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2024.10.30
2020年11月30日
財務・経営戦略を聞く JFEHD副社長 寺畑 雅史氏 来年度利益上振れも 全品種でエキストラ見直し
――8月の前回予想時より4―9月期の事業利益が改善した。
「上期の鉄鋼事業のセグメント利益は前回予想より88億円改善した。粗鋼生産量が予想より17万トン増えたことで40億円プラスとなり、上期に計画していた研究開発費が下期にずれたことやグループ会社が想定よりも改善した」
――下期の需要をどうみているか。
「前回見通し時点よりも自動車生産の回復が鮮明になっている。建機も想定より回復のピッチが速い。建築は再開発案件や物流倉庫は堅調だが、中小物件は設備投資の抑制などコロナ影響により低調だ。造船は上期に対して受注量が増えてきているが手持ち工事量が少ない。エネルギー関係も回復に時間を要する見込みでシームレス鋼管、厚板は影響を受けている。一方でコンテナ船などの海上輸送は市況が戻ってきているため、引き続き様子をみていきたい」
――下期想定は設備稼働率85%、粗鋼1230万トン。生産はもう少し上振れしそうか。
「福山の第4高炉を1カ月前倒しで9月に再稼働し、順調に操業している。下期の需要に対しての生産設備の体制は整えたと思っている。コロナの第3波は気になるところだが、需要次第で出銑比などで稼働率を調整していく」
――鉄鋼事業の利益は上期の1362億円の赤字から下期は12億円の黒字となる予想。上振れする可能性は。
「下期の黒字化の要因は生産量の増加が大きい。棚卸資産評価損の戻りも出てくる。それとコストダウンが下期に向けて効いてくる。利益は鋼材の販売価格や原料価格による。鋼材の販価は上がる見込みだが、原料炭価格も下期後半にかけてサイクロン等の季節要因により上がる見通しだ」
――鋼材販価の是正の進捗は。
「主原料価格が下期にトン5000円ほど上がる見通しなので、販価を上げていく。10―12月の原料炭価格が決まり次第、速やかに販価に反映していく。諸物価の上昇や老朽化設備の更新コストの増加を販価に反映する活動も継続する。また、全品種を対象としたエキストラの見直しにも取り掛かっている。エキストラの設定から時間が経っているものがあり、製造コストに加え、研究開発コストを転嫁できていなかった部分がある。お客様からどう評価され、価値を認めていただいているかを見極めながら総点検を実施し、適正な商品価値、付加価値に基づく価格体系を追求する。社内でも、商品に見合った価値を認めていただけると思えば、次の開発にもつながってくる」
――海外市場をどうみているか。
「中国は粗鋼生産が増え、一方で鉄鋼の輸入量も増えている。熱延コイルの価格は500ドルを超えている。内需が落ちた際には輸出が増えることが懸念されるが、今のところは国内で消費している。インドの鋼材がロックダウン時に中国に向かい、結果的に東南アジアの鋼材市況が保たれた。足元ではインドの内需が回復してきているので東南アジアの黒皮ホットの市況は上がる余地がある」
――海外事業拠点の業況は。
「中国は自動車用鋼板を製造するGJSSがフル生産を続けている。鋼管製造のJJPは生産量が増え、鉄粉製造のBJCMXも改善が進んでいる。インドは出資先のJSWスチールが上期に需要減の打撃を受けたが、下期は自動車生産が増えるなど収益は上に振れている。ベトナムのFHSはフル稼働に近い。ミャンマーのカラー鋼板拠点は日本人エンジニアリングを現地に戻し、順次立ち上げている。タイとインドネシアの自動車用鋼板拠点は現地の自動車生産が低調で厳しい状況が続いている。ニューコアと合弁のメキシコの自動車用鋼板拠点はニューコアや当社の社員が戻り、11月中に再稼働させる」
――構造改革の前倒しを決めた。
「千葉地区の第6高炉の改修をどこまで早められるかがポイントだった。改修完了時期を22年12月に前倒しし、これによって京浜地区の高炉と熱延設備を9カ月後の23年9月に休止することを決めた。京浜から千葉に生産を振り替える品種が多いため、千葉の第6高炉稼働後での生産振り替えとお客様評価のための期間を勘案した。今年度に減価償却費160億円、補修費抑制など固定費で100億円と260億円の削減効果を見込んでおり、構造改革に伴う収益改善効果を早期に発現させる」
――来年度の黒字化のめどは。
「下期の連結の収益はトントンだが、一過性要因を除いてマイナス120億円。このレベルであれば、21年度は倉敷地区の新連続鋳造設備や福山地区のコークス炉改修の新稼働設備の変動費の効果が期待できることもあり、利益を確保できる。粗鋼生産が2400万トンであっても黒字を出せるよう計画を立てている。今年度下期は1230万トンなのでその2倍とすれば2460万トンと数量、利益は上に振れる可能性はある」
