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2024.10.30
2021年3月2日
「財務・経営戦略を聞く 日本製鉄副社長 宮本勝弘氏」改革進め損益分岐点低下 原料価格上昇 影響は来年度に 粘り強く販価改善
――通期連結事業利益予想300億円と前回予想の600億円のマイナスから大きく改善した。
「製鉄事業で前回予想より800億円好転したが、大きな要因はマージンの改善だ。原料価格が上昇したことで140億円のマイナスとなったが、販売価格・構成で470億円のプラスとなり、マージンは330億円改善した。前回予想時に比べ輸出の市況品価格が上がり、続いて国内の市況品の価格が上昇した。事業環境の回復を受けてグループ会社が210億円改善し、特にAM/NSインディアやウジミナス、山陽特殊製鋼が前回よりプラスとなっている。国内の電炉は鉄スクラップ価格が上がっているのでマイナスになったが、海外の事業会社は世界的に事業環境がかなり戻り軒並みプラスとなった。コスト改善も100億円プラスとなった」
――マージンの改善は先に上がった輸出価格の上昇が大きいが、主に東南アジア向けで上がったのか。
「東南アジア向けは上がっているが、それ以外の遠方も価格が上がっているので輸出している。国内の価格改善が遅れており、上昇幅が輸出と大きく異なる。需給はタイトなので国内のマージンの改善を図る」
――コスト改善は前回予想よりプラスだがその内容は。損益分岐点はどの程度下がっているのか。
「コスト改善はコロナ影響下での緊急対策も含めさまざまなことに取り組んだ結果。固定費と変動費の削減は計画以上に進んでいる。下期の鋼材出荷見通しが1680万トンで2倍にすると年3400万トン弱。この規模で利益が出ているので損益分岐点は、緊急的なコスト削減効果を含んではいるものの3000万トン台半ばに下がっていることになる。以前は4000万トン台半ばで利益が出ていなかったので大きく変わってきている」
――第4四半期は出荷が増えるが、事業利益は632億円と第3四半期(733億円)を下回る見通し。
「第4四半期は例年固定費が重めに出る。大半が固定費段差だ」
――厳しい環境下での単独営業黒字化が可能な収益基盤の確立について。
「まだ道半ばだ。生産設備構造対策による1000億円のコスト削減効果のうち、まだ残っているものがある。追加の構造対策で成案化できるものがあれば発表していく。各種の対策によって損益分岐点は下がると考えている」
――昨年以降、鉄鉱石価格が高騰し原料コストが増えることに。
「期間がずれてくるので原料コストはこれから増える。足元も原料価格は上昇しており、主原料以外の価格もかなり強含みなのでコスト増となる。原料価格の上昇が本格的に響いてくるのは来年度からとなる」
――平均鋼材価格は19年度に比べるとなお低い。マージンも悪化しているように見えるが、販価の改善が不十分ということか。
「ネット価格が大きく影響している。生産量を減らす中で限界利益の低い製品から量を絞っていくので構成は改善しているが、それ以上に販価のマイナスが大きい」
――販売価格の改善が21年度も大きな課題となる。
「海外向けに比べて特に国内の市況品は遅れている。海外の市況と原料価格をみながら、ステップを踏みながら値上げを進めていく。ひも付き向けの販売価格についても需要家にお願いしている中で進ちょくはしているが、いろいろなコストを考えるとまだ途上であり、引き続き粘り強くお願いしていく」
――21年度の需要をどうみるか。休止している和歌山地区の高炉の再稼働の時期は。
「鋼材消費は20年度予測の5230万トン程度に対し、21年度は5500万トン程度を予想している。粗鋼生産は21年度に8500万―9000万トンに増える予想で製造業向けはおしなべて回復していくが造船は厳しい。和歌山の高炉を再稼働した場合、どう使っていくか。下工程の鋼管は需要がまだ少なく、半製品をどこかに出すとしても原料価格が高騰している。他の設備含め需要動向をみながら決めていく」
――半導体不足による自動車の減産影響は。
「今年度の影響はそれほど大きくないとみている。状況は変わりつつあるが、このままだと来年度は少し影響があるかもしれない。ただ半導体メーカーが増産対応することもあり、現時点では影響を見極めきれていない」
――20年度第3四半期の事業利益をみると21年度通期で3000億円台がみえてくる。
