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2024.12.20
2018年1月9日
新春インタビュー 日本鉱業協会 中里 佳明会長 成長戦略へ需給好環境続く/ニーズに合った素材開発/鉱山に日本の処理技術提供
久々の市況回復に色を直した2017年の非鉄金属業界。電気自動車(EV)シフトへの期待先行を含みつつも、基本的には、実需給のタイト化傾向が相場の足腰を支えた。EVや再生可能エネルギーの普及で、非鉄金属の需要増大が今後予想される一方、地下資源の低品位化や開発の高コスト化、高難度化が進み、原料確保のハードルはむしろ年々高まる。好況期にこそ技術力やコスト競争力を磨き、産官学連携のオールジャパン体制で資源戦略のコマを進める必要がある。中里佳明・日本鉱業協会会長(住友金属鉱山社長)に新年の展望を聞いた。
――2017年の外部環境を振り返って。
「非鉄金属の価格と需給が国内外で堅調に推移した。特に価格は緩やかな上昇傾向が続いたことで、四半期ごとの在庫評価損失の波が小さく、企業の経営、決算にとっても分かりやすく安定的な状況が続いた。年間を通して円安の持続、良好な世界経済と金融緩和の継続もあり、最近にない良い外部環境だったのではないか。需給も個々のメタルの違いはあるが、全体で見れば銅、鉛、亜鉛、ニッケルとマイナスバランスが続くであろう堅調な状況下にある。国内需給も安定的に推移した」
――4―9月期連結決算は鉱業8社が前年同期比で増収増益。
「金属価格と為替が安定的に推移したことが一番大きい。もう一つは、各社それぞれの非鉄以外の事業、電子材料系を中心とする次の柱となるような各社固有の事業が、好調な成績を上げられたことも大きな要因になった。鉱業8社合計の営業利益は前年同期比で76%増と、非常に良い内容だった。現在の金属価格の水準が続けば、各社の出資する海外鉱山は基本的に12月期決算ということもあり、年度を通しても前年度比で良い数字になっていくだろう」
――目先の価格、需給トレンドをどうみる。
「多くの企業、調査機関は18年も(ベースメタルの)供給不足が続くとみており、需要が大崩れする要素は遠ざかりつつあるのではないか。LME(ロンドン金属取引所)に反映されない(非公式の市中)在庫もあるだろうが、それでも需給が底堅く推移すると考えれば、価格水準もそう大きくは変わらないだろう。17年に引き続き、鉱業各社がそれぞれの成長戦略を進める上で、好環境が続くものと思っている」
――非鉄金属の最大生産・消費国である中国の経済動向は。
「徐々に減速するとは言われているが、グローバル経済に占める影響力を考えれば、中国も世界経済をある程度考慮しながら、それなりの施策を打っていくのだろう。一国の施策の影響が連鎖反応を起こすのが、グローバル経済の基本だからだ。世界経済にマイナスに作用するような方向には進まないだろうと期待する」
――17年はEV(電気自動車)シフトが世界を賑わせた。
「ものづくりに対する素材、材料の重要性が、特に17年からあらためて認識されてきたと思う。まず資源確保、素材確保というセキュリティーの問題がある。次に、電気自動車に代表されるように(ものづくりの)コンセプトが大きく変わっていく中で、顧客のニーズに合う素材、材料をいかに開発、供給するかが素材メーカーに強く求められており、素材・材料をやる業界の機能、使命、存在価値といったものが高まりつつあるんじゃないかと感じている。資源、素材、材料が経済を支える上で大事なものだと再認識されてきたことは、われわれにとっては非常にありがたい。こういう産業があるんだと認知度が高まれば、将来の人材確保・育成にもつながる早道になる」
――素材メーカーと顧客が連携・協力して資源確保に当たる動きも出てき得るか。
「銅や鉛、亜鉛、ニッケルの1件当たりの資源開発コストはものすごく高くなっている。社会的に操業認可を得ることも必須で、制約条件がどんどん増えてきている。その中で資源開発のリスクを誰が取れるのか、というのは難しい問題。われわれは資源を生業としてきた業界として、また、自由経済、資本主義の世界で生きる立場として、海外資源開発のリスクを第一義的に負って責任を果たすことがやはり大事だと思っている。その上でいかにわれわれの顧客、あるいは国に支えてもらえるか。そこをわれわれからもピーアールしていかないといけない」
――鉱業政策促進懇談会(鉱促懇)を通じて鉱業税制存続、電力問題などの政策要望を訴えてきた。
「海外投資等損失準備金制度、金属鉱業等鉱害防止準備金制度については、業界として重要性、必要性を強く感じており、最大限の存続を関係先にお願いしてきた。結果として一部縮減はされたものの両制度とも存続が決まり、各関係先のご支援に厚く感謝を申し上げたい。こうした制度の存続によって、日本は資源確保を重視する国だということ、資源事業にオウンリスクで携わる国内企業が大事にされるということが示されるのが望ましい。資源開発の成果は1年後2年後に出てくるものではなく、参画リスクも高まる中で、企業経営の安定化につながるこうした制度は残してほしい」
