首都圏に次ぐ経済規模を持つ関西圏。感染拡大が止まらない新型コロナウイルスによる影響は、インバウンドの多大な恩恵を受けていた観光産業や小売業、飲食業のみならず、鉄鋼など製造業界にも及んでいる。地区内では大手だけでなく中小零細が大半を占める流通業界でも感染防止・予防の対策に取り組んでおり、企業ごとの事情に見合った形で、未曾有の難局を乗り越えていこうとしている。関西地区を中心に鋼材加工、流通業の鋼種ごとの市場状況とコロナ対策を追った。
■厚板 需要減に追い打ち 溶断大手でも稼働率5割
厚板業界はすでに2019年度の下半期から、需要減退の傾向が顕著だったが、コロナ感染拡大が追い打ちをかけた形となっている。地区の溶断業者の稼働率は大手クラスで、昨年10月段階が80―90%程度、今年1月には60―80%、同3月には50―70%、新年度入りの4月は50%とほぼ半分程度となっており、小規模クラスは大手以上の落ち込みとなっている。
溶断業者では受注減の対策として、今年に入り、工場設備の効果的な稼働体制に移行させている企業が多い。複数の加工設備を有する業者は高い生産性のレーザー設備やプラズマ設備に加工を集中させ、ガス溶断設備の加工を減らすなどの対応をとっている。
ただ、こうした対応ができるのも大手クラスが中心で、中小クラスは開店休業を受け入れるだけの企業が多いが、今後は従業員の自宅待機、要員自体の調整を検討する企業も出てくる方向だ。
今後こうした状況が長期化すると、業界全体では雇用調整金の申請などが行われるとともに、大手クラスでは工場・設備の集約なども想定される。一方、中小クラスでは昨年段階で経営的に疲弊している企業は自主廃業も出てくるのではないかと関係者はみている。
製品自体の流れについて言えば、国内メーカー各社は形的には自然減産となっているが、溶断業者や流通に対して新規の申し込みを要請しており、流通各社は入荷数量を絞り込めていない。一方で、出荷減も相まって、流通段階の在庫は切板母材、定尺材ともになかなか減少せず、高い在庫率が続いている。コロナ収束というトンネルの出口が見えないだけに、切板価格や定尺の下げ止まりは見通せず、関係者は焦燥感を募らせている。
■薄板 策取りながら事業継続 先が読めず不安感
地区薄板流通は需要や市場への影響、特にマイナス面が具体化するのは4―5月以降との想定で臨んでいる。共通する多くの声は「本当に先が読めない」。感染防止策を取りながらの事業継続だが、1カ月から先も不安感は拭えそうにない。
複数の拠点を持つ大手では、本社を中心に事務所出勤の人数を輪番や交代などで減らし、在宅勤務やテレワークへの切り替えを導入している。大阪市内の公共交通機関による往復などリスクを極力避ける方向。
ただ、コイルセンターや中小流通はメーカーに比べて、取引先間の紙書類の往来も相当多く必要上、出社する人や時間帯も残る。一方、工場は立地的に車通勤の従業員が多数派で、需要に応じた稼働継続が基本。社内や現場での感染防止に工夫を凝らす。
店売り販売は年初から低調に推移し、製造業向け需要や一部受託加工は漸減傾向。ただ地区コイルセンターでは、3月の出荷・加工量の落ち込みはそれほどなかった、もしくは前年同月比10%前後と小幅減にとどまったとの反応が聞かれる。良くないなりに自動車関連や建材の加工が下支えしていたようだ。
大阪府、兵庫県など対象とする緊急事態宣言発令の地域が拡大。ユーザーの活動や仕入れ・販売など、需要減の波は来るとの覚悟を持っている。
■条鋼 影響本格化はこれから 事務員も交代勤務など工夫
形鋼市況は2019年度から軟化傾向が続いており、従来から20年度上期は建築需要の端境期という見方が多かった。「4月の荷動きは日当たりで見ると、3月より落ちてきているが、足元は全く仕事がない訳ではない。新型コロナウイルス感染拡大の影響が本格的に出てくるのは、これから先だろう」(扱い流通筋)とし、先行きを懸念する。現時点ではファブリケーターなどが止まっている様子はないが、ゼネコンで感染者が発生したこともあり、今後の動向が注視されている。
流通各社は緊急事態宣言の発令には、時差出勤や時短勤務、テレワークなどで対応をしている。事務員は3班に分け1班ずつ休みを取得、営業は外交をせず鋼材の入出庫業務を担い、事務員と接触しないようにしている特約店もある。一方で、中少の特約店は通常時と変わらず勤務というケースもあり、「仕事が少ない時は早めに帰ってもらっているが、基本は手洗いやうがい、アルコール消毒を徹底するしかない」(独立系流通社長)としている。
売り上げは前年同期比で0―20%減を見込んでおり、影響は建設機械分野や産業機械分野などの製造業向けや、建築向け、自動車向けなど多くに及んでいる。