国内の銅リサイクル市場は、この数年で大きな構造変化が起きている。伸銅メーカーや製錬メーカーは高品位品や使い勝手の良い銅スクラップを求め、何でも欲しがった中国も廃棄物輸入規制で低品位品を避けるようになった。「売りにくい」状況は、銅スクラップを取り扱う原料問屋は体力をすり減らしている。環境がキーワードの現代、より一層求められるリサイクルの仕組みをいかに堅持するのか、メーカーと原料問屋がともに考えていく必要がある。
銅はリサイクル性に優れた材料だ。伸銅品の切削・プレス加工で発生する端材も、解体現場で出る電線や水栓金具やパイプも、自動車解体で回収されるワイヤハーネスも、あらゆる銅スクラップは製錬、伸銅、電線、鋳物などの原料として再利用される。
このサイクルは原料問屋が細かい集荷物を取りまとめて品質確認し、製錬メーカーや伸銅メーカーが多様な品種を消費することでうまく循環している。そして、メーカーの生産動向により需要増加局面では売り手市場、逆に減少局面では買い手市場という波を繰り返してきた。
それが近年、買い手市場へと傾斜してきた背景にはメーカー、中国ともにスクラップの選好が変わってきたことがある。
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近年、国内の伸銅品生産を支えているのは車載用コネクターを中心とした自動車関連需要だ。リーマン前年の2007年と19年の主要な伸銅品生産量を比較すると、銅条はわずか7%の減少にとどまる。それに対し銅管は36%、黄銅条は25%、黄銅棒は24%、青銅板条は57%も減少。この生産構成の変化は、スクラップの需要構造に変化をもたらした。
例えば、車載コネに使われる錫めっき条の生産が増えたが、その加工で発生するめっきスクラップは板条メーカーが消費し切れないため黄銅棒メーカーに流入。黄銅棒の主原料である黄銅削り粉はそれに押し出される格好で、市中の荷余りが常態化してしまった。
また、銅条は導電性や放熱性の要求に応えるためスクラップをあまり使わない高純度な無酸素銅ベースの比率が高まっていることもスクラップ需要減に拍車をかける。ある大手板条工場はこの理由で年初より外部からの銅スクラップ購入を原則停止した。無酸素銅代替の1号銅線など一部を除き、高品位品でも需要が縮小していく恐れがある。
一方、低品位スクラップの向け先だった中国も18年末で雑品、雑電線などプラスチックと混在するスクラップの輸入を禁止し、その他の銅スクラップも輸入量を制限。中国業者は限られた輸入枠で比較的品位の高いものを好むようになった。雑電線はマレーシア向けなどにシフトしたが、東南アジアも環境問題は深刻化しており、いずれ規制強化される公算は大きい。
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原料問屋にとってこれからの事業継続は、いかに「売る力」を高められるかにかかっている。原料問屋がリーマン以降取り組んできた選別強化は確実にその解決策になる。
最近は中国の輸入制限に対応するため、アルミや銅が混入するミックスメタルの選別ライン、低品位な雑電線を破砕選別する雑ナゲットラインの導入が目立つ。品位を高めれば売りの選択肢が国内外に広がる。ただ、需要家の高品位志向や需要構造の変化がさらに進めば、選別しても売り先の保証はない。
例えば油分や水分の混入が懸念されるスクラップは多くの製錬、伸銅メーカーが安全管理の観点から原則受け入れない姿勢を取ってきたが、集荷量を維持するためには少量であれば許容する工場も多かった。しかし、ここにきて厳格に拒否する動きが広がっている。
大手製錬メーカーは今月初旬、仕入れ先に対し給湯器スクラップの混入があれば返品するとの通達を出した。中国の雑品輸入禁止で国内の給湯器スクラップ発生量は増加しており、原料問屋関係者からは「製錬メーカーも黄銅棒メーカーも買ってくれなくなれば売り先がない」(都内の問屋幹部)と困惑する。
中国は近く銅・アルミスクラップを廃棄物でなく再生資源と新たに規格し、輸入制限を取り払う。だが品質審査の基準は厳しくなることが考えられるほか、「価格的に採算が合わない品種も多そうだ」(関東の輸出筋)との見方も聞かれる。
原料問屋にはメーカーへの直納、問屋間の仲間売り、ナゲット加工、輸出とさまざまなスタイルがあり、それぞれに強みと弱みがある。しかし、国内需要の構造変化や頻繁に変わる中国の輸入方針で、既存の販売ルートに頼るリスクは増大した。
問屋各社が販売量を維持していくには選別や品質保証の強化で売り先の信頼を得るだけでなく、伸銅、製錬、鋳物、輸出を織り交ぜた販売網の多角化が必要かもしれない。メーカーも国内リサイクルの構図を大局的に眺め、いかに多様なスクラップを多く消費するかという視点をもつ必要があるだろう。(田島 義史)