日本製鉄は事業の選択と集中、基盤強化等による構造改革に踏み込む。米中貿易摩擦や中国経済の減速、世界経済の成長鈍化による「原料市況高・鋼材市況安」等の厳しい経営環境が続くとの強い危機感を背景に、電磁鋼板、インドなど成長分野、地域への成長投資を選択的に推進し、事業基盤強化のための製鉄所組織の統合・再編成等を実施する。
2020年3月期の連結事業利益は前期の3369億円に比べて2369億円、7割減の1000億円にとどまる見通しとなった。主力の製鉄事業が前期の2746億円から2246億円、8割減の500億円に大きく後退するためだ。
原料価格の上昇、海外市況安などでマージンが1350億円悪化。生産・出荷減、日鉄日新製鋼などグループ会社の損益悪化、災害影響なども足を引っ張る。
一貫製鉄業の実力を表す「単独経常損益は前期の1123億円の黒字から740億円の赤字に転落し、一過性要因を除いた単独営業損益は3期連続赤字となる」(宮本勝弘副社長)。
単独損益の黒字化が最大の経営課題であり、足元の収益改善に向けては採算性を重視した「経済生産」にシフトし、ひも付き価格の改善に注力している。
加えて、将来を見据えた成長戦略の加速、製鉄所再編による事業基盤強化策等をこのほど決定した。
成長戦略の一環として、強みを持つ電磁鋼板の能力・品質向上を図る八幡製鉄所への投資(460億円)に続いて、広畑製鉄所への投資(140億円)を決めた。世界の電力需要は2050年までの約35年間で倍増すると予測されており、電力向けの方向性電磁鋼板の需要拡大は続く。しかも世界的な変圧器の効率規制強化によって、エネルギー効率向上に不可欠なハイグレードの需要が着実に伸びる。世界の自動車生産が緩やかな拡大を続ける中、電気自動車やハイブリッドカー等のシェアは上昇。エコカー向けの無方向性電磁鋼板についても需要が拡大し、ハイグレード化が加速する。さらに「電磁鋼板の総合的な供給体制を強化するための追加投資の検討を続ける」構えである。
広畑については最新鋭の電気炉プロセス導入(280億円)も決め、電磁鋼板対応とセットで一貫製造体制を強化する。型銑や高品位スクラップを活用して電炉鋼によるハイグレード鋼板の生産体制を構築。石炭を使用する現状の冷鉄源溶解プロセスからの転換によって結果としてCO2発生量も減少する。
またグループ総合力発揮に向けて「日鉄日新製鋼の合併を決めた。山陽特殊製鋼とオバコの連携等のシナジー最大化も急ぐ」。日鉄スチールの製鋼工場(電炉、連鋳)の休止計画を取りやめたのは、グループの鉄源バランス上の判断とみられる。
中長期的な需要拡大が見込めるインドの一貫製鉄メーカー、エッサール・スチール買収も計画通り進める。(谷藤 真澄)