――資産圧縮を進めている。
「圧縮幅は19―20年度合計1700億円で20年度上期までに株式の売却で約570億円、棚卸資産の圧縮で約290億円と合計900億円弱を実行済み。政策保有株はお客様のご了解を得たうえで売却を進めており、現時点では継続保有している部分についても相談を進めている。JFEスチールは上期に鉄鉱石や原料炭の在庫を過去最低のレベルに圧縮し、製品在庫も圧延のサイクルやデリバリーをみながら削減している。下期は生産が増えるので少し見直す。設備投資は計画通り1300億円の圧縮を実行していく。有利子負債残高は今年度末に1兆9000億円、DEレシオ106・6%の予想であるが、それぞれについて、2兆円以下、100%を下回るレベルを目指す」
――エンジは上期の利益が前回予想を上回り、下期予想が上期を上回る。商事は下期の利益が上期を下回る。
「エンジは受注が堅調だ。国内の鋼構造物改築案件の他、独子会社のスタンダードケッセル・バウムガルテが大型ごみ焼却炉を受注した。商事は、北米エネルギー分野の市況低迷などの要素はあっても、一過性要因を除けば下期の利益は上期を上回っている。通期はエンジで210億円、商事で130億円の利益を見込んでいる」
――京浜の跡地利用は。
「横浜のみなとみらい地区の開発は数十年行っている。京浜地区の跡地はそれより広い。川崎市が市の将来のグランドデザインをどう描くかにもよる。市とはこれまでも土地利用で交流を図っており、どのように活用していくかをよく協議していきたい」
――西日本製鉄所倉敷地区で電磁鋼板製造設備を増強する。前倒しの考えは。
「自動車の電動化のスピードが速まれば、電磁鋼板の増強のスケジュールを考える。取り逃さないように需要の変化をみるが、今のところはスケジュール通りだ」
――次期中期計画のテーマは。
「今年度下期の生産量が見えてきたことを踏まえて、内容や策定タイミングを検討する。23年の構造改革など、すでに決定しているものを含め、中長期的な成長戦略を考えていく」
――2030年にCO2排出量20%以上の削減、2050年以降のカーボンニュートラルを掲げた。
「2030年の目標は当社の保有技術で達成できる。2050年のカーボンニュートラルとなると水素還元などの技術が必要になる。また、安価で大量な水素などの脱炭素に向けたインフラの整備も必要であるが、様々な革新的技術の効果や実現可能性などを検証しながら、2050年目標の実現に向けて、しっかりと技術開発に取り組んでいく」(植木美知也)
「上期の鉄鋼事業のセグメント利益は前回予想より88億円改善した。粗鋼生産量が予想より17万トン増えたことで40億円プラスとなり、上期に計画していた研究開発費が下期にずれたことやグループ会社が想定よりも改善した」
――下期の需要をどうみているか。
「前回見通し時点よりも自動車生産の回復が鮮明になっている。建機も想定より回復のピッチが速い。建築は再開発案件や物流倉庫は堅調だが、中小物件は設備投資の抑制などコロナ影響により低調だ。造船は上期に対して受注量が増えてきているが手持ち工事量が少ない。エネルギー関係も回復に時間を要する見込みでシームレス鋼管、厚板は影響を受けている。一方でコンテナ船などの海上輸送は市況が戻ってきているため、引き続き様子をみていきたい」
――下期想定は設備稼働率85%、粗鋼1230万トン。生産はもう少し上振れしそうか。
「福山の第4高炉を1カ月前倒しで9月に再稼働し、順調に操業している。下期の需要に対しての生産設備の体制は整えたと思っている。コロナの第3波は気になるところだが、需要次第で出銑比などで稼働率を調整していく」
――鉄鋼事業の利益は上期の1362億円の赤字から下期は12億円の黒字となる予想。上振れする可能性は。
「下期の黒字化の要因は生産量の増加が大きい。棚卸資産評価損の戻りも出てくる。それとコストダウンが下期に向けて効いてくる。利益は鋼材の販売価格や原料価格による。鋼材の販価は上がる見込みだが、原料炭価格も下期後半にかけてサイクロン等の季節要因により上がる見通しだ」
――鋼材販価の是正の進捗は。
「主原料価格が下期にトン5000円ほど上がる見通しなので、販価を上げていく。10―12月の原料炭価格が決まり次第、速やかに販価に反映していく。諸物価の上昇や老朽化設備の更新コストの増加を販価に反映する活動も継続する。また、全品種を対象としたエキストラの見直しにも取り掛かっている。エキストラの設定から時間が経っているものがあり、製造コストに加え、研究開発コストを転嫁できていなかった部分がある。お客様からどう評価され、価値を認めていただいているかを見極めながら総点検を実施し、適正な商品価値、付加価値に基づく価格体系を追求する。社内でも、商品に見合った価値を認めていただけると思えば、次の開発にもつながってくる」
