――2020年度上期決算をどのように評価しているか。
「上期決算は前年同期比で減収になり、営業損益は94億円の赤字となった。米中貿易摩擦等で景気が減速していた中、新型コロナウイルス感染拡大の影響が加わり、鋼材出荷数量は47万8000トンと16万3000トン減少したことが大きい。コロナ影響は1―3月から出始め、上期は薄板、厚板、棒線と全品種で需要が大幅に減少。薄板と棒線は自動車向けを主体に需要が回復傾向にあるものの、薄板についてはインバウンド需要が減ったことで、ホテルや外食産業の厨房向けが低迷を脱し切れていない。厚板はプロジェクト向けが多く、上期は2―3割減、下期も上期同様の水準で推移しそうだ。このほか、コロナ禍で工事や許認可の遅れが、全品種の出荷に影響を及ぼしている」
――下期の見通しを。
「下期の出荷数量は足下では58万トン程度とみており、至近の需要動向を踏まえ、期初計画比で4―5万トン上方修正した。下期は上期比10万トンの増加となり、黒字を確保するめどが立っている。通期での黒字化は難しい状況であるが、上期の赤字分をミニマイズし、黒字化に向けて一丸となって取り組んでいるところだ」
――収益改善に注力してきた。
「19年度の出荷数量129万3000トンに対して、20年度見通しは106万トン前後。19年度の経常利益は55億5000万円であったが、20万トンを超える数量減で200憶円を超える収益悪化を余儀なくされるところ、各部門で対策を実行したことで、100億円規模の収益改善を実現している。具体的な対策としては、衣浦製造所の熱間圧延設備と精密品専用製造設備の休止、KPI(操業指標)改善など薄板の抜本的製造実力向上、不採算明細の解消、雇用調整助成金の受給などが中心になる」
――19年4月の日鉄ステンレス発足時の出荷数量前提は150万トン。これを大きく下回る場面が続いている。
「日鉄ステンレスのビジネスプランは150万トン出荷を前提にスタートしている。以降、19年度は米中貿易摩擦や消費税増税で130万トン、20年度はコロナ影響で106万トンに減少した。ステンレス製品は国内市場が人口減少などに直面し、海外は中国ミルの設備増強で旧日新製鋼が行っていた汎用品輸出は維持が難しく、輸入材の脅威もある。先行きも国内、海外ともにマーケットが拡大することは考えにくく、事業の骨格をリセットし、出荷数量が100万トンでも黒字を確保できる事業構造を構築しなければならない。発足時点の固定費を2年かけて9割程度まで減らしてきたが、100万トンでも安定的に黒字を確保するために、さらに1割の削減に取り組む」
――固定費削減の具体的な取り組み内容は。
「鹿島製造所、衣浦製造所、山口製造所の光と周南の薄板三製造所四工場を中心に、全社の最適生産体制を追求していく。衣浦の設備休止は結果的に、最適生産体制構築の入り口にならざるを得ない。上工程の製鋼については、光、周南、日本製鉄九州製鉄所八幡地区(戸畑)が各々の機能を有しており、100万トン前提の場合でも集約することは難しいが、付帯設備の効率化など、検討の余地はある。これらの最適生産体制の構築により、損益分岐点を引き下げる。この結果、過剰な上方弾力は整理されるが、国内市場でシェアを失うつもりはない。最適生産体制を追求し、固定費の一段の削減に取り組むが、需要が大幅に回復するのであれば、国内外でのOEMなど、上方弾力確保のための対策はある。また全社最適生産体制は、安定的な収益を確保するための大前提であり、固定費の削減ばかりではなく、その上に成長戦略を構築する。当社は日本製鉄グループの製鉄事業で唯一のステンレス鋼総合メーカーとして、世界的に見ても品質、納期、商品メニュー、技術力や開発力に優れるユニークな会社だ。これらの特長をさらに伸ばして行くためにも、成長投資は不可欠であり、二相鋼や高合金鋼、極厚品などの高級鋼の製造能力拡充に向けて、上工程において、攻めの武器となる戦略的な投資を進めていく。強靭な事業構造を構築し、再びコロナ禍のような事業環境に見舞われた場合にも、安定的に黒字を確保できる、社員が誇れる会社にする」
「固定費の削減と並行して、KPI改善、不採算明細の解消などのマージン改善も継続する。旧新日鉄住金ステンレス時代から注力してきたソリューション拡販営業が着実に進んでおり、二相鋼やFWシリーズ、抗菌機能性ステンレス鋼など、独自の商品ラインアップが広がっている。相対的に汎用品の取り扱い比率が高かった日新製鋼出身者も一丸となって、高付加価商品の開発・販売に取り組んでいる。システム統合も進捗しており、21年4月に会計や人事などの業務系システム、10月にはオーダーエントリーシステムが統一できる予定であり、業務効率化を通じて、社員1人当たりの生産性も旧新日鉄住金ステンレスの水準まで高める」
