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2024.12.4
2020年9月16日
営業戦略を聞く JFEスチール 小林俊文副社長 製品価格体系を再構築 原料高、鋼材価格に反映へ
――下期は粗鋼生産を上期に比べ200万トン増やす計画だ。
「下期の粗鋼生産計画1200万トンに基づき、バンキング(一時休止)を行っていた西日本製鉄所福山地区第4高炉の送風を8月26日に再開した。上期の粗鋼が1000万トンなので変化の幅が大きいと言われるが、それでも以前の水準には戻らない。悲観的にも楽観的にも見通しておらず、上期に実行した在庫圧縮の影響がなくなる点も含め、下期1200万トンの粗鋼生産は適正な量ではないかとみている。需要の回復度合いを見極める必要はあるが、これは福山第4高炉が順調に稼働する前提での計画。環境や数量が短期間で変動する中で品種や販売先ごとのニーズに合致するよう、10―12月期と来年1―3月期の生産量のバランスや各地区間のバランスを最適化し、供給責任を果たす」
――下期の需要をどうみているか。
「下期に増加する粗鋼200万トンの大きな要因は自動車生産台数の増加だ。今年度の国内生産台数を上期330万台、下期450万台とみており、自動車向け鋼材は下期に大幅に増えることになる。薄板やステンレス、棒鋼、電磁鋼板、鋼管、鉄粉など幅広い鋼材の需要が自動車生産台数に応じて増える。土木向けは堅調かつ季節要因もあり下期は需要が増加する。産業機械や建設機械は底を打ち緩やかに改善するが、造船は上期より需要が落ち込む見通しだ。輸出は自動車の活動水準が回復に向かうことに加え、海外のホット市況が底から回復しており、引き合いも強い。各国が経済活動の再開にシフトしている効果が出始め、インドや中近東、アフリカ、南米など需要が上向いている。中国の需要はコロナ禍前か、それ以上の水準。アセアンは緩やかながら回復途上にある。ただ、需要という視点だけで輸出を増やす考えはなく、採算性をよく見極めたうえで対応していく」
――稼働中の高炉の出銑比を上げている。
「倉敷地区の高炉を1基改修している中で自動車向けを中心とした需要の回復に向かうため、福山第4高炉の立ち上げが必要だ。千葉地区は製鋼工程のメンテナンスがあり、うまく調整しなければならない。各分野の需要を見極めながら、各製鉄所の生産のバランスを考えていく」
――4―6月期に輸出比率が44%超と少し上がった。需要が好調な中国向けが増えているのか。
「4―6月期の輸出比率の変化は国内の在庫調整を含めた数量減少が直接の要因だが、中国が先んじて回復に向かったことから、自動車用鋼板を製造する事業会社のGJSS(広州JFE鋼板)への原板輸出を増やしている。倉敷の高炉が改修中であることに加え、今後は国内の需要もある程度回復してくるとみており、輸出比率を大きく上げるということはない」
――生産量が限られている中で収益を上げるには価格政策がより重要になる。
「トン当たりのコストが以前より相当高くなっている。人件費や外注費、運搬費、電力など日本の製造業は高コスト体質になり、生産能力と製品価格を維持するだけでは収益を出せなくなっている。選択と集中が重要だ。国内向けはしっかりと対応しつつ、海外は我々の技術を生かせるところ、商流・物流含めサプライチェーンを生かせるところに販売していく。プロダクトミックスを変え、収益性を改善していく。こうした改革の集合が結果として収益を生むと考えている。来年度は下期の1200万トンと同水準の年間2400万トンの粗鋼生産前提で黒字化を目指すが、足元の急な減産下で実施した変動費を抑制する取り組みを通じて製造実力を向上し、継続的な販売価格改善の活動に取り組み、環境の変化に柔軟に対応することで、確実に利益を上げていける体制を構築することが重要だ」
「各種コストが高くなる中で安価な原料・副原料を使用する、省エネを進めるなど最大限の自助努力に努めたうえで、それでも補いきれない部分を価格に転嫁していく。一方で、製品の付加価値を再評価し、エキストラ価格と物流コスト負担のあり方を考える活動を進めている。時代にそぐわなくなっている面もあり、全品種について改めて価値の定量化と価格体系の再構築に時間をかけて取り組む。製造体制だけでなく、『製品価格の構造改革』にも取り組んでいく」