――海外市場をどうみているか。
「中国は粗鋼生産が増え、一方で鉄鋼の輸入量も増えている。熱延コイルの価格は500ドルを超えている。内需が落ちた際には輸出が増えることが懸念されるが、今のところは国内で消費している。インドの鋼材がロックダウン時に中国に向かい、結果的に東南アジアの鋼材市況が保たれた。足元ではインドの内需が回復してきているので東南アジアの黒皮ホットの市況は上がる余地がある」
――海外事業拠点の業況は。
「中国は自動車用鋼板を製造するGJSSがフル生産を続けている。鋼管製造のJJPは生産量が増え、鉄粉製造のBJCMXも改善が進んでいる。インドは出資先のJSWスチールが上期に需要減の打撃を受けたが、下期は自動車生産が増えるなど収益は上に振れている。ベトナムのFHSはフル稼働に近い。ミャンマーのカラー鋼板拠点は日本人エンジニアリングを現地に戻し、順次立ち上げている。タイとインドネシアの自動車用鋼板拠点は現地の自動車生産が低調で厳しい状況が続いている。ニューコアと合弁のメキシコの自動車用鋼板拠点はニューコアや当社の社員が戻り、11月中に再稼働させる」
――構造改革の前倒しを決めた。
「千葉地区の第6高炉の改修をどこまで早められるかがポイントだった。改修完了時期を22年12月に前倒しし、これによって京浜地区の高炉と熱延設備を9カ月後の23年9月に休止することを決めた。京浜から千葉に生産を振り替える品種が多いため、千葉の第6高炉稼働後での生産振り替えとお客様評価のための期間を勘案した。今年度に減価償却費160億円、補修費抑制など固定費で100億円と260億円の削減効果を見込んでおり、構造改革に伴う収益改善効果を早期に発現させる」
――来年度の黒字化のめどは。
「下期の連結の収益はトントンだが、一過性要因を除いてマイナス120億円。このレベルであれば、21年度は倉敷地区の新連続鋳造設備や福山地区のコークス炉改修の新稼働設備の変動費の効果が期待できることもあり、利益を確保できる。粗鋼生産が2400万トンであっても黒字を出せるよう計画を立てている。今年度下期は1230万トンなのでその2倍とすれば2460万トンと数量、利益は上に振れる可能性はある」
――資産圧縮を進めている。
「圧縮幅は19―20年度合計1700億円で20年度上期までに株式の売却で約570億円、棚卸資産の圧縮で約290億円と合計900億円弱を実行済み。政策保有株はお客様のご了解を得たうえで売却を進めており、現時点では継続保有している部分についても相談を進めている。JFEスチールは上期に鉄鉱石や原料炭の在庫を過去最低のレベルに圧縮し、製品在庫も圧延のサイクルやデリバリーをみながら削減している。下期は生産が増えるので少し見直す。設備投資は計画通り1300億円の圧縮を実行していく。有利子負債残高は今年度末に1兆9000億円、DEレシオ106・6%の予想であるが、それぞれについて、2兆円以下、100%を下回るレベルを目指す」
――エンジは上期の利益が前回予想を上回り、下期予想が上期を上回る。商事は下期の利益が上期を下回る。
「エンジは受注が堅調だ。国内の鋼構造物改築案件の他、独子会社のスタンダードケッセル・バウムガルテが大型ごみ焼却炉を受注した。商事は、北米エネルギー分野の市況低迷などの要素はあっても、一過性要因を除けば下期の利益は上期を上回っている。通期はエンジで210億円、商事で130億円の利益を見込んでいる」
――京浜の跡地利用は。
「横浜のみなとみらい地区の開発は数十年行っている。京浜地区の跡地はそれより広い。川崎市が市の将来のグランドデザインをどう描くかにもよる。市とはこれまでも土地利用で交流を図っており、どのように活用していくかをよく協議していきたい」
――西日本製鉄所倉敷地区で電磁鋼板製造設備を増強する。前倒しの考えは。
「自動車の電動化のスピードが速まれば、電磁鋼板の増強のスケジュールを考える。取り逃さないように需要の変化をみるが、今のところはスケジュール通りだ」
――次期中期計画のテーマは。
「今年度下期の生産量が見えてきたことを踏まえて、内容や策定タイミングを検討する。23年の構造改革など、すでに決定しているものを含め、中長期的な成長戦略を考えていく」
――2030年にCO2排出量20%以上の削減、2050年以降のカーボンニュートラルを掲げた。
「2030年の目標は当社の保有技術で達成できる。2050年のカーボンニュートラルとなると水素還元などの技術が必要になる。また、安価で大量な水素などの脱炭素に向けたインフラの整備も必要であるが、様々な革新的技術の効果や実現可能性などを検証しながら、2050年目標の実現に向けて、しっかりと技術開発に取り組んでいく」(植木美知也)
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