2020年10月27日

「三菱商事 金属資源グループの戦略」環境・デジタルに対応 田中格知GCEO 既存領域から軸足広げる

三菱商事の金属資源グループはデジタル技術を生かした操業の効率化、銅など次世代資源の確保を進めながら、環境など社会課題対策にも本腰を入れる。デジタル化にも取り組むという田中格知GCEOに方針を聞いた。

――コロナ対策は。

「ウィズコロナの間は安全健康第一だ。資源は資本集約型であるが、かなりの労働力が現場にいる。うちの鉱山も外注業者を含めると数千人規模で感染している。オーストラリアは封じ込めがうまくいった。それでも健康面を最優先とするコロナ対策を徹底した結果、一部生産性は低下した。ペルーとチリは感染者数が多く、防疫対策の強化により人員を減らしつつ操業しているが、生産への影響は限定的。銅は需要が中国中心に戻ってきたことに加えて、供給が制限を受けているので原料炭より早く価格が回復した。銅はLME(ロンドン金属取引所)商品なので、各国中央銀行の量的緩和による供給資金が流入しやすい環境にある。鉄鉱石の海上貿易市場に占める中国の割合は約70%であり、中国の出銑が伸びれば鉄鉱石価格が上がる構図だが、強粘結炭は中国で約4億トンの国内生産があり、粗鋼生産量の急拡大や沿岸部での近代的大型高炉稼働による需要増加に伴い、強粘炭の純輸入国に転じたものの海上輸入量は1割程度だ。中国政府の財政支出により、出銑もよかったので鉄鉱石価格が原料炭よりも高い月が何カ月か続いた。下期に向けてはインドやヨーロッパ、日本の高炉再開や稼働率上昇が見え始めている。コロナを封じ込めながら経済を回さないと大変なことになる。去年から米中の問題に端を発してグローバル対中国みたいな構図を先進国が作り始めており地政学的な不透明さもある」

――グループの通期純利益予想630億円の上方修正もあるか。

「下期は需要が増え、供給はそんなに変わらない前提だ。原料炭価格の変動はあるがそれはある程度織り込み済みでありあまり楽観視していない。2017、18年は2期連続グループの最高益を更新した。19年度は2123億円となり、3期連続2000億を上げた。グループ一丸となって資産の優良化をやり遂げ、キャッシュと利益を生み出せる資産が残った。やってきたことは間違っていなかったが期待値を含めるともう少し。投融資残高は1兆6000億円くらいある。リターンは10%くらいが理想とすると、630億は少し小さい。市況に左右されやすいグループだが、悪い時でもいい数字を出したい」

――鉄鉱石権益を持つ会社は稼ぎが大きい。商品ポートフォリオに課題があるか。

「課題はある。10年前は原料炭の一本足打法だったが、銅で大型投資を実行し、原料炭と銅を中核商品とすることができた。まだ原料炭のエクスポージャー(リスク資産)は大きい。元々9つの商品があったが、原料炭、銅に鉄鉱石とアルミを加え、ポートフォリオは今4つに絞っている。他商社に比べると鉄鉱石が見劣りする。上位4社で75%シェアの安定した業界構造であり、鉄鉱石を増やすのは難しい。多額のプレミアムを払って権益を増やす地合いでもない。権益を買い増せるチャンスがあったら検討するが、業界構造を揺さぶるような機会は転がっていない」

