――2020年3月期の事業利益(減損等計上前)予想を前回の1000億円から540億円に下方修正した。
「19年4―12月期の事業利益(減損等計上前)が721億円となり、前年同期の2633億円から1912億円減少した。20年1―3月期は181億円の赤字を想定しており、通期は540億円にとどまる。前期の3369億円から2829億円の大幅減で、2710億円の減益となる製鉄事業が足を引っ張る。1260億円のマージン悪化、660億円相当の生産出荷減が響く。500億円のコスト削減を実施するが、グループ会社の損益が560億円悪化し、440億円の在庫評価損も発生する。君津製鉄所の落雷、台風15号による君津の第1製鋼工場被災、日鉄日新製鋼の呉製鉄所第1製鋼工場の転炉火災など420億円の災害影響も計上した」
――単独粗鋼生産は前回見通しの4070万トンから3970万トンに下振れし、前期の4100万トンから130万トン減少する。
「国内は五輪関連需要が一段落し、建設関連需要が端境期に入っている。加えて中国向けなどの間接輸出が減少し、製造業全体が低迷しており、裾野が広い鉄鋼業は大きな影響を受けている」
――鋼材平均価格はトン8万7000円程度と前回予想並み。
「前期と比較すると8万9900円から約3000円低下する。品種構成が悪化し、輸出が海外市況安の影響を受ける」
――一貫製鉄業の収益力を表す在庫評価差除きの単独営業赤字が3年連続となり、赤字幅は前々期の570億円、前期の140億円から今期は1300億円まで膨らむ。
「中国の鉄鋼増産によって鉄鉱石価格が高止まりする一方で、需給緩和によって海外中心に鋼材価格が下落する『原料高の製品安』という新たな中国リスクが浮上。加えて需要の減少により計画を見直すたびに生産・出荷量の下方修正を余儀なくされてきた。修繕費や設備投資など製造基盤整備を継続的に強化してきており、固定費も積み上がっている。数量を出して売り上げを伸ばすことができず、大きくなったトン当たりの固定費が重くのしかかっている」
――通期で4900億円の減損損失などを計上する。
「将来獲得できるキャッシュフローの現在価値が現在の固定資産簿価を下回るため、差額分について減損損失を計上し、固定資産簿価を切り下げる必要に迫られた。上期末の時点で減損は必要なかったが、10月以降に数量がさらに落ち込み、マージン回復に時間がかかっているという前提に立って赤字が継続している3製鉄所の減損を実施した。事業損益に直結する減損損失は3179億円。鹿島製鉄所が1504億円、名古屋製鉄所が1228億円、広畑製鉄所が447億円。加えて461億円の一過性損失を計上する。減損を実施した上で、効率的な全社最適生産体制を再構築するための設備構造対策を実施する」
――最終損益を押し下げる個別開示項目が1260億円。
「日鉄日新製鋼・呉製鉄所の一貫休止決定に伴い、固定資産簿価全額相当787億円の事業再編損を計上。別途、鹿島製鉄所のUO鋼管工場、日鉄ステンレスの衣浦製造所の熱延工場と精密品製造専用設備などの休止による事業再編損、日鉄日新の中国特殊鋼鋼板合弁の事業撤退損など一過性損失473億円を計上。ここには第4四半期で発生するリスクのある事業再編・撤退損も現時点で見通せるものはすべて織り込んでいる」
――その結果、事業損益が3100億円の赤字(前期3369億円の黒字)、最終損益は4400億円の赤字(同2511億円の黒字)となる。
「過去最大の最終赤字を計上する。単独営業赤字も過去最大。リーマン・ショック後は一時的に業績が大きく落ち込んだが、すぐに回復した。12年10月の新日鉄住金の発足時に和歌山・堺・広畑製鉄所などでトータル2600億円程度の減損を計上したが、今回は名古屋・鹿島など主力製鉄所の減損で規模が大きくなった」
――思い切った生産設備構造対策に踏み込む。
「日鉄日新の呉製鉄所は、高炉・焼結・製鋼など鉄源工程を21年度上期末に休止し、23年度上期末には熱延・酸洗を含めて全設備を休止する。和歌山は第1高炉、焼結・コークス炉・連続鋳造機など一部設備を22年度上期末に休止する」
――呉の特殊鋼鋼板は、第1製鋼工場の90トン転炉による造り込みが不可欠とみられていた。
