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2024.10.30
2019年9月6日
海外鉄鋼事情 米国編 Nucorの経営戦略(下) ジョン・フェリオラCEO ニーズに応える付加価値を 日本3社との連携強化
【成長戦略投資】
――厚板も大型投資を決めた。
「厚板はハートフォード工場(ノースカロライナ州)、タスカルーサ工場(アラバマ州)、ロングビュー工場(テキサス州)の3製造拠点を持つが、ケンタッキー州に13億5000万ドルを投じて年産120万トンの新工場を建設する。現地州政府の許認可待ちだが、22年の操業開始を目指す」
――鋼管分野ではM&A戦略を加速している。
「3年前にゼロだったシェアは40%前後に達しており、今後は規模とともに特殊グレードを含め品質対応力も強化していく」
――エネルギー分野もM&Aの対象とするのか。
「エネルギー分野にはホットコイルの需要家が多い。加えて新規設備稼働に伴い、自動車・エネルギーなどのマーケットに高付加価値の商品やサービスを供給できる機会はますます増える」
――高炉プロセスへの進出を検討していた。
「米国の炭素税への懸念がある。高炉プロセスはDRI(直接還元鉄)、電炉プロセスに比べ、炭素排出量が多いため、現時点では検討していない」
【市場対応能力強化】
――原料調達戦略についても聞いておきたい。
「子会社のデビッド・J・ジョセフ・カンパニー(DJJ)が鉄スクラップを調達し、とりまとめも行っている。トリニダード・トバゴとルイジアナ州の2カ所で直接還元鉄を生産。DJJはブラジルやロシア、ウクライナなどから銑鉄を調達。鉄スクラップ、還元鉄を含め、国際冷鉄源マーケット、国内の鉄鋼マーケットの動向をにらみながら、よりタイムリーで効果的な原料調達を実践しており、われわれの強みの一つとなっている」
――マイクロミルの狙いを改めて。
「フロリダ州フロストプルーフとミズーリ州シダリアで建設中だが、いずれも同じ理由。例えばシダリアは150マイル圏内に大きな鉄筋市場があり、テキサス工場、イリノイ州のカンカキー工場からそれぞれ供給している。同様に150マイル圏内にDJJのスクラップ拠点がある。つまり、スクラップを150マイル離れた電炉工場に運び、150マイル離れた市場に鋼材を運んでいる。そこで年産30万―40万トン能力のマイクロミルを新設し、エリア内での地産地消を実現する。30万―40万トンは各市場のスクラップ発生と鋼材需要にマッチする。これがマイクロミルの発想の原点。物流コストをトン30―40ドル削減でき、ジャスト・イン・タイムデリバリーも実現する。連続製造方式でビレットなど半製品の制約を受けず、幅広いサイズオーダーにも対応でき、安定した品質、低コストの製造が可能になる」
――テキサス工場、カンカキー工場は余力が生じる。
「異なる商品を開発した。カンカキー工場はMBQの線材を拡販し、テキサス工場は、例えば現地のピックアップトラック用板バネ材料ニーズに応えてフラットバーを生産している」
――トータルの生産能力は大幅に拡大する。
「繰り返しになるが、単に出荷数量を増やすのではなく、顧客のニーズに応えることと、バリューチェーン拡充のための投資である」
【日本企業との連携】
――三井物産との連携について。
「折半出資事業のスチール・テクノロジーズは米国26カ所、メキシコ6カ所でサービスセンター事業を展開する。三井物産は強い営業力を持ち、特に自動車メーカーをはじめとする日系企業との信頼関係を確立。われわれは高級品からコスト競争力を持つ汎用品までの幅広い鋼材の供給体制を構築している。北米ビジネスにおける最高の組み合わせであり、双方にとって力強いパートナーとなっている」
――大和工業とは30年以上の協力関係にある。
「ニューコア・ヤマトは最も成功している合弁事業。長年にわたる協力関係のスタートは1988年に遡る。偉大なるビジネスマンである井上浩行氏(現・大和工業取締役会長)が勇気をもって挑み、ビジョンを実現した。私は井上氏を尊敬し、この間の協力関係に感謝もしている。ニューコア・ヤマトは新技術のQST(クエンチ&セルフテンパーライン)を導入、Zパイルを製造するなど、品質や生産効率の向上、品種拡大など持続的成長を実現するための数多くの挑戦を続けている」
