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2024.10.30
2020年3月3日
「財務・経営戦略を聞く」 JFEホールディングス 寺畑雅史副社長 上工程設備調整が不可避 経営資源の傾斜配分検討
――2020年3月期連結事業利益を450億円(前期2320億円)に下方修正した。期初の1800億円から1400億円、600億円、今回と3度目の下方修正となった。
「今回はジャパン・マリンユナイテッド(JMU)が360億円の最終赤字予想を公表したため165億円の持分法投資損失見込みを織り込んだ。JFE商事も国内グループ会社などの業績下振れによりセグメント利益予想を320億円から290億円に下方修正した。JFEエンジニアリングのセグメント利益は230億円、JFEスチールはゼロで、いずれも前回予想を据え置いた」
――通期事業利益は前期比1870億円の大幅減となるが、主因は鉄鋼事業。
「中国は景気対策効果で高水準の鉄鋼生産が続く一方、米中貿易摩擦などの影響で製造業分野の需要が低迷。世界の鉄鋼業は『原料高の製品安』という厳しい局面にさらされている。ヴァーレのブラジル鉄鉱石鉱山の事故によって急騰した鉄鉱石は、値段は戻しているものの80―90ドルの高値に張り付いたまま。需要サイドでは、自動車生産が中国で減速し、インド、タイも低調で、日本も消費増税影響から販売が減速している。東南アジアのホットコイル市況は昨年11月に底を打ったが、国内需要が回復基調に入ったインドからの輸出が減少したためで、需要牽引型ではないため反転・上昇する勢いはない。加えて新型コロナウイルスが発生し、収束に向かう手掛かりさえ見えない状態にある。新年度を迎えるが、国内は東京オリンピック・パラリンピックが終了するまで建築分野の活動が停滞する。開催時は物流停滞による製造業への影響も想定される。東京五輪が終われば、国内の経済活動は巡航速度に戻るとされているが、中国経済次第では、製品や部品、素材の需給バランスが崩れて厳しい時代が続く。歴史的に見ても、さまざまな厳しい条件が重なり、これほどスプレッドが悪化するケースはなかった。社長の柿木が指摘している通り、このような状況が鉄鋼業のニューノーマル(新常態)かどうか見極める必要があり、そうだとすれば経営戦略の見直しを迫られる」
――単独粗鋼は前年度の2630万トンから2800万トンへの回復を目指していたが。
「前年度後半に相次いだ高炉の操業トラブルは収まったものの需要が減少している。100万トン規模の生産調整を実施するため本年度は2700万トン程度にとどまる」
――原料高の製品安によるスプレッドの悪化が大きく響く。
「中国ミルは政府のインフラ・公共投資を背景に内需向けに増産を続けており鉄鉱石価格が高止まりする一方で、製造業向け需要減から鋼板類を中心にアジアをはじめとする市況は弱い状況が続いている」
――資材費なども上昇が続いている。
「資材・物流・外注費などが150億円のコストアップとなる。製造基盤整備に関わる償却費の増加、グループ会社の損益悪化なども370億円ある。230億円のコスト削減、前年度の災害影響など一過性損失の戻り220億円で450億円の効果を見込むが、鉄鋼は連結で1610億円の減益となる」
――鉄鋼は2003年4月の発足以来、初めて連結セグメント利益がゼロとなる。一過性要因を除いた実力ベースの利益は。
「鉄鋼は棚卸資産評価差230億円、原料キャリーオーバー50億円、為替差30億円を加えた310億円が実力とみている。ホールディングスは事業利益予想が450億円なので実力は760億円となる。前期は鉄鋼が1243億円、ホールディングスが1950億円だったので、それぞれ930億円、1190億円の大幅減益となる」
――鉄鋼はグループ会社が600億円から700億円の利益を稼いできた。