――薄板の抜本的製造実力向上の進捗は。
「着実に進んでいるが、まだ十分ではない。例えば光と周南の歩留を比較すると、周南はまだ光に追いついていない。社内トップランナーの技術移転を進め、製造コストや歩留、保留率など、製造所間の差を縮めているが、トップランナーも追い越されないよう努力しており、良い相乗効果が生まれている。光と周南は発足後に工場長の入れ替えを行ってきたが、20年10月の組織改正で、光と周南のエリア制を廃止し、製鋼と薄板の各工場をそれぞれ製鋼部、薄板部の下に統合した。指示命令系統を集約したことで業務最適化や人材基盤強化の取り組みを遂行しやすくなる。今後システムを統一することで、とくに周南、衣浦の製造実力が高まるものと期待している」
――衣浦の設備休止効果を。
「衣浦の熱間圧延設備を10月末で、精密品専用製造設備9月末で休止した。熱間圧延設備は12月末を計画していたが、2カ月前倒しで実施した。衣浦は統合発足前から稼働率が低いという問題意識を有していたが、統合を機に諸施策に取り組んできた結果、着実に改善してきている」
――海外の連結事業会社の見直しはどうか。
「海外事業会社は当社の事業への寄与と収益性の視点で精査を進めており、継続保有の意義を見出し得ないものは撤退する。20年度内には方向性が見えてくる」
――NSステンレスと日鉄ステンレス販売が統合し、11月1日付で新生・NSステンレスが誕生した。
「私自身、旧NSステンレス発足に関わった1人。住友商事、日鉄商事(現・日鉄物産)、旧新日鉄住金ステンレスが共同で出資したが、住友商事の大久保憲三副社長(当時)が、『伊藤さん、一次商機能を持った二次商で、かつコイルセンター機能を持った新しい流通を作りましょう』と提案に来たのを覚えている。一次商機能は安定した収益源であり、NSステンレスは黒字を維持している。今回、日鉄ステンレス販売と統合したことで、一次商機能で得た利益を投入して二次商機能やコイルセンター機能を強化し、日鉄ステンレス販売の販売網を駆使することで、需要家に対するきめ細かな拡販営業を展開してほしいと、澤田充社長に伝えている」
――4月から企業名の略称と規格略号をNSSCに統一した。
「NSSCは日鉄ステンレスの英語名称であるニッポン・スチール・ステンレス・スチール・コーポレーションの頭文字。ニッポンスチール(日本製鉄)のステンレス会社であり、旧新日鉄住金ステンレス、旧日新製鋼の社員には、日本製鉄の製鉄事業におけるステンレス鋼事業は当社が担っているという心根、プライドを持って業務にあたってもらいたい。NSSCの旗印の下、出荷数量100万トンでも安定的に黒字を確保できる事業を構築するという大きな改革を実行する」
――コロナ禍でテレワークを継続している。
「3月の緊急事態宣言発令後、私自身もテレワークを行ってきた。本社や支店などのテレワーク率は現在5割程度。一方で各製造所のスタッフは、概ね通常どおり生産に従事している。日本の鉄鋼業は国民生活に必要な素材産業であるという大きな認識の下、感染対策を徹底した上で、操業を続けてもらっている」
――日本製鉄との連携はどうか。
「歴史を振り返れば、旧新日鉄住金ステンレス発足時は新日本製鉄80%、住友金属工業20%の出資比率。その後100%子会社になり、今日に至っている。クロム系鉄源の供給、光出鋼スラブの熱延工程を戸畑に委ねているとともに、衣浦の熱延設備休止、瀬戸内製鉄所呉地区の閉鎖によって、『周南・出鋼→衣浦・熱間圧延』、また『周南・出鋼→呉・熱間圧延』の工程が解消され、当社の熱延母材はすべて戸畑から供給してもらうことになり、日本製鉄との連携が一段と重要になる。冷延製品の品質には母材の品位の影響が大きく、また日本製鉄の体質強化は当社のコストにも大きな影響があり、戸畑からの熱延母材の供給については品質、コスト両面で期待している。ミル移管については、お客様の了解を得なければならない事項であり、並行して旧新日鉄住金ステンレスと旧日新製鋼の鋼種統合も進めていかなければならない。これら全てを円滑に進められるように、親会社とは緊密な連携を維持して取り組むように指示している」(濱坂浩司)