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2024.10.30
2020年8月5日
「住友商事 金属事業部門長に聞く」 古場文博専務 新常態見据え構造改革
――2020年度の重点課題から。
「鋼管、鉄道資機材、アルミ製錬の得意分野に自動車、社会インフラを加えた5分野をターゲットに事業戦略の軸足を『金属を売る』から『金属を使う』に転換し、新たな消費を創出し、領域を大きく広げていく。この基本方針は変えていないが、社会の価値観やニーズが全く異なるコロナ収束後の新常態を見据え、事業構造改革を進めて競争力を徹底的に強化するとともに、デジタルトランスフォーメーション(DX)活用による既存ビジネスの高度化と新規ビジネスの創出に取り組む」
――収益計画は。
「コロナ・インパクトが拡大を続けており、現時点で合理的な業績予想は困難。19年度の金属事業部門の連結純損益は18年度の405億円の利益から500億円の損失に大きく後退した。北米鋼管事業会社における減損と評価損約600億円を含む670億円の一過性損失を計上した。海外スチールサービスセンター事業は不調で、マレーシアのアルミ製錬合弁も相場安に見舞われた。世界経済がマイナス成長に転じるなど経営環境が大きく変化している。20年度は中期経営計画の仕上げの年という全社的な整理だったが、危機対応モードに切り替えて財務健全性を優先。金属事業部門としては身の丈を一度縮め、事態収束後の早期収益回復と次期中計に向けての経営資源の再配分に備える」
――19年度の主要関係会社の持分損益は。
「住友商事グローバルメタルズは7億円減の70億円。20%を出資するマレーシアのアルミ製錬事業会社、プレスメタルの持分利益は15億円減の16億円だった。鋼管は、油井機器用の特殊鋼棒鋼や鍛造品の一次加工・流通を手掛けるハウコ・グループの持株会社エリンジウムが3億円の黒字から87億円の赤字に後退し、ラインパイプのディストリビューター、エジェングループは18億円の黒字から160億円の赤字に転落した」
――19年度は一過性要因を除くと170億円の黒字で、原油価格が急落した15・16年度を除くと400億―500億円の純利益を稼ぎ、鋼管がその4―5割を占めてきた。
「北米鋼管事業の損失は重く受け止めているが、中東や欧州においては、日本製鉄製の高合金鋼管などハイエンド分野における中東や欧州のメジャーとのビジネスは価格、数量、納期を含めて安定的に推移した。エリンジウムも高付加価値ビジネスが中心であり、北米以外は堅調に推移。エジェンは再生可能エネルギー・インフラ分野に進出、実績も上がってきており鋼管部隊のビジネスポートフォリオ拡充の一翼を担っている」
――改めて北米鋼管事業の状況を。
「上流にあたる油井管問屋は、米国のプレミア・パイプ、ピラミッド、B&L・パイプコ、チャンピオン・シンコ、カナダのサミット・チューブラー、アラスカのチューブラー・ソリューション・アラスカの6社。上流の加工機能はハウコ、アラスカのユニーク・マシーン、カナダのサミット・マシーンの3社。中下流にあたるラインパイプ用流通のエジェン・マーレーを含めて、上流から中下流までのバリューチェーンを構築している。シームレスパイプ製造合弁、バローレック・スター、高級特殊継手ネジ製造合弁のVAM・USAも持つ」
――減損・評価損の背景は。