「国内の関係会社は例年並みだが、インドのJSW、米国のCSIが減益となったので、規模は少し縮小している」
――鉄鋼事業の単独経常利益は600億円規模の赤字となる見込み。
「グループ会社の利益に見合う規模の赤字で、鉄鋼単独では大幅な赤字となる」
――自動車などひも付き分野の価格交渉は。
「諸物価コストアップ分を含めて未達分の値上げ交渉を続けており、一定の理解は得ている。ただし収益低迷が続いており、持続的成長を可能とする価格水準には達していない。ハイテン鋼板などの新商品、難製造材の生産が増えており、製品の付加価値を認めて頂き価格に反映する活動も継続して行う必要がある」
――鉄鋼事業の収益改善策の一環として、設備の選択と集中を推し進める。
「まず生産集約による事業競争力の強化に着手する。薄板事業では、東日本製鉄所京浜地区の冷延・表面処理鋼板を製造する冷間タンデム圧延機、第3溶融亜鉛めっき鋼板ライン(CGL)を3月末に休止する。薄板建材の製造設備で、東日本製鉄所千葉地区、西日本製鉄所福山・倉敷両地区の生産能力を引き上げてきており、供給力は維持し、4月以降、各所に振り分けていく」
――缶用鋼板事業では千葉地区の設備を休止する。
「ブリキ・ティンフリーは、国内需要が減り、世界的にも競争が激化しており、一層の環境悪化も想定される。千葉の冷間タンデム圧延機、連続焼鈍ライン、ティンフリーラインなど冷間圧延以降の缶用製造設備を22年度をめどに休止。缶用鋼板の生産をすべて福山地区に集約する」
――一方で倉敷地区の電磁鋼板は設備を増強する。
「自動車のモーターコア用の伸びる需要を捕捉する。投資金額など詳細は明らかにできないが、23年度をめどに高性能の無方向性電磁鋼板の供給力を2倍程度に引き上げる」
――方向性も供給不足が見込まれる。
「方向性電磁鋼板についても能力増強を検討している」
――中国の海南海宇は事業を清算したが、福建中日達、統一実業との合弁事業、タイティンプレート、ペルスティマなどは。
「海外については、収益性・市場性を考慮したポートフォーリオを志向していく」
――第6次中期経営計画(18―20年度)において、国内は西日本製鉄所を中心に能力増強・パフォーマンスの最大化を図る方針を打ち出している。東日本から西日本に設備を集約していく印象だが。
「製造実力強靭化に向けて東西製鉄所のコークス炉、焼結機を更新してきた。倉敷地区では第7連続鋳造設備が20年度下期に操業を開始し、21年度には第4高炉を改修、23年度をめどに電磁鋼板の能力も増強する。一方、千葉地区も自動車鋼板拠点と位置付け、福山の超ハイテン鋼板技術を横展開する。CGLを改造して超ハイテン鋼板の東西供給体制を整備する。京浜地区についても高耐食性鋼板、特殊鋼鋼板の生産を継続する。第4CGLで『エコガルNEO』の生産継続し、ハイカーボンや『スーパーコア』の生産も続ける。京浜はタンデムを休止するため、千葉地区から冷延コイルを供給する」
――国内の鋼材消費は90年代の9000万トンが6000万トンに縮小し、10年前に4000万トン規模だった直接輸出も3000万トンへと減少が続いている。1億2000万トンを超えていた全国粗鋼は1億トンを割り込み、将来的には8000万トン、7000万トンへ縮小するとの指摘もある。
「製造基盤は東西製鉄所の4地区に点在しており、いずれも老朽化が進む。確かに内需は縮小するだろうし、JFEスチールは輸出比率が4割強と高く、海外では自国生産化が進む。国内生産を縮小する必要があれば、一部設備を休止して基盤整備費用を圧縮するなど経営資源の傾斜配分を検討しなければならない」
――今回は下工程の設備調整。
「輸出をどうみるか、どのような品種戦略をとっていくかだが、縮小する下工程の設備とのバランスと整合性を取るには、粗鋼能力に関わる上工程の設備の議論は避けられないだろう」
――持続的成長を担保する海外では、新事業が相次ぎ立ち上がってくる。
