2018年1月9日

新春インタビュー 日本鉄鋼連盟 進藤 孝生会長 需要堅調、18年度粗鋼増の公算/中国マーケット安定化/コストアップは深刻に

日本鉄鋼連盟 進藤 孝生会長
世界の鉄鋼市場が安定成長軌道に戻り、日本鉄鋼業は好環境で新年を迎えた。中国の鉄鋼需給、原料価格の変動など不安要因を抱えるが、日本鉄鋼業は収益回復を確実なものとし、自動車産業の構造転換、第4次産業革命への対応を本格化する一年としなければならない。2018年を迎えるにあたり、日本鉄鋼連盟の進藤孝生会長(新日鉄住金社長)に鉄鋼業の現状と課題、中長期の展望など話を聞いた。



17年/内外動向

――2017年の世界情勢を振り返って。

「世界の政治が大きく変動した一年だった。米国のトランプ大統領が1月に就任し、欧州各国ではオランダ、フランスなどで政権選挙が続いた。日本は衆院選で与党が圧勝した。中国では5年に一度の共産党大会が10月に開催され、習近平体制が2期目に入った。一方、北朝鮮、中東などの地政学リスクは解消されなかった。こうした中、世界経済は極めて堅調に推移した。米国は個人消費が主導し、中国は新常態にソフトランディングしつつある。国内経済も主要指標は概ね前年比プラスで、景気は緩やかな回復が続いた」

――鉄鋼業を取り巻く環境は。

「世界各国の鉄鋼需要は堅調で、需給がタイト化するなど鉄鋼マーケットが大きく好転した。世界鉄鋼協会は4月、17年の鋼材消費見通しを前年比1・3%増となる15億3500万トンと発表したが、10月には7・0%増となる16億2200万トンに上方修正した。17年の鋼材消費は15億1500万トンだった16年から1億トン規模で拡大し、過去最高となった。中国で違法操業していた6000万トン規模の地条鋼が淘汰されたことのインパクトは大きいが、実需は4000万トン、3%以上、伸びたことになる」

――中国の鉄鋼過剰能力問題は後退した。

「中国については、国内の鉄鋼需要が好調に推移する中、地条鋼の全廃措置が徹底された。宝鋼と武鋼の統合による鉄鋼メーカーの構造改革が進み、政府による環境規制も厳格化されている。11月の粗鋼生産量は前年同月比2・2%増の6615万トンと21カ月連続で増加しているが、輸出は34%減の535万トンで16カ月連続減。1―11月の生産は前年同期比5・7%増の7億6480万トンと増えたが、輸出は30%減の6893万トンと大幅に減少した」

――日本の鉄鋼市場環境も好転した。

「自動車はじめ製造業は好調、五輪需要を含めた建設需要も本格化してきた。鉄鋼需給はタイト化し、特に薄板と特殊鋼棒線は極めてタイト感が強い状態となった。16年は中国の過剰生産・輸出問題が深刻化する一方で国内の需要回復が大幅に遅れて大変苦労したが、17年はそれらの要因が改善に向かい、環境は総じて好転した」



18年/見通し

――世界経済は。

「いくつかの地政学リスクが解消されないままであり、ここは引き続き注視しなければならないが、世界経済は先進国を中心に概ね堅調に推移することになりそうだ。IMFによると16年の世界経済成長率は、リーマン・ショック以来最低となる3・2%にとどまったが、17年は3・6%に回復し、18年は3・7%に上昇する。米国は16年1・6%、17年2・2%、18年2・3%と回復が続く。EUは1・8%、2・1%、1・9%と安定成長が続く。中国は6・7%、6・8%、6・5%と新常態にソフトランディングし、ASEAN5カ国も4・9%、5・2%、5・2%と安定成長に戻る。ブラジルやロシアもマイナス成長から抜け出して、緩やかな成長軌道に入る」

――世界の鉄鋼需要は。

「世界鉄鋼協会は18年の鋼材消費見通しを昨年4月の15億4800万トンから16億4800万トンに1億トン上方修正している。世界全体では1・6%増で、中国が7億6600万トンで横ばい、中国以外が8億8200万トンで3%増となる。北米、欧州、中南米などで成長が続く見通しとなっている」

――鉄鋼需給のカギを握る中国は先行きの懸念が残る。

「過剰設備の廃棄、地条鋼の全廃で実質的には2億トン以上の生産能力が削減され、マーケットは安定してきた。昨年10月の党大会前までは、大会後に景気が悪化するとか、春節以降は後退するといった議論が賑やかだったが、最近はそうした話題が息を潜めている。中央政府は鉄鋼、石炭、アルミ、セメントなどサプライサイドの過剰能力問題対策を推進し、同時に高度ITやスマホ決済などの後発者利益を活用することで、経済を安定成長させている。12月に都内で開催された日中CEO等サミットに出席したが、多くの中国企業トップが新常態へのソフトランディングに自信を見せていた。新日鉄住金社長として宝鋼40周年式典のため上海を訪れたが、宝武鉄鋼集団の馬国強董事長との会話の中にも、中国経済、鉄鋼需要の堅調さに対する自信がうかがわれた。新常態経済への移行による鉄鋼需要の安定化、環境規制による追加の鉄鋼生産能力削減策に加えて、鉄鋼グローバルフォーラム合意の効果も期待できることから18年も良好な環境が続くだろう」