「18年度は米通商拡大法232条発動で鋼管の需給がタイト化し、価格も上昇したため、北米鋼管事業は好調であった。ところが米中貿易摩擦の影響で18年末から景気が悪化して消費が停滞。石油・ガス需要が減少し、19年1月に1000基を超えていた米国のリグカウントも減少。一方で休止していた国内の電縫管ミルが操業を再開したため、油井管は供給過剰に転じた。新規の材料発注を絞り、鋼管在庫の圧縮に取り組んだが、需要減の勢いを追い越せなかった。在庫管理システムの高度化など追加施策を講じたが、20年に入ったところでコロナ影響が広がり、OPECプラスの協調減産交渉決裂がトリガーとなって油価が急落した。同時に気候変動問題という社会のうねりが拡大し、石油・ガスなど化石燃料ビジネスへの金融市場からの資金供給が絞られてきた。北米のシェールオイル・ガス事業は中小の独立系企業が主体で、彼らが資金源を断たれたためリグカウントは200基半ばまで落ち込んだ。チャプター11を申請する事業会社が相次ぎ、混乱は続いている。このような大きな環境変化を踏まえ、20年3月期決算では、将来の事業計画を大幅に見直し、多額の減損計上を行った。既存事業についての将来価値を見直し、第3者の見立てで減損損失を計上。低価法で見直してきた鋼管在庫についても、再度、実勢価格との乖離分を評価損として計上した」
――北米の油井管市場の約4割のシェアを握る。収益回復のカギを握るリグカウントはどこまで戻るのか。
「足下は200基台半ばで停滞している。今期末頃には400-500基には戻るとみているが、1000基レベルには戻らない。北米のシェール関連ビジネスについては、問屋機能の再編・統合を進めて事業構造を転換する」
――住友商事における金属事業、鋼管ビジネスの位置付けは変わるのか。
「住友商事グループはこのほど『重要社会課題と長期目標』を設定した。重要課題のひとつである気候変動緩和については、2050年のカーボンニュートラル、持続可能なエネルギーサイクル実現への挑戦を長期目標に掲げた。北米鋼管事業は巨額の損失を計上したが、鋼管ビジネスのグローバルネットワークと事業価値は経営トップを含め、改めて全社で共有されている。鋼管事業はエクソンモービル、シェル、BPなどのスーパーメジャー、中東・アジアの政府系石油会社との長年にわたる信頼関係を築いている。彼らも化石燃料からリニューアブルを軸とした総合エネルギー企業への構造転換を迫られている。スーパーメジャーを含めた各社とトップ会談を実施し、鋼管の安定供給を含めた金属事業部門の維持・強化策、インフラ、バイオマスを含めた発電など総合商社としての事業戦略を説明。鋼管ビジネスに加えて、インフラ、リニューアブル・エナジー、DX関連ビジネスなどを幅広く展開していく方向性を確認できた。世界中に張り巡らせている人材も鋼管ビジネスの強み。全社中計の柱の一つとして、DXの活用による既存事業価値の向上、新規事業の創出を目標に掲げているが、鋼管部隊の各取組事案は注目度も高い。金属事業部門としては製鉄関連ビジネス、石油・ガス関連ビジネスを通して社会に貢献し、収益も確保していく」
――中計3年間の投融資計画は前中計からの繰り越し含めて約600億円。
「実績は18年度が320億円、19年度は220億円。インドの特殊鋼事業参画、米国のスチールサービスセンター買収を実施。DX関連ではノルウェーのベンチャー企業、セカールなどに出資。資産入れ替えでは住商特殊鋼を売却した。本年度は事業構造転換を進め、資産の入れ替え、DX関連投資を続ける」
――DX関連投資について。
「昨年7月に出資したセカールは、石油・ガスの掘削作業を自動化するソフトウェアの開発企業。スーパーメジャーは化石燃料からリニューアブル・エナジーに経営資源をシフトしているが、石油・ガス事業も継続する。オイルメジャーのペインポイントを把握している鋼管部門がセカールと連携して、油井の長寿命化、掘削作業の効率化、安全対策などを具体化するモデルケースを創出。自動化によってコスト削減、安全性向上など鋼管の既存顧客へのサービスの付加価値を高めていく。さらにソフトを通じて得られるデータを活用し、資機材需要の予測精度を引き上げ、サプライチェーンマネジメントの一層の効率化を図る。セカールに続いて出資したノルウエーのエクゼベナスは、掘削時に使われる手順書の作成・更新作業を自動化するソフトを開発している。セカールの技術と組み合わせてモジュール化することで一段の高付加価値化を実現し、圧倒的な差別化を図る」
――新生・住友商事グローバルメタルズ(SCGM)の体制を見直した。