「UAEの大径溶接鋼管合弁が操業を開始し、メキシコの自動車用鋼板合弁も試験運転を開始した。中国では特殊鋼棒線ミルへの出資を決めた。ミャンマーでは建材用薄板合弁がカラー鋼板の生産を開始した」
――上工程の海外展開をさらに推し進めるのか。
「インドのJSWとベトナムのFHSが高炉一貫製鉄所を運営している。JSWは拡大路線を走っており、伸びるインド市場で連携を強化していきたいと考えている」
――米国のカルフォルニア・スチール・インダストリーズは、安定収益を稼いでいるが、パートナーのヴァーレは経営資源を原料ビジネスに集中したい意向を示している。JFEグループとして50%の権益を買い取る意向はあるのか。
「ヴァーレにとってコア事業ではなくなっているのは確かだが、われわれにも資金面の課題はある」
――メキシコの合弁パートナー、ニューコアとの共同出資というシナリオは。
「具体的な話はない」
――JFEエンジが三井E&Sプラントエンジニアリングを買収する。
「この買収により化学プラント分野を強化し、エネルギー部門の拡大を図る。優秀なエンジニアも確保でき、成長戦略の大きな一歩となる」
――J商は国内外で収益基盤整備と成長投資を同時に進めている。
「電磁鋼板ビジネスではメキシコ北西部、カナダ南東部に加工・物流拠点を確保し、中国で欧州系加工メーカーに出資するなど事業構造改革も実施した。北米では鋼管事業の基盤強化を進めている。国内では建材分野の事業再編を決定するなど基盤整備を加速している」
――JMUも構造改革に踏み出した。
「前々期はLNG船の採算悪化という明確な理由があったが、今期は天候不順や自然災害などによる建造工程の遅延、資機材費の上昇、一部設備の減損処理などが重なった。造船業は建造が順調に進んで損益がトントンという厳しい環境にある。海運不況、中国や韓国との受注競争の激化など経営環境が一段と厳しくなると判断し、今治造船との資本業務提携の検討を開始した。舞鶴事業所では新造商船の建造を終了する構造改革も決めた。JMUは今治造船とともに日本の造船業の将来を切り開いていく」
――収益低迷が続くが、財務健全性も維持する必要がある。
「第6次中計における鉄鋼事業の国内設備投資1兆円を約1割圧縮する。資産圧縮による1500億円程度のキャッシュフロー創出も予定しており、うち政策保有株式売却で1000億円以上を見込む。本年度は資産圧縮を約400億円予定しており、来年度に1100億円を実施する。本年度末の有利子負債残高は1兆8200億円を見込み、2960億円程度増加する。うち会計基準変更によるリース債務の増加が1100億円程度ある。DEレシオは83%程度と15㌽程度の悪化で食い止める」
――政策保有株式は、コーポレートガバナンスの観点から売却を迫られている。
「政策保有株式は原則として保有しない方針のもと、売却を順次推進している」
――財務目標はDebt/EBITDA(事業利益+減価償却費など)倍率3倍。
「EBITDAが前年度の4282億円から2750億円に減少するため3・6倍から6・6倍に大きく後退する」
――鉄鋼事業は1―3月に収益がさらに悪化するが、製鉄所の減損処理は。
「エネルギー鋼管分野の環境悪化を受けて、知多製造所は2017年度に減損損失を計上した。製鉄所の減損を行うか否かについては、将来の収益想定に基づいて評価していくことになる」
――残念ながら株価の動きは芳しくない。株価対策としてはESG課題への取り組みも求められている。
「株安の原因となっている鉄鋼事業については、巨大装置産業のため時間を要するが、自助努力を徹底し、価格改善も進めることで収益力を回復していく。ESG経営の観点で、気候変動問題に関しては、TCFD提言に沿った情報開示を実施し、これらの取り組みをまとめた統合報告書がGPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」に鉄鋼で唯一選定された。女性の社外監査役に続いて、女性の社外取締役就任も予定している。取締役会の多様化を図り、中長期的な投資戦略やESG課題についての議論をさらに充実させていく」(谷藤 真澄)