「他の製鉄所にて製造・供給ができる見込みだ」
――薄板の生産体制効率化も加速する。
「公表済みの広畑製鉄所のブリキ製造ライン休止を前倒しし、日鉄日新の堺製造所にある連続焼鈍ライン、電気亜鉛めっきライン、溶融アルミめっきラインを20年度末に休止する」
――チタンの不採算事業からも撤退する。
「製鋼所のチタン丸棒製造設備を22年度末、大分製鉄所・光地区のチタン溶接管製造ラインを21年度上期末にそれぞれ休止する」
――一連の設備構造対策の判断基準は。
「高付加価値品を一貫生産する体制・実力の観点から製鉄所としての競争力を総合的に検証。競争力劣位な設備を休止し、競争力優位な設備に生産を集約した上で、戦略的な選択投資を行い、生産性をさらに引き上げ、体質強化を図る。全社最適生産体制を追求し、付加価値の高い品種・商品のウエートを高め、適正な固定費規模での限界利益最大化に注力する」
――期末配当を見送る。
「大規模な赤字を踏まえ、誠に遺憾であるが期末配当を見送る。期末の無配は初めて、年間10円配当も7年ぶりの低水準。厳しい経営環境が続くと予想されることから、生産体制のみならず経営体制もスリム化・効率化する。全社最適の生産・経営体制を確立することで収益基盤を再構築。まずは単独営業損益の黒字化を果たし、連結利益を引き上げて、株主還元を図っていきたい」
――役員報酬を一部返上する。
「7月からの1年間の報酬を全額前期業績連動で決定する制度に基づくと、次期報酬は現行比で役位別に40%強から30%弱の減額となる見込み。それに先立って今期の業績に責任を有する現行の役員体制において経営姿勢を示すため、会長、社長が20%、副社長、常務取締役、常務執行役員が15%、執行役員が10%の役員報酬を直ちに返上する」
――90年代に9400万トンあった国内鋼材消費がリーマン・ショック以降、6000万トン規模に縮小している。
「2019年度の国内消費は6000万トンを下回る見通しだ。日本の製造業は、自動車をはじめ国際競争力があるので、国内生産は一定の規模で継続されるだろうが、間接輸出分はいずれ現地生産に置き換わっていく。全国粗鋼の40%程度を占める直接輸出も、海外各国の自国生産化が進めば減少していく。こうした前提に立って、製鉄所ごとに競争力、商品、コスト競争力、需要家との関係もみて、競争力劣位のミルから、競争力優位の設備に生産を集約していく。想定する需要規模に対して余剰となる能力を休止して最適生産体制を構築するという考え方であり、受注を落として限界利益を失うわけではない」
――小倉第2、呉第1・2、和歌山第1の4基の休止で、高炉は11基体制となる。
「粗鋼換算年産500万トンの能力削減となる。これで対策が十分とは思っていない。先行きの需給動向を見て、必要となれば第2弾を検討していく」
――一貫製鉄所はガス・エネルギーバランスなど競争力を担保する要素が複雑。
「今回休止する設備の生産分は、すべて他所で吸収できる。つまり上方弾力を手放し、下方弾力を確保しながら限界利益を稼いでいく選択。下方弾力性の第2弾となると、その分、限界利益を失うことになるので、しっかり見極めていく必要がある」
――普通鋼、ステンレス、特殊鋼鋼板は事業・設備再編に着手した。特殊鋼棒線については。
「室蘭製鉄所と八幡製鉄所・小倉地区、子会社の山陽特殊製鋼によるグループ連携を強化していく。お互いの得意とする鋼種の生産集約などを検討していく。山特グループの欧州オバコ、インドのマヒンドラを含め、グローバル展開でもシナジーを追求していく」
――日鉄ステンレスに続き、日鉄特殊鋼を立ち上げることになるのか。
「軸受鋼は山特グループを一つの塊として競争力を高めていく。自動車向けなどの構造用鋼は室蘭、小倉を主体に日本製鉄でやる。シナジーを発揮しながらグループ全体で収益力回復に注力する」
――持続的成長のカギを握る海外戦略について、将来の有望市場であるインドのエッサールを共同買収した意義は大きい。