「SCGMは18年4月に金属事業部門の一部を会社分割で継承し、2年が経過した。社長が営業本部長を兼務する従来の体制を見直し、本社の執行役員に就任した坂田社長を4月1日付で専任社長とした。事業環境が劇的に変化する中、SCGMは自立性を高め、意思決定の迅速化を図り、独自戦略を展開して鉄鋼メーカーと需要産業に貢献していく」
――新鋼材本部を設置した。
「SCGMは鋼板、自動車金属製品の2本部体制だったが、鋼板については中国、タイをはじめ海外では一般の薄板・厚板、自動車向けなど区別なく取り扱っている。そこで地域戦略に焦点を絞り、1本部体制とした。中部支社長を務めていた犬伏執行役員が新鋼材本部長に就任して鋼板を中心に舵を取り、副本部長に就いた笹本理事が特殊鋼、メカニカル鋼管、特殊管を中心にカバーする。坂田、犬伏、笹本のトライアングルでSCGMの将来を描いていく」
――全国粗鋼8000万㌧時代が近づいている。
「国内は事業再編を進めてきた。16年に設立した伊藤忠丸紅住商テクノスチールは厳しい環境下でも健闘している。19年4月に発足した住商メタルワン鋼管はPMIを計画通り推進し、初年度のマイルストーンをクリア。統合によって全国規模のネットワークを展開する国内最大の鋼管総合商社として生まれ変わり、質の高いサービス・機能を提供していく。ステンレス流通では、NSステンレスと日鉄ステンレス販売の統合に関する最終契約を結んだ」
――国内のスチールサービスセンター事業について。
「サミットスチールは昨年2月、日鉄物産のNSMコイルセンターと10%の相互出資を実施した。サミットは北海道から九州をカバーする年間80万㌧規模の加工能力を保有しており、NSMグループとの機能の相互活用を急ぐ。サミットはDX活用による飛躍的な業務効率化にもチャレンジしている」
――次の展開は。
「国内需要の一段の縮小を見据えて、グループ内の流通機能を集約。コスト競争力を強化し、提案型の営業を効率的に展開することで顧客満足度を高めていく。今後も戦略・方針に合致するM&Aの案件が出てくれば、是々非々で検討していく」
――住友商事グローバルメタルズは最終形なのか。日鉄物産、三井物産スチールとの協業、事業再編を進める可能性は。
「国内で考えると建設鋼材、鋼管のように、ピタッと合う事業は見当たらないが、商社、流通の企業数が多いのは事実。業界の発展につながる協業等は常に検討していきたい」
――海外のサービスセンター事業戦略を。
「中国、ASEANについて役割を終えた事業はメリハリをつけて資産を入れ替えていく。強みを持つタイ、ベトナム、マレーシアは機能の向上を図っていく。北米はサービスセンターの役割分担が認知され、市場も安定していることから強化エリアと位置付けている。米国のスチールサミット・ホールディングスはマジックスチールを昨年買収し、テネシー、オハイオに加えて、ミシガン、アラバマに拠点を拡大し、自動車分野から鋼製家具などに対象分野を大きく広げた。取扱量が増えてバイイングパワーもアップし、PMIも順調に進んでいる」
――インド経済は足踏みが続いている。
「コロナ影響が加わり、特殊鋼棒線圧延合弁のMSSSLは厳しい経営環境が続く。インドの自動車市場は大きなポテンシャルを秘めており、継続的なバリューアップに努めていく」
――鉄道資機材も重点分野。
「鉄道分野については北米マーケットを最重要地域と位置付け、既存の車輪車軸事業における付加価値向上、バリューチェーン拡大を通じた成長機会を常に模索している。物流やメンテナンスなど総合商社としてのサービスネットワークを拡充していく」
――アルミ地金ビジネスは。
「アルミ製錬事業の基幹工場であるマレーシア・ビンツル工場では第三系列増設の建設工事が進んでおり、完成すると年産能力は76万㌧から108万㌧に拡大する。パートナーであるプレスメタル社とは緊密な関係を維持し、高付加価値品の生産や原料調達マネジメントの高度化を通じ、事業の収益性を更に高め、この成功モデルを海外で横展開していきたいと考えている」(谷藤 真澄)
