2021年4月22日

新社長に聞く JFE条鋼 渡辺敦氏 各製造所で品質向上注力

大手電炉メーカー、JFE条鋼は4月1日付で渡辺敦副社長が社長に昇格した。人口減少・少子高齢化で国内鋼材需要が縮減。その一方、脱炭素化に向けた動きが加速しており、普通鋼電炉メーカーの重要性が高まっている。この環境下、どのように舵を取るのか。抱負や方針などを聞いた。

――まずは抱負から。

「新生・JFE条鋼発足から10年目の節目に就任し、重責に身が引き締まる思いで、やる気も感じる。風通しを良くしながら全社一丸で明るく、厳しく、前向きに取り組み、社員全員が愛着と誇りを持てる会社にしたい。チャレンジし続け、普通鋼電炉業界で存在感のある会社を目指す」

――全国5製造所の運営方針を。

「鉄筋棒鋼3ミル(豊平、東部、水島)と、形鋼2ミル(鹿島、姫路)を設置し、製造所立地のバランスが良い。現行体制を維持し、組織や人員などの大きな見直しは考えていない。まずは各製造所ともにさらなる品質向上に注力する。また、上工程・電炉の競争力強化に向けて、エコアークなど環境対応型電気炉への更新や鉄スクラップ予熱技術の導入を検討し、溶解や精錬の時間を短縮することなどでエネルギー効率を高める。また鉄スクラップ品種を幅広く選択できる技術を確立し、将来の需給タイト化に備える。各製造所は老朽化設備健全化が喫緊の課題だが、単なる更新ではなく新しい技術やノウハウを積極的に加える」

――7次中期経営計画の骨子を。

「21―24年度の第7次中期経営計画は、未達となった6次中計最終年度の経常利益80億円を目標に置いた。設備投資は減価償却の範囲内である年間50―60億円を計画している。圧延の大型投資は概ね完了しており、今後はオンライン計測技術導入や精整工程の改善など品質向上投資が中心になる。22年度で姫路製造所の電気炉トランスを更新する予定だ。1カ月程度の長期休止を余儀なくされることから、同時進行が可能な電気炉競争力向上案件も考えている」

――DX(デジタルトランスフォーメーション)推進、働き方改革についてはどうか。

「普通鋼電炉業界でDX分野のトップレベルを目指す。DXを推進する体制を整備するため、関連技術部門を包括する『データサイエンス横断部会』を21年度に新設した。『全製造所を対象にしたデータ伝送・データ蓄積の基盤整備』『設備の状態・操業の状態の見える化』『DX技術活用に伴う生産管理レベルアップによるSCM改善検討』がテーマになる。すでに姫路の大形工場で設備と操業の見える化にチャレンジしており、これまで得たデータを活用し、他製造所への展開を進める」

――使用済み乾電池を含めた資源リサイクル事業の展望を。

「資源リサイクル事業は第3の収益柱に育成する。17年度に立ち上げた資源リサイクル部は『Road to 10』をスローガンに掲げ、27年度には業界トップレベルの収益規模に引き上げる。計画どおりに進捗し、目標の達成は可能。水島製造所、鹿島製造所に続く3拠点目の設置は必要で、鉄スクラップ発生状況や電炉プロセスの特徴などを考慮し、検討する。処理対象品種を拡大するほか、水島と鹿島の処理能力向上にも取り組み、ソフト面での技術改善や処理能力向上投資、事前処理設備投資も考える」

――新技術、新商品開発の進捗状況を。

「姫路の中小形工場にプロトタイプのインライン加速冷却装置を設け、平鋼の品質向上効果や新商品開発に向けた知見が得られ始めている。現在はセンサー類を追加設置し、冷却制御の改善に力を注いでおり、本設備化に向けた追加機能を検討する。他製造所への横展開や、平鋼以外で形鋼類、高強度鉄筋棒鋼への展開も模索する」

――形鋼類、鉄筋棒鋼のマーケット予測を。

「全国鉄骨需要量は新型コロナウイルス感染症影響もあり、20年度は400万トン水準まで落ち込んだものの、21年度下期以降は持ち直し、24年度は500万トンレベルまで回復するとみている。鉄筋棒鋼国内出荷量は700万トンを割り込み、20年度は690万トン程度まで減少した。21年度も減少傾向が続くと見ているが、22年度以降は回復し、24年度は20年度と同水準まで戻ると想定している」

――鉄筋棒鋼の商慣習を見直してきた。

「鉄筋棒鋼については、6次中計で契約方法の明確化などの改善を実施してきた。今後はさらに精度を高めるため、重点顧客との情報連携強化や物流システム改善などに着手する。また、ミルシートなどのオンライン化を含めた付帯サービスの効率化や輸送効率化を進め、顧客満足度を向上させていきたい」

――安全・環境・防災、技能伝承活動を。

「『安全は全てに優先する』の理念下、『全ての災害は防ぐことが出来る』の信念を持ち、また全従業員に持ってもらうべく安全活動を進める。『無事に帰る』『無事に帰す』という意識を強化するため、自主自立活動を深化。過去災害事例などの情報を各製造所に水平展開するほか、電子掲示板を導入することで意識向上を図る。技能伝承活動は現業系社員のスキルアップを目指すスキル・エキスパート制度が19年度で終了し、20年度以降は活動の主体を各職場に移行して継続しており、さらなる進化・レベルアップに挑戦している」

――カーボンニュートラル実現に向けた取り組みは。

「日本は鉄スクラップ余剰で輸出国。この環境下で高炉法に比べてCO2排出が少ない電炉プロセスによる鉄鋼生産拡大はカーボンニュートラル実現に向けて有効である。電炉プロセスであってもカーボンニュートラルではなく、まず電炉のエネルギー効率を高める技術開発で電力・電極の原単位低減を志向する。また使用電力構成で太陽光など再生可能エネルギーの活用、製造所への太陽光パネル設置も検討する。これは私見だが、水素製鉄などイノベーションを実現する前の過渡期はJFE条鋼の電炉鉄源をJFEスチールで活用することで、JFEグループ全体のCO2削減を図ることも非現実ではないと思う」

――JFEスチール、JFEグループ企業との連携をどう深化させるか。

「JFEグループとしての収益最大化の視点で、JFEスチール及びJFEグループ企業と連携する。JFEスチールとは鉄源融通の可能性、製品販売連携を模索。水島はこれまで出荷バースや発生スクラップ分譲などで連携していたが、資源リサイクル機能を活用してのコラボも考える。また建築、土木、建材の各分野で素材開発を担える部分が無いか、JFEグループ企業との情報交換を密にする」(濱坂浩司)

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▽渡辺敦(わたなべ・あつし)氏=85年 東北大院(工学部金属工学科)修了後、日本鋼管(現・JFEスチール)入社。09年JFEスチール西日本製鉄所福山地区製鋼部長、10年東日本製鉄所京浜地区製鋼部長、13年同副所長、14年常務執行役員東日本製鉄所京浜地区副所長。16年には常務執行役員として知的財産部や環境防災・リサイクル部などを管掌。17年専務執行役員、18年同西日本製鉄所長兼同製鉄所福山地区所長を経て、20年JFE条鋼代表取締役副社長、4月1日付で現職。

食べること、お酒を飲むことが大好き。カラオケでは高音が評判とか。ウォーキングで体重をコントロール。休日は夫人と日本100名城スタンプラリーに挑戦中。「原理原則を大切にする」、「常に情熱を持って取り組む」ことが技術者としての信条。60年4月4日生まれ、新潟県出身。

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