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2024.10.30
2020年12月7日
「財務・経営戦略を聞く」日本製鉄副社長 宮本 勝弘氏 単独 営業損益 来年度黒字化へ 需要回復に応じ生産拡大
――上期は事業損失1065億円と前回予想の1500億円の赤字から改善した。
「鋼材出荷が前回予想より36万トン増え、生産・出荷で30億円程度プラスとなった。マージンが原料60億円、販売価格50億円と合わせて110億円ほどのプラスに。低生産によるデメリットを安価原料の使用などでカバーした。減価償却は若干プラスの30億円。グループ会社220億円、3つのセグメントはエンジ12億円、ケミカル&マテリアル26億円、ソリューション11億円と合計50億円改善した。グループ会社は電炉が底堅い建築需要と鉄スクラップ価格が落ち着いたことでマージンを取れた。他のグループ会社の利益も想定より上に振れた」
――下期の事業損益予想を前回の300億円の黒字から465億円の黒字に上方修正した。自動車中心に需要が回復に向かい、出荷が増える効果が大きいようだが。
「そうだ。事業損益は上期からみて1530億円改善する。出荷は上期から200万トン増えて下期に1650万トンとなり、生産・出荷で750億円のプラスとなる。マージンが50億円ほど悪化するのは鉄鉱石や原料炭の価格が上がる一方で海外の鋼材市況が第4四半期には下がるとみているため。コスト削減で280億円、グループ会社が250億円ほどプラスとなる。生産量の戻りがグループ会社にも効いてくる。相当な減産のデメリットがあるとみていたが、低生産を活用した固定費追加削減や低品位原料の活用などの追加対策でカバーし、ほぼ相殺することができた」
――来年度以降の需要をどうみるか。
「検証しているところだが、コロナの感染再拡大のリスクを想定しつつも、基本的には今年度より改善するとみている。政府は経済を動かしながらコロナに対応しようとしており、上期のように極端な状況にはならない。海外各国が経済対策を打つ影響もあり、回復してくるだろう」
――今年度下期の単独粗鋼予想は1810万トン。来年度に上振れするとして年間3600万トン以上となるのか。その際に高炉のバンキング(一時休止)をどう解除するのか。
「来年度の粗鋼生産は上に振れるとみて検証しているところ。今年度内は高炉改修の終わった室蘭高炉の火入れと君津地区第2高炉のバンキング解除で対応していく前提だが、需要がさらに増えれば、今でも供給がタイトなので、次のバンキング解除を考えなければならない。需要量だけでなく、マージンが取れるかがもう一つのポイントであり、両方が成り立てばバンキング解除を判断する」
――次のバンキング解除はどの高炉に。
「一般的に言えば、自動車など需要が回復している品種をみると薄板を生産している拠点が対象となる。和歌山地区の主力商品の鋼管は需要が落ちており、効率からみても次の解除は鹿島地区の高炉の可能性が高い」(鹿島地区の高炉再稼働を12月4日に発表)
――先々の需要は検証中とのことだが、堅調な自動車と土木、低調な建築や造船、機械などがどう推移するとみているか。
「薄板3品在庫は10年ぶりの低水準で、需要の回復の中に在庫の補充がかなりあると見られる。自動車や土木の需要はみえているが、建築は下期にかけて大型案件はよいものの中小案件は投資マインドの後退で落ちてくるリスクがある。産業・工作機械は設備投資とリンクしているので企業の投資マインドが効いてくる可能性があり不透明感が高い。造船は厳しい。一方で家電は回復している。輸出も海外需要の回復で戻ってきている」
――鋼材の国内・輸出市況ともに上がっている。
「中国は需給がかなりタイトだ。日本国内もタイト感が高まり、市況品の価格は上昇基調にある。販売価格をきっちり上げていくことが大事だ。ひも付き価格については、これまでも伝えてきていることだが、さまざまなコストアップ要因も踏まえ、価値に見合った適正価格の実現に向けて、お客様としっかりと話をしていく」
――目標とする来年度の単独営業損益黒字化達成のめどは。
「需要の回復に応じて生産を増やす。コスト改善も引き続き行い、構造対策の1000億円の効果の残額650億円のうち来年度に出るものがある。それらを合わせて単独営業損益の黒字化を達成しなければならず、達成できるとみている」
――6製鉄所の再編の効果は。
「今まで16の製鉄所・製造所にそれぞれ部長などを配置していたが、今年4月から製鉄所組織を6つに統合して一人が数カ所の製造拠点をみる形になっており、操業基準やノウハウがより統一化、標準化されて省人化も進む。例えば八幡地区と大分地区など、いろいろな部署で改善を図ることで操業の一体化、効率化の効果が目に見えて表れている」
――名古屋製鉄所の厚板ライン休止の前倒しの効果は。他の生産体制見直しを前倒しする可能性は。