「鋼管、鉄道資機材、アルミ製錬の得意分野に自動車、社会インフラを加えた5分野をターゲットに事業戦略の軸足を『金属を売る』から『金属を使う』に転換し、新たな消費を創出し、領域を大きく広げていく。この基本方針は変えていないが、社会の価値観やニーズが全く異なるコロナ収束後の新常態を見据え、事業構造改革を進めて競争力を徹底的に強化するとともに、デジタルトランスフォーメーション(DX)活用による既存ビジネスの高度化と新規ビジネスの創出に取り組む」
――収益計画は。
「コロナ・インパクトが拡大を続けており、現時点で合理的な業績予想は困難。19年度の金属事業部門の連結純損益は18年度の405億円の利益から500億円の損失に大きく後退した。北米鋼管事業会社における減損と評価損約600億円を含む670億円の一過性損失を計上した。海外スチールサービスセンター事業は不調で、マレーシアのアルミ製錬合弁も相場安に見舞われた。世界経済がマイナス成長に転じるなど経営環境が大きく変化している。20年度は中期経営計画の仕上げの年という全社的な整理だったが、危機対応モードに切り替えて財務健全性を優先。金属事業部門としては身の丈を一度縮め、事態収束後の早期収益回復と次期中計に向けての経営資源の再配分に備える」
――19年度の主要関係会社の持分損益は。
「住友商事グローバルメタルズは7億円減の70億円。20%を出資するマレーシアのアルミ製錬事業会社、プレスメタルの持分利益は15億円減の16億円だった。鋼管は、油井機器用の特殊鋼棒鋼や鍛造品の一次加工・流通を手掛けるハウコ・グループの持株会社エリンジウムが3億円の黒字から87億円の赤字に後退し、ラインパイプのディストリビューター、エジェングループは18億円の黒字から160億円の赤字に転落した」
――19年度は一過性要因を除くと170億円の黒字で、原油価格が急落した15・16年度を除くと400億―500億円の純利益を稼ぎ、鋼管がその4―5割を占めてきた。
「北米鋼管事業の損失は重く受け止めているが、中東や欧州においては、日本製鉄製の高合金鋼管などハイエンド分野における中東や欧州のメジャーとのビジネスは価格、数量、納期を含めて安定的に推移した。エリンジウムも高付加価値ビジネスが中心であり、北米以外は堅調に推移。エジェンは再生可能エネルギー・インフラ分野に進出、実績も上がってきており鋼管部隊のビジネスポートフォリオ拡充の一翼を担っている」
――改めて北米鋼管事業の状況を。
「上流にあたる油井管問屋は、米国のプレミア・パイプ、ピラミッド、B&L・パイプコ、チャンピオン・シンコ、カナダのサミット・チューブラー、アラスカのチューブラー・ソリューション・アラスカの6社。上流の加工機能はハウコ、アラスカのユニーク・マシーン、カナダのサミット・マシーンの3社。中下流にあたるラインパイプ用流通のエジェン・マーレーを含めて、上流から中下流までのバリューチェーンを構築している。シームレスパイプ製造合弁、バローレック・スター、高級特殊継手ネジ製造合弁のVAM・USAも持つ」
――減損・評価損の背景は。
「18年度は米通商拡大法232条発動で鋼管の需給がタイト化し、価格も上昇したため、北米鋼管事業は好調であった。ところが米中貿易摩擦の影響で18年末から景気が悪化して消費が停滞。石油・ガス需要が減少し、19年1月に1000基を超えていた米国のリグカウントも減少。一方で休止していた国内の電縫管ミルが操業を再開したため、油井管は供給過剰に転じた。新規の材料発注を絞り、鋼管在庫の圧縮に取り組んだが、需要減の勢いを追い越せなかった。在庫管理システムの高度化など追加施策を講じたが、20年に入ったところでコロナ影響が広がり、OPECプラスの協調減産交渉決裂がトリガーとなって油価が急落した。同時に気候変動問題という社会のうねりが拡大し、石油・ガスなど化石燃料ビジネスへの金融市場からの資金供給が絞られてきた。北米のシェールオイル・ガス事業は中小の独立系企業が主体で、彼らが資金源を断たれたためリグカウントは200基半ばまで落ち込んだ。チャプター11を申請する事業会社が相次ぎ、混乱は続いている。このような大きな環境変化を踏まえ、20年3月期決算では、将来の事業計画を大幅に見直し、多額の減損計上を行った。既存事業についての将来価値を見直し、第3者の見立てで減損損失を計上。低価法で見直してきた鋼管在庫についても、再度、実勢価格との乖離分を評価損として計上した」