「今回はジャパン・マリンユナイテッド(JMU)が360億円の最終赤字予想を公表したため165億円の持分法投資損失見込みを織り込んだ。JFE商事も国内グループ会社などの業績下振れによりセグメント利益予想を320億円から290億円に下方修正した。JFEエンジニアリングのセグメント利益は230億円、JFEスチールはゼロで、いずれも前回予想を据え置いた」
――通期事業利益は前期比1870億円の大幅減となるが、主因は鉄鋼事業。
「中国は景気対策効果で高水準の鉄鋼生産が続く一方、米中貿易摩擦などの影響で製造業分野の需要が低迷。世界の鉄鋼業は『原料高の製品安』という厳しい局面にさらされている。ヴァーレのブラジル鉄鉱石鉱山の事故によって急騰した鉄鉱石は、値段は戻しているものの80―90ドルの高値に張り付いたまま。需要サイドでは、自動車生産が中国で減速し、インド、タイも低調で、日本も消費増税影響から販売が減速している。東南アジアのホットコイル市況は昨年11月に底を打ったが、国内需要が回復基調に入ったインドからの輸出が減少したためで、需要牽引型ではないため反転・上昇する勢いはない。加えて新型コロナウイルスが発生し、収束に向かう手掛かりさえ見えない状態にある。新年度を迎えるが、国内は東京オリンピック・パラリンピックが終了するまで建築分野の活動が停滞する。開催時は物流停滞による製造業への影響も想定される。東京五輪が終われば、国内の経済活動は巡航速度に戻るとされているが、中国経済次第では、製品や部品、素材の需給バランスが崩れて厳しい時代が続く。歴史的に見ても、さまざまな厳しい条件が重なり、これほどスプレッドが悪化するケースはなかった。社長の柿木が指摘している通り、このような状況が鉄鋼業のニューノーマル(新常態)かどうか見極める必要があり、そうだとすれば経営戦略の見直しを迫られる」
――単独粗鋼は前年度の2630万トンから2800万トンへの回復を目指していたが。
「前年度後半に相次いだ高炉の操業トラブルは収まったものの需要が減少している。100万トン規模の生産調整を実施するため本年度は2700万トン程度にとどまる」
――原料高の製品安によるスプレッドの悪化が大きく響く。
「中国ミルは政府のインフラ・公共投資を背景に内需向けに増産を続けており鉄鉱石価格が高止まりする一方で、製造業向け需要減から鋼板類を中心にアジアをはじめとする市況は弱い状況が続いている」
――資材費なども上昇が続いている。
「資材・物流・外注費などが150億円のコストアップとなる。製造基盤整備に関わる償却費の増加、グループ会社の損益悪化なども370億円ある。230億円のコスト削減、前年度の災害影響など一過性損失の戻り220億円で450億円の効果を見込むが、鉄鋼は連結で1610億円の減益となる」
――鉄鋼は2003年4月の発足以来、初めて連結セグメント利益がゼロとなる。一過性要因を除いた実力ベースの利益は。
「鉄鋼は棚卸資産評価差230億円、原料キャリーオーバー50億円、為替差30億円を加えた310億円が実力とみている。ホールディングスは事業利益予想が450億円なので実力は760億円となる。前期は鉄鋼が1243億円、ホールディングスが1950億円だったので、それぞれ930億円、1190億円の大幅減益となる」
――鉄鋼はグループ会社が600億円から700億円の利益を稼いできた。
「国内の関係会社は例年並みだが、インドのJSW、米国のCSIが減益となったので、規模は少し縮小している」
――鉄鋼事業の単独経常利益は600億円規模の赤字となる見込み。
「グループ会社の利益に見合う規模の赤字で、鉄鋼単独では大幅な赤字となる」
――自動車などひも付き分野の価格交渉は。