――JFEスチールとはメキシコ合弁事業を年内に立ち上げる。
「JFEは世界最高の自動車鋼板製造技術を持つメーカーの1社で、日系自動車メーカーとの信頼関係を構築している。迅速かつ効率的・効果的な立ち上げのノウハウも持ち、強力なパートナーである」
――今後の取り組み、他の日本企業との連携の可能性について。
「3社との連携をさらに広げ、関係を強めていきたい。他の日本企業については状況に応じて検討していく。過去の日本企業との成功体験からも、会社、機会、場所などの条件があえば検討していく」
――北米以外の市場への関心は。
「欧州ではイタリアの電炉メーカーに50%を出資している。今後もビジネスチャンスをうかがっているが、アジアは中国の影響が大きく、絵を描くのが難しい。南米は懸念事項が多いと認識している」
【鉄鋼業の未来】
――米国では多くの高炉メーカーが衰退する一方、電炉メーカーが躍進し、中でもニューコアの成長は際立つ。
「ミニミルが成長を続けてきた理由としては、効率的生産によるコスト競争力、リサイクル産業としての環境対応力の二つを挙げることができる。その中でもニューコアが成功を収めてきた最大の要因はチームメイト(従業員)にある」
――採用、人材育成のスタンスは。
「まず正しい採用を心がけている。働く姿勢、公正さなどニューコアの現在のチームメイトの資質に近い人を採用する。さらに、さまざまな経験を通じ、ニューコア文化を体感させ、ニューコア・ファミリーになってもらう。人が最も重要な経営資源であり、だからこそ安全を最も重要視している」
――最後に鉄鋼業、ニューコアの将来展望を。
「鉄鋼業の将来は明るい。社会インフラ、輸送機など鉄鋼需要は着実に増えていく。ニューコアは持続的成長に向けて、商品の多様性と市場におけるリーダーシップを維持するための設備投資、新技術への挑戦を続けており、バランスシートも盤石である。ニューコアの未来は明るい」(ノースカロライナ州シャーロット=谷藤真澄)
――厚板も大型投資を決めた。
「厚板はハートフォード工場(ノースカロライナ州)、タスカルーサ工場(アラバマ州)、ロングビュー工場(テキサス州)の3製造拠点を持つが、ケンタッキー州に13億5000万ドルを投じて年産120万トンの新工場を建設する。現地州政府の許認可待ちだが、22年の操業開始を目指す」
――鋼管分野ではM&A戦略を加速している。
「3年前にゼロだったシェアは40%前後に達しており、今後は規模とともに特殊グレードを含め品質対応力も強化していく」
――エネルギー分野もM&Aの対象とするのか。
「エネルギー分野にはホットコイルの需要家が多い。加えて新規設備稼働に伴い、自動車・エネルギーなどのマーケットに高付加価値の商品やサービスを供給できる機会はますます増える」
――高炉プロセスへの進出を検討していた。
「米国の炭素税への懸念がある。高炉プロセスはDRI(直接還元鉄)、電炉プロセスに比べ、炭素排出量が多いため、現時点では検討していない」
【市場対応能力強化】
――原料調達戦略についても聞いておきたい。
「子会社のデビッド・J・ジョセフ・カンパニー(DJJ)が鉄スクラップを調達し、とりまとめも行っている。トリニダード・トバゴとルイジアナ州の2カ所で直接還元鉄を生産。DJJはブラジルやロシア、ウクライナなどから銑鉄を調達。鉄スクラップ、還元鉄を含め、国際冷鉄源マーケット、国内の鉄鋼マーケットの動向をにらみながら、よりタイムリーで効果的な原料調達を実践しており、われわれの強みの一つとなっている」
――マイクロミルの狙いを改めて。
