向けなど生産計画が上振れし、産業機械は中国向けに輸出を増やしている。自動車は半導体不足で一部で減産しているが需要自体が落ちているわけではなく、年間の中で調整するとみられ、通期での鉄鋼業への影響は小さいとみている」
――21年度は事業利益2000億円と20年度の129億円の赤字からV字回復を目指す。
「鉄鋼事業は1400億円の利益を見込む。スプレッドは150億円の改善を見込んでいるが、主原料コストの上昇分の販価への反映を早期に進めていく。足元の鉄鉱石価格は急激に上昇しているため、今後はある程度調整はされると思うが、引き続き高値で推移するだろう。加えて、エキストラについて適正な水準へ見直すべく総点検を進めており、適正な商品価値に基づく価格体系を再構築していく。コスト削減は鉄鋼事業で20年度に1000億円を実行し、固定費と変動費で同程度実施した。21年度は緊急対策の戻りを含め、鉄鋼事業で300億円のコスト削減を見込んでいる。倉敷地区の連続鋳造設備や福山地区のコークス炉など新規設備投資による効果が大きい。DXの効果も取り込んでいきたい」
――21年度の粗鋼生産は2650万トンと前年度の2276万トンから増える計画だが、上に振れる可能性は。
「今年12月に倉敷地区の第4高炉を立ち上げるさせるが、これもデータサイエンス技術を活用して完工後速やかに立ち上げたい。通常の操業の中で設備の安定化を図り、数量を積み増していく。需要環境にもよるが、少しでも量を増やして収益を上げる」
――エンジと商事も増益を計画している。
「エンジは受注が好調で20年度の受注額は5000億円を超え、21年度の売上高や利益に効いてくる。国内は環境・エネルギー関係、海外は欧州の廃棄物発電や東南アジアの水処理関係の受注が多い。従来のEPC(設計・調達・建設)だけでなく、運営型の事業にシフトし収益の安定化を図っている。21年度もしっかり取り組み、250億円の利益予想から上振れを狙いたい。商事は、20年度は上期の鋼材需要の落ち込み影響が大きく減益となったが下期は自動車分野を中心に需要が回復したことにより収益は改善した。国内の活動水準の向上や米州・中国・ASEANの海外グループ会社の収益回復により、利益予想は270億円と19年度の実績見合いに収益を上げていく」
――海外の事業会社の状況は。
「米国のCSI、インドのJSWスチールは想定以上に順調だ。中国の自動車用鋼板製造のGJSSは安定した利益が見込める。後はタイとインドネシアの自動車用鋼板の製造拠点、JSGTとJSGIの生産がどの程度戻るか。タイは自動車生産がある程度回復しているが、インドネシアの方が需要の落ち込みが大きい。JSGIはコスト削減を進めており、政府の消費喚起策などで需要が戻れば業績は回復するとみている。ミャンマーのJFEメランティは、日本人スタッフは全員日本に戻し、操業を見合わせている」
――最大鉄鋼生産国の中国をどうみるか。
「中国はCO2対策に向けた鉄鋼減産を表明している。当社への直接の影響として考えるべきことは、中国が鋼材の輸出に転じた時に海外市況が低下することだが、足元の中国には安値で輸出を増やす動きはみられない。かつてのように大規模な輸出を行うことはなく、国内に傾注している。減産の理由がCO2排出削減となるなど、気候変動問題に対する取り組みを優先する動きに世界が変わってきていると感じる」
――JSWと方向性電磁鋼板の製造販売会社の共同設立の検討を始めた。
「インドは電力需要が旺盛で国を挙げて電力網の整備に取り組んでいる。再生可能エネルギーを拡大することもあり、方向性電磁鋼板の需要の増加が見込まれる。技術供与ではなく、JSWと合弁でインサイダーとして取り組むことを検討している。無方向性電磁鋼板はすでにJSWに技術を供与し製造しているが、電気自動車の普及が遅れ、需要が小さい。電動車用の無方向性電磁鋼板の需要は欧米、中国で増えており、倉敷地区の能力増強で海外の需要を捉えていく」
――JSWは能力拡張や企業買収に積極的。インドで一貫製鉄所に関与する考えは。
「そういう話があるかどうかだが、それ以上に世界の鉄鋼業が地産地消に進みつつあり、脱炭素への対応で鉄鋼業が変わっていく可能性もある中で、海外事業をどう構築していくかが重要となる。低品位の鉄鉱石を使用する必要性が将来高まるとみて、BHPと共同で直接還元などを検討することを決めたが、鉄源を持つJSWやベトナムのFHSの海外のパートナーとどう協力し、世界にどういうプレゼンスを示せるかもポイントとなる。今回の中期計画でカーボンニュートラルに向けた取り組みを示したが、カーボンニュートラルは2050年の鉄鋼業のあり方を決めることになると思う。技術開発や目標達成への方向性を中期計画の中で固めていく」