――北米の油井管市場の約4割のシェアを握る。収益回復のカギを握るリグカウントはどこまで戻るのか。
「足下は200基台半ばで停滞している。今期末頃には400-500基には戻るとみているが、1000基レベルには戻らない。北米のシェール関連ビジネスについては、問屋機能の再編・統合を進めて事業構造を転換する」
――住友商事における金属事業、鋼管ビジネスの位置付けは変わるのか。
「住友商事グループはこのほど『重要社会課題と長期目標』を設定した。重要課題のひとつである気候変動緩和については、2050年のカーボンニュートラル、持続可能なエネルギーサイクル実現への挑戦を長期目標に掲げた。北米鋼管事業は巨額の損失を計上したが、鋼管ビジネスのグローバルネットワークと事業価値は経営トップを含め、改めて全社で共有されている。鋼管事業はエクソンモービル、シェル、BPなどのスーパーメジャー、中東・アジアの政府系石油会社との長年にわたる信頼関係を築いている。彼らも化石燃料からリニューアブルを軸とした総合エネルギー企業への構造転換を迫られている。スーパーメジャーを含めた各社とトップ会談を実施し、鋼管の安定供給を含めた金属事業部門の維持・強化策、インフラ、バイオマスを含めた発電など総合商社としての事業戦略を説明。鋼管ビジネスに加えて、インフラ、リニューアブル・エナジー、DX関連ビジネスなどを幅広く展開していく方向性を確認できた。世界中に張り巡らせている人材も鋼管ビジネスの強み。全社中計の柱の一つとして、DXの活用による既存事業価値の向上、新規事業の創出を目標に掲げているが、鋼管部隊の各取組事案は注目度も高い。金属事業部門としては製鉄関連ビジネス、石油・ガス関連ビジネスを通して社会に貢献し、収益も確保していく」
――中計3年間の投融資計画は前中計からの繰り越し含めて約600億円。
「実績は18年度が320億円、19年度は220億円。インドの特殊鋼事業参画、米国のスチールサービスセンター買収を実施。DX関連ではノルウェーのベンチャー企業、セカールなどに出資。資産入れ替えでは住商特殊鋼を売却した。本年度は事業構造転換を進め、資産の入れ替え、DX関連投資を続ける」
――DX関連投資について。
「昨年7月に出資したセカールは、石油・ガスの掘削作業を自動化するソフトウェアの開発企業。スーパーメジャーは化石燃料からリニューアブル・エナジーに経営資源をシフトしているが、石油・ガス事業も継続する。オイルメジャーのペインポイントを把握している鋼管部門がセカールと連携して、油井の長寿命化、掘削作業の効率化、安全対策などを具体化するモデルケースを創出。自動化によってコスト削減、安全性向上など鋼管の既存顧客へのサービスの付加価値を高めていく。さらにソフトを通じて得られるデータを活用し、資機材需要の予測精度を引き上げ、サプライチェーンマネジメントの一層の効率化を図る。セカールに続いて出資したノルウエーのエクゼベナスは、掘削時に使われる手順書の作成・更新作業を自動化するソフトを開発している。セカールの技術と組み合わせてモジュール化することで一段の高付加価値化を実現し、圧倒的な差別化を図る」
――新生・住友商事グローバルメタルズ(SCGM)の体制を見直した。
「SCGMは18年4月に金属事業部門の一部を会社分割で継承し、2年が経過した。社長が営業本部長を兼務する従来の体制を見直し、本社の執行役員に就任した坂田社長を4月1日付で専任社長とした。事業環境が劇的に変化する中、SCGMは自立性を高め、意思決定の迅速化を図り、独自戦略を展開して鉄鋼メーカーと需要産業に貢献していく」