――投融資は。

「ペルーのケジャベコ(銅山)は権益比率を一昨年18から40%に上げた。権益代だけでも5億ドルだ。総工費50億ドル強の4割でも2000億円強なので巨額の成長投資を打っている。20年度でもキャッシュアウトは600億くらい出る。BMAに代表される既存の鉱山で数百億円規模の操業維持型投資が出ていく。スタートアップ系も将来の成長の種として幾つか投資している。業界を取り巻く環境でこの1、2年大きく変わったのは環境とデジタルだ。CO2(二酸化炭素)にどう向き合っていくか。特に原料炭や一般炭はまさに炭素だ。石炭を掘る際のCO2排出量は全体の5%くらいで、それ以外の大半は使う過程で排出される。そこで、富山大学、千代田化工建設、日鉄エンジニアリング、日本製鉄、ハイケムと三菱商事という連合で、CO2からパラキシレンを製造する技術開発に取り組む。また、鹿島建設と中国電力と三菱商事でCO2をコンクリに吸着させる共同技術開発にも取り組んでいる。引き続き資源の安定供給を実現する一方で、環境意識の高まりにより積極的に社会に貢献する。デジタルは具体的な取り組みを始めているが一つはBMAの鉱山でトラックの自動化。大規模炭鉱での無人化は初めてだ。鉄鉱石での技術を石炭に導入して安全性と生産効率を高める。BMAを例に出すと、操業コストが一番高かったのが11年。そこから不況が来て試行錯誤しながら当時に比べて4割くらいコストを下げた。従来のやり方ではこれ以上絞れない。デジタルに足を踏み入れないといけないという判断で進めている。デジタル人材として日本と現地専門人材の8人の混成チームをBMAに派遣し、BMAの操業データをデジタル化して操業効率の向上を目指す」

――金属資源のCO2対策は需要家側の排出に対する取り組みか。

「商社なので将来的にはビジネスにつなげていかねばならない。スコープ1、2、3(CO2排出の範囲、3は需要家など取引先)がある。スコープ1、2では使用電力の省エネ化や、将来的には鉱山機械の電化や水素燃料車両の導入などの低炭素化を進めていく必要がある。もう一つはバリューチェーン全体での排出量削減、いわゆるスコープ3に向け、MDPとBHP間でCO2削減関連技術への共同支援検討に関する覚書を締結した。また、三菱商事社内にグループ横断のCCUタスクフォースを組成した。総合素材、天然ガスなどの他グループとも連携し、各業界の知見を持ち寄り、社会課題に取り組んでいる。もう一つ水素社会が来る。これもグループ横断で取り組んでいる。水素社会になると貴金属の需要が圧倒的に増える。そういう需要を念頭に置きながら進めている。それぞれのグループがそれぞれのアングルで水素の技術を見る。CO2削減は大事な社会課題で真面目に取り組んでいるが、タイミングを見誤ってはいけない。足元をしっかりと固めて、安く安全に掘ること。今の領域からあまり飛び地に行かない形でCO2回収技術などの環境やデジタル、といった分野にも少しずつ軸足を広げていく。前の中経はうちのグループは資産の質を高めた。現中経は来年までの事業計画だが、経営の質を高める取り組みをしている。チャンスがあれば権益比率を高めることも視野にいれながら経営関与度を高めて、出向社員を多く派遣して、三菱商事の経営の質を高める。次の中経はもっと環境とかデジタルに目を向けていかなければいけないと思う」

――触媒の金属に投資することも。

「ありだ。電気自動車とか風力発電所などは火力に比べて銅線を使う。銅を掘ることは環境に良い社会を作ることになる。同じことはアルミにも言えて軽量化の側面で環境負荷が減る。非鉄系は社会課題との関連性が高い。もう一つ社会の流れ的に(電池の)正極材だ。一時期やっていたが今は資源を持っていない。資源メジャーはリチウム、コバルト、ニッケルに投資している。資源投資にもう一度進出する選択肢はある。ただ原料炭、鉄鉱石、銅、アルミという基礎素材に比べると電子材は陳腐化が激しい。3年後には全く違う電池かもしれない。資源投資には長期の視点が必要だ。大規模な資本を打っていくまで決断できていない。そういう商品を顧客に届けることは商社の使命の一つなので、トレーディング本部のRtMで安定供給に貢献するようグループの戦略と明確に位置付けている」(正清 俊夫、松尾 聡子)

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