旧民主党政権が「コンクリートから人へ」を掲げ、2010年度の公共事業予算を3割近く削減してから10年が経つ。自然災害が多発し、土木はその重要性を再認識されるようになったが、普段生活する上で目立たず、縁の下の力持ちの役割を果たす。近年、ICT(情報通信技術)を活用したアイ・コンストラクションの普及に取り組む土木の今を追った。
公共事業予算はピークだった1998年度の15兆円を境に右肩下がりで推移し、旧民主党政権時代に5兆円台まで下がったが、ここ数年は年間6兆―7兆円レベルで推移している。国が「防災・減災、国土強靭化のための3カ年緊急対策」(18―20年度)を策定したことも背景にあり、21年度以降も国土強靭化対策を継続する方針で、当面土木関係予算は底堅く推移する見通し。
一方、建築と同様に土木従事者の減少も頭の痛い問題で、労働力不足を補うべく技術力を磨いてきた。特に土木の中でも危険なトンネル工事は、1メートル当たりの作業員数が1950年代の58人(東海道新幹線)から、2010年度は6人(近年の新幹線)まで減少した。在来工法の矢板工法から、地山自体の保持力を利用したNATM(新オーストリアトンネル)工法に切り替えたためで、大きくブレークスルーした。
だが、直轄工事の約4割を占める土工(切り土、盛り土)やコンクリート工は改善の余地が残る。国土交通省の調べによると、土工は1000平方メートル当たりの作業員数が1984年度に16人で12年度は13人、コンクリート工は100立方メートル当たりの作業員数が12人から11人とほぼ横ばいで推移しており、この約30年間で生産性はほとんど上がらなかった。
これを受け、国や建設会社は土木にもアイ・コンストラクションを導入し、CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)をベースに改革に取り組んでいる。調査・測量ではドローンやレーザースキャナを使い、3次元測量点群データを取得するほか、データをICT建機に読み込ませ自動運転させるなど、その後の検査、維持管理・更新までデジタル化が進む。
大手ゼネコンの大林組は、建設中の川上ダム(三重県)で約45万立方メートルに上るコンクリートを全自動で打設した。3次元データを基に、全長約1キロのベルトコンベアと国内初のタワークレーンでコンクリートを繰り返し運んだもので、工事全体で遠隔化や自動化を推進した。清水建設は、現場情報をAIで解析し、瞬時に現場へフィードバックする次世代型トンネル構築システム「シミズ・スマート・トンネル」を開発中で、今年度中の完成を目指している。
社会インフラの維持管理・更新も重要。国内には建設後50年以上経過する道路橋が20万橋以上、道路トンネルが2000本以上ある。国によると、社会インフラの維持管理・更新には推計で年間5兆―6兆円かかるとされており、日本建設業連合会の山内隆司会長(大成建設会長)は「自ら点検できない自治体も多く、公共インフラがノーチェックで使用されている」と指摘、計画的なメンテナンスが必要だと説く。
これまで以上に注力すべき分野として、防災・減災も挙げられる。近年、氾濫危険水位を超過する河川が増加しており、2014年の83河川(国、都道府県管理含め)から、17年以降は毎年400河川以上で推移している。短時間強雨の発生頻度も直近30―40年間で約1・4倍に拡大しており、国は河川や下水道、港湾施設の整備計画を見直す方針を打ち出している。
鉄鋼業界としても、鋼矢板や鋼管杭など土木向け鋼材や、それらを組み合わせた工法など技術開発に取り組んでいる。鋼矢板はハット形鋼矢板をはじめU形鋼矢板、組合せ鋼矢板、直線形鋼矢板をラインアップしており、サイズも順次拡大。用途は本設、仮設を問わず、河川工事や港湾工事、仮設土留め工事など幅広い。施工方法もバイブロハンマ工法や油圧圧入工法を選択でき、鋼管杭や鋼管矢板と合わせて社会インフラの構築に貢献する。
土木は英語で、シビルエンジニアリング(市民のための工学)と言う。以前無駄な公共事業として、東の八ツ場ダム(群馬県)と西の川辺川ダム(熊本県)がやり玉に挙がったが、八ツ場ダムはその後工事を再開し、昨年10月の台風19号で効果を発揮した。川辺川ダムはそのまま白紙となり、今回未曾有の被害を受けた。自然災害が年々激甚化していることもあり、改めて土木の力を見直す時が来ている。
(深田 政之)