「20年度に受けた減産のデメリットが21年度はなくなる。構造対策の前倒しを進めている分がコスト削減として効いてくる。子会社の活動水準が上がっていくこともプラスとなる。一方で固定費は償却費が増える。20年度は緊急対策で固定費を相当圧縮しているが、ある程度戻る部分があり、吸収するためにもコスト削減を進める。マージンの改善と子会社の収益改善、高炉稼働で生産が増えてくるのでしっかりと活用し、収益を上げていく」
――構造対策について実施を早めるものは。需要からみて厚板の追加の設備調整は可能性があるのでは。
「構造対策についてはあらゆる計画についての前倒しや追加施策を検討しており、可能なことから実施していく」
――海外の薄板事業拠点の回復度は。
「インドネシアは他の国に比べて回復が遅れているが、それ以外の地域はかなり改善してきている」
――米国の薄板拠点はINテック、INコートを売却し、一方でAM/NSカルバートに電炉を導入する。
「INテック、INコートともに利益を出していたので今後の収益にはマイナスとなるが、前倒しで売却益を得るので利益を先取りする格好となる。今後はカルバートに電炉を導入し、資源を集中させて事業を伸ばしていく。下工程は生産能力が年540万トンあるので今のところ増強の必要はなく、まずは年産150万トンの電炉を導入して鉄源を確保し、一貫製造によるメリットを得る」
――海外のブリキ事業会社についてタイは出資を増やし、中国は撤退を決めた。
「中国市場は競合が激しく、事業会社の広州太平洋馬口鉄が立地する地域の開発計画もあり、撤退を決めた。タイのSTPは薄板製造のNS―SUSの近くにあり、母材をNS―SUSが供給しているので一貫でのメリットがあり、子会社にして事業をしっかり行う」
――脱炭素に向けた日本製鉄としての目標と取り組みを近く公表する。
「いろいろなルート、あらゆる手段で進めていかないと目標を達成できない。研究開発費、設備投資が相当かかるので、政府支援も受けながら開発や試験に取り組み、最終的に設備に落とし込んでいく。一方で国としてのプランも必要となる。電力の電源構成の問題や水素の供給インフラ整備の問題、CCU・CCSを国としてどうするのか、他の産業と合わせてどう取り組むのか、多くの施策がパッケージとして必要となるので政策提言も含めて進めていきたい」(植木美知也)
「製鉄事業で前回予想より800億円好転したが、大きな要因はマージンの改善だ。原料価格が上昇したことで140億円のマイナスとなったが、販売価格・構成で470億円のプラスとなり、マージンは330億円改善した。前回予想時に比べ輸出の市況品価格が上がり、続いて国内の市況品の価格が上昇した。事業環境の回復を受けてグループ会社が210億円改善し、特にAM/NSインディアやウジミナス、山陽特殊製鋼が前回よりプラスとなっている。国内の電炉は鉄スクラップ価格が上がっているのでマイナスになったが、海外の事業会社は世界的に事業環境がかなり戻り軒並みプラスとなった。コスト改善も100億円プラスとなった」
――マージンの改善は先に上がった輸出価格の上昇が大きいが、主に東南アジア向けで上がったのか。
「東南アジア向けは上がっているが、それ以外の遠方も価格が上がっているので輸出している。国内の価格改善が遅れており、上昇幅が輸出と大きく異なる。需給はタイトなので国内のマージンの改善を図る」
――コスト改善は前回予想よりプラスだがその内容は。損益分岐点はどの程度下がっているのか。
「コスト改善はコロナ影響下での緊急対策も含めさまざまなことに取り組んだ結果。固定費と変動費の削減は計画以上に進んでいる。下期の鋼材出荷見通しが1680万トンで2倍にすると年3400万トン弱。この規模で利益が出ているので損益分岐点は、緊急的なコスト削減効果を含んではいるものの3000万トン台半ばに下がっていることになる。以前は4000万トン台半ばで利益が出ていなかったので大きく変わってきている」
――第4四半期は出荷が増えるが、事業利益は632億円と第3四半期(733億円)を下回る見通し。
「第4四半期は例年固定費が重めに出る。大半が固定費段差だ」
――厳しい環境下での単独営業黒字化が可能な収益基盤の確立について。
「まだ道半ばだ。生産設備構造対策による1000億円のコスト削減効果のうち、まだ残っているものがある。追加の構造対策で成案化できるものがあれば発表していく。各種の対策によって損益分岐点は下がると考えている」
