世界的に地球環境保全の動きが加速する中、資源循環型社会の形成に寄与する普通鋼電炉業が脚光を浴びている。その一方で、日本は人口減少、少子高齢化などで建設用鋼材市場が縮小傾向にあり、普通鋼電炉メーカーの主力品種である鉄筋用小形棒鋼の国内向け出荷量は20年度で700万トン割れが予想され、44年ぶりに過去最低を更新する可能性が高く、数量減少に伴う収益悪化が懸念されている。コロナ禍などで先行き不透明感が漂う環境下、どのように業界展望を描いていくか。普通鋼電炉工業会(普電工)の渡邉誠会長(JFE条鋼社長)に聞いた。
――普通鋼電炉製品のマーケットは至近10年間でどのように変化してきたか。
「日本国内の全国粗鋼生産量は90年度が1億1170万トン、19年度は9840万トン、20年度は新型コロナウイルス影響もあって8000万トンを割り込むといわれる。至近10年間の平均は1億トンを超えており、90年代の10年間平均に比べて、粗鋼生産量は増えている。これに対して、普通鋼電炉の粗鋼生産量は90年度が2600万トン、19年度は1600万トンと1000万トン減っており、厳しい環境に置かれている。日本は人口及び生産年齢人口が減少しており、これが普通鋼電炉製品マーケットにインパクトを与えている。日本の人口ピークは10年の1億2800万人で、足元は1億2600万人となり、1・5%減少。生産年齢人口も減っている。鉄筋コンクリート造の施工は人手を要し、鉄骨造に比べて生産年齢人口減少の影響を大きく受ける。よく鉄筋棒鋼需要の落ち込みがクローズアップされるものの、中小形形鋼などの需要も鉄筋棒鋼と同様の動きをみている。90―99年度の10年間平均と、10―19年度の10年間平均を比較した場合、鉄筋棒鋼で430万トン程度、中小形形鋼で100万トン程度、平鋼で70万トン程度それぞれ減っており、市場縮小は必ずしも鉄筋棒鋼だけに限らない」
――鉄筋棒鋼需要はより落ち込みが大きい。
「人口と生産年齢人口の減少に伴い、2年前から鉄筋用小形棒鋼の国内向け出荷数量が落ち込むと見通していた。今月、20年度は前年度比6・8%減の680万トンになるとの普電工予測を公表したが、JFE条鋼は2年前に700万トンを予想しており、鉄筋棒鋼市場動向は人口減少率にリンクしていると改めて感じている。鉄骨造化の進展も影響している。これにコロナ感染症影響が加わり、680万トンになる。ただ、JFE条鋼独自の分析では660万トンを想定しており、30年度には600万トンを割り込む可能性も出てくるだろう」
――厳しい環境下にあるが、資源循環型社会の形成に寄与する電炉業が注目されている。
「電炉業は鉄スクラップをリサイクルし、鋼材を生産・販売する資源循環型社会に寄与している。鉄鋼備蓄量は日本だけでなく、中国でも年々増えており、将来、使用可能な鉄スクラップは近くに存在する。JFE条鋼では乾電池などの一般廃棄物、産業廃棄物も電気炉に投入し、処理しているが、これらの資源を上手にリサイクルし、環境に優しい鋼材を製造する電炉業は今後、必ず伸びていく」
――ただ近年、中国が雑品の輸入規制を強化したことなどで、鉄スクラップの品質が低下する問題が発生した。
「電炉メーカーにとって、鉄スクラップの品質確保は重要課題の1つ。この問題を含めて、日本鉄リサイクル工業会(会長=伊藤弘之・大成金属社長)との協議会を定期的に行っている。必要に応じて集まり、スピーディーに課題を解決していきたい。伊藤会長には『ワンチームでやっていきましょう』と呼びかけており、今後も連携を取っていきたい」
――最後に普通鋼電炉業のあるべき姿を。
「ここからはJFE条鋼社長としての見解になるが、鉄筋棒鋼は国内市場が縮小する中、依然としてサプライヤーが多く、さらなる変化が起きることも想定しなければならない。また、鉄筋棒鋼は新商品の誕生が難しいと言われるものの、例えば溶接性に優れた高強度鉄筋棒鋼など、国や自治体が国土強靭化や防災・減災対策を推進する中、需要家にとって採用メリットがある商品、工法を開発・提供する義務がある。さらに少子高齢化が進展する国内で人材を確保していく観点から、安価な電気料金を利用するために平日夜間に操業を集中させるフクロウ操業から脱却するなど、働き方改革への対応も進める必要がある」
「電炉製造設備は高炉一貫製鉄所に比べてコンパクトで投資金額も小さく、また生産変動にスピーディーかつキメ細かく対応できる。なにより、主原料を国内で調達できるメリットは大きい。将来的には高炉メーカーが電気炉を活用して鉄をつくる、高炉とのハイブリッド操業もあり得る。日本の電炉比率は22%程度と、米国などに比べて低い。電炉業の特長を伸ばすことによって活躍する場が広がり、日本でも電炉比率を高めることができるだろう」
(濱坂 浩司)