2017年11月27日

マンデーインタビュー ▼「日本型静脈メジャー」に出資 ■産業革新機構会長 志賀俊之氏  国の安心感で参画促進

官民ファンドである産業革新機構(INCJ)は、スズトクホールディングス(本社=東京都千代田区、スズトクHD)に32億3000万円を出資し、取締役2人と監査役1人を派遣した。スズトクHDは11月1日付でリバーホールディングス(リバーHD)に社名を変更し、株式上場や企業買収、また業務提携の推進による日本型静脈メジャーの実現を目指している。官民ファンドがどのようにして資源リサイクル、廃棄物処理業界に着目したのか。志賀俊之会長(CEO)に出資に至った経緯や、国内静脈産業のあるべき姿などを聞いた。

――日本における資源循環型社会の構築をどのように考えているのか。

「日産自動車に入社して今年で41年になるが、自動車工場は鉄にしても、アルミにしてもスクラップ発生量が多い。今でも思い出深いのは05年にCOOに就き、06年に2010年度までの中期環境行動計画『ニッサン・グリーンプログラム2010(NGP2010)』を、また11年には16年度までの『ニッサン・グリーンプログラム2016(NGP2016)』を公表したこと。私がCOOを務めている間に2回、グリーンプログラムを策定し、自動車会社として環境問題にどのように取り組むかを検討してきた。ちょうど同時期の05年に自動車リサイクル法が施行された。当初は自動車のリサイクル率を上げるとか、リサイクルに回せる材料をどれぐらいにするかとか、リサイクル企業がリサイクルしやすいように成分を表示するとか、それぐらいから始まった。私自身はリサイクルに関心が高く、中期環境行動計画を策定する中で、『NGP2016』ではクローズド・ループリサイクルという考え方を打ち出し、取り組んでいる。これは生産時に発生した廃棄物やスクラップ、回収した自社の使用済み製品を同等のクオリティを維持した材料として再生し、再び自社製品の部品に採用する手法で、材料製造時や廃棄時に多くのエネルギーを要する鉄、アルミニウム、樹脂という3つの材料に注力している。当時の言葉を用いれば、高度循環型社会に対して自動車産業が協力していく。それによって、地球からヴァージン・マテリアルをなるべく採らずにリサイクル材を使用する、あるいはリユースする。これを動脈産業側では行っていたものの、それを受け皿とする静脈産業側の事情を我々はあまり知らなかった」

――スズトクHDに出資し、日本型静脈メジャー実現を後押ししている。出資に至った経緯を。

「スタッフが日本で静脈メジャーを作りたいと提案してきた時、『これは素晴らしい提案だ』と感じて、今年の春、鈴木孝雄・スズトクHD会長にお会いした。スズトクHDはすでに自社で再編を進めていたが、鈴木会長は将来、国内マーケットが縮小し、今の技術ではリサイクルが難しい材料が出てくるなど、資源リサイクル・廃棄物処理業界をなんとかしなければならないという思いがあり、市場、環境、技術の観点でお話しいただき、納得した。当社では日本の産業競争力を強化する方策の1つとして、産業再編を手掛けている。日本は業界ごとでプレイヤーが多すぎる。競争が激しくなれば低収益、労働者の低賃金を引き起こす。産業全体を再編・統合し、全体としてスケールメリットが生まれれば収益率が高まり、雇用環境が改善し、静脈産業に優秀な人材が入ってくる。まさに当社が目指す産業再編に合致する。また、新しい素材や部品をリサイクルする技術を開発するなどの社会的意義がある。例えば、これから電気自動車の生産台数が伸びればリチウムイオンバッテリーの使用が飛躍的に増える。電気自動車にはリチウムイオンバッテリーが積まれており、それを廃棄していいはずはなく、リチウム等の材料もいずれ枯渇するだろう。リチウムイオンバッテリーのリサイクルは大手企業で技術開発が進んでいるが、この技術に加えて、しっかり回収する裾野ができ、効率の良い回収、リサイクル、リユースが可能になる。産業の発展、技術の進化をもとに静脈産業への期待が膨らみ、大きな社会課題になっている。今回は産業再編、社会的意義という当社の投資意義のストライクゾーンにどーんと入った」