――電力問題については。
「ベースロード電源の開発プログラムに則って進めていただきたい、というのが当協会の基本スタンスだ。電力単価そのものは燃料調整費の影響で、前年度比では下がっている。2010年度を基準にした場合、15年度の135億円増に対して16年度は44億円増だった。FIT(再生可能エネルギー固定価格買い取り制度)賦課金の影響が増えている形だ。ただ、現状は一過性のもので、原油価格が今の水準のままとは限らない。その意味でベースとなる電力単価を極力下げてほしく、ベースロード電源開発のロードマップに則ってやってほしい。国際的にそん色のない価格水準を早期に実現してもらいたい」
――スクラップ輸出入の適正化では17年に進展があった。
「使用済み鉛蓄電池の問題については環境省、経済産業省のご尽力で関連省令が昨年6月に施行された。実際の流出減は今夏以降かと思うが、競争環境の改善に期待したい。Eスクラップ、電子材料系のスクラップについても、輸入手続き簡素化の詳細が今後の省令で決まっていき、ことしの秋ごろから処理しやすい環境になっていくのではないか」
――産官学連携の技術開発で資源を確保する取り組みも。
「銅鉱石からヒ素を分離する技術、リサイクル品をさらに活用するための処理技術など、いくつかのステージがある。日本の強みであるものづくり力を、いかに鉱山に対して提供できるかが、他国に対する強みになっていくのだろうと思う。海洋資源開発では17年、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が連続揚鉱に成功し、一つの明るいニュースとなった。製錬は必ず残さが出るので、残さを海に埋められないのであれば、陸上製錬が現実的かと個人的に思う。そうなれば日本の製錬技術がまさに活躍できる場となり、不純物をきれいに分離して有価金属を回収し、競争力を発揮できるのではないか」
――人材の確保・育成についてはどうか。
「業界として地道にピーアールしていく必要があり、即効薬的なものはない。ただ、初めに述べたように非鉄金属を中心とする素材、材料が注目を浴びていることは大きい。この機を逃さず、各社が各社の戦略をもってピーアールできれば望ましい。協会としては小さな子ども向けに科学技術館で展示をやっているほか、18年度から(経団連の下部組織である)経済広報センターの『企業人派遣講座』に、講師を派遣する企画がある。企業と接点を持ちたい大学で出張講座を行うもので、鉱業各社の社長や幹部の方に講演してもらえればと思う。また、いくつかの会員企業が大学に寄付講座を持っているが、互いに機能的に結びついて、講師派遣の融通性などで連携できるようになれば、これも大きな戦力になるかと考えている」(松尾 聡子)
――2017年の外部環境を振り返って。
「非鉄金属の価格と需給が国内外で堅調に推移した。特に価格は緩やかな上昇傾向が続いたことで、四半期ごとの在庫評価損失の波が小さく、企業の経営、決算にとっても分かりやすく安定的な状況が続いた。年間を通して円安の持続、良好な世界経済と金融緩和の継続もあり、最近にない良い外部環境だったのではないか。需給も個々のメタルの違いはあるが、全体で見れば銅、鉛、亜鉛、ニッケルとマイナスバランスが続くであろう堅調な状況下にある。国内需給も安定的に推移した」
――4―9月期連結決算は鉱業8社が前年同期比で増収増益。
「金属価格と為替が安定的に推移したことが一番大きい。もう一つは、各社それぞれの非鉄以外の事業、電子材料系を中心とする次の柱となるような各社固有の事業が、好調な成績を上げられたことも大きな要因になった。鉱業8社合計の営業利益は前年同期比で76%増と、非常に良い内容だった。現在の金属価格の水準が続けば、各社の出資する海外鉱山は基本的に12月期決算ということもあり、年度を通しても前年度比で良い数字になっていくだろう」
――目先の価格、需給トレンドをどうみる。
「多くの企業、調査機関は18年も(ベースメタルの)供給不足が続くとみており、需要が大崩れする要素は遠ざかりつつあるのではないか。LME(ロンドン金属取引所)に反映されない(非公式の市中)在庫もあるだろうが、それでも需給が底堅く推移すると考えれば、価格水準もそう大きくは変わらないだろう。17年に引き続き、鉱業各社がそれぞれの成長戦略を進める上で、好環境が続くものと思っている」
――非鉄金属の最大生産・消費国である中国の経済動向は。
「徐々に減速するとは言われているが、グローバル経済に占める影響力を考えれば、中国も世界経済をある程度考慮しながら、それなりの施策を打っていくのだろう。一国の施策の影響が連鎖反応を起こすのが、グローバル経済の基本だからだ。世界経済にマイナスに作用するような方向には進まないだろうと期待する」
――17年はEV(電気自動車)シフトが世界を賑わせた。
