「人がいなければ建設業の需要もなくなる」。大手ゼネコンなど140社以上が加盟する日本建設業連合会の山内隆司会長(大成建設会長)は、今後の建設需要を厳しく見るとともに、建設業を志す担い手確保に頭を悩ませる。最近広がりを見せるi―Construction(アイ・コンストラクション)やBIM/CIM(ビルディング/コンストラクション・インフォメーション・モデリング)なども、出発点は建設業の人手不足をどうカバーするか。未来の建設を俯瞰する。
2019年度の全建築物の着工床面積は、前年度比4・7%減の1億2494万平方メートルとなった。3年連続の減少で、リーマン・ショック後の10年度並みの水準まで落ち込んだ。20年に開催予定だった東京五輪を控え着工時期をずらした影響もあったが、20年度はこれに新型コロナウイルスの影響が加わりさらに下振れる公算が大きい。
ここ数年右肩上がりで推移した建設投資に陰りが見えており、20年度は住宅、非住宅ともに民間投資が冷え込むと予想する。建設経済研究所によると、住宅着工戸数は前年度比10・2%減の79万3000戸、民間非住宅着工床面積は7・6%減の3975万平方メートルと見通す。物流倉庫が好調な一方、工場や店舗などが落ち込むとみており、大手ゼネコンも特に少子高齢化が進む地方での需要減を危惧する。
そのような中、日建連では2015年に「再生と進化に向けて―建設業の長期ビジョン―」を取りまとめた。14年度に343万人いた建設技能者が、25年度に216万人へ減少することを受けたもので、その減少分約128万人をどう補うかというもの。このうち、34歳以下の若者を中心に90万人(うち女性20万人以上)確保するとともに、生産性向上による省人や省力で35万人分の仕事をカバーすることを目標に据える。
国土交通省も16年度に、建設現場でICT(情報通信技術)を活用するi―Constructionを導入。ICTを使って建設生産システム全体の生産性向上を図り、人手不足をカバーしながら魅力ある建設現場を目指すもので、そのエンジン役と位置付けられるのがBIM/CIM。設計から施工まで各生産プロセスを3次元(3D)化でき、関係者間で迅速かつ正確な合意形成が可能となる。
国交省ではこれまで、25年度までに直轄事業でBIM/CIMを原則適用する方針だったが、23年度までに2年前倒しする意向を示した。これを受け、ゼネコンや設計事務所などでBIM/CIMの導入が広がっているが、課題も残されている。BIM/CIMソフト自体が高額なほか、ゼネコン各社が個別にソフトを導入しており、ファブなどは同時に複数対応する必要が出てくる。全国鉄構工業協会の米森昭夫会長(ヨネモリ会長)は「仕様を統一してほしい」と指摘するなど、各業界が連携したプラットフォームが必要となりそうだ。
建築現場における省人・省力としては、機械化や鉄骨(S)造へのシフトも進む。大手ゼネコンでは柱や梁の溶接で可搬型溶接ロボットの適用を進めており、鹿島建設はマニピュレータ(多関節)型の溶接ロボットを適用した。6軸多関節型アームでより精緻な溶接ができ、熟練技能者による溶接と同等水準の品質が確保できる。他の柱や梁を溶接する際は、レールを設置し直し載せ換える必要があるが、一歩先の取り組みとして注目を集める。
また、鉄筋コンクリート(RC)造からS造へのシフトも近年進んでおり、これまでRC造の牙城だった学校や病院でも設計変更が目立つ。建築着工の構成比で比較すると、10年前の09年度はRC造が20・6%、S造が33・2%だったのに対し、直近の19年度はそれぞれ18・2%、36・0%だった。鉄筋工や型枠工の確保が難しいほか、S造は工場生産のため安定した品質を確保でき、工期や工費縮減などにつながる点などが評価された。
RC造としても、省人・省力につながる工法の認知度アップに力を注ぐ。東京鉄鋼と清水鋼鉄は毎年、鉄筋プレハブ工法の見学会を開いているほか、スギウラ鉄筋、JFE商事鉄鋼建材、丸杉の3社はロールマット工法の普及拡大に取り組む。極力工場で先組みし、現場は簡単な作業で施工できる点などが共通している。省人・省力に直結する工法で、RC造のシェア拡大につなげたい考えだ。
日建連の山内会長は「建設業は各現場を工場と見立てたアセンブリー(組立)産業」と位置付ける。鉄鋼・鉄構業界はその工場に対し、必要な資材をジャストインタイムで納入しているが、今後はICT化によるロボットやデータ活用への対応も求められる。事業規模の小さな中小ファブや鉄筋加工業者にはハードルが高く、対応できるか否かで受注可否が左右される。建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代が到来した。
(深田 政之)