「今後、色々な企業に手を挙げてもらわなければいけないが、大半の資金を政府が拠出している当社が出資し、静脈産業を作ることが、ある意味、国家プロジェクトのように、国として推進していることで安心して参画してもらえるようになると期待している。後継者問題など将来の事業展開で悩みを持つ企業がリバーHDというプラットフォームに入ることで株主になり、経営はリバーHDに任せるなど様々な組み合わせが出てくる。地域ネットワークの構築で効率が向上するなど、企業規模を拡大することによって、スケールメリットを生かす。リサイクルの技術力やシステム、回収する仕組みは日本が世界トップレベル。これらを東南アジア各国に導入することでリサイクル技術が高度化し、日本の動脈産業が海外に進出した際の連携も可能になる。スズトクHDはリバーHDに社名を変更したが、新社名も素晴らしく、当社として成長をお手伝いできれば嬉しい」

――リバーHDは参画企業を募り、静脈メジャー実現に向けて取り組んでいる。産業革新機構としてはどのようにサポートしていくか。

「10月12日の記者会見後、複数の企業から問い合わせが来ている。徐々に形を作り、参画する企業が増えればリバーHDに入ることが大きな流れになり、一気に動き出すとみている。その流れを作っていく。国内市場動向、グローバル競争を踏まえた場合、合従連衡していくことが1つの選択肢になり、そのためにリバーHDが存在する。リバーHDではこれまでどおり上場準備を進めながら、多くの企業に参画してもらう。上場後、自社で資金調達が可能になれば買収などで参画企業を増やしていくことになる」

「リバーHDの松岡直人社長は25年をめどに売り上げ規模を最低1000億円以上、数千億円を目指すと発言していたが、このビジョンを投資家に示せば上場した場合に株を購入する方が増え、また事業計画を達成して企業規模が大きくなれば資金調達できるという好循環が生まれる。我々は期限のある企業なので、役目を終えたと思えばイグジットしていく流れになる」

――企業買収を進めるにあたり32億3000万円では少ないとの声が市場にある。

「当面の想定に基づく32億3000万円の出資金額であり、繰り返しになるが、上場すれば資金調達は可能になる。追加出資に関して完全否定はしない。事業が成長する中で想定されるが、現時点で決まったことはない」

――大手民間企業が参画する産業革新機構が資本参加したことで静脈産業の存在感が高まり、動脈産業との連携深化を期待する向きがある。産業革新機構はその橋渡し役になれるか。

「そうなると思う。関心を持っている企業が数社あり、動脈産業と静脈産業が連携するようなところは当社が担う役割がある気がする。日産自動車を例に挙げたようにリサイクルで技術的に難しい素材を使ってくるようなところ。軽量化や電動化によって鉄からアルミ、アルミからマグネシウムなどへの技術トレンドが起きている。現在、鉄とアルミはリサイクルできているが、マグネシウムなどはどのように対応するのか。ヴァージン・マテリアルばかりを使うわけにはいかず、当然、リサイクルが視野に入ってくる。動脈産業の人たちが、新しい材料をどのように静脈産業に乗せるかを考えながらやっていかないといけない。鉄とアルミの接合によるマルチマテリアルなどリサイクル課題が増えてきている。自動車のサスペンションなども鉄とアルミを溶接したものが増えており、動脈産業側がこれらのリサイクルを考える必要がある。動脈産業と静脈産業がコラボレーションすることで、捨てられる材料が減ってくるはずで、かつてないほど静脈産業に対する動脈産業の人たちの関心度が高まっている。リバーHDが静脈メジャーになり、新素材や新部材をリサイクルできるほど技術レベルが向上すれば、動脈産業も製品開発を進める上で新しい材料を使用することができるようになる」(濱坂浩司)

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