――新鋼材本部を設置した。
「SCGMは鋼板、自動車金属製品の2本部体制だったが、鋼板については中国、タイをはじめ海外では一般の薄板・厚板、自動車向けなど区別なく取り扱っている。そこで地域戦略に焦点を絞り、1本部体制とした。中部支社長を務めていた犬伏執行役員が新鋼材本部長に就任して鋼板を中心に舵を取り、副本部長に就いた笹本理事が特殊鋼、メカニカル鋼管、特殊管を中心にカバーする。坂田、犬伏、笹本のトライアングルでSCGMの将来を描いていく」
――全国粗鋼8000万㌧時代が近づいている。
「国内は事業再編を進めてきた。16年に設立した伊藤忠丸紅住商テクノスチールは厳しい環境下でも健闘している。19年4月に発足した住商メタルワン鋼管はPMIを計画通り推進し、初年度のマイルストーンをクリア。統合によって全国規模のネットワークを展開する国内最大の鋼管総合商社として生まれ変わり、質の高いサービス・機能を提供していく。ステンレス流通では、NSステンレスと日鉄ステンレス販売の統合に関する最終契約を結んだ」
――国内のスチールサービスセンター事業について。
「サミットスチールは昨年2月、日鉄物産のNSMコイルセンターと10%の相互出資を実施した。サミットは北海道から九州をカバーする年間80万㌧規模の加工能力を保有しており、NSMグループとの機能の相互活用を急ぐ。サミットはDX活用による飛躍的な業務効率化にもチャレンジしている」
――次の展開は。
「国内需要の一段の縮小を見据えて、グループ内の流通機能を集約。コスト競争力を強化し、提案型の営業を効率的に展開することで顧客満足度を高めていく。今後も戦略・方針に合致するM&Aの案件が出てくれば、是々非々で検討していく」
――住友商事グローバルメタルズは最終形なのか。日鉄物産、三井物産スチールとの協業、事業再編を進める可能性は。
「国内で考えると建設鋼材、鋼管のように、ピタッと合う事業は見当たらないが、商社、流通の企業数が多いのは事実。業界の発展につながる協業等は常に検討していきたい」
――海外のサービスセンター事業戦略を。
「中国、ASEANについて役割を終えた事業はメリハリをつけて資産を入れ替えていく。強みを持つタイ、ベトナム、マレーシアは機能の向上を図っていく。北米はサービスセンターの役割分担が認知され、市場も安定していることから強化エリアと位置付けている。米国のスチールサミット・ホールディングスはマジックスチールを昨年買収し、テネシー、オハイオに加えて、ミシガン、アラバマに拠点を拡大し、自動車分野から鋼製家具などに対象分野を大きく広げた。取扱量が増えてバイイングパワーもアップし、PMIも順調に進んでいる」
――インド経済は足踏みが続いている。
「コロナ影響が加わり、特殊鋼棒線圧延合弁のMSSSLは厳しい経営環境が続く。インドの自動車市場は大きなポテンシャルを秘めており、継続的なバリューアップに努めていく」
――鉄道資機材も重点分野。
「鉄道分野については北米マーケットを最重要地域と位置付け、既存の車輪車軸事業における付加価値向上、バリューチェーン拡大を通じた成長機会を常に模索している。物流やメンテナンスなど総合商社としてのサービスネットワークを拡充していく」
――アルミ地金ビジネスは。
「アルミ製錬事業の基幹工場であるマレーシア・ビンツル工場では第三系列増設の建設工事が進んでおり、完成すると年産能力は76万㌧から108万㌧に拡大する。パートナーであるプレスメタル社とは緊密な関係を維持し、高付加価値品の生産や原料調達マネジメントの高度化を通じ、事業の収益性を更に高め、この成功モデルを海外で横展開していきたいと考えている」(谷藤 真澄)
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