――昨年以降、鉄鉱石価格が高騰し原料コストが増えることに。
「期間がずれてくるので原料コストはこれから増える。足元も原料価格は上昇しており、主原料以外の価格もかなり強含みなのでコスト増となる。原料価格の上昇が本格的に響いてくるのは来年度からとなる」
――平均鋼材価格は19年度に比べるとなお低い。マージンも悪化しているように見えるが、販価の改善が不十分ということか。
「ネット価格が大きく影響している。生産量を減らす中で限界利益の低い製品から量を絞っていくので構成は改善しているが、それ以上に販価のマイナスが大きい」
――販売価格の改善が21年度も大きな課題となる。
「海外向けに比べて特に国内の市況品は遅れている。海外の市況と原料価格をみながら、ステップを踏みながら値上げを進めていく。ひも付き向けの販売価格についても需要家にお願いしている中で進ちょくはしているが、いろいろなコストを考えるとまだ途上であり、引き続き粘り強くお願いしていく」
――21年度の需要をどうみるか。休止している和歌山地区の高炉の再稼働の時期は。
「鋼材消費は20年度予測の5230万トン程度に対し、21年度は5500万トン程度を予想している。粗鋼生産は21年度に8500万―9000万トンに増える予想で製造業向けはおしなべて回復していくが造船は厳しい。和歌山の高炉を再稼働した場合、どう使っていくか。下工程の鋼管は需要がまだ少なく、半製品をどこかに出すとしても原料価格が高騰している。他の設備含め需要動向をみながら決めていく」
――半導体不足による自動車の減産影響は。
「今年度の影響はそれほど大きくないとみている。状況は変わりつつあるが、このままだと来年度は少し影響があるかもしれない。ただ半導体メーカーが増産対応することもあり、現時点では影響を見極めきれていない」
――20年度第3四半期の事業利益をみると21年度通期で3000億円台がみえてくる。
「20年度に受けた減産のデメリットが21年度はなくなる。構造対策の前倒しを進めている分がコスト削減として効いてくる。子会社の活動水準が上がっていくこともプラスとなる。一方で固定費は償却費が増える。20年度は緊急対策で固定費を相当圧縮しているが、ある程度戻る部分があり、吸収するためにもコスト削減を進める。マージンの改善と子会社の収益改善、高炉稼働で生産が増えてくるのでしっかりと活用し、収益を上げていく」
――構造対策について実施を早めるものは。需要からみて厚板の追加の設備調整は可能性があるのでは。
「構造対策についてはあらゆる計画についての前倒しや追加施策を検討しており、可能なことから実施していく」
――海外の薄板事業拠点の回復度は。
「インドネシアは他の国に比べて回復が遅れているが、それ以外の地域はかなり改善してきている」
――米国の薄板拠点はINテック、INコートを売却し、一方でAM/NSカルバートに電炉を導入する。
「INテック、INコートともに利益を出していたので今後の収益にはマイナスとなるが、前倒しで売却益を得るので利益を先取りする格好となる。今後はカルバートに電炉を導入し、資源を集中させて事業を伸ばしていく。下工程は生産能力が年540万トンあるので今のところ増強の必要はなく、まずは年産150万トンの電炉を導入して鉄源を確保し、一貫製造によるメリットを得る」
――海外のブリキ事業会社についてタイは出資を増やし、中国は撤退を決めた。
「中国市場は競合が激しく、事業会社の広州太平洋馬口鉄が立地する地域の開発計画もあり、撤退を決めた。タイのSTPは薄板製造のNS―SUSの近くにあり、母材をNS―SUSが供給しているので一貫でのメリットがあり、子会社にして事業をしっかり行う」
――脱炭素に向けた日本製鉄としての目標と取り組みを近く公表する。
「いろいろなルート、あらゆる手段で進めていかないと目標を達成できない。研究開発費、設備投資が相当かかるので、政府支援も受けながら開発や試験に取り組み、最終的に設備に落とし込んでいく。一方で国としてのプランも必要となる。電力の電源構成の問題や水素の供給インフラ整備の問題、CCU・CCSを国としてどうするのか、他の産業と合わせてどう取り組むのか、多くの施策がパッケージとして必要となるので政策提言も含めて進めていきたい」(植木美知也)
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