「名古屋は圧延ラインの休止なので高炉など上工程ほどの規模ではないが、固定費削減効果やより効率の高い設備に生産移管することによる変動費の改善効果を前倒しで発揮できる。名古屋の厚板ラインに限らず、より早期に最適生産体制に移行できるよう検討している。まずはお客様の承認を得ること。生産を移される側の製鉄所の能力向上や高度化に向けた設備の対策も必要であり、この両方が成り立てば前倒ししていく」
――日鉄日新製鋼の統合効果は。
「販売面でいえば、ZAMなどの営業戦略を一体的に進めている。また、旧日鉄日新製鋼の工場の操業の効率化にも取り組んでおり、原料の輸入もメリットを得ている。効率化をあらゆる部署で行っている」
――海外拠点の状況は。
「北米は生産量がかなり戻り、I/Nテック、I/Nコート、ウィーリングニッポンスチール、スタンダードスチールなど利益を確保している。AM/NSカルバートは母材在庫を持つ必要から在庫評価損の影響を受けて減益になっているがベースの利益は出ている。インドのAM/NSインディアは一部税効果によるプラスもあるが、下期はそれを除いてもきちっと黒字となる。ベトナムのNPVはODA案件を確保し黒字だ。中国のBNAは自動車生産が堅調でもちろん黒字。インドネシアのKNSSとKOSは需要が減少し減益だが、合弁パートナーのクラカタウスチールと営業力強化など対策に取り組み始めている。欧州のオバコはコロナの影響で業況が厳しい」
――北米でカルバートの電炉導入、I/NテックとI/Nコートの売却を検討している。
「カルバートの電炉は成案化次第、工事に着手する。一貫生産による母材在庫の削減などメリットは大きい。テック、コートについては守秘義務があり申し上げられない」
――AM/NSインディアの能力増強を検討している。
「まず西部の既存の製鉄所の増強を考える。ペレット工場がある東部での新製鉄所の建設も視野にあるが、まずは西部の投資だ」
――中国で日系自動車各社が能力増強を計画している。BNAの増強の必要は。
「需要をみながら検討する。今のところ現行設備で対応する」
――国内は広畑地区の電磁鋼板の追加増強を決めた。さらなる投資の予定は。
「当初想定以上にEV化、ハイブリッド化の波が大きく押し寄せ、かなり需要が増えるとみて能力を4割増強する。ハイエンド品を製造するので価格をきちっといただく前提で投資を行い、収益を確保する。電磁鋼板の需要はさらに増加しうるので、今後の対応を検討していく必要はある。広畑での電炉導入は計画に変更はない」
――脱炭素化の計画は。
「ゼロカーボン・スチール委員会を設置し、社内でいろいろと検討している。政府の方針を念頭に今年度内に公表したいと考えている」(植木美知也)
「鋼材出荷が前回予想より36万トン増え、生産・出荷で30億円程度プラスとなった。マージンが原料60億円、販売価格50億円と合わせて110億円ほどのプラスに。低生産によるデメリットを安価原料の使用などでカバーした。減価償却は若干プラスの30億円。グループ会社220億円、3つのセグメントはエンジ12億円、ケミカル&マテリアル26億円、ソリューション11億円と合計50億円改善した。グループ会社は電炉が底堅い建築需要と鉄スクラップ価格が落ち着いたことでマージンを取れた。他のグループ会社の利益も想定より上に振れた」
――下期の事業損益予想を前回の300億円の黒字から465億円の黒字に上方修正した。自動車中心に需要が回復に向かい、出荷が増える効果が大きいようだが。
「そうだ。事業損益は上期からみて1530億円改善する。出荷は上期から200万トン増えて下期に1650万トンとなり、生産・出荷で750億円のプラスとなる。マージンが50億円ほど悪化するのは鉄鉱石や原料炭の価格が上がる一方で海外の鋼材市況が第4四半期には下がるとみているため。コスト削減で280億円、グループ会社が250億円ほどプラスとなる。生産量の戻りがグループ会社にも効いてくる。相当な減産のデメリットがあるとみていたが、低生産を活用した固定費追加削減や低品位原料の活用などの追加対策でカバーし、ほぼ相殺することができた」
――来年度以降の需要をどうみるか。
「検証しているところだが、コロナの感染再拡大のリスクを想定しつつも、基本的には今年度より改善するとみている。政府は経済を動かしながらコロナに対応しようとしており、上期のように極端な状況にはならない。海外各国が経済対策を打つ影響もあり、回復してくるだろう」
――今年度下期の単独粗鋼予想は1810万トン。来年度に上振れするとして年間3600万トン以上となるのか。その際に高炉のバンキング(一時休止)をどう解除するのか。
「来年度の粗鋼生産は上に振れるとみて検証しているところ。今年度内は高炉改修の終わった室蘭高炉の火入れと君津地区第2高炉のバンキング解除で対応していく前提だが、需要がさらに増えれば、今でも供給がタイトなので、次のバンキング解除を考えなければならない。需要量だけでなく、マージンが取れるかがもう一つのポイントであり、両方が成り立てばバンキング解除を判断する」
