2020年8月28日

財務・経営戦略を聞く 日本製鉄副社長 宮本勝弘氏 下期連結 生産戻し黒字化へ 効率的意思決定 組織改革が効果

――連結事業損益が2019年度下期の34億円の黒字から20年度上期に1500億円の赤字予想と大きく悪化する。

「最大の要因は生産量の減少だ。生産・出荷の減少はグループ会社にも効いている。20年度上期は19年度下期に比べ生産・出荷減少が1550億円の減益要因となる。単独粗鋼生産が19年度下期の2030万トンから上期に1490万トンと540万トン減り、出荷は1884万トンから1410万トンと474万トン減る見通しだ。製鉄事業のグループ会社は730億円の減益と大きなインパクトを受ける。日鉄ステンレスや山陽特殊製鋼、電炉会社、海外事業会社いずれも生産が減っている。製鉄以外のセグメントは150億円の減益。鋼材価格は海外市場中心に落ちが激しく、マージンも60億円ほど悪化する見込みだ。一方で上期に360億円のコスト改善を行う。また減価償却を定率法から定額法に変更したことに加え、昨年減損を行ったため減価償却費負担が640億円軽くなり、合わせて1000億円のコスト低減効果を見込んでいるが、それでも大きな赤字となる。7―9月の需要環境は4―6月期とさほど変わらず、下期以降に少し戻る見通しだ」

――下期の事業損益予想が300億円の黒字となる要因は。

「生産量の効果が大きい。粗鋼は上期より200万トン、出荷は150万トン増え、生産・出荷の増加が550億円の増益要因となる。自動車関係の需要が戻るのでステンレスや特殊鋼、欧州のオバコや米国のAM/NSカルバートの生産が増え、グループ会社は480億円の増益。コスト改善を継続し280億円のプラスとなり、マージンも若干改善する」

――単独営業損益は赤字が続く。

「上期は連結事業損益が大きな赤字となり、鉄鋼の単独営業損益も赤字となった。昨年に比べ損益分岐点を相当下げたが、新型コロナの影響を受け、今の生産規模では下期も単独営業損益は赤字となる」

――需要は製造業が戻り、土木は堅調だが建築は減るのか。

「製造業は自動車中心に戻ってくるが、造船は受注が集まらず、工事のピッチダウンを行っており、下期に減少する。土木は季節性もあって下期はプラス。建築の上期は手持ち工事がありまだよかったが、非住宅分野の民間設備投資が保守的になり、製造業やサービス業は設備投資意欲が低下している。中小案件中心に工場や店舗、ホテルの着工見送りが増えている」

――20年度の内需を900万トン減の5000万トン強と予想している。日本製鉄の単独粗鋼は約1000万トン減る予想と内需の減少幅に対して大きい。輸出が大きく減るのか。

「輸出は海外市場の停滞から厳しい状況が続くが、当社の生産が大きく減少するのは在庫調整の影響もある。流通や需要家が在庫を絞っており、当社も在庫をよりスリムにしようとしている。下期は生産含め不透明なのでタイミングをみて可能な限り早く在庫を削減していく」

――下期は粗鋼生産を増やす計画だが。

「需要量が増えてきている。出銑比を下げて稼働している高炉はコストがかかるので今後は出銑比を上げていく。次に通常以上に休風している高炉の休風を取りやめる。高炉のバンキング(一時休止)は、減産の手段としては最もコストが低いのでバンキングの解除は最後となる。需要の多少の上振れであれば、鉄スクラップを増投入することで対応できる。需要を見ながら柔軟に対応したい」

――下期に単独粗鋼1690万トンを計画しているが、バンキング解除に至らないレベルか。

「ギリギリのところ。需要次第で下期にバンキングを解除する可能性はある。想定より需要が上に振れ、戻っていくとなればバンキングを順次解除していく」

――下期にマージンが改善する。鋼材価格が上がる見込みか。

「一部価格の改善を織り込んでいる。海外市況も少し上向く。足元中国の鋼材市況が上がっていることを考慮し、上期より鋼材価格が上がるとみている。品種構成がプラスになるのと合わせてマージンが改善する」

