――人財戦略の基本方針から。
「『プロフェッショナル&グローバル』を人財育成のテーマに掲げており、専門性の高い人材、多様性や広がりのある人材の獲得と育成に努めている。新卒採用は将来の幹部候補としてのコア人材の確保、中途採用はそれプラス専門性を有する即戦力の確保を目指している」
――優秀で多様な人材を確保するための施策は。
「通年採用を打ち出し、中途採用に関しては専門性の高い即戦力を、新卒採用についてはダイバーシティを意識し、窓口を広げてきている。新卒採用については、海外のキャリアフォーラムや国内の各種採用イベント等を通じて、多様性を重視した母集団を形成するためのPR活動を展開。女性総合職に関しては、一定の数値目標を掲げ、外国籍社員についてもニーズに合わせて積極的に採用している」
――要員と採用の推移を。
「単体人員が10年前の1572人から2131人、連結人員は3294人から4565人となり、いずれも約4割増えている。10年前の採用数は総合職が30―40人、一般職は20―30人の50―70人だったが、徐々に拡大し、2017年以降は総合職50―60人、一般職30―50人のトータル80―100人となっている。総合職に占める女性比率を20%台に引き上げており、外国籍も3―4人をコンスタントに採用してきている」
――新卒の離職率は一般的に3年3割といわれているが、定着率は。
「阪和は厳しいから離職率が高いと見られているようだが、当初3年間の離職率は1割程度にとどまる」
――働き甲斐を満たし、定着率を高め、さらにキャリアを積ませるには、組織を越える人事異動も不可欠。
「全役員が参加する『人材会議』において若手を含めた人事異動を決めている。部署による囲い込みを是としない空気の中で、毎回、白熱した議論を交わし、部門や国境を越えた異動などを決定している」
――働きやすい職場づくりも心がけている。
「障がい者については35人を雇用している。法定雇用率、定着率を意識しながら、障がい者がそれぞれの個性に合わせて長く安心して働ける環境づくりに努めている」
――人材育成の基本方針を。
「優秀な営業マンという側面だけでなく、与信、会計、財務、労務等の経営や組織運営に係わるリテラシーを高めるための研修制度を整備している。従来はOJTへの依存度が高かったが、基礎的な能力向上のための集合研修やリモート研修の比率を高めていく」
――資格、評価など人事制度は。
「2014年にマネジメントラインと専門職ラインの『複線化制度』を施行し、人材の適性と成長による変化に対応する相互転換可能なライン制度を運用している。伝統的な職能資格制度を導入しているが、全社レベルでメッシュを細かく評価会議を実施して、評価の公平性と透明性を高めている。業績評価と職責行動評価に分け、業績評価は半期精算の賞与に反映し、職責行動評価は年一回の昇給昇格に反映させている」
――売上高は2兆円規模に拡大し、総合商社に次ぐ規模に浮上してきたが、優秀な人材を幅広く採用するには、年収レベルも引き上げていく必要がある。
「総合商社の平均給与には及ばないが、中堅商社ではトップクラスの水準を維持していきたいと考えている」
――新型ウイルス対応は各社手探りだった。
「手狭になっていた東京本社では昨年来、オフィスの効率化プロジェクトを展開していた。コロナ前からテレワークなどの対策を進めていたため、役員を含めて苦労はあるが、なんとか在宅勤務体制にシフトできた」
――緊急事態解除後の新型ウイルス感染防止策、「テレワーク」「在宅勤務」の活用について。
「ともかく『密』を避ける行動を社員に求め、それに対応したオフィス環境を創造していく。リモートワークでできる業務、不便な業務が明確になった。無理を解消しながら、コロナ後も出社率をコントロールし、リモートワークを継続する。会社へ来るのが義務ではなく、会社に来る意義を見出し、それぞれの働き方を選択できる環境を整えていく」
――WEB会議ツールなどICTの活用拡大策については。
「すでにTeamsやZoomを活用したミーティングが常態化しており、こうした動きはコロナ後も定着するとみている。各種デバイスやモバイル機器を社員に配布し、リモートワークの体制整備は整いつつある。次のステップとして、ツールを絞り込むなど体制を見直し、コストダウンを図っていく」
――BCPの見直しも必要。
「在宅勤務や別室でのリモートワークを通じて当面は密状態を回避し、仮に感染者が発生した場合でも業務継続を可能とするためのバックアップ体制やローテーション出勤を継続し、不測の事態に備えていきたい」
――中長期の人材戦略上の課題と対策を。
「近年、グループの成長戦略に伴って関連会社が増加しており、経営人材の育成が急務となっている。経営リテラシーの習得に主眼を置いた集合型研修や人事異動等のジョブローテーションを推進していく必要がある。本年を『グローバル人材育成元年』と位置づけ、海外現地スタッフや海外で採用した外国籍スタッフをグローバルスタッフとして活躍させる制度をさらに推進させていく」(谷藤 真澄)