――原料コストが下期にさらに上がりそうだ。
「鉄鉱石の価格が足元上がっており、原料炭の価格も経済回復につれ徐々に上がる見込みだ。主原料価格の上昇は鋼材トン当たり5000円を超える規模になるのではないか。価格政策において足元の課題であり、主原料価格を販売価格に連動させるスキームを採用していない個別交渉の向け先においても、11月末の原料価格確定を受け、速やかに反映していきたい」
――海外の事業会社の状況は。
「立ち上がったばかりのカラー鋼板製造のJFEメランティ・ミャンマーと大径溶接鋼管製造のUAEのアル・ガービア・パイプはコロナ禍やエネルギー需要低迷の影響を受けて操業は低調。自動車用鋼板製造のニューコアJFEスチール・メキシコはコロナ禍により稼働できない状況が継続している。いずれもこの期間にやるべきことをやり、今後の確実な生産に繋げられるよう準備を進めていく。タイやインドネシアのCGLは需要次第だが、4―6月の落ち込みからずいぶん回復している。中国はGJSSが好調。鋼管製造のJJP(嘉興JFE精密鋼管)は自動車と建機向けが増え、鉄粉製造のBJCMX(宝武JFE清潔鉄粉)は当初苦労したが、足元自動車向けに生産が増えている。宝武鋼鉄集団との特殊鋼棒鋼の合弁事業は始めたばかりだが足元も順調であり、これから楽しみにしている」
――出資先のフォルモサ・ハティン・スチールやJSWスチールとの協力の新たな展開は。
「フォルモサは出資比率が低いものの大事な海外の拠点であり、他の株主と共同で何ができるかをいろいろと考えていきたい。JSWとは自動車用鋼板と無方向性電磁鋼板の技術協力を行っているが、今後も協力できるところは協力し、当社のグローバルでのサプライネットワークの強化を図っていく」
「国内の戦略投資としては、倉敷地区の電磁鋼板の製造設備増強を検討中だ。他社も増強する予定を公表しており、23―24年頃に増える需要を捉えるために必要な投資として、当社としても検討を進めていく」(植木 美知也)
「下期の粗鋼生産計画1200万トンに基づき、バンキング(一時休止)を行っていた西日本製鉄所福山地区第4高炉の送風を8月26日に再開した。上期の粗鋼が1000万トンなので変化の幅が大きいと言われるが、それでも以前の水準には戻らない。悲観的にも楽観的にも見通しておらず、上期に実行した在庫圧縮の影響がなくなる点も含め、下期1200万トンの粗鋼生産は適正な量ではないかとみている。需要の回復度合いを見極める必要はあるが、これは福山第4高炉が順調に稼働する前提での計画。環境や数量が短期間で変動する中で品種や販売先ごとのニーズに合致するよう、10―12月期と来年1―3月期の生産量のバランスや各地区間のバランスを最適化し、供給責任を果たす」
――下期の需要をどうみているか。
「下期に増加する粗鋼200万トンの大きな要因は自動車生産台数の増加だ。今年度の国内生産台数を上期330万台、下期450万台とみており、自動車向け鋼材は下期に大幅に増えることになる。薄板やステンレス、棒鋼、電磁鋼板、鋼管、鉄粉など幅広い鋼材の需要が自動車生産台数に応じて増える。土木向けは堅調かつ季節要因もあり下期は需要が増加する。産業機械や建設機械は底を打ち緩やかに改善するが、造船は上期より需要が落ち込む見通しだ。輸出は自動車の活動水準が回復に向かうことに加え、海外のホット市況が底から回復しており、引き合いも強い。各国が経済活動の再開にシフトしている効果が出始め、インドや中近東、アフリカ、南米など需要が上向いている。中国の需要はコロナ禍前か、それ以上の水準。アセアンは緩やかながら回復途上にある。ただ、需要という視点だけで輸出を増やす考えはなく、採算性をよく見極めたうえで対応していく」
――稼働中の高炉の出銑比を上げている。
「倉敷地区の高炉を1基改修している中で自動車向けを中心とした需要の回復に向かうため、福山第4高炉の立ち上げが必要だ。千葉地区は製鋼工程のメンテナンスがあり、うまく調整しなければならない。各分野の需要を見極めながら、各製鉄所の生産のバランスを考えていく」
