世界の鉄鋼市場は、中国の鉄鋼生産能力過剰問題が鎮静化したことで落ち着きを取り戻したが、鉄鋼業界としては米国の保護貿易主義の影響、中国経済成長の鈍化、原料価格の変動など数多くのリスク要因を抱えている。2019年は、ポスト平成の新元号がスタートし、10月には消費税が引き上げられ、鉄鋼業界では日本製鉄グループが誕生する。日本の鉄鋼業は、収益回復を確実なものとし、自動車など需要産業の構造転換や第4次産業革命への対応を本格化し、持続的成長軌道を確保する一年としなければならない。新年を迎えるにあたって、日本鉄鋼連盟の柿木厚司会長(JFEスチール社長)に鉄鋼業の現状認識、今後の課題と展望を語ってもらった。
――2018年を振り返って。
「鉄鋼業を取り巻く環境はとても良好だった。国内需要は建設・製造業分野ともに総じて好調。通商問題は別として、海外需要は堅調で、アジアの鋼材市況も比較的安定していた。その背景には、中国の鉄鋼生産能力過剰問題が鎮静化し、鋼材輸出が一時に比べて縮小したことがある。一方で、米国の通商拡大法232条が発動され、鉄鋼業も巻き込まれた。幸い、日本鉄鋼業への直接的な影響はさほど大きくなかったが、米中貿易摩擦が過熱し、特に中国経済への影響が懸念される事態に陥った」
――国内では自然災害が相次ぎ発生した。
「西日本豪雨、大型台風、大阪府北部地震、北海道胆振東部地震などの被害が広がり、鉄鋼業も生産・出荷影響を受けた。JFEスチールの場合、西日本豪雨で西日本製鉄所の倉敷・福山両地区が一時的に操業を停止し、特に倉敷地区では多くの従業員の住宅が浸水などの被害を受けた。大型台風では関西地区の沿岸部にある多くのコイルセンターが被災した。過去の経験値を踏まえた製鉄所の排水能力が不足している。ここ2―3年に発生した規模の豪雨が発生するという前提で製鉄所の防災対策を急いでいる」
――国土強靭化を急ぐ必要がある。
「政府は国土強靭化策を公表し、対策の拡充・改善事項を追加している。大型の自然災害が続いており、対策工事を急ぐ必要がある。自然災害による被災に加えて、道路や橋梁、建物の老朽化も進んでおり、対策を急がなければならない。建設分野における人手不足問題が深刻化しており、鉄鋼連盟としては省力化、工期短縮を実現する安全・安心な『鋼構造』による復旧・復興、防災対策を提案している」
――鉄鋼需要は旺盛だったが、高炉メーカーを中心に生産が伸びず、一部品種では需給がひっ迫した。
「個社の話ではあるが、設備老朽化、品種構成の高度化、製造現場の世代交代などが重なり、操業・設備トラブルが続いている。高炉の設備トラブルも発生し、それ以外の操業トラブルも含めて、当初計画比で100万トン規模の生産減を余儀なくされた」
――18年度は全国粗鋼が前年度の1億480万トンを上回る見通しだった。
「需要は旺盛だったが、自然災害の影響もあり、前年度並みにとどまりそうだ。鉄鋼業としては安定生産・安定供給が課題として残った」