「諸物価コストアップ分を含めて未達分の値上げ交渉を続けており、一定の理解は得ている。ただし収益低迷が続いており、持続的成長を可能とする価格水準には達していない。ハイテン鋼板などの新商品、難製造材の生産が増えており、製品の付加価値を認めて頂き価格に反映する活動も継続して行う必要がある」
――鉄鋼事業の収益改善策の一環として、設備の選択と集中を推し進める。
「まず生産集約による事業競争力の強化に着手する。薄板事業では、東日本製鉄所京浜地区の冷延・表面処理鋼板を製造する冷間タンデム圧延機、第3溶融亜鉛めっき鋼板ライン(CGL)を3月末に休止する。薄板建材の製造設備で、東日本製鉄所千葉地区、西日本製鉄所福山・倉敷両地区の生産能力を引き上げてきており、供給力は維持し、4月以降、各所に振り分けていく」
――缶用鋼板事業では千葉地区の設備を休止する。
「ブリキ・ティンフリーは、国内需要が減り、世界的にも競争が激化しており、一層の環境悪化も想定される。千葉の冷間タンデム圧延機、連続焼鈍ライン、ティンフリーラインなど冷間圧延以降の缶用製造設備を22年度をめどに休止。缶用鋼板の生産をすべて福山地区に集約する」
――一方で倉敷地区の電磁鋼板は設備を増強する。
「自動車のモーターコア用の伸びる需要を捕捉する。投資金額など詳細は明らかにできないが、23年度をめどに高性能の無方向性電磁鋼板の供給力を2倍程度に引き上げる」
――方向性も供給不足が見込まれる。
「方向性電磁鋼板についても能力増強を検討している」
――中国の海南海宇は事業を清算したが、福建中日達、統一実業との合弁事業、タイティンプレート、ペルスティマなどは。
「海外については、収益性・市場性を考慮したポートフォーリオを志向していく」
――第6次中期経営計画(18―20年度)において、国内は西日本製鉄所を中心に能力増強・パフォーマンスの最大化を図る方針を打ち出している。東日本から西日本に設備を集約していく印象だが。
「製造実力強靭化に向けて東西製鉄所のコークス炉、焼結機を更新してきた。倉敷地区では第7連続鋳造設備が20年度下期に操業を開始し、21年度には第4高炉を改修、23年度をめどに電磁鋼板の能力も増強する。一方、千葉地区も自動車鋼板拠点と位置付け、福山の超ハイテン鋼板技術を横展開する。CGLを改造して超ハイテン鋼板の東西供給体制を整備する。京浜地区についても高耐食性鋼板、特殊鋼鋼板の生産を継続する。第4CGLで『エコガルNEO』の生産継続し、ハイカーボンや『スーパーコア』の生産も続ける。京浜はタンデムを休止するため、千葉地区から冷延コイルを供給する」
――国内の鋼材消費は90年代の9000万トンが6000万トンに縮小し、10年前に4000万トン規模だった直接輸出も3000万トンへと減少が続いている。1億2000万トンを超えていた全国粗鋼は1億トンを割り込み、将来的には8000万トン、7000万トンへ縮小するとの指摘もある。
「製造基盤は東西製鉄所の4地区に点在しており、いずれも老朽化が進む。確かに内需は縮小するだろうし、JFEスチールは輸出比率が4割強と高く、海外では自国生産化が進む。国内生産を縮小する必要があれば、一部設備を休止して基盤整備費用を圧縮するなど経営資源の傾斜配分を検討しなければならない」
――今回は下工程の設備調整。
「輸出をどうみるか、どのような品種戦略をとっていくかだが、縮小する下工程の設備とのバランスと整合性を取るには、粗鋼能力に関わる上工程の設備の議論は避けられないだろう」
――持続的成長を担保する海外では、新事業が相次ぎ立ち上がってくる。
「UAEの大径溶接鋼管合弁が操業を開始し、メキシコの自動車用鋼板合弁も試験運転を開始した。中国では特殊鋼棒線ミルへの出資を決めた。ミャンマーでは建材用薄板合弁がカラー鋼板の生産を開始した」
――上工程の海外展開をさらに推し進めるのか。