「ものづくりに対する素材、材料の重要性が、特に17年からあらためて認識されてきたと思う。まず資源確保、素材確保というセキュリティーの問題がある。次に、電気自動車に代表されるように(ものづくりの)コンセプトが大きく変わっていく中で、顧客のニーズに合う素材、材料をいかに開発、供給するかが素材メーカーに強く求められており、素材・材料をやる業界の機能、使命、存在価値といったものが高まりつつあるんじゃないかと感じている。資源、素材、材料が経済を支える上で大事なものだと再認識されてきたことは、われわれにとっては非常にありがたい。こういう産業があるんだと認知度が高まれば、将来の人材確保・育成にもつながる早道になる」
――素材メーカーと顧客が連携・協力して資源確保に当たる動きも出てき得るか。
「銅や鉛、亜鉛、ニッケルの1件当たりの資源開発コストはものすごく高くなっている。社会的に操業認可を得ることも必須で、制約条件がどんどん増えてきている。その中で資源開発のリスクを誰が取れるのか、というのは難しい問題。われわれは資源を生業としてきた業界として、また、自由経済、資本主義の世界で生きる立場として、海外資源開発のリスクを第一義的に負って責任を果たすことがやはり大事だと思っている。その上でいかにわれわれの顧客、あるいは国に支えてもらえるか。そこをわれわれからもピーアールしていかないといけない」
――鉱業政策促進懇談会(鉱促懇)を通じて鉱業税制存続、電力問題などの政策要望を訴えてきた。
「海外投資等損失準備金制度、金属鉱業等鉱害防止準備金制度については、業界として重要性、必要性を強く感じており、最大限の存続を関係先にお願いしてきた。結果として一部縮減はされたものの両制度とも存続が決まり、各関係先のご支援に厚く感謝を申し上げたい。こうした制度の存続によって、日本は資源確保を重視する国だということ、資源事業にオウンリスクで携わる国内企業が大事にされるということが示されるのが望ましい。資源開発の成果は1年後2年後に出てくるものではなく、参画リスクも高まる中で、企業経営の安定化につながるこうした制度は残してほしい」
――電力問題については。
「ベースロード電源の開発プログラムに則って進めていただきたい、というのが当協会の基本スタンスだ。電力単価そのものは燃料調整費の影響で、前年度比では下がっている。2010年度を基準にした場合、15年度の135億円増に対して16年度は44億円増だった。FIT(再生可能エネルギー固定価格買い取り制度)賦課金の影響が増えている形だ。ただ、現状は一過性のもので、原油価格が今の水準のままとは限らない。その意味でベースとなる電力単価を極力下げてほしく、ベースロード電源開発のロードマップに則ってやってほしい。国際的にそん色のない価格水準を早期に実現してもらいたい」
――スクラップ輸出入の適正化では17年に進展があった。
「使用済み鉛蓄電池の問題については環境省、経済産業省のご尽力で関連省令が昨年6月に施行された。実際の流出減は今夏以降かと思うが、競争環境の改善に期待したい。Eスクラップ、電子材料系のスクラップについても、輸入手続き簡素化の詳細が今後の省令で決まっていき、ことしの秋ごろから処理しやすい環境になっていくのではないか」
――産官学連携の技術開発で資源を確保する取り組みも。
「銅鉱石からヒ素を分離する技術、リサイクル品をさらに活用するための処理技術など、いくつかのステージがある。日本の強みであるものづくり力を、いかに鉱山に対して提供できるかが、他国に対する強みになっていくのだろうと思う。海洋資源開発では17年、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が連続揚鉱に成功し、一つの明るいニュースとなった。製錬は必ず残さが出るので、残さを海に埋められないのであれば、陸上製錬が現実的かと個人的に思う。そうなれば日本の製錬技術がまさに活躍できる場となり、不純物をきれいに分離して有価金属を回収し、競争力を発揮できるのではないか」
――人材の確保・育成についてはどうか。
「業界として地道にピーアールしていく必要があり、即効薬的なものはない。ただ、初めに述べたように非鉄金属を中心とする素材、材料が注目を浴びていることは大きい。この機を逃さず、各社が各社の戦略をもってピーアールできれば望ましい。協会としては小さな子ども向けに科学技術館で展示をやっているほか、18年度から(経団連の下部組織である)経済広報センターの『企業人派遣講座』に、講師を派遣する企画がある。企業と接点を持ちたい大学で出張講座を行うもので、鉱業各社の社長や幹部の方に講演してもらえればと思う。また、いくつかの会員企業が大学に寄付講座を持っているが、互いに機能的に結びついて、講師派遣の融通性などで連携できるようになれば、これも大きな戦力になるかと考えている」(松尾 聡子)
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