――中国は鉄鋼輸出関税の見直しを進めている。

「12月中旬に公表された輸出税率調整計画については詳細を確認中。一部報道にあった鋼材や鉄スクラップの関税撤廃ということではなく、税率の見直しで、フェロアロイ、ビレットなどの半製品に対する輸出税を5―10%引き下げるということのようだ。ただし増値税の還付率見直しなど当局の輸出関税政策、それによる輸出や国際市場への影響は注視している」

――日本の鉄鋼市場環境は。

「18年も製造業分野の需要は底堅く、建設分野は需要回復が続くと期待している。全国粗鋼生産は17年10―12月の計画が2695万トン、年率1億800万トンで、堅調な需要を反映している。17年度の全国粗鋼生産は16年度の1億517万トンを上回ると期待していたが、生産サイドのトラブルが続き、横ばい程度にとどまりそう。18年度は生産サイドが安定してくるので17年度を上回るはずだ。鉄鋼輸入は減少基調にあるが、数量・価格ともに引き続き注視していく」

――石炭や鉄鉱石など鉄鋼主原料の価格が乱高下し、鉄鋼メーカーの収益を圧迫している。

「16年度は主原料価格が急騰し、世界の鉄鋼メーカーの収益が悪化した。17年度は、主原料価格が高止まりしており、鉄スクラップ、合金鉄や亜鉛、銅、錫、アルミなど副原料の価格も上昇。人手不足によって物流費も上昇傾向にあり、コストアップ問題は深刻化している」

世界鉄鋼業 課題と展望



――世界鉄鋼協会の会長に就任した。

「世界鉄鋼協会は昨年10月、発足50周年記念大会をブリュッセルで開催し、総会後に会長に就任した。世界鉄鋼業は自動車の技術革新、鉄スクラップの蓄積量増加、地球温暖化などのメガトレンドへの対応が大きなテーマとなっている。自動車はEV化、FCV化など技術の大きな転換点を迎えている。鉄スクラップは、世界最大の生産国である中国を中心に蓄積量が急拡大している。世界の粗鋼生産は16億トン規模で、75%が高炉メーカーによる転炉鋼、25%が電炉鋼。世界鉄鋼協会は電炉鋼比率が2035年前後に50%程度まで上昇すると予測している。高機能性鋼材を供給するために高炉は不可欠だが、鉄スクラップを有効に活用する仕組みが必要になってくる。他素材との競争を勝ち抜くため、鉄鋼製品共通の優位性をLCA(ライフサイクル・アセスメント)の観点を含めてきっちりPRしていくことも必要。地球温暖化問題については、各国それぞれのCO2排出削減目標があるが、鉄鋼業共通の課題として取り組むことが必要」

――自動車産業におけるカーシェアリングや自動運転は鉄鋼需要にどのような変化をもたらすのか。

「自動車需要を抑制するとみられているが、稼働率が高まって1台当たりの寿命が短くなるため、需要は減少しないという見方もある。自動運転によって運転免許が不要になれば、子供も高齢者もドライバーとなるため需要が増えるという指摘もある。自動車の需要予測は難しいが、そうした時代に鋼材が主要素材であり続けるための議論を急がなければならない」

――建設分野の需要は拡大が続く。

「世界鉄鋼協会は、35年まで年率1・0―1・5%で鉄鋼需要は増えると予測しているが、自動車分野の伸びは緩やかになり、建設分野が牽引役になるとみている。ハリケーンやサイクロン、台風などが大型化し、治山治水が追いついていない。先進国は道路や橋など社会インフラの老朽更新による国土強靭化が新たな課題となっており、発展途上国では社会インフラ整備需要が広がっていく」

――世界鉄鋼業にとっての課題は。

「過剰生産能力、通商摩擦の解消が大きな課題。過剰能力問題については、世界33カ国による鉄鋼グローバルフォーラムの議論が実行段階に入っていく。昨年11月末に閣僚会合がベルリンで開催され、鉄鋼過剰生産能力問題の解決のため各国が実施すべき6つの原則に合意した。市場歪曲的な政府支援措置の除去、国有企業と民間企業の取り扱いの同等化による公平な競争条件の確保などの6つの原則を含め、各国が具体的な政策的解決策を着実に実施し、レビューしていくことになる。日本鉄鋼業としては、過去の構造調整の経験を生かしながら、関係国と協力して問題解決に積極的な役割を果たしていく」

