米国最大の鉄鋼メーカー、ニューコアは2018年の連結業績が出荷量2800万トン(前年2650万トン、以下すべてショートトン)、売上高250億ドル(202億ドル)、純利益23億6000万ドル(13億2000万ドル)となり、いずれも2008年の最高記録を更新した。この10年間で総額90億ドル以上の投資を実施して収益構造を改革。自動車鋼板など高級鋼市場に参入し、厚板や鋼管分野も強化。鋼材販売、鉄源ビジネスにも本格参入し、バリューチェーンを拡充。20年前と比較すると出荷量は約3倍、売上高が約6倍、純利益は約9倍に拡大している。さらに総額35億ドル規模の戦略投資計画を策定し、持続的成長を図る方針を打ち出している。いま世界鉄鋼業で最も注目されているニューコア(本社=ノースカロライナ州シャーロット)の「小さな本社」を訪問。総額120億ドルを超える数々の投資について「生産能力を引き上げることのみが目的ではなく、顧客の要望に応え、付加価値を上げるための能力強化が狙いである」と強調するジョン・フェリオラCEOに単独インタビューし、経営方針や成長戦略を聞いた。
【足元の経営状況】
――2018年は最高益を記録した。
「18年は出荷、売上高、利益がいずれも過去最高となる非常に良い年となった。米国経済はとても強く、製造業を含めて需要産業も総じて好調に推移し、90%を超える操業率を維持した。加えて通商拡大法232条による輸入鋼材制限が追い風となって収益を押し上げた」
――19年上半期は出荷量が前年同期比5%減の1349万トンにとどまった。
「最終需要自体は引き続き好調。エンドユーザーに販売している3分の2相当は堅調だった。出荷減の理由は一つ目が天候不良。雨の日が多く、建設工事が予定通り進まなかった。二つ目がサービスセンター向けの販売量減少。232条の調査開始後、われわれは需要が増えても安定供給に努めると説明していたが、サービスセンターの多くが輸入鋼材制限による調達不足を懸念して17年末から18年にかけて在庫を積み上げた。その結果、サービスセンターは在庫調整を余儀なくされ、われわれの19年上半期の販売量が減少した」
――上半期は売上高が119億9000万ドル(前年同期120億3000万ドル)、純利益は8億8830万ドル(10億4000万ドル)に後退した。
「19年の前半は鋼材市況が下がり続ける難しい経営環境となったが、上半期としては18年、08年に続く3番目に高い収益を残すことができた。下半期入り後も需要事体は堅調。18年ほどではないが、19年通期も好業績を期待している」
――ニューコアは6月末、7月初旬、中旬と3回にわたってホットコイルのスポット価格をトン40ドル、トータル120ドル引き上げたが、市場への浸透状況は。
「鋼材市況は上半期に比べて下半期は上昇すると期待している」
【成長戦略投資】
――さてリーマン・ショック後からの約10年間で総額90億ドルの投資を実施してきたが、その成果について。
「18年の最高益に投資の成果が表れている。さらに総額35億ドルの10のプロジェクトを進めており、うち11億ドル相当分の6つのプロジェクトが本年内に動きだす」
――6つのプロジェクトとは。
「薄板系では、ギャラティン工場(ケンタッキー州)のホットコイルベースの亜鉛めっき鋼板ラインが第2四半期に操業を開始した。ヒックマン工場(アーカンソー州)の特殊冷延ミルは立ち上げ中。JFEスチールとのメキシコの亜鉛メッキ鋼板合弁事業は、年内に操業を開始する。条鋼系では、マリオン工場(オハイオ州)の棒鋼圧延ミルの老朽設備の更新工事を近く完了。カンカキー工場(イリノイ州)のMBQライン拡張工事も第4四半期に完了。ソデリア工場(ミズーリ州)のマイクロミルは年末にホットチャージを開始する」
――残る24億ドル分の計画について。
「4つのプロジェクトが20年以降に立ち上がる。ヒックマン工場の亜鉛めっき鋼板ライン、ギャラティン工場の熱延ミル拡張工事がそれぞれ21年央までに完了。ブランデンブルグ(ケンタッキー州)に新設する厚板工場は22年内の稼働を予定する。条鋼系ではフロストプルーフ(フロリダ州)に新設するマイクロミルが20年上半期の立ち上げを計画する」
――先行きの景気、鉄鋼需給などの経営環境認識を。
「景気については不確定要素が多く、答えられない。2020年11月の大統領選挙の結果によっても大きく左右される。鉄鋼需要自体は引き続き堅調に推移するとみている。供給サイドについては、例えば薄板系ではノーススター・ブルースコープの拡張、ビッグ・リバー・スチールの第2期プロジェクトなどが計画され、われわれもヒックマン工場やギャラティン工場での計画を進めている。需要次第ではあるが一時的に供給過剰になる可能性が高く、コスト・品質を含めたトータル競争力のあるメーカーのみが生き残る」
――改めて投資の基本戦略を。
「生産数量を増やすことではなく能力を高めることが狙いである。単に出荷数量を増やすのではなく、顧客のニーズに応えることと、バリューチェーン拡充のための投資である。すべての投資は特定された付加価値を狙っている」
――一連の投資を通じて自動車用鋼材を拡販している。
「自動車は需要が拡大を続ける分野として本格参入を決めた。7―8年前にはほとんどゼロだった自動車向けは本年200万トンに達する見込みであり、さらに22年までに300万トンに増やす計画だ。数量のみならず、本年5月にはゼネラルモーターズから電炉メーカーとして初めて『サプライヤー・オブ・ザ・イヤー』を受賞した」
――自動車鋼板は、供給能力をさらに拡充する。
「ヒックマン工場の冷延ミルは2億3000万ドルを投じ、高付加価値製品の生産対応力を強化した。1800―2000メガパスカル級のハイストレングス・ローアロイ(HSLA)、アドバンス・ハイストレングス・スチール(AHSS)が製造可能である。ヒックマン工場では、さらに2億4000万ドルを投じて亜鉛めっき鋼板ラインを建設する」
――棒線分野の高級鋼化戦略は。
「自動車、農機、建機などの分野にSBQ(スペシャル・バー・クオリティ)を拡販していきたい。メンフィス工場(テネシー州)の棒鋼ミルに最新鋭の熱処理炉を導入している」(ノースカロライナ州シャーロット=谷藤真澄)
(下)はこちらでご覧ください