「技術を確立し、カーボンリサイクル高炉だけでなく、水素還元や電炉の技術開発にも取り組む。技術を確立することが海外展開にも関係してくる。これまでの技術供与型ではなく、DXも活用し、ソリューションを提供していく。高炉の操業状況やエンジの焼却炉などの操業は遠隔で確認が可能であり、複数の拠点を一括で監視・操業できる技術を持っていれば海外での展開が変わってくると考えている」(植木美知也)
「4―6月は厳しい状況が続き、単独粗鋼生産が479万トン、7―9月に538万トンと上期1017万トンで前年上期から約3割減少したが、上期後半以降、自動車産業を中心とした需要の回復や中国市場がいち早くコロナ禍から立ち直ったこともあり、下期に1259万トンまで戻し、年間では2276万トンとなった。20年度下期は世界的に経済と需要の回復スピードに供給が追い付かず、海外を中心に鋼材価格が上昇した。こうした数量の回復や、輸出を中心とした市況好転に伴い、業績が改善した」
――バンキング(一時休止)した西日本製鉄所福山地区の高炉を早期に立ち上げた。
「倉敷地区の高炉は計画していた改修に前倒しで入ったが、福山4高炉に関しては、データサイエンス技術を活用し、再稼働の早期化を実現した。これまで推進してきたDXへの取り組みの成果が確認できる良い機会にもなった」
――前回見通し(21年2月)から事業利益が改善したのは。
「JFEスチールでは粗鋼生産量が少し増え、マージンについても第4四半期、特に3月から輸出中心に鋼材価格が上がり改善した。グループ会社の改善影響も大きい。JFE商事も国内外の需要回復や米国のエネルギー分野をはじめとした鋼材市況の上昇を受け、セグメント利益は前回見通しから30億円増の年200億円と改善した。事業利益は第3四半期531億円、第4四半期は鉄鋼事業の棚卸資産評価差の変化等で482億円となったが、一過性要因等を除くと第3四半期よりも改善している」
――販価は下期平均7万6200円、第4四半期に7万8800円に上がったが改善は道半ば。値上げをどう進めていくか。
「国内と海外で異なるが、国内は下期から取り組んでいる主原料コストの上昇分を確実かつ速やかに反映させる取り組みをさらに加速させる。鋼材価格に反映させるのにどうしてもタイムラグがあるが、早期化を進めきっちりと転嫁していきたい。海外は熱延黒皮を中心として鋼材市況がかなり上がっている。19年はインドからの輸出増や米中貿易摩擦の影響で国際市況が下がったが、20年後半以降は内需への対応を優先する中国からの輸出が抑えられるようになったことに加え、他地域の供給もタイト化していることが要因だ。現在進めている商談で実現可能性が見込める上期分については販価上昇を織り込んでいる。下期については足元の鋼材市況の状態が続けば販価や業績は上に振れる可能性があるが、それを前提に計画は立てていない」
――中国の鉄鋼の増産によって原料価格が高騰している。
「中国は豪州との政治的関係から石炭の輸入を制限しているが鉄鉱石は輸入しており、鉄鉱石価格は5月第1週にトン200ドルを超え、高騰している。今月末に7―9月期の鉄鉱石価格が決まるが、原料価格の上昇分を確実かつ速やかに転嫁していくことが重要になる。中国は経済活動水準を高位で維持すると予想されるが、一方で心配なのはインドだ。コロナ禍が経済に影響を与え、気候面でもこれから雨季に入ってくる。米国は経済が堅調で鋼材不足から市況が高騰している。需要産業をみると、建設機械は米国向けなど生産計画が上振れし、産業機械は中国向けに輸出を増やしている。自動車は半導体不足で一部で減産しているが需要自体が落ちているわけではなく、年間の中で調整するとみられ、通期での鉄鋼業への影響は小さいとみている」
――21年度は事業利益2000億円と20年度の129億円の赤字からV字回復を目指す。
「鉄鋼事業は1400億円の利益を見込む。スプレッドは150億円の改善を見込んでいるが、主原料コストの上昇分の販価への反映を早期に進めていく。足元の鉄鉱石価格は急激に上昇しているため、今後はある程度調整はされると思うが、引き続き高値で推移するだろう。加えて、エキストラについて適正な水準へ見直すべく総点検を進めており、適正な商品価値に基づく価格体系を再構築していく。コスト削減は鉄鋼事業で20年度に1000億円を実行し、固定費と変動費で同程度実施した。21年度は緊急対策の戻りを含め、鉄鋼事業で300億円のコスト削減を見込んでいる。倉敷地区の連続鋳造設備や福山地区のコークス炉など新規設備投資による効果が大きい。DXの効果も取り込んでいきたい」
