――米国の経済情勢から。
「2009年6月から続く過去最長の景気拡大局面にある。製造業・非製造業とも活動水準自体は堅調だが、10年を越えて、『そろそろ終わりが来るのでは』との疑心暗鬼が広がり、マイナス材料を探す人が増え、ネガティブな雰囲気が広がり始めている。米中貿易摩擦も悲観材料になっている」
――実態は。
「まず良い材料を挙げると、実質GDP成長率は10年間の平均がプラス1・7%で、4―6月はプラス2・0%と平均を上回る水準となった。失業率は3・7%と歴史的低水準を維持しており、実質的な完全雇用状態が続いている。併せて平均賃金も改善が続き、旺盛な個人消費が経済を下支えしている」
――一方、悪い材料は。
「7月のISM製造業景況感指数は51・2で拡大が続いているものの約1年前の60前後から低下し、拡大と縮小の境目となる50に近づいている。8月14日に長短金利差が12年ぶりに逆転したが、この逆イールド現象は1―2年内のリセッションを予期すると言われている。トランプ大統領による法人税・所得税の大幅減税効果が19年以降は薄れてくる。米中貿易摩擦による懸念もあって設備投資は減速感が漂い始めている」
――リーマン・ショック前のような景気の過熱感は伝わってこない。
「リーマン・ショック前は、04年の実質GDP成長率が3・8%、05年も3・5%と高かった。今回は1・5%から2・5%の範囲でほぼ推移していることから、確かに過熱感はない。消費者ローンは、クレジットカードや自動車ローンで延滞率が上昇傾向にあるが、ローン残高の7割を占める住宅ローンは延滞率が1%程度で、リーマン前の8%と比較すると健全な状態にある。このように良い面と悪い面がそれぞれあって判断に迷うところだが、不安材料は増えつつある」
――FRB(連邦準備理事会)は利下げに踏み切った。
「18年は4回の利上げを実施したが、米中貿易摩擦、世界経済減速の懸念があるとして6月に約10年ぶりとなる利下げを実施した。トランプ大統領は20年11月の選挙に向けて、好景気の持続をPRしたいはずで、FRBへの利下げプレッシャーはさらに強まるだろう。9月中旬のFOMC判断を注目している」
――米中貿易摩擦の影響は。
「第1―3弾の追加関税措置は、4―6月の米国GDPを0・2%程度下押ししたと試算されている。9月発動の第4弾は、家電や衣類など消費財を含んでおり、スマートフォンなど一部品目の発動が12月に先送りされる場合でも、追加で0・1―0・2%押し下げると試算されていた。日米貿易交渉の行方ともに、今後の動きを注視していく」
――鉄鋼需要産業について、自動車分野の動向から。
「米国の1―6月の販売は1・9%減の841万台だった。16年1747万台、17年1713万台、18年1722万台と推移してきたが、19年は5年ぶりに1700万台の大台割れとなる可能性が指摘されている。ただ車種別ではセダンが9%減で、SUVを含むライトトラックは1・4%増。販売価格が高いライトトラックが売れており、購買意欲が後退しているとはいえない」
――エネルギー分野は。
「テキサス州のニューメキシコ側にあるパーミアン盆地でシェールガス・オイルの油田が発見され、米国の原油の産出量が急増し、日産1200万バレルに達している。ボトルネックとなっていたヒューストンの製油所、輸出基地のコーパスクリスティなどへの陸上ラインパイプの増設は今年度中にほぼ完了し、米国の生産は19年1240万バレル、20年1330万バレルと拡大を続ける。サウジアラビアやロシアを抜いて世界最大の産油国となるが、シェールオイルは軽質油で精製に必要となる重質油は輸入を続けている。このためイランなどの地政学的リスクは残るが、米国の産出量が増えているため、油価(WTI)はバレル50―60ドル台で低位安定すると予測されている」
――鉄道分野は。
「北米の鉄道輸送量は好景気を映して堅調に推移している。特に、コンテナ輸送が伸びており、Amazonなどのビジネス拡大も背景にある。火力発電所の燃料が石炭からシェールガスに置き換えられつつあり、重量貨物である石炭輸送は減ってきている」
――建設分野について。
「非住宅建設支出は伸びが継続している。一方、住宅は建設支出が減少しており、販売・着工件数と併せて見ても後退している。販売価格が上昇を続け、賃金増が追いつかず販売が減少しているようだ」(ニューヨーク=谷藤 真澄)
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