「エッサール(AM/NSインディア)は700万トン以上の粗鋼生産をキープしている。EBTIDAも十分に出ており、連結利益を取り込める。成長戦略としては粗鋼能力を1200万―1500万トンレベルへと拡張していくことも検討する。またエッサールは、ガス還元のミドレックスなど直接還元鉄プラントや電炉も保有している。選鉱プラント、ペレット工場を持ち、鉄鉱石鉱山の案件にも応札している。資源、下工程などの関連資産を含めた一貫生産能力のバランスを考慮しながら、次世代型の製鉄ビジネスモデルを育成する視点で戦略的投資を続け、収益の柱に育てていく」
――北米市場について。
「魅力的なマーケットであり、I/Nテック・コート、AM/NSカルバートなど自動車鋼板拠点に加え、クランクシャフト、鉄道車輪、鋼管継手など幅広い分野で事業展開している。メキシコのテニガルを含めて、成長投資を続けていく」
――NSウィーリング・ニッシンはZAMの生産も開始している。
「安定した利益を計上しており、建材用途では競争力もある。いろいろな事業連携の可能性も探っていく」
――中南米は。
「ブラジル経済は比較的落ち着いており、ウジミナス、ウニガルとも連結収益に貢献している。メキシコもUSMCA(旧NAFTA)締結で経済が安定し、テニガルの収益拡大も期待している」
――エネルギーは強い分野だが、油価停滞によってリグカウントは低位安定しており、米国はシェールガス・オイルにシフトしている。
「シームレスパイプは国際競争力を持つ非常に重要なビジネス。油価はバレル50―60ドルだが、利益は出ている。オイルメジャー向けの高級品は、更新用もあって需要は底堅く、油井開発投資も戻りつつある。仏バローレックとは継手の共同ラインセンス事業を展開し、米VAM USA、伯VSBなどの合弁事業も展開している。このほどバローレックの増資を一部引き受けて10%程度の持ち株比率を維持することを決めた。エネルギー分野には引き続き経営資源を投入していく」
――ラインパイプはプロジェクトの端境期が続いている。鹿島のUO鋼管ミルの休止を決めたが、サウジアラビアのナショナルパイプカンパニー(NPC)の経営状況は。
「ラインパイプは、油井管ほど商品競争力を強調できない。マーケットは海外であり、日本からの輸出競争力を発揮できるのは高級品分野に限定される。君津のUO鋼管ミルはバリューを加える装置がそろっている。NPCは存在意義を改めて見極めていく」
――中期経営計画(18―20年度)では収益力の指標としてROS10%(事業利益/売上高)を目指している。今期見通しは減損
前でも0・9%と前期の5・5%から後退する。来期の収益回復に向けて、発射台となる実力ベースの事業利益は。
「今期は減損を除いた事業利益が540億円で、一過性のマイナス要因520億円を加えた通期の実力利益は1060億円にとどまる。下期はさらに厳しく、実力は100億円程度まで落ち込む。国内需要は当面、かなり厳しい局面が続くとみている。米中貿易摩擦の影響に加えて、新型コロナウィルスの影響で中国の製造業の操業が停滞し、日本や米国のサプライチェーンを寸断し、世界経済にも影響を与え始めている。来期は今期あった420億円の災害損失の戻りがある。減損損失によって減価償却負担が今期に比べて470億円減少する。中計に沿って500億円のコスト改善効果も実施する。ひも付き価格の改善効果を加えて単独営業損益を黒字化し、連結ではV字回復を目指したい」
――ひも付き分野のマージン改善は。
「営業が頑張っているところで、改善しつつあるが道半ばである」
――ハイテン鋼板など難製造品は付加価値が高く、エキストラの見直しも不可欠。
「理解を求めてきている」
――構造対策は痛みを伴うが、21年度にスタートする次期中計は攻めに転じる。総合力世界ナンバーワンの鉄鋼メーカーの実現には一定のスケールも必要。
「国内は需要見合いで能力を縮小するが、品種構成の高度化を進め、電磁鋼板など限界利益が高い品種のウエートを引き上げていく。生産設備構造対策で年間1000億円規模の収益改善効果が徐々に具現化してくる。海外事業投資の成果を引き出し、次期中計は成長戦略を収益に結び付ける期間とする。技術力は世界トップ、グローバルネットワークも充実している。グローバルベースの鋼材生産能力は9000万トン。ここから今回の生産設備構造対策により一部能力は減少するものの、エッサールの拡張計画によって、スケールでも世界トップクラスの地位が視野に入ってくる」(谷藤 真澄)