――次のバンキング解除はどの高炉に。
「一般的に言えば、自動車など需要が回復している品種をみると薄板を生産している拠点が対象となる。和歌山地区の主力商品の鋼管は需要が落ちており、効率からみても次の解除は鹿島地区の高炉の可能性が高い」(鹿島地区の高炉再稼働を12月4日に発表)
――先々の需要は検証中とのことだが、堅調な自動車と土木、低調な建築や造船、機械などがどう推移するとみているか。
「薄板3品在庫は10年ぶりの低水準で、需要の回復の中に在庫の補充がかなりあると見られる。自動車や土木の需要はみえているが、建築は下期にかけて大型案件はよいものの中小案件は投資マインドの後退で落ちてくるリスクがある。産業・工作機械は設備投資とリンクしているので企業の投資マインドが効いてくる可能性があり不透明感が高い。造船は厳しい。一方で家電は回復している。輸出も海外需要の回復で戻ってきている」
――鋼材の国内・輸出市況ともに上がっている。
「中国は需給がかなりタイトだ。日本国内もタイト感が高まり、市況品の価格は上昇基調にある。販売価格をきっちり上げていくことが大事だ。ひも付き価格については、これまでも伝えてきていることだが、さまざまなコストアップ要因も踏まえ、価値に見合った適正価格の実現に向けて、お客様としっかりと話をしていく」
――目標とする来年度の単独営業損益黒字化達成のめどは。
「需要の回復に応じて生産を増やす。コスト改善も引き続き行い、構造対策の1000億円の効果の残額650億円のうち来年度に出るものがある。それらを合わせて単独営業損益の黒字化を達成しなければならず、達成できるとみている」
――6製鉄所の再編の効果は。
「今まで16の製鉄所・製造所にそれぞれ部長などを配置していたが、今年4月から製鉄所組織を6つに統合して一人が数カ所の製造拠点をみる形になっており、操業基準やノウハウがより統一化、標準化されて省人化も進む。例えば八幡地区と大分地区など、いろいろな部署で改善を図ることで操業の一体化、効率化の効果が目に見えて表れている」
――名古屋製鉄所の厚板ライン休止の前倒しの効果は。他の生産体制見直しを前倒しする可能性は。
「名古屋は圧延ラインの休止なので高炉など上工程ほどの規模ではないが、固定費削減効果やより効率の高い設備に生産移管することによる変動費の改善効果を前倒しで発揮できる。名古屋の厚板ラインに限らず、より早期に最適生産体制に移行できるよう検討している。まずはお客様の承認を得ること。生産を移される側の製鉄所の能力向上や高度化に向けた設備の対策も必要であり、この両方が成り立てば前倒ししていく」
――日鉄日新製鋼の統合効果は。
「販売面でいえば、ZAMなどの営業戦略を一体的に進めている。また、旧日鉄日新製鋼の工場の操業の効率化にも取り組んでおり、原料の輸入もメリットを得ている。効率化をあらゆる部署で行っている」
――海外拠点の状況は。
「北米は生産量がかなり戻り、I/Nテック、I/Nコート、ウィーリングニッポンスチール、スタンダードスチールなど利益を確保している。AM/NSカルバートは母材在庫を持つ必要から在庫評価損の影響を受けて減益になっているがベースの利益は出ている。インドのAM/NSインディアは一部税効果によるプラスもあるが、下期はそれを除いてもきちっと黒字となる。ベトナムのNPVはODA案件を確保し黒字だ。中国のBNAは自動車生産が堅調でもちろん黒字。インドネシアのKNSSとKOSは需要が減少し減益だが、合弁パートナーのクラカタウスチールと営業力強化など対策に取り組み始めている。欧州のオバコはコロナの影響で業況が厳しい」
――北米でカルバートの電炉導入、I/NテックとI/Nコートの売却を検討している。
「カルバートの電炉は成案化次第、工事に着手する。一貫生産による母材在庫の削減などメリットは大きい。テック、コートについては守秘義務があり申し上げられない」
――AM/NSインディアの能力増強を検討している。
「まず西部の既存の製鉄所の増強を考える。ペレット工場がある東部での新製鉄所の建設も視野にあるが、まずは西部の投資だ」
――中国で日系自動車各社が能力増強を計画している。BNAの増強の必要は。
「需要をみながら検討する。今のところ現行設備で対応する」
――国内は広畑地区の電磁鋼板の追加増強を決めた。さらなる投資の予定は。
「当初想定以上にEV化、ハイブリッド化の波が大きく押し寄せ、かなり需要が増えるとみて能力を4割増強する。ハイエンド品を製造するので価格をきちっといただく前提で投資を行い、収益を確保する。電磁鋼板の需要はさらに増加しうるので、今後の対応を検討していく必要はある。広畑での電炉導入は計画に変更はない」
――脱炭素化の計画は。
「ゼロカーボン・スチール委員会を設置し、社内でいろいろと検討している。政府の方針を念頭に今年度内に公表したいと考えている」(植木美知也)
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