「インドのJSWとベトナムのFHSが高炉一貫製鉄所を運営している。JSWは拡大路線を走っており、伸びるインド市場で連携を強化していきたいと考えている」
――米国のカルフォルニア・スチール・インダストリーズは、安定収益を稼いでいるが、パートナーのヴァーレは経営資源を原料ビジネスに集中したい意向を示している。JFEグループとして50%の権益を買い取る意向はあるのか。
「ヴァーレにとってコア事業ではなくなっているのは確かだが、われわれにも資金面の課題はある」
――メキシコの合弁パートナー、ニューコアとの共同出資というシナリオは。
「具体的な話はない」
――JFEエンジが三井E&Sプラントエンジニアリングを買収する。
「この買収により化学プラント分野を強化し、エネルギー部門の拡大を図る。優秀なエンジニアも確保でき、成長戦略の大きな一歩となる」
――J商は国内外で収益基盤整備と成長投資を同時に進めている。
「電磁鋼板ビジネスではメキシコ北西部、カナダ南東部に加工・物流拠点を確保し、中国で欧州系加工メーカーに出資するなど事業構造改革も実施した。北米では鋼管事業の基盤強化を進めている。国内では建材分野の事業再編を決定するなど基盤整備を加速している」
――JMUも構造改革に踏み出した。
「前々期はLNG船の採算悪化という明確な理由があったが、今期は天候不順や自然災害などによる建造工程の遅延、資機材費の上昇、一部設備の減損処理などが重なった。造船業は建造が順調に進んで損益がトントンという厳しい環境にある。海運不況、中国や韓国との受注競争の激化など経営環境が一段と厳しくなると判断し、今治造船との資本業務提携の検討を開始した。舞鶴事業所では新造商船の建造を終了する構造改革も決めた。JMUは今治造船とともに日本の造船業の将来を切り開いていく」
――収益低迷が続くが、財務健全性も維持する必要がある。
「第6次中計における鉄鋼事業の国内設備投資1兆円を約1割圧縮する。資産圧縮による1500億円程度のキャッシュフロー創出も予定しており、うち政策保有株式売却で1000億円以上を見込む。本年度は資産圧縮を約400億円予定しており、来年度に1100億円を実施する。本年度末の有利子負債残高は1兆8200億円を見込み、2960億円程度増加する。うち会計基準変更によるリース債務の増加が1100億円程度ある。DEレシオは83%程度と15㌽程度の悪化で食い止める」
――政策保有株式は、コーポレートガバナンスの観点から売却を迫られている。
「政策保有株式は原則として保有しない方針のもと、売却を順次推進している」
――財務目標はDebt/EBITDA(事業利益+減価償却費など)倍率3倍。
「EBITDAが前年度の4282億円から2750億円に減少するため3・6倍から6・6倍に大きく後退する」
――鉄鋼事業は1―3月に収益がさらに悪化するが、製鉄所の減損処理は。
「エネルギー鋼管分野の環境悪化を受けて、知多製造所は2017年度に減損損失を計上した。製鉄所の減損を行うか否かについては、将来の収益想定に基づいて評価していくことになる」
――残念ながら株価の動きは芳しくない。株価対策としてはESG課題への取り組みも求められている。
「株安の原因となっている鉄鋼事業については、巨大装置産業のため時間を要するが、自助努力を徹底し、価格改善も進めることで収益力を回復していく。ESG経営の観点で、気候変動問題に関しては、TCFD提言に沿った情報開示を実施し、これらの取り組みをまとめた統合報告書がGPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」に鉄鋼で唯一選定された。女性の社外監査役に続いて、女性の社外取締役就任も予定している。取締役会の多様化を図り、中長期的な投資戦略やESG課題についての議論をさらに充実させていく」(谷藤 真澄)
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