「フロリダ州フロストプルーフとミズーリ州シダリアで建設中だが、いずれも同じ理由。例えばシダリアは150マイル圏内に大きな鉄筋市場があり、テキサス工場、イリノイ州のカンカキー工場からそれぞれ供給している。同様に150マイル圏内にDJJのスクラップ拠点がある。つまり、スクラップを150マイル離れた電炉工場に運び、150マイル離れた市場に鋼材を運んでいる。そこで年産30万―40万トン能力のマイクロミルを新設し、エリア内での地産地消を実現する。30万―40万トンは各市場のスクラップ発生と鋼材需要にマッチする。これがマイクロミルの発想の原点。物流コストをトン30―40ドル削減でき、ジャスト・イン・タイムデリバリーも実現する。連続製造方式でビレットなど半製品の制約を受けず、幅広いサイズオーダーにも対応でき、安定した品質、低コストの製造が可能になる」
――テキサス工場、カンカキー工場は余力が生じる。
「異なる商品を開発した。カンカキー工場はMBQの線材を拡販し、テキサス工場は、例えば現地のピックアップトラック用板バネ材料ニーズに応えてフラットバーを生産している」
――トータルの生産能力は大幅に拡大する。
「繰り返しになるが、単に出荷数量を増やすのではなく、顧客のニーズに応えることと、バリューチェーン拡充のための投資である」
【日本企業との連携】
――三井物産との連携について。
「折半出資事業のスチール・テクノロジーズは米国26カ所、メキシコ6カ所でサービスセンター事業を展開する。三井物産は強い営業力を持ち、特に自動車メーカーをはじめとする日系企業との信頼関係を確立。われわれは高級品からコスト競争力を持つ汎用品までの幅広い鋼材の供給体制を構築している。北米ビジネスにおける最高の組み合わせであり、双方にとって力強いパートナーとなっている」
――大和工業とは30年以上の協力関係にある。
「ニューコア・ヤマトは最も成功している合弁事業。長年にわたる協力関係のスタートは1988年に遡る。偉大なるビジネスマンである井上浩行氏(現・大和工業取締役会長)が勇気をもって挑み、ビジョンを実現した。私は井上氏を尊敬し、この間の協力関係に感謝もしている。ニューコア・ヤマトは新技術のQST(クエンチ&セルフテンパーライン)を導入、Zパイルを製造するなど、品質や生産効率の向上、品種拡大など持続的成長を実現するための数多くの挑戦を続けている」
――JFEスチールとはメキシコ合弁事業を年内に立ち上げる。
「JFEは世界最高の自動車鋼板製造技術を持つメーカーの1社で、日系自動車メーカーとの信頼関係を構築している。迅速かつ効率的・効果的な立ち上げのノウハウも持ち、強力なパートナーである」
――今後の取り組み、他の日本企業との連携の可能性について。
「3社との連携をさらに広げ、関係を強めていきたい。他の日本企業については状況に応じて検討していく。過去の日本企業との成功体験からも、会社、機会、場所などの条件があえば検討していく」
――北米以外の市場への関心は。
「欧州ではイタリアの電炉メーカーに50%を出資している。今後もビジネスチャンスをうかがっているが、アジアは中国の影響が大きく、絵を描くのが難しい。南米は懸念事項が多いと認識している」
【鉄鋼業の未来】
――米国では多くの高炉メーカーが衰退する一方、電炉メーカーが躍進し、中でもニューコアの成長は際立つ。
「ミニミルが成長を続けてきた理由としては、効率的生産によるコスト競争力、リサイクル産業としての環境対応力の二つを挙げることができる。その中でもニューコアが成功を収めてきた最大の要因はチームメイト(従業員)にある」
――採用、人材育成のスタンスは。
「まず正しい採用を心がけている。働く姿勢、公正さなどニューコアの現在のチームメイトの資質に近い人を採用する。さらに、さまざまな経験を通じ、ニューコア文化を体感させ、ニューコア・ファミリーになってもらう。人が最も重要な経営資源であり、だからこそ安全を最も重要視している」
――最後に鉄鋼業、ニューコアの将来展望を。
「鉄鋼業の将来は明るい。社会インフラ、輸送機など鉄鋼需要は着実に増えていく。ニューコアは持続的成長に向けて、商品の多様性と市場におけるリーダーシップを維持するための設備投資、新技術への挑戦を続けており、バランスシートも盤石である。ニューコアの未来は明るい」(ノースカロライナ州シャーロット=谷藤真澄)
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