――4―6月期に輸出比率が44%超と少し上がった。需要が好調な中国向けが増えているのか。
「4―6月期の輸出比率の変化は国内の在庫調整を含めた数量減少が直接の要因だが、中国が先んじて回復に向かったことから、自動車用鋼板を製造する事業会社のGJSS(広州JFE鋼板)への原板輸出を増やしている。倉敷の高炉が改修中であることに加え、今後は国内の需要もある程度回復してくるとみており、輸出比率を大きく上げるということはない」
――生産量が限られている中で収益を上げるには価格政策がより重要になる。
「トン当たりのコストが以前より相当高くなっている。人件費や外注費、運搬費、電力など日本の製造業は高コスト体質になり、生産能力と製品価格を維持するだけでは収益を出せなくなっている。選択と集中が重要だ。国内向けはしっかりと対応しつつ、海外は我々の技術を生かせるところ、商流・物流含めサプライチェーンを生かせるところに販売していく。プロダクトミックスを変え、収益性を改善していく。こうした改革の集合が結果として収益を生むと考えている。来年度は下期の1200万トンと同水準の年間2400万トンの粗鋼生産前提で黒字化を目指すが、足元の急な減産下で実施した変動費を抑制する取り組みを通じて製造実力を向上し、継続的な販売価格改善の活動に取り組み、環境の変化に柔軟に対応することで、確実に利益を上げていける体制を構築することが重要だ」
「各種コストが高くなる中で安価な原料・副原料を使用する、省エネを進めるなど最大限の自助努力に努めたうえで、それでも補いきれない部分を価格に転嫁していく。一方で、製品の付加価値を再評価し、エキストラ価格と物流コスト負担のあり方を考える活動を進めている。時代にそぐわなくなっている面もあり、全品種について改めて価値の定量化と価格体系の再構築に時間をかけて取り組む。製造体制だけでなく、『製品価格の構造改革』にも取り組んでいく」
――原料コストが下期にさらに上がりそうだ。
「鉄鉱石の価格が足元上がっており、原料炭の価格も経済回復につれ徐々に上がる見込みだ。主原料価格の上昇は鋼材トン当たり5000円を超える規模になるのではないか。価格政策において足元の課題であり、主原料価格を販売価格に連動させるスキームを採用していない個別交渉の向け先においても、11月末の原料価格確定を受け、速やかに反映していきたい」
――海外の事業会社の状況は。
「立ち上がったばかりのカラー鋼板製造のJFEメランティ・ミャンマーと大径溶接鋼管製造のUAEのアル・ガービア・パイプはコロナ禍やエネルギー需要低迷の影響を受けて操業は低調。自動車用鋼板製造のニューコアJFEスチール・メキシコはコロナ禍により稼働できない状況が継続している。いずれもこの期間にやるべきことをやり、今後の確実な生産に繋げられるよう準備を進めていく。タイやインドネシアのCGLは需要次第だが、4―6月の落ち込みからずいぶん回復している。中国はGJSSが好調。鋼管製造のJJP(嘉興JFE精密鋼管)は自動車と建機向けが増え、鉄粉製造のBJCMX(宝武JFE清潔鉄粉)は当初苦労したが、足元自動車向けに生産が増えている。宝武鋼鉄集団との特殊鋼棒鋼の合弁事業は始めたばかりだが足元も順調であり、これから楽しみにしている」
――出資先のフォルモサ・ハティン・スチールやJSWスチールとの協力の新たな展開は。
「フォルモサは出資比率が低いものの大事な海外の拠点であり、他の株主と共同で何ができるかをいろいろと考えていきたい。JSWとは自動車用鋼板と無方向性電磁鋼板の技術協力を行っているが、今後も協力できるところは協力し、当社のグローバルでのサプライネットワークの強化を図っていく」
「国内の戦略投資としては、倉敷地区の電磁鋼板の製造設備増強を検討中だ。他社も増強する予定を公表しており、23―24年頃に増える需要を捉えるために必要な投資として、当社としても検討を進めていく」(植木 美知也)
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