――通商摩擦は続いている。

「自由貿易体制の維持は世界経済が成長し、繁栄するための重要な前提条件である。中国からの鋼材輸出は落ち着きを見せつつあるが依然規模は大きく、発展途上国では鉄鋼の自国産化の流れが訪れ、保護貿易措置をめぐる問題が浮上してくる。中国、韓国、ASEAN諸国とは、政府の二国間鉄鋼対話などを通じて、誤った事実認識、思わぬ誤解に基づく貿易摩擦の未然防止を図り、健全な自由貿易を維持しなければならない。米国では、鋼材輸入を制限するための保護貿易的措置が相次いでおり、国家安全保障に及ぼす鋼材輸入影響を調べる通商拡大法232条も懸念材料となっている。232条の発動は、世界各国の報復措置の連鎖につながるパンドラの箱を開けることになりかねない。日本鉄鋼業としては、公聴会や意見書などを通して日本製の鋼材が米国の安全保障に悪影響を及ぼすことはないと主張してきた。調査開始から270日以内に結果報告を大統領に行うことが定められている。その期限が今月14日であるが、発動が回避されることを強く望んいる」

日本鉄鋼業発展に向け

――18年はどのような年となる。

「鉄鋼業を取り巻く環境は総じて改善しつつあり、18年も良好な状況は続くだろう。日本鉄鋼業の中長期の発展を目指し、会員各社が議論を重ね、課題を克服していく一年にしていきたい」

――日本鉄鋼業が抱える課題は。

「地球温暖化問題とエネルギー問題が大きな課題となっている。地球温暖化問題は来年、ポーランドで開催されるCOP24で、パリ協定の具体的な実施指針がまとまる。省エネ技術の普及や低炭素製品の供給拡大など、日本ならではの貢献のあり方を世界に発信していってもらいたい。鉄連としては、最先端技術の導入による2020年度を目標とする『低炭素社会実行計画』をしっかり進める。また、長期戦略の検討においては、経済産業省が、昨年4月に『国際貢献』『グローバル・バリューチェーン』『イノベーション』で地球全体の排出削減に貢献する3つのゲームチェンジを基本とした『地球儀を俯瞰した温暖化対策』を打ち出した。鉄連としては、この対策に賛同しており、この方向で政府には取りまとめていただきたい」

――エネルギー問題も深刻。

「政府は、3年ごとに行う『エネルギー基本計画』の見直しに入っている。東日本大震災以降、電力料金は高止まりしている。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が電力コストを押し上げており、産業界全体の大きな負担になっている。基本計画の見直しにあたっては、安全性が確認された原発を再稼働させ、FIT賦課金の増大に早急に歯止めをかけなければならない」

――重大災害が続いており、安全対策の強化が求められている。

「安全対策の基本は個社対応だが、経済産業省、厚生労働省、中央労働災害防止協会と産業界が連携する製造業安全対策官民協議会が発足した。私も昨年秋に経営トップのパネル会議に出させて頂いた。昨年11月に神戸で開催した全国産業安全衛生大会で、関係者が一丸となって労働災害防止対策に取り組み、安全活動水準を高めていくことを宣言した。本年こそは重大災害ゼロを目指す」

――品質保証体制の強化も課題となっている。

「昨年は鉄連の一部会員で品質関連事案が発生した。鉄連としては2008年に策定した『品質保証体制強化に向けたガイドライン』を事案が起きるたびに見直し、運用を徹底してきた。当該会員会社においては現在、外部調査委員会による原因究明、再発防止策の検討を進めているが、鉄連としては、その結論を待ってガイドラインを必要に応じて見直し、鉄鋼業界としてその運用を引き続き徹底していく」

――国土強靭化への貢献が期待される。

「日本は自然災害の被害が甚大化しており、国土強靭化を急ぐ必要がある。鉄連としては短工期、剛性など鋼製建材の高い機能をPRしているが、国内は20年までは五輪関連プロジェクトが目白押しで、20年以降は国土強靭化への対応が本格化してくる」

――技術先進性の維持は不可欠。

「日本鉄鋼業の技術先進性は、自動車、産業機械、電機、造船など国内の需要産業が世界最先端を走り、われわれに課題を提示し続けてくれたことで培われてきた。先進国で第4次産業革命が進む中、製鉄技術をさらに磨くとともに、AIやIoTなどの高度ITを製造プロセスや品質管理、技術・商品開発にいち早く取り込み、世界最先端を走り続けなければならない」

スポンサーリンク


九州現地印刷を開始

九州地区につきましては、東京都内で「日刊産業新聞」を印刷して航空便で配送してまいりましたが、台風・豪雨などの自然災害や航空会社・空港などの事情による欠航が多発し、当日朝に配達できないケースが増えておりました。
 こうした中、「鉄鋼・非鉄業界の健全な発展に寄与する専門紙としての使命を果たす」(企業理念)ことを目的とし、株式会社西日本新聞プロダクツの協力を得て、12月2日付から現地印刷を開始いたしました。これまで九州地区の皆さまには大変ご迷惑をおかけしましたが、当日朝の配達が可能となりました。
 今後も「日刊産業新聞」「日刊産業新聞DIGITAL」「WEB産業新聞」によるタイムリーで有用な情報の発信、専門紙としての機能向上に努めてまいりますので、引き続きご愛顧いただけますよう、お願い申し上げます。
2024年12月 株式会社産業新聞社