――21年度の粗鋼生産は2650万トンと前年度の2276万トンから増える計画だが、上に振れる可能性は。
「今年12月に倉敷地区の第4高炉を立ち上げるさせるが、これもデータサイエンス技術を活用して完工後速やかに立ち上げたい。通常の操業の中で設備の安定化を図り、数量を積み増していく。需要環境にもよるが、少しでも量を増やして収益を上げる」
――エンジと商事も増益を計画している。
「エンジは受注が好調で20年度の受注額は5000億円を超え、21年度の売上高や利益に効いてくる。国内は環境・エネルギー関係、海外は欧州の廃棄物発電や東南アジアの水処理関係の受注が多い。従来のEPC(設計・調達・建設)だけでなく、運営型の事業にシフトし収益の安定化を図っている。21年度もしっかり取り組み、250億円の利益予想から上振れを狙いたい。商事は、20年度は上期の鋼材需要の落ち込み影響が大きく減益となったが下期は自動車分野を中心に需要が回復したことにより収益は改善した。国内の活動水準の向上や米州・中国・ASEANの海外グループ会社の収益回復により、利益予想は270億円と19年度の実績見合いに収益を上げていく」
――海外の事業会社の状況は。
「米国のCSI、インドのJSWスチールは想定以上に順調だ。中国の自動車用鋼板製造のGJSSは安定した利益が見込める。後はタイとインドネシアの自動車用鋼板の製造拠点、JSGTとJSGIの生産がどの程度戻るか。タイは自動車生産がある程度回復しているが、インドネシアの方が需要の落ち込みが大きい。JSGIはコスト削減を進めており、政府の消費喚起策などで需要が戻れば業績は回復するとみている。ミャンマーのJFEメランティは、日本人スタッフは全員日本に戻し、操業を見合わせている」
――最大鉄鋼生産国の中国をどうみるか。
「中国はCO2対策に向けた鉄鋼減産を表明している。当社への直接の影響として考えるべきことは、中国が鋼材の輸出に転じた時に海外市況が低下することだが、足元の中国には安値で輸出を増やす動きはみられない。かつてのように大規模な輸出を行うことはなく、国内に傾注している。減産の理由がCO2排出削減となるなど、気候変動問題に対する取り組みを優先する動きに世界が変わってきていると感じる」
――JSWと方向性電磁鋼板の製造販売会社の共同設立の検討を始めた。
「インドは電力需要が旺盛で国を挙げて電力網の整備に取り組んでいる。再生可能エネルギーを拡大することもあり、方向性電磁鋼板の需要の増加が見込まれる。技術供与ではなく、JSWと合弁でインサイダーとして取り組むことを検討している。無方向性電磁鋼板はすでにJSWに技術を供与し製造しているが、電気自動車の普及が遅れ、需要が小さい。電動車用の無方向性電磁鋼板の需要は欧米、中国で増えており、倉敷地区の能力増強で海外の需要を捉えていく」
――JSWは能力拡張や企業買収に積極的。インドで一貫製鉄所に関与する考えは。
「そういう話があるかどうかだが、それ以上に世界の鉄鋼業が地産地消に進みつつあり、脱炭素への対応で鉄鋼業が変わっていく可能性もある中で、海外事業をどう構築していくかが重要となる。低品位の鉄鉱石を使用する必要性が将来高まるとみて、BHPと共同で直接還元などを検討することを決めたが、鉄源を持つJSWやベトナムのFHSの海外のパートナーとどう協力し、世界にどういうプレゼンスを示せるかもポイントとなる。今回の中期計画でカーボンニュートラルに向けた取り組みを示したが、カーボンニュートラルは2050年の鉄鋼業のあり方を決めることになると思う。技術開発や目標達成への方向性を中期計画の中で固めていく」
「技術を確立し、カーボンリサイクル高炉だけでなく、水素還元や電炉の技術開発にも取り組む。技術を確立することが海外展開にも関係してくる。これまでの技術供与型ではなく、DXも活用し、ソリューションを提供していく。高炉の操業状況やエンジの焼却炉などの操業は遠隔で確認が可能であり、複数の拠点を一括で監視・操業できる技術を持っていれば海外での展開が変わってくると考えている」(植木美知也)
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