2020年9月14日

財務・経営戦略を聞く JFEHD副社長 寺畑 雅史氏 下期、黒字化の体質構築 変動費削減が来年度に効果

――4―6月期に連結の鉄鋼事業が578億円の赤字に転落した。

「西日本製鉄所で改修を予定している倉敷地区の第4高炉を早めに止め、福山地区の第4高炉でバンキング(一時休止)を行い、粗鋼生産量は前年同期の700万トンから479万トンと3割以上減少した。前年同期に比べ利益の要因は数量・構成で490億円のマイナスに。コスト削減は130億円のプラスとなったが、国内外のグループ会社の収益悪化等で223億円のマイナスとなった」

――7―9月期の鉄鋼事業は900億円近くの赤字予想。

「粗鋼生産の減少が続く。ただ、自動車メーカーの生産が上方修正されるなど需要は上向き始めている。土木は国土強靭化の予算が執行され、堅調に推移する。建築は都市部の再開発案件は比較的堅調に推移しているものの、中小物件が振るわない。造船は商談が停滞し、発注意欲の減退でビジネスが後ろにずれ込んでいる。スプレッドは7月以降ホットコイルの価格が回復基調であり、改善している」

――需要の回復に対応し、福山第4高炉のバンキングを8月に解除した。

「8月下旬に送風を始め、需要動向を見極めながら10月中旬以降のフル操業に向けて調整していく。福山は自動車向けの生産比率が高いので、下期の自動車生産の回復をみて再稼働が必要と判断した。他の稼働している高炉6基は出銑比をすでに高くしており、粗鋼量の確保には福山を再稼働させなければならない。単独粗鋼は上期1000万トン、下期1200万トンと200万トン増えるが、そのうちの大きな部分を自動車が占める。粗鋼生産が減ると下工程の稼働率が変わってくる。生産量の低いラインを止めて別のラインに集中させて生産するなど、下工程のラインの稼働方法など現場レベルでの柔軟な対応を実施している」

――連結鉄鋼事業の上期の1450億円の赤字から下期に収益ゼロと大幅に改善する予想。下期に利益が上振れする可能性は。

「下期は粗鋼生産量が増えることと、上期の間に進めてきたコスト削減の効果が出てくる。自動車生産は増える予想だが、それでも一定のリスクを織り込み、厳しめにみている。産業機械や建設機械などは一定の回復を予測しているが、需要がどれほど戻り、粗鋼生産がどれほど増えるかが収益を左右する。足元鉄鉱石の価格が上がっているが、鋼材価格が上がっており、一定のスプレッドは確保できるとみている」

――海外の事業会社や出資先の状況は。

「中国は自動車生産が増えているので、自動車用鋼板を製造するGJSS(広州JFE鋼板)は好調だ。日本からGJSS向けの原板の輸出を増やしている。鋼管製造のJJP(嘉興JFE精密鋼管)も早い段階で生産が増加した。タイとインドネシアの自動車向けの溶融亜鉛めっき鋼板製造会社は低調。タイ・インドネシア・インドの自動車生産量は大幅に減少しており、動向は楽観できない」

「出資先のJSWスチールの生産は減っているが、インドでのプレゼンスは高いので生産量さえ戻れば利益を上げることができる。ベトナムのフォルモサハティンスチールは鋼材価格が上向き、一時期の苦境を脱した。北米のCSI(カリフォルニア・スチール)はロックダウンの間も操業を続けていた。市場は低迷しているが、いずれ回復するとみている。ニューコアJFEスチール・メキシコは、ホットランはしたものの現在稼働できておらず、早く再開したい」

――19年度の下期から20年度にかけての資産圧縮幅をこれまでの1500億円から1700億円に増やした。

「政策保有株の売却が大きい。お客様と相談しながら予定通り進めている。また、主原料の在庫は過去最低レベルにまで削減している。製品在庫も圧延のサイクルやデリバリーの最適化によって圧縮している。資産は4―6月期までに520億円圧縮している。設備投資については決定した案件もゼロベースで見直し、圧縮幅を1000億円から1300億円に引き上げたが、安全、環境、防災など必要な投資はきちんと行う考えは変えていない」

――連結のJFEエンジニアリングとJFE商事は利益を確保している。

「エンジは4―6月期に計画案件の遅れなどコロナ禍の影響もあるが、焼却炉や上下水道などインフラ関連は堅調。前年上期に利益率の高い案件があり、その反動もあって減益となったが、下期は前年同期を上回る見通しで年間210億円(19年度231億円)と安定して利益が出る体制となっている。商事は上期に厚板や薄板の事業会社の加工量が減少したものの黒字を確保する予想。下期は国内外需要の増加に伴い販売が増え、年度の利益は120億円(270億円)を予想する」

――21年度は粗鋼2400万トンで鉄鋼事業の黒字化を図る計画だ。

「まずは20年度の下期に鉄鋼事業の利益をゼロに戻す。下期は高炉のバンキングの解除の途中だが、粗鋼1200万トンで黒字化できる体質を築く。倉敷の新連続鋳造設備や福山の第3コークス炉B団が立ち上がるので、変動費削減の効果を来年度に発揮する。上工程の設備なので効果は大きく、黒字化に効いてくる」

――中国はじめ海外市場をどうみているか。

「中国は粗鋼生産が大きく増え、懸念材料の一つだが、輸出はそれほど増えてなく、むしろ輸入が増えている。インド材が中国に向かい、それによって東南アジアの市場が保たれているなど国際市場に与える効果は大きい。米国やEUは自動車販売が底を打ったようで、各国での経済活動優先の政策によって需要が徐々に戻ってきている。新型コロナウイルス感染の第2波、第3波は懸念されるが、第1波のようなロックダウンは難しく、ウィズ・コロナのなかで経済が動いていくことになるのではないか。当社は23年度の東日本製鉄所京浜地区の高炉休止など構造改革を打ち出しているが、追加対策については、市場の変化を見極めながら慎重に検討していく」

――JFEスチールがDX推進拠点(JDXC)を設置した。グループにも効果を与えるのか。

「2年前の高炉のトラブルの際にセンサーを多く設置し、仮想空間を作って監視するなど技術が進んでいる。各地区のCPS(サイバーフィジカルシステム)・製造設備の遠隔監視など、より高度なDXを視野に入れた運用を進め、生産性向上やコスト削減を推進する。また、エンジでは既に焼却炉等のプラントの操業管理を集中管理するGRC(グローバルリモートセンター)を整備しており、操業の一括管理により現場での省力化も実現している」

――21年度からの次期中期計画の課題は。

「計画の前提となる環境の変化を見極める必要がある。各事業会社がきちっと数量を見据えて収益を出す中期計画はその前提がみえる段階で作るものと思う。ただ、各事業会社の中で明確な数値目標を持たなくても進められる案件については、検討をはじめていく。鉄鋼でいえば製造技術の強化や製品開発について議論していく。電磁鋼板の能力を23年度に増強するが、前倒しするかどうかは自動車関係の動向をみながら考える必要があり、いずれにしてもニーズをきちっと捕捉していく。エンジニアリングは設計・調達・建設等のいわゆるEPC案件に限らず、運転・維持管理を含めた運営型事業の拡大を図っていく。焼却炉の自動化やリモート運転も注目されており、ライフラインの維持・確保に貢献するビジネスの芽を確実に捕捉していく。また、スタートアップやベンチャーキャピタルファンドへの出資を決めており、新しいビジネスにも積極的にチャレンジしていく」(植木 美知也)

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