――鉄鉱石価格が足元上がり、トン120ドルを超えた。下期の原料価格の予測は。

「鉄鉱石の価格は足元の水準で織り込んでいる。原料炭は足元価格が下がっているが、下期は供給不安や天候の影響もあるので足元より若干高い価格で設定している。中国は鉄鋼生産を増やし、原料はタイトなままで、高水準の原料輸入が継続するとみている」

――今年4月に製造拠点の組織を13組織から6組織に組み直した効果はどのように。計画する設備の休止を前倒し、追加を検討する考えは。

「組織を大ぐくりにしたことで効率的に意思決定がなされている。改革の効果は見え始めている。設備の休止はスケジュール通りに進んでいるが、新型コロナの影響を受けて前倒しを検討している。成案化できたものから実行していく。設備でよりスリムにできるところがあれば行う。圧延ミルか、上工程からみるか。必要であれば市場の状況をみながら決めていきたい」

――20年度に固定費2000億円、変動費500億円以上の削減を計画している。

「スケジュール通りに進んでいる。固定費2000億円のうち1100億円は償却費、残り900億円はキャッシュコストで修繕費の削減が大きい」

――資産と設備投資の圧縮幅を今回、各1000億円増やした。

「資産は株式や土地の売却、在庫の圧縮などだ。設備投資は中期計画策定時の1兆7000億円から3000億円絞り、1兆4000億円の投入とする。意思決定ベースでこれだけ絞るが、工事ベースで発現されるのは1―2年後程度になるので実際にキャッシュや償却費が下がってくるのは少し先になる」

――電磁鋼板の能力をさらに増強する考えは。広畑に導入する電炉による高級鋼板製造の技術は確立しているのか。

「八幡と広畑で電磁鋼板の能力増強に700億円の投資を決め、着々と進めている。ニーズが高く、よりハイエンドの製品が必要になるので追加投資も検討しており成案化できれば公表したい。広畑に導入する最新電炉は自動車用鋼板や電磁鋼板の製造に活用する。コストは以前の溶解炉プロセスより低く、効果は期待できる。海外の合弁会社で電炉を持っており、鋼板の製造技術は確認している」

――海外で電炉や直接還元鉄の製法を活用する可能性は。高炉法とのミックスで展開することになるのか。

「電炉の活用は海外でも考えられる。インドの合弁会社のAM/NSインディアは電炉だけでなく直接還元のプロセスを持ち、知見は蓄積される。その他のところでも電炉や直接還元法の可能性を確認していく。電炉で高級品を造るにはピュアな鉄スクラップが必要で限りがあるのでベースは高炉法に頼り、適宜適切な場所で電炉や直接還元法を活用することになる」

――AM/NSインディアの操業状況は。

「建設インフラ向けが8割を占めているのでコロナ影響下でも生産の落ち込みは少なく、足元はコロナ前の水準に戻っている。インドは粗鋼生産が伸びていく。コロナで伸びるタイミングは遅れるかもしれないが、ベースは変わらず、AM/NSインディアの拡張計画を具体的に検討している」

――他の海外の事業会社の生産は回復しているのか。

「北米のIN/テック、IN/コートは上期でも高い利益を計上している。AM/NSカルバートも含め、下期に利益が増える計画だ。アジアは例えばインドネシアは経済が厳しいなかでも底を打ったようだ。戻るペースが国によって異なるが、回復に向かう局面とみている」

――中国は需要が堅調で粗鋼生産は過去最高だが、いつまで続くか懸念されている。

「中国は雇用対策等から経済成長を維持する必要がある。新型コロナや米中対立の状況を受け、あと数年は内需をブーストさせ続けるだろう。ただ、沿海部に製鉄所が建設されており、需要が減少に転じた際に輸出が増える可能性が懸念材料だ」(植木 美知也)

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