――第6次中期経営計画(2018―20年度)を始動した。
「世界の産業界が大きな転換期を迎えている。今中計では『Fit for innovation』をスローガンに商社機能を高度化するための事業構造の大幅な見直しを進める。市場構造転換に合わせて、得意とするエネルギー・自動車分野のサプライチェーンマネジメント(SCM)を再構築。IoTやAIなどを活用した新IT戦略を全社展開し、業務効率改善と働き方改革を推し進め、収益構造を組み立て直す」
――今上期の純利益は前年同期比1・7倍の133億円だった。
「国内外ともに需要は堅調だったが、自然災害などの影響で国内の鉄鋼生産が伸びなかった。売上高は1兆1580億円で15%増となったが、ほとんど単価上昇要因。米国の鋼管ビジネス、建材事業の収益好転もあり、売上総利益は20%増の684億円に増加。売上総利益率は5・7%から5・9%に改善し、稼ぐ力が一部回復した。米保護貿易の影響が世界に広がり、株価が乱高下している。中国では一部の経済指標が悪化し、アジアの鋼材市況もピークアウトした。下期は上期に比べて慎重に見ている」
――連結純利益は07年度の339億円が過去最高。当時はリーマン・ショック前で全国粗鋼生産が1億2000万トンを超え、鉄鋼業を取り巻く環境は良好だった。当時と経営環境は大きく異なるが、前中計に続いて最高益更新に再挑戦する。
「20年度に過去最高益を更新するため、今期は事業会社の構造改革を徹底追求する。上期は連結会社112社のうち、黒字は84社で、赤字が28社。通期で赤字を13―14社まで圧縮し、来期は一桁に抑える。赤字会社の黒字化と撤退で収益構造を再構築する」
――3年間600億円の投資を計画する。エネルギー分野の収益基盤強化策は。
「北米、東南アジア、オセアニアなど成長が見込め、強みを持つ市場で在庫、品質管理、ネジ切り、ランニングなどのサービスメニューを拡充する。ベンチャー企業などのアイデアも取り入れて、SCMを高度化していく。欧州は態勢を見直す」
――UAEにおけるJFEスチールとのUOE鋼管合弁事業、アル・ガービア・パイプ・カンパニーが立ち上がる。
「パートナーであるUAE政府系企業を含む出資企業間でアル・ガービアの収益を最優先する認識を共有しており、垂直立ち上げが期待できる」
――自動車分野の強化策を。
「『EV戦略室』をグローバル展開し、新たな商流を面積で捕捉していく。電磁鋼板については、モーターコア世界最大手の一社であるユーロ・グループとの戦略的提携を深化・拡大させ、伸びる中国、欧米、日本のEV関連素材・部品の需要を幅広く捕捉。自動車鋼板は、北米、東南アジア、中国のSCMを拡充する。EV化対応で車体軽量化ニーズが高まる中、米国や中国のコイルセンターでアルミパネルにも対応しているが、中国では東風日産対応で武漢市に本格的な鋼板・アルミパネル兼用大型ラインを持つコイルセンターを本年12月に稼働を開始させる。また、紅忠コイルセンターホールディングスを設立した効果も引き出していく」
――新設した「技術部」の取り組みは。
「事業会社のマネージメント経験者、高炉・自動車メーカーのOBを含む24人体制で、コイルセンター、リローラーなど製造事業の安全・現場管理に加え、IT・IoTを駆使しながら、原価管理、生産効率改善、品質向上などを行っている。権限と責任を持たせ、新規設備立ち上げ支援、更新投資の評価も任せている。事業会社が蓄積するノウハウ、技術を集約して国内外のグループ企業に展開。国内外の現場からの信頼を得て、事業収益拡大に機能を発揮し始めている」
――高炉、ステンレス、特殊鋼の業界構造改革が進む。
「全体戦略としては、市場構造変化を敏感に捉え、3―5年、さらに10年先を見据えて、顧客・メーカーのニーズに対し、先手を打ちながら機能を高めていく。当社の強みの一つでもある『ステンレス部』は、東京、大阪、名古屋、九州、35人の態勢で収益基盤を広げている。変化の大きい時代に当社の強みを拡充する事が大事だと思っている。特殊鋼は、伊藤忠丸紅特殊鋼を含めてグローバル化対応が課題となっている」
――持続的成長には規模拡大が不可欠。
「鋼材取扱量を現在の2300万トンから2500万トン、さらに3000万トンと増やし続けることは容易でないが、マルチマテリアル化ニーズへの対応、得意とする北米の事業拡大など成長余地は広がる。例えば米国の薄板建材事業、CDBSはM&Aで全米シェアを4割に引き上げつつ、複合材建材メーカーを買収してメニューを増やすなど収益基盤を拡大してきている。現在取り組んでいる事業等の深堀は成果が出つつあり、新規地域・商材の開発も、機能・サービスという視点から拡張・進化の余地がある。また、人からIT、あるいはIoTを導入した設備に置き換えるなど効率化を図り、合わせて強靭な体質強化を進めていく」(谷藤 真澄)